第6話暗雲

冷たい風が顔面に吹き抜けた。いつもそうだがタイムトラベルする時は、必ずこの心臓に軽いパンチを与えたような衝撃が加わる。分かりやすく例えるなら、ジェットコースターに乗ったことがある人なら分かるであろうあの感じだ。あれを気持ちいいと感じる人もいれば不快と感じる人もいるだろう。本人には時間を移動したという感覚はなく、負荷がかかる時間も従来の機体よりも改善されたものだ。人類の科学技術というものはまさに日進月歩である。刻々と決戦の時が近づくにすれ、武者震いがしてきた。それは、隣に乗車しているレイナも同じ気持ちのようだった。氷海達のチームもそろそろ目的に着く時間だ。

「レイナ、準備はいいか?」

「バッチしだよ。」

不敵な笑いを浮かべ、胸元に輝くクロスのペンダントに何やらお祈りをしていた。目的に着くと、そこは特に何もない平地だった。

「レイナ、奴らは今どこら辺にいるんだ?」

「この端末の情報だと、ここより南東の方角、約1キロに、20名いるかな。おそらくそこにバレル将軍もいると思われ。」

「分かった、前後の安全を確保しつつ、戦闘態勢に入るぞ、作戦はとにかくれだ。」

そう言うと、パンクな上着を翻し、こちらを向くとにっこりと笑った。だがその目は笑っていなかった。冷静でいる証拠だった。

「イエス、マイロード。」

いよいよ、俺らの狩りが始まる。今回は難易度Sのミッションで相手がバレル将軍となれば申し分ない。舗装されてない獣道をかき分け、気配を殺すことに専念しつつ徐々に相手との距離を縮めていた。気配を殺すことは俺とレイナは得意でそういった意味で今回の作戦の人選はよかったと思う。10分くらい歩いたところで、レーダーに表示されている敵が動きを止めた。太陽は南中に昇り、汗がシャツにへばりついた。流れる汗が滑り台を滑るかのように滑らかに滑り、落下していった。

「レイナ、奴らが静止しているが機械の不具合ではないよな?」

「うん。多分、うちらに気がついたと思う。奴等が待ち伏せしてると思われる。この配置を見て。等間隔でうまく左右に分かれてるでしょ?これは奇襲するつもりだよ。」

「そうらしいな。ここは先手を取るしかないな。俺はまず、雑魚を瞬殺してくる。俺が道を作るから、レイナはまっすぐバレルを狙え、いいな?」

八重歯を光らせこくこくと頷いた。艶めかしい太ももに汗が滲み太陽の光を浴び、噎せ返りそうなエロスを感じた。任務中に何レイナ相手に欲情してるんだ、俺。まだまだ、修行が足りないな、俺は。それはともかく作戦は決定した。ここからは失敗が許されない大事な時間だ。一歩でも間違えれば俺は重傷を負うだろう。レイナは大丈夫だがーーー。紳士のお時間はもうお仕舞いだ。ここからは、俺らの時間だ。精神を集中させ、魔力をレイナに向けて詠唱した。レイナの身体は闇のオーラに包まれた。そして、レイナは態勢をを低くして、右手を地面につけ、ぶつぶつと詠唱を始めた。大気が揺れ、地面が揺れた。尋常じゃない魔力の流れにこちらまで身震いがしそうだった。こっちもそろそろ準備をする、か。全身の魔力を分散して配備し、魔力のこもった気弾をバレル以外にロックオンした。いよいよ、戦闘開始だ。

「レイナ、カウントを始めるぞ。用意はいいな?」

「いつでも、いいよ。」

口元が緩んでいた。これは、余裕がある証拠だった。まぁ、こいつが、テンパることは無いだろう、多分・・・。

「すぐ楽にしてやる・・・炎の弾丸フレイムバレットーーーー。」

無数の弾丸バレットが0.0001秒で敵に到達し、着弾した。

「うわぁーーーーー。」

一瞬でバレル以外の敵は一掃された。その着弾は的確に心臓を貫いた。

「今だ、行け!」

一瞬で間合いを詰め、バレルの身体を貫いた。

「何だ、随分と楽なミッションだな、バレルはこんなもんだったのか?」

「まだまだ、甘いな。」

レイナの背後にバレルはいた。さっき貫いたはずじゃ・・・。

「死ね。」

「ぐはぁ・・・。」

レイナの身体は無残にも貫かれてた。あまりに残酷な光景に目を背きたくなった、が、しかし、それはある意味いつものこと。見知った光景でもある。普通ならこんな光景に出くわしたら、気が動転するのが普通だ。だが、レイナの能力大した問題でもないのだった。

「これで、終わりか?」

レイナが不敵な笑いを浮かべた。まぁ、他から見れば異様な光景だった。

「な・・・に?」

バレルはその異様な光景に唖然としてた。というより目の前の事実に思わず目を疑ってるようだった。

「なら、こっちから行くぞ。」

レイナは身体を反転させ、バレルの脇腹に鋭い一撃を入れた。

「ぐはぁーーーーー。」

バレルは苦痛な表情を浮かべ、左膝から崩れ落ちた。態勢を立て直す前にレイナから鉛のような一撃が入った。今度は致命的だった。レイナの能力は再生だけではない。大気の質量を自由に操ることができる。要はこの一撃がどれほど重いのかはわかるだろう。極端に言えば一撃を何百トンにすらなる。そんなものが人体に直接衝撃として加わればどうなるか、分かるだろう?安易に想像がつくだろう。案の定、バレルは口から大量の吐血をし、その場に崩れ落ちた。

「任務終了かな。何かあっけなかったな~。もっと骨のある人かと思った。」

「お前が強すぎるだけだって。任務は終了だな。早く帰還しよう。っか氷海の方はもう片付いたかな?」

無線で連絡しようとしたその時、レイナが次の言葉を遮った。

「ちょっと、待って。何かおかしくない?」

「どこが?」

「だって、何かランクSミッションの割に敵が少なかったし、バレルがいたって、Sなんて表記にならないでしょ?」

少し冷静になって考えてみたが、言われてみればそうだった。確かにランクSの任務にしては生ぬる過ぎる。何かが喉のに詰まった小骨のように気持ちの悪いものだった。任務を完遂してからそんなには時間が経過してないが、嫌な予感がして、無線を握る手が汗ばんだ。

「もしかして・・・。」

「い、一体何だよ?歯切れが悪いな。」

「これは罠で、向こうがSなんじゃない?」

レイナの顔色が青ざめていた。

「嘘だろ?だって、機械の判断なんだろ?」

思わず声を荒らげてしまった。心臓の音を耳で感じた。それは徐々に小刻みに早くなった。

「何てことだ・・・。俺たちはまんまと敵の罠に踊らされていたのか・・・。」

拳に力が入り、握っていた氷海から貰ったペンダントに自分の汗が染み込んだ。

「くそっ!」

地面に拳を叩きつけた。鈍い痛みが後からじんじんとやってきた。

「冷静になろうよ。まだ、望みはあるし、氷海達がそう簡単にやられるとは思えないよ。」

その言葉ことのはに焦りを感じた。早くここから出て、いち早く氷海に加勢しなければ・・・。しかし、相手が分かっていない。もしや、あの大気カエルムマスターか。それは非常にまずい。あいつが相手とは分が悪い。あいつの実力は、世界三大戦姫に讃えられる。とても、氷海達だけでは歯が立たないだろう。その三大戦姫の中でNo2の実力だ。因みに、No3はレイナだ。まぁ、雰囲気はそんな風には見えないが実力は相当なものだ。本気の俺でもレイナ相手では互角になれるか分からない。まぁ、一度戦ったことはあるのだが、その時は勝ったが、もう一度やったら勝敗は分からんだろう。っか戦いたくない。そのレイナの上をいく強さをもつあのロリっ子女は俺たちが加勢してようやくまともな戦闘になるくらいだ。早く駆けつけないと手遅れになる。ここは、あのロリっ子女が来てないことを祈るほかない。

「レイナ、目的地までどれくらいかかりそうだ?」

「ここからの移動距離を踏まえると、30分ってことかな。」

「分かった。すぐにタイムマシンに戻るぞ。」

両脚に力を入れ、魔力を注ぎ込んだ。タイムマシンまで約1秒で戻ってこれた。当然レイナも後に続いた。

「レイナ、準備はいいか?」

「いいよ。ただ、1つ問題が・・・。」

何か歯切れの悪い感じの返答の仕方だった。嫌な汗が額からこぼれ落ちた。

「何が問題なんだ?」

「時間軸が操作されている。」

思っていたより自体は深刻だった。俺たちが出発して後に何者かが細工したのだろう。ちょっと待てよ。ってことは予めこの機体の暗証コードを知っているものが、機体に直接ウイルスを送り、バグが起きるように仕組んだということだ。最悪だ。俺の仲間にスパイがいるってことだ。しかし、今はその犯人探しをやっている場合ではない。一刻も早く向かわなければ。気持ちばかり焦るだけである。

「くそ、俺たちを謀りやがって。」

「そんなことより早くこのバグを解消しないと。」

無情にも、時間は刻々と過ぎ去っていた。

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