第4話共同作戦
男なら一度は思った事はあるだろう。正義の味方とやらに。実は俺自身も小学生の頃に本気で正義の味方に憧れた事はあった。しかし、正義って何か?力が強い者が正義になり、敗者は悪となる。歴史を見ればそれは一目瞭然だ。いくら、理想、正論を掲げたところで力なき物は
「おはよう、雫ちゃん。」
小鳥の声が
「ん~、おはよう、翔ちゃん・・・。」
ゆっくりと立ち上がり大きく仰け反り両手を上げ背伸びをしていた。今は何時だろか?小腹空いたな。昨日から何も口にしていないし、緊張が解れた分、どっとひもじさが増していった。お腹の虫がぐうぐうと騒ぎ出した。
「お腹鳴ってるよ。クスクス。」
「わ、笑うなよ。昨日から何も食べてないんだしさ。」
人間って一日何も食わなくても意外に大丈夫なもんだな。でも、さすがにもう限界だった。昨日今日で数キロは痩せたと思う。
「携帯食なら持ってるよ。カルリーメイトと、メタルポータル。」
メタルポータル・・・?それって食いもんなのか?何か激しく不安になる食べ物だな。
「その、メタルポータルって何だ?」
「えーとね、ぷにぷにしてとても甘くて美味しいの!」
ニヤけ顔になりジュルっとヨダレまで垂らしてやがる。でも、そう言われると気になる。ぷにぷにで甘い・・・ね。暫し、その食べ物を考えて見た。っか食べた方が早い気が・・・。
「はい、翔ちゃん。あ~ん♪」
・・・!おいおい、これってお決まりのあれか?実際やられてみると結構恥ずかしいなこれ。世の中のカップルは皆こんな恥ずかしい事をしていたのか。っかメタルポータルは何か透明で、見かけはピー玉みたいだった。食えるのか?これ。
「あ、あ~ん。」
恐る恐る口に入れた。パクッ。う~ん。・・・・・・!
「これ、マショマロっぽいな。」
程よい甘みがあり口の中でゆっくりと溶けていき意外に美味しかった。空腹だった為、余計に美味しく感じたのだろう。実際問題、家康に会いに行くとはいっていたものの、魔法をうまく使いこなせなければ作戦はうまくはいかないだろう。勝算は高い方がいい。雫の能力は空間転移に宝剣と言っていたが、
「
「それはね、10本使えるんだ。」
10本?そんなに
「一つは、本庄正宗かな。」
と、実際に出して見せてきた。手からいきなりそれが現れた。マジックというより、まさに魔法だった。今更驚くことではないが・・・。シルバーに身を包み、太陽の光を浴び、鋭利なエッジにずっしり感があり、刃こぼれが全くなく、日本刀においてはまさに最高傑作。世界にも一本足りとないマスターピース。斬れないものはないと言わんばかりの堂々とした風格に思わず心奪われそうだった。日本刀がこんなにも美しいものだとは思わなかった。雫はそれをゆっくりとしまうと、大きく息を吸ってゆっくりと吐いた。そのちょうどいい大きさの胸がゆっくりと動く様はまさに芸術と言っていい。
「綺麗な剣だな。」
「でしょ~。10本どれも一級品なんだ~。」
かなり陽気な感じでステップを踏んでいた。今回の作戦、雫の剣が明暗を分けるだろう。これはテレビゲームみたく何回でも生き返られる訳でわない。一度でも命を落としたらそれでおしまいだ。そう言った意味では早く強くならないと・・・。雫と話し込んでいる間に結構な時間が過ぎていた。太陽も南中まで昇っていた。朝の肌寒さはなくなり、過ごしやすい気温だった。今って何月だろ?冬ではないにのは分かるが夏でもない。ってことは、関ヶ原の戦いが行われたのは確か、1600年10月21日のはずだから今は春ってことになるな。もし、九月なら残暑、10月なら家康があんなところで油を売っている暇はないし、影武者を何にも配属してた程の用心深い男だ。昨日会った狸のおっさんが家康とも限らない。手元に判別するだけの材料があまりにも少なすぎる。一旦街に偵察に向かった方が懸命なのかもしれない。そう感じていた束の間、雫がこう切り出してきた。
「あの昨日会った狸は本物だよ。」
ポツリとそう言い放った。何で断定できるのか理解できなかったが、何か真に迫るものがあった。とりあえず、夜に昨日襲われた付近を捜索することになった。無言で草木が生い茂る荒道をゆっくりと歩いていった。途中、上流に差し掛かり乾いた喉を潤した。かなり冷たく不純物が全くない純水がこんなに美味しいものだと初めて知った。雫から昨日貰った空のペットボトルにおもむろにそれを注いだ。山道が段々と険しくなった。・・・ちょっと待てよ。ここって昨日来たところから大分離れている気がした。大きめの蚊が耳元でうるさい。一体ここはどこだ?
「おい、雫ちゃん。ここってどこだ?昨日来たルートじゃないだろ。」
「うん。ご明察♪」
浮き足立ってさっさと先に行ってしまった。おいおい、無視かよ。喉まででかかった言霊が無色になり消えていった。さっき、補給しておいた水を一気に飲み干した。喉に何とも言えない爽快感と充足感でいっぱいになった。さっきまでの疲労がどこかに消えていった。足が軽い。どこまででも行ける、そんな気持ちになった。草の蔦がお気に入りのシューズに絡まり、バランスを崩した。おっと、危ない。心の中で呟いた。
「大丈夫?」
何か顔に何とも言えない温もりとソフトの感触がした。ムムム・・・もしやこれは!胸?ガッと勢いよく目を開けると、妄想が現実となっていた。男のロマン。ラッキースケベ!
「あの~、いい加減どいてもらえます?」
呆れたような声がかえってきた。ちょっと、調子に乗り過ぎたかな。賢者タイムに戻らなければ・・・。
「いや、すまん。早く目的地に行こうではないか。」
シューズの紐をキツめに縛り直し、雫の後を数歩後に進んだ。日も大分落ちていた。そう言えば、水はもうないのか・・・。飲むペースを間違ったな、あ~ぁ。どこかでまた補給しないとな。っとそんなことを考えているうちにどうやら目的地に着いてしまったようだ。
「目的地に着いたよ。ここで、少し魔法の練習をしよう。」
そう言って、小さな小瓶を5つ程、ごつい岩の上に等間隔で並べた。まるで軍隊みたいだった。
「ここに並べた小瓶に念を込める感じで割れるイメージをしてみて。」
割れるイメージと言われてもそれをイメージしたからと言って何になるって言うんだ。魔法の鍛錬だってことくらいは把握できるが。
「あのさ、この鍛錬って何か意味があるのか?」
「あるよ。これは魔力の制御と各エレメントの使い分けの鍛錬なのよ。」
綺麗な金色な髪をガッと華奢な左手でなびかせた。目の前の色分けされている小瓶に取り敢えず集中し、割れるイメージをしてみた。しかし、小瓶は微動たりしなかった。魔力が宿った感じはあるのだが、アウトプットの仕方が分からなかった。
「肩の力を抜いて。そして、体内から湧き出る魔力の流れを感じてみて。そうしたら、まず炎を連想してみて。そこから、その連想できた炎を小瓶にぶつけるイメージをしてみて。」
「お、おう。」
半信半疑だったが、言われた通りにやってみた。身体から炎の熱い魔力を感じ、小瓶にぶつけてみた。すると小瓶はあっけなく燃え灰になった。
「成功じゃん♪」
にんまりとした可愛い笑顔で雫が抱きついて来た。相変わらず柔らかい・・・。煩悩だらけになるわ、本当に・・・その後、どうにか他のエレメントも同じようにこなしてみせた。結構な時間が経ち作戦までもう時間が迫っていた。まだ、あの家康を見つけていないのだが、雫は何故か余裕の表情だった。林を更に暗い色の草木をかき分け無言で雫の後をついて行った。川の頂きに着くと何だか胸騒ぎがした。どこかで、視線を感じる。
「なぁ、雫。何か感じないか?」
「しっ!」
そう言って思いっきり頭を鷲掴みされ地面に叩きつけられた。こいつゴリラかよ!それと同時に、頭上に鋭く風を切った何かが通過していった。・・・?一体何だ?雫はゆっくりと状態を起こすと北東の方を向き鋭い視線をおくった。どうやら、命拾いしたようだ。月光に照らされて、例の弓矢のようなものを放った不届き者は川の挟んだ反対側の背丈の高いごつい岩に姿を捉えることが出来た。女だった。身長は小柄で赤い髪の目鼻立ちがはっきりしていて、ミステリアスの感じがした。奴とこっちまでの距離は150メートルといったところだ。長い睨み合いが続きた。長い沈黙を最初に破ったのは雫のほうだった。口元で何かをぶつぶつと唱えると、一瞬で間合いを詰め、瞬時に
「はっ!」
雫が勢いよく風を斬った。空間が分断されるくらいのとてつもな重い一撃だったが、赤髪の女は軽くかわした。
「危ないね~、当たったら死んじゃうよ、それ。」
微笑を浮かべながら、大きく後ろに退いた。それと同時に赤髪の女から赤い閃光が放たれ、女の子が持つには少々大きい赤くて綺麗な弓矢を構えていた。その矢は
「あ、危ない!」
とっさに自分では理解できない速さで勝手に詠唱し、自分の手から
「・・・っう!」
赤髪の女は歯をギリギリさせ物凄い形相でこちらを睨んできた。しかし、一番驚いたのは俺の方だった。雫を守ろうとする一心とはいえ、あんなことが簡単できるとは思わなかったからだ。
「おい、貴様。舐めたことをしてくれるな。」
唐突にスタスタとこちらに向かってた。やばい、非常にまずい・・・!赤い髪の女は女子高生なのか、紺色の制服を着ていた。その服装から判断できることは、この時代の人間ではないということと、雫の属する委員会の人間ではないということだ。しかも、俺たちを殺そうとしたということは、消去法でいったら革命派の委員会の刺客に違いなかった。
「勝負はついてない、余所見をしてると殺すわよ!」
そう言い放って、雫が勢いよく女に斬りかかった。しかし、ひょいと軽くよけられ、何やら向こうも詠唱をはじめ雫の身体は簡単に宙に浮き思いっきり地面に叩きつけられた。
「余所見?余裕というやつだよ。ばーか。」
ドシっと嫌な鈍い音がした。大丈夫か?雫は苦渋な表情を浮かべ、顔には余裕がなかった。嫌な汗が
「ずいぶんと派手にやってくれたじゃない。私の可愛い後輩に。」
ん?後ろで声が聞こえてきた。いったい誰だ?そして、赤髪の女に鋭い一撃が入った。間髪入れずに数発入ったようだ。一体何が起きたのか分からなかった。思考が完全に停止した。見えない何かが赤髪の女に直撃したのだった。
「く、くそぉ。覚えてろよ!
そう捨て台詞を吐くと、短いスカートを翻し、物凄い速度で奥の林へと消えていった。うん、ホワイトだな。うん。ご馳走様。っか何で俺の名前を知っているのだろう?服についた土を払い、右手に力を入れ、ゆっくりと上半身を起こした。
「あの~助けて頂いて有難うございました。」
「気にしないで。私はただあなた達の様子を見に来ただけだからさ。」
暗闇から姿を現したのは、茶色くツヤツヤした長い髪の小学生?だった。今更ながら小学生に敬語を使うのにかなりの違和感を感じた。何かあの女が
「危ないところを助けて頂き有難うございました。」
さっきまで、そこに倒れていた雫が膝の土を払い立ち上がった。怪我は大したことなさそうだ。それにしても、あの赤髪の女、相当な手馴れだったな。一体何者なんだ?眼前にいるロリっ子も。
「それよりも、貴方は誰なんですか?雫の所属する委員会の人とか?」
「そうだよ。雫の先輩ってとこかな。」
おいおい、どう見ても先輩というよりロリっ子小学生だろ。だが、よく見ると本当に美少女だ。10年後は相当綺麗になっているに違いない。っか服装が風変わりである。制服の上にカーディガンを羽織ってサイズがあっていないのか、袖がダランとしていた。ん~萌を感じる。はっ、やばい。一瞬そっち路線もありだって考えた俺は相当やばいのではないのか・・・。
「現状からするにこの状況は芳しくないわね。あの赤髪が来たということは急がないと手遅れになるわよ。」
「はぁ。あの~これから俺はどうすればいいんですか?」
相当まずい状況なのはわかるがまず家康とやらに会って血液を採取するとかいっていたような気がするのだが、果たして現段階でそんなことが可能なのか甚だ疑問だ。それに赤髪の女がこの時代に来たということは何らかの目的があって、何らかのアクションを起こしたに違いない。まず、状況整理するのが妥当だろう。
「まずは、
「はい。必ずオーダーは遂行して見せます。」
何か口調がさっきと違い切迫しているような感じがした。とにかく与えられたオーダーを完遂するしか術がないようだ。
「坂城君。この任務が終わったら本部まで来てちょうだい。」
「は、はい・・・。」
生半可な返答をした。そう言い放つと忽然と姿を消し去った。一体何の魔法だよ。相当な使い手だということはわかったがまだ、彼女について多くは知りえないまま一旦のお別れとなった。特に年齢の方が・・・。まぁ、女性に年齢を聞きのはマナー違反だとよくくだらないバラエティーで耳にたこができるくらい聞いたんもんだ。それはともかく先が思いやられるな。
「雫ちゃん、怪我はもう大丈夫?」
「かすり傷だし全然平気。それより期限がもうないし、早く家康のところに行こう。」
その後、二人は黙々と月明かりの下を閑散とした林を歩いて行った。一体今が何時なのか全く分からず、ただひたすら歩くこと数時間したところで、雫が急に立ち止まった。何かあったのだろか?緊張が走った。また、さっきの革命派の連中が来たのかと思ったからだ。あの赤髪のパンツはしっかりと脳裏に焼き付いている・・・じゃなくてさっきの生死を賭けたデスマッチを思い出したからだ。額に汗が滲み、握る拳に力が入った。
「雫ちゃん、どうしたの?」
「お目当てのターゲットがすぐ近くにいるの。」
ん?何でそんなことが分かるんだ?確かに人の気配はうっすらとは感じるけどそれがあの家康とは限らんだろ。それに俺は歴史で習ったあのへんてこりんな肖像画しか思い浮かばないし、実際にあの肖像画が家康とは限らないし第一、絵で分かる訳無いだろ。おまけに教科書に載っている上杉謙信の肖像画だって信憑性はかなりうすいって話だしな。最近というか前々から言われていることだが、上杉謙信は女だったという説があるからだ。一説によると生涯伴侶を持たなかったことから女だったのではないかという見解らしい。歴史なんてそんなもんだ。実際にいたのかいないのか定かではない人物なぞ沢山いる。そう考えていると、その疑問に適切に答えますかのように雫がこう話を続けた。
「私たち委員会には歴史上の人物がどの時代のどこにいるのかを判断することのできる特殊な機械を持っているの。だから、遠くにいてもターゲットがどこにいるのかが分かるって話。」
「あぁ~成る程。」
喉にある付き物がすっきりと取れたような感覚だった。それにしてもそんなデタラメな機械が未来にはあるかと思うと人類は着実に進歩しているのだなぁっと思う反面、そこまでいくと色々と怖いものを感じた。
「それで、どうやって血液を採取するんだ?」
「正面突破と言いたいところなんだけど、守りが手薄な明け方の奇襲が上策だと思うんだよね。後は、翔ちゃんが魔法で雑魚を引きつけてその間に私が家康のところに行って、気絶させ血液を頂くって作戦かな。作戦内容は大まかに頭に入った?」
「おう。任せろ。」
正直、魔法を自由に使いこなす自信はなかったが、もう鍛錬する暇はないだろうし、腹をくくるしかないだろう。そんな束の間、雫からの合図があった。
「ミッションスタート。」
一気に明かりがある屋敷に駆け寄り、門の反対側に行き、塀をよじ登った。意外に見張りはなく手薄だった。中に入ると、数人の警備兵が鋭利な槍を持ち、見張りをしていた。南からの潜入は当たりだったが、家屋に入るには入口が一箇所しかなくあの警備兵をどかすしかなかった。
「私は転移魔法で一気に家康のところに行くから、翔ちゃんはあそこに見える警備兵を何とかして。家康のところには必ずボディーガードがいるから大騒ぎになると思うから、その逃走経路を確保して欲しんだ。」
「了解。健闘を祈ってるよ。」
「無事に帰ったらさ、未来のことや雫ちゃんのこともっと聞かせてくれよな。後、飯は大盛りで!」
「うん!頑張ってくるね。」
それが雫と仲間として交わす最後の言葉だとは思わなかった。運命の悪戯か、はたまた運命の歯車が狂ったのか・・・今となってはもう遠すぎるよ。全てが。
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