第3話目覚めの時

「まず、私たちは1600年にいるのよね。1600年と言えばわかるよね?」

「関ヶ原の戦いだろ。」

「正解~さすが翔ちゃん。」

相変わらず、顔が近い。

「そこで、あのさっきの偉そうな殿様たぬき、徳川家康。後は、石田三成と接触し、血液を頂くってプランなのよ。」

ゆらゆらと金色の髪が少し冷たくなった夜風に身を任せていた。いつの間にか夜になっていたようだ。

「ん~、でも大事なことを忘れていたんだけど、さっきの魔法みたいなものは何?空間転移したでしょ?あれも、未来で開発された科学技術か何か?」

当然の疑問だった。

「さっき言い忘れたけど、あれは科学技術ではないよ。魔法だよ。」

「いやいや、タイムマシンはいいとして、魔法って有り得ないだろ。」

木々が静かに揺れていた。より、静寂が二人を包み込んだ。

「魔法は古代からちゃんとあったよ。ただ、裏方だったから、一般人が目にすることはなかったけどね。私は日本人とイギリス人とハーフ。でも、代々、魔法の家系だよ。」

髪を捻っている仕草がこれまた可愛い。

「でもさ、魔法って手から炎が出たり、風を自由に操ったりできるわけでしょ?その原理って一体どうなってるのさ?」

首筋が妙に痒くなり、軽く爪を立てて上下にゆっくりと二本の指を動かした。

「普通の人間には魔法は使えないよ。一部の選ばれた人間だけが先天的に得る能力かな。それは、この地球の創世者が作ったのか、はたまた人間の突然変異で生まれたものなのか、まだはっきりと分かってないんだよね。ネタバレするようだけど、タイムマシンも魔法がベースになっている部分があって、魔法を使える人間しか乗車することができなんだよね。」

同じとこをくるくる回りながら雫が答えた。実に荒唐無稽こうとうむけいな話だが百聞は一見に如かず。目の前の事実を信じるしかないみたいだ。

「ん?ちょっと待てよ。んじゃ何で俺はタイムマシンも使わずタイムスリップしたんだ?」

「あ、言い忘れてた。私が寝ている翔ちゃんをタイムマシンに乗せたたんだよん♪」

こいつ、大概ふざけた女だ。拉致だろ、これ。立派な犯罪行為だろ。おまわりさ~ん、ここですよ~。

「ふざけんなよ、俺の意思はどうなるんだ?」

思わず声を荒らげてしまった。

「ないよ~。委員会のオーダーだしね。でも、推薦したのは私だけど。」

やっぱりお前が原因じゃないのか。う~でもこのツインテ小悪魔を怒ることは俺の中では憚れた。男ってつくづく馬鹿な生き物だと改めて再認識した瞬間だった。

「質問~。魔法使いが一人乗車してれば、他の同乗者は魔法使いじゃなくてもタイムスリップできるってことなのか?」

「いい質問だね~翔ちゃん。うーんとね、それはできないんだよね~。ハハハ。」

「な~んだ。そうだったのか、ハハハ・・・。」

「って、おい!ってことは俺が魔法使いってことになるよな?」

額の汗が滲み、ゆっくりと降下し、鼻筋を撫で回しながら顎を抜け落下した。

「こんなに早く気が付くなんてやはり、期待通りのナイトだね♪」

てへっ。何がてへっだよ。これって結構笑えない冗談だろ。自分が魔法使いだなんて。そりゃ、ガキの頃に一度は魔法が使えたらいいなって思っていた時期はあったがこんなにあっさり自分が魔法使いですなんて言われても自覚が出ない。だって、現に何かやったわけではないしさ。

「あの~、ここ寒くなってきたし、宿を探さない?何か足が寒くて。」

そりゃそうだ。そんなミニスカに生足出してればね。っか反則なくらいちょうどいい肉好きの太ももだな。本当に、けしからん。こうして、薄暗い林の中を月光を頼りに歩くのであった。カサカサと草木が夜風に揺られ不気味な感じがした。幽霊が出るのではないかと。

「雫ちゃん、思ったんだけど、この林を抜けて街に出ないと宿なんかないし、それにこの時代の貨幣を所持してないし、宿に泊まるのは無理だと思うんだけど。」

「あ、そうだった。マジで~。そんじゃ、ダメじゃん。」

こいつアホか。ノープランで動いていたのと何ら変わりないじゃないかよ。

「なら、早く薪集めて火を起こそうぜ。後、何か寝袋とか持ってないのか?」

「寝袋なら私のカバンの中に入ってるよ。一人用だけどね。」

鞄背中に背負ってるリュックに入っているようだが、どう頑張っても寝袋は入らんだろ。

「寝袋なんか入っている訳無いだろ、そんな感じのことを言いたそうな顔だね。」

くるっと一回転し、腰を落とし前屈みなり人差し指を唇に押し当てニコっと笑った。胸元どうにかならないのか・・・。こいつブラしてんかよ、ん~見たいけど凝視すればバレて変態扱いされそうだし、でもやっぱり見たいし・・・この魅惑のワンダーランドへの侵入はできるのだろか、いやできない。俺は紳士故にこのワンダーランドへの片道切符を手にするわけにはいかないのだ。よし、頑張れ、俺、負けるな俺!

「あの~聞いているの?」

「おわっはへっ。」

思わず謎の暗号を呟いてしまった。我ながら情けない。

「だ、大丈夫?」

心配そうに顔覗き込んできた・・・み、見えた!神様ありがとう。お父さん、お母さんありがとう。そして、人類万歳。ついに、見てしまった。ここで表現はしないがもうロマンスが止まらい。生きていてよかった~。

「ごちそうさまでした。」

ペコッと頭を雫に下げた。

「ん?変な翔ちゃん。」

「そう言えば、寝袋の話は?」

話題を逸らすため、平静を装い話を戻した。

「だから、さっきそれを話そうとしたら翔ちゃんがボーッとしてたんじゃん。」

ほっぺを膨らませて仁王立ちで不機嫌なポーズをとっていた。何ともわかりやすい女だ。

「わりい、ちゃんと聞くからさ。こっちの質問にも真面目に答えて欲しいんだ。」

最初の疑問を雫にこのタイミングでぶつけてみた。正直、腑に落ちなかったし。何より自覚ないし。

「一体何かな?」

指で自分のほっぺを軽く押し当ててた。月光が雫の方に問いかけるように、ゆっくりと照らした。

「俺は何の魔法が使えて、どうして俺を委員会に推薦したんだ?」

暫し、無言が続いた。遠くで鳥の声が聞こえてきた。

「翔ちゃんの能力は複数あるんだけど、全部は言えないんだよね。でも、一つなら教えてあげる。」

「それは、何だ?」

喉仏が上下に動き、心臓の鼓動を耳元で感じた。

「四元素、エレメント使いかな。」

「エレメント使い?」

「そう。地、水、火、風を自由に使いこなすことのできる能力のことだよ。魔法Sランクに相当するわね。」

得意げに上機嫌で話してきた。ヒラリとミニスカートが風になびき、夜の景色に同化した。

「でも、実際使えてないんだが。」

「そりゃ、そうよ。魔法を生まれながらに使えるのは女だけだもん。男の人はパートナーとなった女の人と接吻の契りをしないとその能力が開花しなんだもん。」

「いやいやいや。せ、接吻!っかそもそも何で俺がそんな能力を持っていると分かったんだ?」

何だか頭がこんがらがっているのと同時に突然のカミングアウトに終始、動揺を隠せなかった。

「私の家系見たく、空間転移能力及び、宝剣使いソードマスターならそれを継承していくのが一般的なの。でも、翔ちゃんは、家系はごく普通なのに突然何かの拍子で能力を授かったのよ。理由は言いたくなかったんだけど、貴方は未来では破壊神ルドラと呼ばれていたの。魔法使いを一人で1000人葬り、世界を牛耳ろとしたんだけど、雷神フルゴラ・・・・・・の手によってその生涯を終えたのよ。でもね、私は貴方にどうしてもあって、貴方のパートナーになりたかった。そして、貴方を救って正しき道へ導きたかったのよ。」

頭が真っ白になった。俺が破壊神でこの手で人を殺めただと・・・何かの冗談だろ。

「私の祖父はある暗黙使いダークマスターの王、ラドルによって殺された。でも、貴方はそのラドルを殺してくれた。その時、心から貴方がナイトに見えた。他の人は皆貴方を破壊神ルドラ揶揄やゆしても私は違う。貴方、翔ちゃんの味方になるって、それで絶対死なせないってね。」

頬に透明で月光で淡く輝くダイヤモンドが零れ落ち、それと同時に雫を強く抱きしめていた。女の子を抱きしめるなんて人生で初めての経験だった。

「未来の俺が何でそうなったのかも、何で能力を手にしたのかも全然分からないけど、俺はこの先どんな困難、敵が待ち受けようとお前を護ってやるよ。雫ちゃんが俺を護ってくれたように今度は俺が雫ちゃんを助けるよ。だって、ナイトだもんな。」

呼吸が乱れ小さな華奢な肩を小刻みに震わせていた雫の顎をそっと優しく片手で持ち上げ、そのピンクな柔らかそうな唇にそっと唇を重ねた。柔らかくて、壊れそうなそれを少しでも、一秒でも長く感じていたかった。青いベールに包まれてキラキラした無数の粒が満点の星空に消えていった。身体に何か熱いものを感じた。それと、同時に何か赤く光る指輪がはめられていた。

「嬉しい。ありがとね。ホントにありがとね。翔ちゃんもこれで魔法を使えるようになったのね。」

「それにしても、綺麗な指輪だな。これって何?」

「これはね、契りを交わした時に宿る魔法石で出来た指輪だよ。パートナーの証だよ。」

嬉しそうに手を空に掲げた。その顔はあどけない無垢な少女の顔だった。甘い余韻も束の間、その後、適当に木々を拾い、未来型収納寝袋で寝る準備をした。

「本当に便利な寝袋だな。魔法も使わずにコンパクトに収納できるなんてさ。それも、10分の1以下のサイズにさ。」

「へへ~ん。すごいでしょ。♪」

身を寄せてきた。まるで、甘えん坊の猫みたいだった。

「よしよし、雫ちゃんはいい子だ。」

雑に頭をクシャっと撫でた。夜が一段と深まり、風が止み月が半分雲にかかっていた。

「さぁ、今日は寝て明日さっそくあの狸じいさんにリベンジしようぜ。」

「うん♪」

一つの寝袋に抱き合うように寝た。今日は本当に沢山の初めてとそして、始まりが多かった。雫の綺麗な寝顔を堪能し、いつの間にか、眠りについていた。


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