参章外伝 【決意】
「本当に良いの?」
「・・・はい、これからよろしくお願いします」
タナトスが輸送機メンバーに牙を剥いてから、二ヶ月が経とうとしていた。ミシェルとメアリとアレックスが、デストロイアとタナトスが戦闘した場所で、あることについて話し込んでいた
アレックスの今後だ
メアリは彼の意志を尊重したいと言った。つまり、アレックスが大陸から離れることも視野に入れていた
しかし彼はこの危険な戦場で生きることを決めた
そして、父の言い付け通り、ホーネットと行動を共にすることにした
ミシェルから視線を離し、棺桶となってしまった機体を見る。アレックスの許可もあり、デストロイアは順調に修理されていた
以前ここで撃破されたフルハウス団の機体のパーツを流用し、性能の向上も図られているようだ。アレックスはホーネットの整備班の腕前に舌を巻いた
「それじゃ、俺はこれで・・・失礼します」
「アレックス、心はしっかり持てよ」
メアリの励ましに、アレックスは俯いたまま力なく答えた
「・・・はい」
暗い顔で歩いていくその背中は、とても痛々しかった
「これは・・・」
デストロイアの足元に来たアレックス。その機体は、以前とは所々が変わっていた
「まずは武器から見直して、機動力も足を弄くってなんとかした。ま、それでもそこまでは速くないけどな」
ジョナスンが工具片手にアレックスに声を掛ける。デストロイアの改造具合を端的に説明し、そして歯を見せて笑う
「乗ってくれ、二世さんよ。俺達の渾身の改造だ」
その笑顔を見て、呆けたような顔をしたアレックスだったが、すぐに首を横に振る
「俺にはコイツを乗りこなすことは・・・できませんよ。整備したことはあっても、乗ったことなんて一度も・・・」
二人が話しているのを見付けたディアーズが、整備中の脚部から飛び降りる。上手く着地して、ジョナスンと同じようにアレックスを元気付かせにかかる
「なら練習しろ。強い傭兵になるんだろ」
そして手渡された遺品、ジャケットを握り締め、アレックスは呟いた
今はもういない者へ、一言。彼にはそれしかできなかった
「親父・・・本当の本当に、死んじまったんだな・・・」
聞けば、マイケル・ジョンソンは護衛対象者のいる場所から一歩も退かずに戦ったという。自分の命を省みずに、あの死神と激しい戦闘を繰り広げたのだ。
たった一分ほどだったが、とてつもなく凄まじい一対一であったことが、デストロイアの損傷具合からわかった
彼は傭兵として生き、そして傭兵として散っていった
「仇を討とうなんて考えるな」
それはアレックスを生かすためか、はたまた怨みによる復讐の連鎖を嫌ったからか。それともそれがこの大陸の暗黙のルールなのか
尊敬した父の死は、アレックスの心に暗い影を落としていた
ジャスミンはフルーツジュースを啜っていた。彼女も少しテンションが下がっていた。ジュースの味を感じられない
やはり、戦友とも言える男の死は応えるものがある
そしてその犯人が、彼等が最も信頼していた『死神の傭兵』
神様がこの世に本当にいるとしたら、これほど惨い話があるだろうか
そして、彼を愛していた、あの傭兵を愛していたミシェルは今、どんな想いなのだろうか
「ひでぇもんだよ・・・これは・・・」
夫を病気で早くに亡くしたジャスミンよりも、心理的に辛いものがあるはずだ。少なくともジャスミン自身、『もし自分がミシェルと同じ立場だったら』と思うと、舌を噛み切ってしまうほどに狂乱すると思う
しかしミシェルは、あのように気丈に振る舞っている
ジャスミンは溜め息を付き、操縦悍に頬杖をつきながらレーダーをなんとなく見た
「げぇっ・・・!」
フルハウス団の機体反応。しかもわざわざ敵対反応の信号をこれ見よがしにと垂れ流しながら接近してきている
ジャスミンは通信機をひっ掴み、噛み付くように叫んだ
「敵襲だあぁーッ!」
「ちょ、ダメダメ!ハイパーアリシオンはまだ動けないのよ!」
「じゃあ誰が連中を止めるんだ!?」
「それでも無理なものは無理ですよ!」
サラとセーナがメアリを必死で止める
先の戦いでボロボロのハイパーアリシオンは現在修理中。タナトス程ではないにしろ、アリシオンもかなり整備の難しい機体だ。動けないのだ
こんな事態、誰が想定しただろうか
ホーネットを飛ばしたとしても、敵に撃ち落とされる可能性が高い。しかし迎撃するには戦力がない
二日前に共闘した白虎帝国部隊はとっくに撤収していて、いない
打てる手がそもそも無い
万事休す。今の状況はまさしくそれだろうか
「どうすれば・・・」
止められるメアリの近くで必死で作戦を考えるミシェル
しかし、将棋で言えば詰みの状況で一体何ができようか
「ミシェルさん!」
その時、肩で息をつきながらアレックスが格納庫に飛び込んできた
そう、ベテラン傭兵の息子が
「・・・アレックス君、行ける?」
「俺が・・・俺が、戦います!」
マイケルのジャケットを羽織ったアレックスは、今コクピットの中で機体の動作をチェックしていた
こうなったらもう使いこなすこなせないの問題ではない。使いこなせなければ死が待ち受けている
「乗り方知ってるよな!?」
通信機からジョナスンとディアーズの声がする
「無理だけはしてくれるなよ」
「踏ん張れ、負けるな!」
その二人の言葉が、アレックスに覚悟を決めさせた
「了解です!」
操縦レバーを握る腕に力がこもる
奥歯を自然と食い縛る
「行くぞ、デストロイア・・・!」
そして、デストロイア改は起動した
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