第2話 胎動Ⅰ

どれくらい時間が経ったのだろう? 長いこと空白の時間が流れたように感じた。永遠さえ感じる無限の無。死んだらこんな感じなのか、と思うくらい何も感じられない感覚だった。だが、その無は一瞬の閃光せんこうによって打破された。

「ピュー、・・・ド、ドーン。」

突然、頭上からとんでもない雷鳴が鳴り響いた。

「はっ?」

いきなりの出来事に頭が追いつかなかった。鼻元に火薬と血なまぐさい臭が漂い、吐き気が込み上げてきた。

「一体何なんだよ。」

ゆっくりと上半身を起こすと、そこには無数の死体と焦げた草花があたり一面に広がっていた。

「嘘だろ・・・。」

あまりにも衝撃的な光景に再度吐き気が襲ってきて、嘔吐した。

「おーい、こちらにまだ敵の生存者を発見しました。」

少し、遠くの方で赤い鎧を着た侍がこっちへ向かってきた。しかも、仲間数人を連れて。

「これって、絶対絶命だろ、っかふざけんなよ、訳わかんねーよ、一体どうなってんだよ!」

おもいっきり頭を掻きむしり置かれている状況を把握しようと努力したが、眼前の危機に頭が冷静になることができなく、身体が徐々に震え、歯がカクカクと音を立てた。

「殺される・・・。」

この時ほど神様の存在を懇願したことはないだろう。それくらい精神状態がまともではなかった。じわりじわりと侍集団と自分との距離が縮まり、ついに囲まれてしまった。

「こいつ、どうします?殿。」

「うむ、生かして捕虜にしてもこやつは喋らんだろ。用はない。殺せ。」

ゆっくりと鋭利なそれを間近で見るのは初めてだった。大きく振り上げ、死を受け入れた。

「あ~、こんなことなら勇気を出して彼女でもつくっておくべきだったな。俺の人生悔いだらけだ。誰か助けてくれ!」

力いっぱい目を閉じ、暫しの静寂が訪れた。

「えいや!」

「ぐはっ。」

ドサっと目の前にさっきの侍が倒れていた。一体何が起こったのか理解できなかった。

「この野郎!」

「ぐはっ。」

また一人倒された。

「大丈夫ですか?翔さん。立てますか?」

目の前に金色の髪で、背丈が160センチくらいで、淡いピンク色の着物みたいな服装に、ミニスカートのえらいべっぴんさんが俺に手を差し伸べていた。可愛いというより、秀麗しゅうれい、何てエロいんだ。思わず生唾を飲んだ。

「あぁ。」

恐怖と高揚感でいっぱいだった俺には精一杯の一言だった。

「翔さん、私の肩に捕まって。ここは逃げますよ。」

震える手で彼女にもたれかかると、甘美な髪の匂いでどうにかなりそうだった。

「何をもたついておる。早くこやつらを始末しろ!」

「は、只今。」

一人の小太りの侍が弓矢を構え、こちらを狙ってきた。

「翔さん、少し目をつぶって。」

そういうと、何やらぶつぶつと彼女が言い始め、目の前が淡いベールに包まれ、身体に力が入らなかった。そして、目を開けたら見慣れない閑散とした林に俺たちはいた。

「大丈夫でしたか?」

「いや、状況が全く理解できてないんだが。」

人差し指を眉間に押し当てた。

「申し遅れました。私は未来から派遣された未来創世保全委員会特殊保安部隊隊長を務めています、雫といいます。どうぞよろしくお願いします。」

ぺこりと頭を下げると、スカイブルーの瞳が俺を覗き込んだ。

「よろしくお願いしますって言われても、寝ていて起きたら侍に殺されそうになるし、いきなり君が現れるし、そんでいきなり別の場所に飛ばされるし、未来何たら委員会とか、正直お手上げなんですけど。」

「無理もありません。当然のリアクションだと思います。順を追って話しますね。まず・・・。」

「あ~、もしかしてあの白い手紙は君が書いたもの?」

と思わず大声を上げてしまった。

「ご明察です。よくお気づきになりましたね。さすが私が見込んだ男ですね。」

何やら嬉しそうな表情だ。

「話を戻しますが、まず先ほどの疑問から順を追って話して行きますね。」

「よろしく頼むよ。」

混乱している俺には何より情報が必要で、現時点で頼れるのは目の前の金髪ツインテールの美少女だけだった。

「まず、未来では水や資源を巡り幾多の醜い争いが起きています。また、宗教の対立、テロ、ロボット開発が進み、戦争にロボットまで起用され、もう戦争がゲーム感覚で起きています。人類はこの争いを繰り返すうちに地球上の全人口の3分の1が犠牲になりました。これに嫌気が差し、日本を中心にある組織が結成されました。彼らはタイムマシンの開発に成功し、人類の未来を変える力を手にしたのです。ですが、彼らのなかでタイムマシンのあり方を巡って対立が起き内部分裂したのです。ここまでの話はご理解頂けましたか?」

またもや、顔を覗き込んできた。その大きく綺麗なブルーに思わず心が奪われそうになった。っか顔近いし、胸元緩すぎだろ・・・。

「あぁ。大丈夫だ、続けてくれ。」

「あ、はい。それでは続けますね。それで、過去に戻って過去の偉人から血液を採取して未来に持ち帰りクローンを作り、選ばれし者だけが生きることのできる理想の未来を作るのが目的の、未来創世保全委員会と過去に戻って歴史そのものを改変し未来を変えようとする未来改革委員会とで分かれています。タイムマシンを開発した日本は今や未来改革委員会側に属し、我、連合国側と敵対する立場にあります。そこで、貴方には日本人でありながらこちら連合国側の保全委員会に属してもらいたいんです。」

と、てへっとばかりの悪戯顔になり合掌した。くそ、超可愛い。何て可愛んだ、頭なでなでしたくなるぜ。畜生。

「って、何で俺なんだ?他に適任はいくらでもいるだろ?」

「いません。理由は言えませんが。」

と、声のトーンをワントーン下げ、きっぱりと言ってきた。何だか感情が込もってない感じで少し不気味に感じた。

「ちょっと、待って。未来では戦争が起きてるんだよな?それで裏で組織が結成され、タイムマシンで過去の現場で実際に揉め事が起きてるんだよな?ってことは大部分の未来の世界の人は裏でタイムマシンでの対立が起きてるのは分かってないってことだよな?違うか?」

人差し指をビシッと突き立て、自慢げに言って見た。一回やってみたかったんだよな、これ。

「ご明察です。さすが、私が選んだ男ですね。理解が早くて助かります。」

と、今回二度目の発言が来た。太陽が少しずつ陰り始め、彼女の髪を赤く染め上げた。

「でも、最初の質問に戻るけど何で俺なんだ?」

「それはお答えできません。っていうかいずれご自分で分かる時がくるでしょう。」

何だよそれ。さっぱり分からん。でも、これ以上聞いても言ってくれる様子がないので、諦めることにした。

「分かったよ。それで、君の、いや雫ちゃんのプランを聞かせてくれ。」

「ご協力感謝致しま~す。よろしくね、翔ちゃん!」

と片腕にしがみついてきた。かなり柔らかい感触に理性を抑えるのが大変だった。

「っておい、キャラ全然違うよね?一体どうしたの?」

「いや、だってもし失礼な対応で協力してくれなかったらやばいでしょ?だから、猫かぶってたの。でも、もうその必要ないし、今はフリーダムじゃん。しかも、貴方は私のナイトだしね。」

とより強い力でしがみついてきた。あ~もう理性がもちそうにない~。って、いや待てよ。ここは紳士的に行こう。うん。それこそ真のダンディズム。使い方間違っている気がするけど。

「雫ちゃん。」

ゆっくりと腕を振りほどいた。

「で、これから俺はどうすればいい?ここまできたらとことん付き合うぜ。」

ピシッと指を鳴らし、雫に人差し指を突き立てた。これ、ハマるな。

「それじゃ、これからのプランを説明するね。」

何だか心が躍った。こうして俺たちの物語が幕を開けた。

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