魔甲兵科の旧式術師

はねまくら

序章・終わりの日

始まり、或いは終わりの銃弾

ガラシア帝国歴???年


冷たい雨が大地に染み渡る。夜半から降り出した雨には、一向に止む気配は無い。

そしてその雨は、二人の若い男女の白い軍服を黒く濡らす。


「なんで……なんで私達を裏切ったのよ!」


場所は森の中、声を振り上げた女性は、実弾式の魔甲銃を構える。


「裏切り……?はは、何言ってるんだよ。裏切ったのはそっちだろ……?」


一方の男性は、一本の大木の根元にもたれ掛かり女性と見つめ合う。

どうやら太ももに銃弾を受けているようで、恐らく銃弾を放ったであろう女性から、もう逃げられそうにも無い。


「はは、そう言えば君にこうして追い回されるのも久しぶりだね……」


血を流しすぎたのか、男性の顔は青い。意識も朦朧としているようだ。


「……なに?時間稼ぎのつもり?そうよね、あんたはいつだって私から逃げてたわね。でもその追いかけっこもこれで最後よ」


女性の構える銃口が男性の眉間を狙う。その手が小刻みに震えているのは、寒さだけが理由では無いだろう。


「……ねえアークス、私達の元へ戻るつもりは無いの?全ての罪を告白すれば、将軍だって命ぐらい救ってくれるかも……」


これは最後通告だろう。つまるところ、女性はアークスと呼んだ男を殺したく無いのだろう。しかしーー


「悪いなミルカ、俺はあんな腐りきった場所にこれ以上所属したく無いんでね」


アークスはその最後通告をばっさり切り捨てる。血が流れ意識が朦朧としようとも、その言葉を口にする彼の瞳には、ハッキリとした拒絶の光が宿っていた。


「……さあ、撃てよ。もうすぐ俺の仲間がここにやって来る。もう昔話をする時間は無いぜ?」


アークスは殺せと言わんばかりに身を投げ出す。その姿に嘘偽りは無いだろう。


「帝国の兵士に処刑されるより、お前に殺される方がまだマシだ」


「……あんたって本当に馬鹿ね」


そして闇夜に、二発の銃撃音が響き渡った。

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