第肆章三話 【不動】

ケインズ・ヴィッセルという男について話そう

彼は、『大陸』浮上を人工衛星越しに目撃した史上初の人間である。ヴィッセルは、太平洋に突如出現した大陸を、人工衛星の映像で見付けた

「アレは、僕が見つけたんだ!僕が始めて見つけたんだ!だから僕のものだ!」

彼はそれを最初の発見者の所有物であるとし、所有権を主張した

が、その後の『大陸の組織』の基盤となる様々な勢力が彼の命を狙った

個人があのようなモノを手に入れることはほぼ不可能だが、数度の調査失敗の影響で弱気になった政府が許可する危険もあった。組織の手の者はヴィッセルに大陸を渡すまいと、数々の手で彼を襲った

なんとか大陸へ逃げ込んだものの、彼は未だ大陸を手に入れることを諦めてはいなかった

そして大陸の地下に存在する数えきれない『大陸の謎』を使い、ついに大陸に進出した組織を追い出そうとした

『無から有を産み出す技術』

『結界を自由に発生させる方法』

『永久機関』

『人間を殺し尽くすプログラム体』

『不老の機械の肉体』

これらを用いて、彼はついに大陸を取り戻す戦いへ赴く

以上の情報が、彼以外が把握していないこともお構い無しに

無から産み出した兵器達で、大陸で大虐殺を行おうとお構い無しに

そして彼の聖戦のとばっちりが、大陸の外へも及ぶ可能性があることもお構い無しに

彼は、自分の領土とそこに眠る『大陸の謎』を奪っていった組織へ制裁を加えるべく立ち向かうのだ

取り戻すのだ。どんな手を使っても

これは聖戦だ







「作戦を説明します」

ミシェル・レイクの美しい声が、三機の人型機動兵器のコクピットに鳴る

「白虎帝国からの依頼です。ヴィッセルが所有する謎の兵器を叩いて欲しいそうです・・・私達はあの大軍の中心のヴィッセル本人が搭乗していると思わしき巨大兵器を攻撃、撃破します」

メアリが手に入れた地図がそれぞれのディスプレイに写る。そのちょうど真ん中に、黒い三角のマークがあった

これが、目標の位置だ。このマークの場所に、あの恐ろしい化け物のような兵器がいる

「なお、このヴィッセルが乗っていると思わしき兵器をゼノ、そしてゼノが大量に呼び出している機体をプテロプスとそれぞれ呼称します」

二種類の画像に、それぞれ名前が表示されながら出てくる

ゼノとプテロプスはラテン語でそれぞれ異端と蝙蝠を意味する

やや勉強熱心なミシェルは、古代文学を敵のコードネームに選んだ。しかしかつてのギリシャのように、敵が簡単に滅びるとは限らない

「では、各機の役割を説明します」

コクピットディスプレイの画面が切り替わる

三機の人型機動兵器が表示される。まずデストロイア改が大きく写し出された

「アレックス君は私達と同時に作戦を行う白虎帝国の部隊を援護、クライアントを殺させるわけにはいかないわ。プテロプスの大軍を足止めしてください」

「了解です!」

ジャケットを羽織り、出撃準備を整えた青年が応答した

「アリシオンは突撃、ゼノを攻撃してください」

「わかった」

戦いに向かう雄々しい美女は、ヘルメットを被り応答した

「・・・タナトスは待機。何があるかわかりません、不測の事態への対応をお願いします」

返事はなく、代わりにタナトスの駆動音が高く響く

「デストロイア改、出撃お願いします!」

ホーネットのハッチが開き、赤い機体が現れる

輸送機は高度と速度を落とし、大福頭の編隊の上を通り過ぎた

歯を食い縛り、アレックスは機体を進ませた

「アレックス!」

メアリが叫ぶ

「はい!」

「私達の背中は預けたぞ!」

「・・・はい!アレックス・ジョンソン、出撃します!」

輸送機ホーネットの後部のハッチから、デストロイア改が地上へ躍り出た







「うおおあああああああッ!!」

デストロイア改のミサイルコンテナがその大口を開く。多量のミサイルはプテロプスの群れに一挙に吸い込まれていった

大気が震えたかと錯覚させる程に、爆発が巻き起こった。大量のミサイルが大量のプテロプスを粉砕したことにより、大量の爆発を巻き起こしたのだ

今度は右手のハンドキャノンを向ける

「俺に続けえええええええええ!」

通信機に吠えるアレックス

白虎帝国の部隊が、それぞれの得物を鋼鉄の蝙蝠達に構える

「撃てーーーッ!!」

無数の指が引き金を引く

射程など知らぬと言わんばかりに無茶苦茶に砲撃と銃撃がぶちまけられる 濃密な弾幕は、量で攻める蝙蝠の羽を次々と撃ち抜いていった

再び大気が震えた

「ま、だ、だあああああああ!」

残りのミサイルをありったけ発射する

ミサイルの排煙で、一瞬機体の姿が見えなくなった

猛スピードで迫る弾頭をプテロプス達が受け止められる術は、幸いにもない

撃ったミサイルの数と同等のプテロプスが砕け散る

アレックスの向こうには、とてつもない数の破片が落ちていた

白虎帝国が撃ち落としたプテロプスの残骸だろう。積もったそれは雪を彷彿とさせた

一種の物悲しささえ感じるその光景を作るのは、破壊者たる者の仕事だ。その光景を産み出すのを続けぬ限り、少なくとも数多の人々の命は消えるだろう

ミサイルを撃ち切っても、蝙蝠がいなくなることはない。無数の反撃がやってくる

小さな砲を背負った蝙蝠達は、その砲口を白虎帝国の人型機動兵器へ向けた

砲弾の雨が降る。白虎帝国機のいくつかが、腕や脚を砕かれる

デストロイア改の肩にも一発着弾した

「ぐうううっ!!」

衝撃が機体を襲う

しかし怯む隙はない。もう少し近付かれてから撃たれれば、致命的な損傷も食らうかもしれない

まさに壮観とすら言えるほどの群れを前に、デストロイア改はその四本脚で地を踏みしめた

ハンドキャノンを二回撃つ キャノンの爆発に巻き込まれて、残骸は更に増える

煙を上げて落ちるプテロプス。しかしそれはもう見飽きた。羽をもがれた蝙蝠の墜落を見守る者などもういない

「親父、力を貸してくれ・・・ッ!」

デストロイア改の左手が変形する。一本の筒が、複雑怪奇な兵器と成っていった

レールガンのチャージが始まった

左腕を一旦垂らし、右手の武器を撃ち続ける

黒い壁を穿つ砲弾。続く味方の銃撃

永遠に増えるスクラップ

面攻撃が功を奏したのか、プテロプスの進軍速度が少し止まった

それは錯覚だったのかもしれない。あまりにも多い敵の前に、頭が変な結果を弾き出したのかもしれない

だがアレックスが引き金を引くには十分な理由だった

弾を無くしたハンドキャノンをパージした

今度はレールガンを向ける


空に、光が舞った


光の渦に巻き込まれ、黒い津波に穴が開く

そこに、レールガンをもう一発

消し飛ぶ蝙蝠。ただし、全滅したわけではない。しかしその数は大きく減った

今度は本当に群れ全体の動きが止まった

「俺は、ここから逃げない・・・任されたんだから・・・」

デストロイアが改修前に持っていた武装、大型マシンガン。父が好んで使っていたそれをハードポイントから離し、右手に握る

「絶対に・・・勝つッ!」

目の前の黒の壁を睨み付ける

アレックスはマシンガンを撃ち放った

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