第肆章四話 【騎士】


白虎帝国とデストロイア改がプテロプスを迎撃している地点を迂回して、プテロプスの群れの穴を進むホーネット

目指すはたったの一つ、ヴィッセルの乗っているであろう敵のフラッグシップ、ゼノだ

「目標まであと十キロメートル・・・きゃっ!」

爆発。轟音。衝撃。そして揺れる機体

ミシェルが言葉の途中に悲鳴をあげる。ホーネットが攻撃に晒されたのだ

ホーネットのコンピューターが警告音をかき鳴らす。被害状況を見て、ジャスミンが叫んだ

「機体上部が溶けてる!このままじゃ戦線離脱できない!」

「どうせ逃げられまい」

メアリは真剣な面差しで言う。操縦レバーを握り、通信機を起動した

「ミシェル、新手だ」

レーダーを確認し、ミシェルが青ざめる。ブロンドを揺らして、彼女は歯噛みした

「タナトス、出撃を・・・」

「私が出る」

予期せぬ事態に備えた予備機の出撃を告げようとしたミシェルの指令を遮り、メアリは進言した。その瞳には強い眼力が宿っている

まるで絶対に意見を通すと眼で宣言しているかのように

「戦力的には『死神』が一番強いだろう。ゼノとヴィッセルを確実に仕留められるのはヤツだ」

「でも・・・」

メアリは微笑んだ

彼女は作戦開始前からミシェルの意図に気付いていたから

「奴は裏切らない。今も元の仲間だ。私も、皆も、そう確信している」

「・・・メアリ、ありがとう」

「式には呼んでくれ、それを礼として受け取ろう」

冗談を程々に、通信を終えたメアリは機体の状態を再確認する

しかし、最後の最後で、またもや通信が入った

「メアリ、調整が終わった!使え!」

「ラドリーさん!?了解した、ありがたく使わせてもらう!」

ロボットアームが静止するハイパーアリシオンの腰へ一本の銃を持ってくる。それは、改装前にアリシオンが装備していたビームガンだった

耳に残りかねない金属音が止まり、ビームガンの銃身が腰の裏側に接続される。固定されたことを確認したメアリは、コクピットのメインディスプレイを睨んだ

「ハイパーアリシオン、出撃をお願いします!」

「了解した。メアリ・クロード、出るぞ!」

ハッチが開く

スラスターを吹かし、生まれ変わった騎士が飛び立った








ハイパーアリシオンが、地に降りる

「この有り様は一体・・・」

辺りには、人型機動兵器の残骸が散乱している。角張ったもの、丸いもの、二本足のもの、多脚型のもの、足がないものもあった

中には、メアリが以前仕事で出会った機体も見付かる


そう、傭兵の機体の残骸だ


刹那、アリシオンの足元に影が写る

ジャンプでその場から飛び退く

降り立った下手人、砕けた地面。そこにいたのは、やはり見たこともない機体

「貴様が、彼らを・・・」

機械の翼を生やした小鬼と形容すべきその異形は、三ツ目を光らせ仁王立ちしていた

「狩人・・・ウェナートルか」

傭兵を狩り尽くしたそれを、メアリはそう例えた。ミシェルに習ってラテン語を使った

ウェナートルと仮名を付けられたその機体は、手の爪をハイパーアリシオンへ向けた

スラスターが炎を吐く

一秒足らずで空へ逃れてから、メアリは下を見た。爪を失ったウェナートル、アリシオンのいた地点に突き刺さっている爪

間違いなくあの爪は飛び道具だった

メアリは愛機に引き金を引かせた。右手のマシンガンが、いくつものマズルフラッシュとともにいくつもの弾丸を発射する

まっすぐと飛んでいった弾を、ウェナートルは正面から受け止めて見せた。火花が散り、狩人の皮膚がマシンガンを弾く

だがメアリは見逃さなかった。敵の腹に、傭兵達の底力が刻み付けられていたことを。誇り高き傭兵達の最期の一撃で割れた部分の装甲を

大陸の傭兵はタダで殺られるほど甘くはなかった

スナイパーライフルを無意識的に向け、やはり無意識的に引き金を引く

弾丸はとてつもないスピードで飛んでいった

目にも止まらぬ速さの弾丸は、正確に傷痕を穿った

ウェナートルがくの字になる。後ろへ吹っ飛んだ恐ろしき狩人は、地面に大の字になりそのまま息絶えた

爆発

先程倒したウェナートルではない。ハイパーアリシオンの右手の、マシンガンが爆発した

そしてその攻撃は、メアリの良く知るものだった

「ビーム攻撃か!」

破壊され使い物にならなくなったマシンガンを捨てる間に、今度はスナイパーライフルが溶けてしまった

砲撃は、先とは別方向からだった

推進力を更に上げ、その場から離れる

アリシオンを追いかけるように、光線が次々と突っ込んでくる

カメラアイは、ウェナートルをもう一機捉えた。否、三機いた

包囲するように飛んでくるビームを、スラスターの推力で強引にかわす。明後日の方へと向かった光線が掻き消えてしまう前に、更に次の光線が飛び込んでくる

スラスターの方向を曲げ、急カーブをするアリシオン。Gがメアリを襲う

そのアリシオンを越えるスピードで飛び回る狩人三匹。大陸の謎をふんだんに使っているあの機体は、とても人智の及ぶ兵器ではないのだ

だが、それをメアリは上回る

騎士は常に強く美しく在らねばならない

「逃がすか」

すれ違う直前、アリシオンが壊れたスナイパーライフルを投げた

ぶつかった衝撃で、大きくのけぞるウェナートル

そこへ、ビームカノンを向ける チャージはビームを避けている間に終わっていた

反撃は一瞬。頭部を貫かれたウェナートルが、真っ逆さまに地へ落ちる

アリシオンが仕留めた

「次だ」

口と思わしき穴からビームを放つ、残りのウェナートル

直進するメアリ

真っ直ぐ飛んでくる光の束

アリシオンは、少しだけ体の位置をずらした


脇を通り抜け、ビームは直撃しなかった


かすった部分は高熱でやや泡立っている

しかしやられるよりは増しだった

腰からビームガンを引き抜く。両手で構え、銃口を真っ直ぐと伸ばす

攻撃を察知し、ウェナートルはその肢体を動かそうとした。逃げようとしているのだ

しかしメアリ・クロードは仮にも大陸で元最強だった傭兵

狩人を狩るなど、雑作もなかった

「決めるッ!」

引き金と同調して、一条の光が伸びていく

音よりも速く、それはもう一匹の狩人の胸を穿った

きりもみ回転で、三匹目が墜落していく

「残り一機か」

ビームガンとビームカノンを正面に向け、ハイパーアリシオンがスラスターを噴射した

流れ星のように、機体が高速で駆け抜ける


「さあ、『騎士』の本気を見せてやるとしよう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る