第肆章二話 【破滅】
ある日の昼下がり、それは突然として起こった
大陸の中心に亀裂が入った
比喩などではない。本当に中心にあたる部分にひびが発生し、割れたのだ。地震等の前兆もなく、いきなり、地面に稲妻模様が走った
これが水の無い干ばつ地域に起こるような小規模な物だったら、なんの相手にもされなかったのだろう。だが違った。規模が違った
㎞に達するのだ。亀裂の長さのことではない。亀裂の穴の幅が㎞に達していたのだ
そして亀裂の下は、奈落の底。まるで底知れぬ闇。光の届かぬ未知のゾーンとなっていた
音もせず、人っ子一人もいないこの地で、いきなりその姿を見せたヒビ
その淵に、三本の爪がたてられた。否それは、爪と呼ぶべきものかどうかすら定かではない
なぜならそれは
巨大な機械の一部分だったからだ
「愚かな人間達に告げる。貴様らは散々この地を踏みにじり、荒し、そして偉大な技術を卑しくも暴いていった」
ヴィッセル
時折傭兵を使って大陸の組織を無差別に攻撃していた組織。そしてその盟主の名前だ
実際には、その組織には彼以外の人間はいなかったのだが
彼は、地の底から登ってきた。大陸に現れた巨大な地割れの中から、忽然と姿を見せた
「僕だけの楽園を、貴様らは浅ましくも我が物顔で!」
その姿は、一言で表すならば、足の生えた三角錘。底面の角から2本ずつ、三本爪の脚部が伸びている
「僕だけの物なんだ、この地も、この地に眠る数多の『力』も!僕だけの物だ!」
機械の化け物の頂点から四本の筒が出てくる
見る者が見れば、原子爆発弾頭搭載型長距離弾道誘導機能付自立飛翔軍事兵器だとわかるだろう
原爆と言えば想像しやすいか
「許さない・・・許さない・・・許さない許さない許さない許さない、許さないィッ!!」
四本の核ミサイルから、猛烈な噴煙が上がる。ゆっくりと空へと上るのは、破滅を呼び起こす炎の矢
東西南北へ散った核ミサイルが、やがて四つの茸雲を大陸に浮かべた
太平洋に浮かぶ巨大な大陸は、一瞬にしてその地形を変えてしまった
「何なんだこれは・・・!」
大陸を覗き見る各国の衛星カメラをハッキングしながら、メアリは呟いた
信じられないくらい大きな爆発音と衝撃波が発生したのを確認し、彼女は大慌てで大陸内外の情報を集めようとした
そして大陸の東西南北の端から、茸雲が上がっているのを見付けた。この現象を知らない者などこの世にはいない
どこかの気違いが『ファットボーイ』でも使用したのだ
「一体誰が・・・」
ミサイルの発射予測地点を探るメアリ
核の被害に顔を青ざめさせるほど彼女は情を持ってはいない。それよりも、この行動を起こした正真正銘の狂者を見つけ出さねばならないと彼女は思った。
微かに残る噴煙の跡。地に直撃する原子爆弾の向き。そして茸雲の僅かな傾き
「どこだ!?」
キーボードで踊る十本の指。写し出される大陸の地図
ディスプレイに画像が次々と現れる
「メアリさん!」
「わかっている!黙っていろ!」
ドアを開けて部屋に半身飛び込んだアレックスを叱責し、コンピュータを高速で操作する
そして得た一つの答え
「・・・ここから・・・」
大陸の中心部
無人衛星カメラは、リアルタイムでそれを見ていた
「コイツが・・・!」
まさしく、機械の化け物と形容できる不可思議な物体
その三角錘は、側面から何かを吐き出していた
無数の飛行物体だった
「こ、これが・・・核を撃ちやがった奴ですか・・・?」
アレックスが目を見開きながら問う
メアリは頷いた
確信はないが、その答えで正解だろう
根拠は、その無数の飛行物体の行く先だ
残った組織である白虎帝国も革命者も関係ない
傭兵共も関係ない
砲を背負った蝙蝠に良く似たそれらは、まさに大陸の全方角へと向かっていく
それらが二匹や三匹ならいくらの対処もできるだろう。だが現実は違う
二百三百では足りない、辺りを埋め尽くす群れ。本体らしき三角錘と同じ黒一色なのが、えもいわれぬ恐怖を醸し出す
まるで蝗の大行進。まるで黒い羽ばたきの雪崩
三角の化物は、無数の飛行兵器を産み出していたのだ
「・・・どうすればいい?」
呟くメアリに、アレックスは答えた
「メアリさん、ミシェルさんが呼んでます!急ぎましょう!」
歯を食い縛りながらモニターを睨むメアリだったが、今はそんなことをしている暇はないのだった。いくらこの惨劇を行う輩が憎くとも、手段を講じなければ意味などはない
立ち上がり、二人は走り出した
『彼』は静かにベッドに座っていた
それ以外にやることはなかったから
ただ、守るものが増えた彼も、この異変には薄々感付いていた
ドアが開く。どうやら時が来たようだ
彼が死神として闘うときが、来たようだ
「ミシェルを泣かせたら承知しないよ!」
セーナが頬を膨らませながら、手錠の鍵を外していく。金属が擦れ合う音が部屋に薄く染み渡っていく
「落ち着いてよセーナ、もう元の仲間だよ?」
サラが苦笑いしながら言った
確かに、もう死神の傭兵が彼らを裏切る理由はない
ホーネットクルーは、満場一致で彼を再び仲間として迎え入れるつもりなのだ
手錠が外れ、手を自由に動かす。パイロットスーツの男は、すぐに格納庫へと走っていった
が、ドアの前で立ち止まり、振り返る
「な、何の用だ?」
「へ?どしたの?」
思わず身構える二人
数瞬の静寂
おもむろに彼は、二人に深く頭を下げた
そして、今度こそ修理ドックへと走っていった
閉められたドアの向こうで、二人はクスクスと笑いだした
ホーネット修理ドック
「ディアーズ!駆動系機器はどうだ!?」
「無茶苦茶好調だ、フルハウス団はよほどコイツを弄り倒したらしい」
「ジョナスン!ブースターは直したろうな!」
「完璧だ!こりゃおやっさんの跡継げるぜ!」
「言ってろ!サラ、セーナ!武装確認!」
「バズーカガトリングロケット砲自律砲台キック足全部問題なし!パイルバンカーも出が良いよ!」
「フランシスカさん妙なモノ付けたみたいだけど、どうせだから使えるようにしたー!」
「ラドリー!」
「どうだミシェル参ったか!カッケーだろ!素晴らしいだろ!」
「こんなの見付けたわ!」
「例の『黄金装甲』か!どこに塗る?」
「見た目重視!」
「ハッハッハー!その言葉を待ってたぜ!」
「ラドリー、名前は決まってるの?」
「この際だから付けちまうか!ジャスミン、何がいいと思う?」
「ミシェルに任すわ」
「ええっ、私!?それじゃあ・・・」
ミシェル・レイクは、肺一杯に空気を吸い込み宣言した
「タナトス決戦仕様!」
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