第壱章四話 【破壊】

太陽が光を大地に振り撒く

そんな神秘的な光景を目の当たりにしても、人がすることは変わらない

申し訳程度のバリケードの向こうには、無数の民家がポツポツと建っている

ここは白虎帝国の領地である

その中でも、川があり、空気が綺麗で、なおかつ土も豊かなこの辺りは、未だに『国』と認められない白虎帝国の市民の住みかとして存在する

小麦畑が風に揺られ、ダンスしていた

しかしそこには今、猫の子一匹もいない。生活の音がなければ、人の話し声もない

「作戦内容を説明します」

オペレーターから通信が入る

彼女がいつも通りのここにいたならば、洋服を着て散策でもしていただろう

今の彼等にはそんな余裕は全くないが

「革命者の進攻部隊がここに向かっています」

ディスプレイの地図には町を示す点、今回の敵を示す三角形、その敵が進軍するであろうルートを示す線が別々の色で表示される

「今回は、革命者たちの部隊からこの町を防衛してください」

タナトスを示す黒い点が矢印を塞ぐ。そして三角が消える

依頼者は殲滅をお望みの様だ

「敵のルートで待ち伏せし、やって来たところを攻撃してください それと・・・」

ミシェルが付け足す

「今回は別の傭兵も雇われています。協力して依頼を成功させて下さい」

そこでミシェルが言い終わった頃、その傭兵からの通信が入ってきた

「こちらデストロイア、マイケル・ジョンソンだ。よろしく頼む」

野太い声から、ベテランの風格がこれでもかと言うほど漂う

自己紹介がわりに、マイケルの機体がタナトスの視界に入るように移動する

ややピンクがかった赤い全身、肩のミサイルランチャー、背中にもミサイルランチャー、右手にはマシンガン、左手は異形の長い筒になっている。タナトスを越える無骨なフォルムだ

しかしその下半身は二本脚では支えきれない自重を支えるために太い四つ足になっている

「作戦を開始してください」

いつもと比べミシェルの声が不安そうだ。無理もない

タナトスもデストロイアも、待ち伏せ含めた隠密作業が苦手な機体だ。タナトスは勿論のこと、デストロイアの売りは見た目からわかる通り高いの火力

しかも外見が致命的だ。デストロイアはタナトスよりも大きい横幅に、やたら目立つカラーリングをしていた

依頼者による人選ミスの賜物としか言いようがない

ならば、まだ色が黒いから隠密に向きそうなタナトスが働くしかない

破壊者のフォローを死神がするなど、誰が予想出来ようか

機体のエンジンが唸りをあげる

それは言うなればレース前のアイドリング

しかしブースターを使わず歩いて隠れ場所に向かう死神は、どこか滑稽だった



進攻ルートの近くに森があったのは幸いだった。森の中でタナトスが息を潜めてから20分が過ぎた

デストロイアは近場の洞窟で待機している

攻める者を阻むため、町の辺りには様々な障害物がある

死神や破壊者が隠れられるのは、一重にこの難攻不落の地形のお陰と言えよう

その難攻不落の土地に、予想通り敵の部隊が近づいてきた

迷彩カラー、逆間接二脚、アサルトライフル。パッとしない見た目の機体が七機、一列に並んで森の中を歩いてくる

タナトスに通信が入ってきた

「こちらデストロイア、敵の部隊がこちらに来る。合図を送ったら攻撃を頼む」

赤い巨体が洞窟から出てくる

背中の箱が開き、いくつもの小型ミサイルが顔を覗かせた

「3、2、1…!」

デストロイアがミサイルを発射する。全速力で敵に食らいつく空飛ぶ爆弾の群れが、迷彩を襲う

「ミサイル!?ぐおおおおッ!」

逆脚の腰から上が爆発

デストロイアのマルチロックにより、4機の機体が倒れた

その向こうでタナトスがガトリングを乱射した

ドラムマガジンから経由した弾丸が、高速回転する銃口から何回も飛び出していく

直撃したのは一機だけ、しかしバズーカ弾が飛んでいく

二機がそれぞれガトリングとバズーカで粉々のなった

二機墜ちた。後、一

その一機は死神の後ろに回り込んでいた

アサルトライフルの引き金が引かれる。しかし銃弾は放たれなかった

迷彩の体に穴が開いた。デストロイアの右手の銃が、不要となった空の薬莢を吐き出す

「油断は禁物だ」

渋い声が死神を注意する

長い間戦いに身を置いた者には、重い機体も楽に動かせるのだろう

ミサイル発射から10秒も掛からず、ほぼ真後ろにいた迷彩を倒してしまった

「まさか連中、これだけしか用意しなかった訳じゃないよな?」

マイケルが疑問を正直に言うと、その返答をするべくミシェルから通信が入る

「敵の本隊が18分後にそちらに到達します!」

「オペレーター、慌てすぎだ。想定通りの時間だが」

そもそもミシェルがデータを照合し、戦局を予想、作戦を立案したのだ

そんな彼女が予想しなかったことが起きていることは、慌てようから容易に想像できた

問題は、その予想外の出来事がなにか、だ

マイケルは聞いた。何があったか確認しなければ、対策もできない

戦場では情報が命だ

「何があった?」

「敵部隊の中に、地上戦艦が一隻います!」



地上戦艦

厳密に言えば、ビルほどのサイズの戦車と言うべきものだ

名前通りの重武装、何十機もの機体を載せられるキャパシティ、拠点としての機能

どれをとっても素晴らしい兵器と言われることもある。人型機動兵器との併用が前提だが、その性能は名前に恥じないものがある

「プラン変更!デストロイアは地上戦艦を狙撃できる場所に移動。タナトスは突撃してください!」

ミシェルが3秒もたたずに策を練り終わる

指示を出す声には、少し自信があるように感じた

「マイケル・ジョンソン、デストロイアのその左手は飾りではないですよね?」

「気付かない方がおかしいがな」

そう軽口を叩きながらマイケルは、デストロイアの筒のような左手を展開した。重厚な鉄の音が、そのユニットから響いた

「なるほど、それがデストロイアの切り札ですか」

白い稲妻を光らせてチャージするユニット

マイケルが残念そうに言った

「コイツを使わざるを得ないか・・・革命者め、なかなか本気のようだ」

ミシェルが二人に指示を出す

「これより新プランの説明をします デストロイアの左手、レールガンで地上戦艦を攻撃し、敵の部隊を撤退させます」

「一目見るなり見抜くか、何と言う・・・!」

「レールガンのチャージ時間は?」

「あと、三分だ。チャージに時間がかかることも見抜くか」

「タナトスはその間陽動、デストロイアのチャージ時間を稼いでください!」

それを聞くなり傭兵は、自分のポジションにつく

死神は今まで使えなかったブースターを全開にし、飛翔した

そのとき巻き上げられた砂埃の中、破壊者が姿勢を固定し、レールガンのチャージに集中する

飛び散る稲光が、デストロイアの頭部を撫でた

空を飛んで地上戦艦に突撃するタナトスに、砲弾の雨が降り注ぐ

しかしブースターの噴射口を僅かにずらし、紙一重に避け続ける

地上戦艦の大分近くに死神が到着した頃、地上戦艦の下に棒立ちしていた迷彩がアサルトライフルを対空発射する

向かってくる鉄の矢にかすり傷をいくつも負う死神だが、全力の反撃を行った

両手の大火力武器を同時発射する

バズーカの爆発が、ガトリングの連射が、とてつもない勢いで迷彩のパイロット達の命を刈り取って行く

だが、地上戦艦も応戦する。機銃がタナトスを襲ったのだ

迷彩のアサルトライフルなど比べ物にならない口径の弾丸が弾幕を張り死神を撃ち落とさんとする

同時に、地上戦艦のハッチからゾロゾロと迷彩の増援が沸く

機銃をあっさり回避したタナトスのバズーカが、これ以上の増援を防ぐためハッチに直撃した

爆煙のなか、出撃前の機体とメカニックが、バラバラになっていく

その時だった。タナトスの来た方向から、今度は光が飛んで来たのは

視るものを魅了する流れ星のようでもある

狙い違わず地上戦艦の正面に当たったその光は、そのまま爆発

同時にブリッジが破壊された

2射目

移動用のキャタピラが吹っ飛ぶ

死神と呼ばれるパイロットがこの機を逃すはずがなかった

すでに増援の迷彩を片付けたタナトスは、ブースターを起動し、見事に穴が開いた地上戦艦に侵入した

レールガンの3射目が来たことなどお構い無しだった




地上戦艦は壊滅。中の部隊も全滅

この日、破壊者と死神の最凶コンビが革命者達の最大のトラウマへとなってしまった

それ程までの大暴れだった



「皆殺しだな」

マイケルの渋い声がタナトスのコクピットの静寂を破る

現在、地上戦艦から何キロも離れた場所に。2機は待機していた

午後の太陽に照らされる、赤と黒の2機

デストロイアのトレーラーが来たのは、その台詞が言われたか言われていないかのタイミングだった

「親父~ッ!迎えだ~ッ!」

マイケルの息子らしき青年が、トレーラーの荷台からデストロイアを呼ぶ

タナトスの方を向き、破壊者のパイロットは通信を開いた

「恐ろしいな。あそこまでするとは・・・」

そう言うと、デストロイアはトレーラーに乗った

「まあ、傭兵だからな。君に文句を言う筋合いは私にはない」

鉄の軋む音、固定用のロックがかかる音が小気味良く響き渡る

「またよろしく頼む・・・次も味方だったらだが」






マイケル達が去った後、傭兵は輸送機内のミシェルの部屋に来ていた

女の子らしい香水の香る、可愛らしい部屋だ

「今日もお疲れさま」

ミシェルの、やはり女の子らしい声がした

その手には、紅茶のカップが2つある

濁った白いミルクティーを一口飲み、オペレーターは言う

「でも、戦ってる貴方に負けず、私も今回は頑張りました!」

傭兵が紅茶のカップを持ったとき、ミシェルが微笑んだ

「だから、誉めてくれませんか・・・?」

二人の間に、香水とミルクティーの香りが流れていった

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