第5話決裂

雫がここを離れて10分程経ち、先ほどの警備兵は何やら入口方面と反対方面に集結した様子だった。何か胸騒ぎを感じ、持ち場から少し移動したその瞬間、目の前が暗転した。状況を把握する間もなく、気絶してしまった。しばらくして、うっすらと明かりが見えた。視界が段々とクリアになっていくに連れ、光が眩しくなってきた。天井の蛍光灯なのか?今まで気絶していた俺には眩し過ぎなくらいの光量だった。それよりここはどこだ?一体あの時に何が起きたのか状況整理したいところだが、後頭部がズキズキ痛かった。殴られたのか?でも、殴られたような衝撃や痛みは全くなかったのだが・・・。

「いつまで寝てるのだ、翔!」

「っう・・・!」

聞き覚えがある声だがまだ頭がぼんやりとしていた。何か大事なことを忘れてるような・・・ダメだ何も思い出せない。そんなことを考えていると、ほっぺたを思いっきりつねられた。

「痛てぇーーーー!何すんだよ!」

「やっと起きたわね。翔。会議が始まるからさっさと司令室まで来て。皆待ってるからさ。」

「あぁ。」

そこには赤髪のえらい美人がいた。どこかで見たような・・・。だが思い出せない。っとその時、頭に電撃を受けたような衝撃が走った。それも全部。俺は革命派のリーダーだった。さっきまでのやりとりは昔の遠い記憶をゆっくり辿っていたのだ。今日はずいぶんと昔の事を思い出すものだ。疲れているか?話は戻るが、さっきまで見ていた夢は全部今まで起こってきた出来事だ。あの、家康の奇襲戦の日、俺は背後から何者かに襲われた。そして、絶体絶命の中助けてくれたのが、赤髪の女・・・いや、成瀬氷海なるせひょうか、今は俺の恩人であり良きパートナーだ。この革命派を最初に作ったのが氷海の親父さんだった。今では組織は大分でかくなり俺が加わり勢力も拡大しその功績から、革命派の最高指揮官まで上り詰めた。そして、あの助けてもらったあの日に衝撃的な事を聞かされた。それは、雫の真の目的とそして秘密を・・・。その内容は、要点をまとめて言うとこうだ。あの段階で俺は未来に破壊王として大分派手にやらかし、世界の秩序を大きく乱した暴君として君臨するのが正史なのだが、それを俺が破壊王になる前の段階で味方にし、更生することで、自分たちの戦力にし革命委員会から大きく差をつけようとするのが真の狙いだったらしい。なら、革命委員会は正史は俺が主導者だったのかという当然の疑問が出てくるが、そうではない。氷海がまだ小さい時に、未来の正史の俺が命を助けたみたいで、それを知った氷海の親父がえらく気に入いて是非嫁にと言うことで過去に戻って俺を仲間にしたかったのが

ことの発端だ。当時何から守ったとかどういったやりとりがあったのかはここでは割愛しよう。俺の都合で。そもそも、ならタイムマシンを使えば安易に死んだ人に会えたり自由に行き来できるのだから、命の希薄さや、何回も歴史に干渉することで歴史がおかしくなり下手すれば自分が何人も存在するわけだから、自我が希薄になり自分そのものが消えてしまうのではないかという疑問も当然でてくるが、実際はそうではない。タイムマシンでのタイムトラベルには仕掛けがあった。一度戻った場合物理的な移動を行うので、一旦、自分の存在が消失し、そのコピーがその時代に行くということだ。言い換えると、αという物体が100年前にワープするとそれはα´となるのだ。時間軸は過去から未来軸まで繋がっていて四次元の世界なんだが、それは当然一直線ではなく枝分かれしている。その世界では異なるルートがあり個々は交わることなくそれぞれ独立している。もっと簡単に言ってしまえば、βという軸に俺がいたとすればその自分が過去に行き過去改変を行えば、軸がずれて他の時間軸(別ルート)に行くのではなく、過去そのものを変えた場合、そこの時間軸の歴史そのものが変わりるのだ。よって、自分がダブって存在することはない。自分はひとりである。次にもう一つの疑問が出てくるだろう。それは、歴史を大きく変えれば自分そのものが未来に消失しているのではないかと。実はそうではない。大きく歴史を変えても自分が現に一人しかいなく存在しているから存在が消えることはない。しかし、仮に未来の俺が殺されずに生存していた場合、その俺が過去に来た場合存在が二重になるのではないかと思うかもしれないが、自我いや自分自身の存在は各時間軸にたった一人なので、戻ってもそれは俺ではないし、自分は常に共有している存在だから、今の現段階で俺が過去の自分に会いにいったところで自分には会えない。タイムマシンの定義はざっくばらんにいうとこうだ。自分は自分と認識できるのは自分だけであって戻っても自分はいない。時間軸には無数の自分は存在するが自分を認識できない時点で自分はどこにもいるしどこにもいないということが言える。話はややこしいが全貌はこうだった。タイムマシンの話のからくりは以上だ。話は変わるが、でも、雫が話していたことは本当だったみたいだが、その保全委員会の中には俺を殺そうとする組織が内部にいたらしくその連中があの時に俺を襲ったということだ。更に保全委員会の真の目的は世界の覇権を掌握することで、とても危険な目的をもつ集団であるということだった。正直、雫のことは今でも短い期間だったが共に過ごした時間はかけがえのないものだったことは事実だが、今は敵同士だ。刃を交える存在だった。運命というものはどこまでいっても皮肉なものだった。本当にそう思う。ふと回想をしながら会議室まで歩いていると、氷海が会議室の途中の廊下に立っていた。ちょうど食堂の手前の廊下だ。手を後ろに組み足をぶらんぶらんさせ、子供っぽい仕草で待っていた。

「何だ、先に行ったんじゃなかったのか?」

「えーとね、何か昔の事をちょっと思い出してたら、翔が何処かに行ってしまうんじゃないかって思ったら落ち着いて待ってられなくてさ・・・。」

そのすらっとした綺麗な鼻を軽くポリポリとかき、少し落ち着きない様子だった。

「ちょうど俺も昔のことを思い出してたんだ。早いもんだよな、あれからさ・・・。」

遠くを、ここにはいない何かを思いながら視線を窓の外に逸らした。

「あの時はお前に殺されかかったよな。」

「いや、あれはあの金髪の女しずくを狙ったのよ。翔を狙ったわけじゃないんだからね!」

ほっぺをぷっくらとさせ何やら愛しいというか、ツンデレ乙(笑)

「分かってるよ。冗談だって。」

笑いを含みながらそう吐き捨てた。

「翔、あのさ、やっぱりあいつのこと思ってた?」

「いや、もうそれはいいんだ。後悔ならとっくに済ませたさ。ただ、ちょっとセンチメンタルになってただけだ。ダメか?」

「別にいいんだけどさ。私はあいつのことは嫌い。だっていつまでも翔の心の中から消えないし、ホントうざい。翔の心の中からあいつを消して私は本当の意味で翔の特別な存在でありたいの。ダメかな?」

上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。その表情は小悪魔というよりは不安と雫に対する激しい憎悪が感じられる、そんな表情をしていた。氷海のことは特別な存在だと思っているし、一番大切な存在だ。しかし、雫のことが頭から離れないのも事実だ。あれから、数年が経ち、雫の活躍は耳にするがあれ以来会っていない。会ってしまったらそれが最後のように感じられた。それは、お互い引くに引けないところまできてしまったからだ。俺はここの委員会裏切るつもりもない。今は氷海が俺の一番の理解者でもあり、パートナーだ。その気持ちに一抹の嘘はない。だけど・・・男とい生き物は過去に生きる生き物で、よく想い出に逃げるもんだ。その点女は未来に行き、人生を謳歌するのがうまい生き物だ。それ故、一生分かり合えないのかもしれない。

「いいや、俺にとって氷海は。」

そう言って、軽く抱き寄せた。だが、それが何故だか懐かしく感じ少し寂しかった・・・。

「翔、今は無理しなくていいんだよ。私分かってるんだ。翔が無理して優しくしてくれるのをさ。でもね、そうされても私は翔のこと愛してるの。それだけは譲れない。」

そう言って下唇をギュッと噛み締め俯向き加減で頬を赤く染めた。照れてではない。行き場のない思いがそうさせたんだ。そう、全部不甲斐ない俺のせいだった。目の前にこんなにも美しくて自分のことを一番に思ってくれている女の子がいるのにその気持ちにいつまでも答えられず上辺で大切だよ、とか甘い言葉を吐きその氷海の優しさに甘え縋り、本当に自分がこれほどまでクズだとは思わなかった。そうならば最初からきっぱりと無理だというべきこと事をずっと逃げていた。そんな自分に免罪符などない、いや、あってはならない。神罰があるなら甘んじてそれを受けよう、そう思った。俺は何を迷っている、もう過去はいい加減忘れろ。今を生きろ。氷海をこれ以上苦しめるな、泣かすなよ、と、もう一人の自分が嘆きかけてきた。その瞬間ぐっと右手に力を込め、思いっきり自分の顔面を殴った。

「え!何やってるの、翔。お願いだから自分を傷つけないで。」

さっき、ほっぺたをつねった時とは真逆の行動で、今回は本気まじなお願いだった。じんじんと額が熱く熱を持っている感じで、痛みがゆっくりと感じられた。その赤く熱を持った額を優しく撫でてきた。そして、ぎゅっと両手を握ってきた。何かに縋るように・・・。そんな氷海を見て悲しみと同時に怒りが沸いてきた。勿論、自分に対しての怒りだ。

「分かったよ。もうしない。だから、俺の話を聞いてほしんだ・・・。」

「うん・・・。」

か弱い声での返答だった。

「俺はさ、今までずっと自分を騙し演じ、そして何より氷海の甘えにすがって、逃げていた。もしあいつと戦場で会ったらそのときは俺の手で殺す。けじめとして。その覚悟は出来てる。それが、俺の罰であり、宿だから。後これだけは分かってくれ。俺はお前が大好きだ。この気持ちに嘘はないことを・・・。」

「今はそれだけ聞ければ嬉しいよ。私は最後までずっと翔のそばにいるから・・・。」

「ありがとう・・・。」

その後、暫しの静寂の後にゆっくりと唇を重ねた。それから、二人で無言で歩き出し、会議室までの距離が長く感じた。

「皆、揃ったか?」

会議室に入るとそこは見慣れた面子が揃っていた。

「当たり前っすよ。っか隊長遅いっすよ。」

そう言ってきたのはフレイム使いの木戸隆史だった。こいつはチャラいが腕は確かで、頼れる存在だ。

「いつまで、いちゃついてたんですか~、私の愛しの隊長独占しないで下さいよ~。」

こいつは雨嶺カノン。年齢は20歳。ブロンドの髪に髪の長さはセミロング。後は、巨乳(笑)。たまに目のやり場に困るくらいだ。

「はぁ~。翔は私のだし、あんたの出る幕なんかないし。」

挑発的な物言いで、いつもこいつらは対立している。そんな馬鹿げたやり取りをしてると、奥から氷海の親父さんである、源三がニヤニヤしながら顔を見せに現れた。

「賑やかなことは結構。それで、翔よ、最近の敵の動きはどんな感じだ?」

「えーと、あまりいい状況とは言えませんね。何より、最近敵のタイムトラベルの頻度が増し、時間軸に多少の変化がありました。何やら、例の計画を急いでいるみたいで、こっちに対する攻撃がやや多くなりました。対策としては、自分のチームを現地に向かわせ、やつらの徹底排除が好ましいと思われます。」

テーブルの長椅子にもたれかかり、愛用のタバコに火を付けた。

「うむ。現場の指揮権は全部お前に一任してある。任せたぞ。」

そう告げると再び奥の司令室に姿を消した。最近、あまり体調が良くないみたいで、あんな風にたまにしか顔を出してこないのだ。そう言った意味でも現段階で指揮権があるのは俺だった。その分責任は重大だ。

「先輩~、1227年に保安委員会がいるみたいだよ~。後は1777年かな。ってきていい?」

紹介は遅れたがこいつはオペレート兼、再生リバイバル使いだ。名前は片霧レイナ。事実上、こいつが能力で言ったら最強クラスだろう。見た目はオレンジの髪に小さめで妹系の典型的なキャラだ。その見た目とは裏腹に残酷で、人を殺すことに何の躊躇いもない怖い女だ。まぁ、濃い面子揃いの革命委員会だが、賑やかで飽きないもんだ。

「難易度は?」

「1777年はAランク、1227年はランクS、精悦部隊をそれなりに配備してるみたいだよ。特にランクSの方はあの氷帝の異名をもつバレル将軍がいるみたいだね~。」

「よし、なら今回は1277年に俺と、戦いに飢えているレイナ。1777年氷海と隆史、カノン。相手は相当な手慣れだ。十分に対策を取り戦闘に臨むように。以上。」

「えーーー、何で翔と一緒じゃないの!」

何やら不満げな様子で、氷海とカノンが言ってきた。だが、今回はバランスを考えた上での配備だ。基本、レイナは単独でも問題はないのだが、今回の作戦は相手のエリア拡大に歯止めをかける重要な戦いの為、バレル将軍がいるエリアは相当な死闘が予想される為、現段階で最強のパートナーと挑むのがベストだ。それに、氷海も相当強いが、レイナは別格だ。こいつの実力は底が知れない。

「これは、隊長命令だ。分かってくれ。各自健闘を祈る。それと、隆史。任せたぞ。」

「任せてくださいっすよ。俺が姫をちゃんと護るっすよ。」

口調はともかくこいつは約束は必ず守る男だ。どうやら問題なさそうだな。

「翔、気を付けてね。それと、浮気は許さないからね。」

「分かってるよ。そっちも気をつけてな。」

「私も行きたかったけど、今回はしょうがないですね。でも、今度の任務は私と一緒ですよ。」

「はぁ、何言ってるの?今度は私だし。」

また、やってるよ。まぁ、こっちも問題なさそうだ。

「それでは、みんなタイムマシンに乗り配置につけ。」

会議室を横から抜け、隣の鋼鉄の扉の向こうに、タイムマシンを管理している部屋がある。専用のパスワードを手際よく入力すると、オペレーターや整備士の間を抜け、中央に配備されているタイムマシンに乗った。乗り心地は正直言うとあまりいいとは言えない。

「オールクリア問題ありません。いつでも出発できます。」

オペレーターの伊藤の合図でスタンバイがされた。

「5、4、3、2、1、0!発進します。」

重力と電磁波の影響で少し気分が悪くなるがもういい加減慣れた。さぁ、いつもの狩りの時間だ。あいつらに神罰を与えてやる・・・。

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