4.旅にケンカはつきものです

初めてホテルで一人で寝るということを体験したものの、思ったよりもぐっすり寝ることが出来た。電車での長時間の移動が多かったので自分が思っていたよりも疲れがたまっていたのかもしれない。アルコールが入っていた、というのも快眠の原因と考えられる。


「一ー! お待たせ」


時計を見ると9時55分。待ち合わせの5分前に聞こえてきた栞の声を聞き、俺は頭を上げる」


「栞、おは……」


昨日とはまるで違う栞の姿を見て俺は声をなくす。


「朝から期待通りの反応してくれてありがとう。

どう? これで"一応"じゃなくても女の子っぽいでしょ?」

「あ、ああ……そうだな」


ご満悦な笑みを浮かべている栞の姿に俺は伏し目がちになってしまう。栞は昨日は活動的なズボンをはいていたのだが、今日は一転変わって女性らしいワンピースを着ている。気のせいか若干裾が短い。白い肌の露出が増え、栞を直視するのが恥ずかしくなる。


「じゃあ一、特急乗ろう? これから高知県に移動だから長くなるけど買い物大丈夫?」

「俺は大丈夫だけど……」

「本当? じゃあ私買い物行ってくるから先に特急乗って席取っといて!」


栞は俺の返事も待たずに、駅構内にあるコンビニに入っていってしまった。特急に乗る、ということは栞の隣に座る……っていうことだよな。あんな服装をしている栞を横に、俺は耐えられるだろうか。いや、大丈夫。栞は栞だ。中身が変わったわけじゃない。昨日と同じように接すれば大丈夫なはずだ……。


俺は自分にそう言い聞かせながら、駅に停車していた特急しおかぜに乗り込んだ。中は混雑していたが、運よく二つ空席が並んでいたので通路側に座る。俺はスマホのメモを開き、愛媛から高知への移動時間を今一度確認する。栞と出会わなければ使っていたであろう頼りないメモだ。


そのメモによると4時間22分を移動時間に費やすらしい。そうなると、栞にお昼の物と飲み物を注文し置けばよかったと思い直し、後悔する。


「あ、いたいた! 探したんだから」


栞がやけに大きなビニール袋を携えながら顔を見せる。俺は立ち上がって栞を窓側の席に座らせる。栞のスーツケースを座席の上に置き、一息ついたところで急に頬に冷たい衝撃が走った。


「うわっ……!」

「ほい、お駄賃」


ニッと笑って突き出してきたのはペットボトルのお茶だった。


「ありがとう」

「お礼言わなくていいよ。一のガイド料から出してるから。でも今日明日で一万円なんて後悔してない?」


栞に言われ、昨日の出来事が脳裏をよぎる。お酒の勢いもあってか大きな声でガイドを頼んでしまったこと。思い出して悶えてしまいそうになる程恥ずかしいけど答えは一つ。


「してない。今日もよろしくな」

「お任せあれ!」


二日目も一人旅ではなくなってしまったが、きっと一人の時よりも数倍も楽しい旅行なる。そんな気がしていた。


「じゃあ早速今日のプランを考えようか。波風プランだから泊まる場所は桂浜の方だよね?」


栞の言葉に俺は頷く。なんでも旅行代理店の人が言うには、『ナミカゼ』作者の柚香さんは海が好きらしい。辛い時、泣きたい時、元気を出したい時にはいつまでも飽きずに海を眺めて、夜を明かしてしまう程だそうだ。なので、この波風プランにも桂浜近くの旅館に泊まれるようにしたそうだ。


「ちなみに何処? 私は月下って場所だけど」

「俺はホテル土佐」

「良かった良かった。今日も安心して寝れそうね」


大げさに息をつく仕草が憎らしい。そもそもたとえホテルが一緒だとしても栞の部屋を訪れる勇気なんて湧くわけがない。……なんと情けない自信だろうか。


「どうしようか。桂浜でぶらーっと過ごしちゃう? 着くには夕方近くになりそうだし、近くに闘犬センターとか坂本龍馬記念館もあるしさ」


「俺は桂浜さえ見れればいいから。そうしよう。そういえば、ナミカゼに載ってたあの夕日は見れないのか?」

「だるま夕日のことかな?」


栞はバッグから『ナミカゼ』を取出し、俺の見たかったページをすぐに開いた。流石、柚香さんの大ファンなだけはある。そのページには

夕日の下にもう一つ夕日があるような、言ってみれば夕日を素材にしただるまのような写真があった。


「これは今は時期じゃないんだよね。冬じゃないと見れないみたい。でも普通の桂浜だって綺麗だよ」

「ああ、海なんて久しく見てないから十分楽しみだ」

「じゃあ、今日の予定は決まりだね」


栞にしては随分煮詰まってないスケジュールだな。俺は若干違和感を覚えた。これでは本当に桂浜に行って終わりである。


「……晩御飯とかはどうするんだ?」


俺が聞くと、栞の顔がひきつった……ような気がする。そして申し訳なさそうに頭を下げる。


「ごめん。一と食べたかったんだけどちょっと野暮用が入っちゃってさ」

「野暮用?」

「うん、そこに関してはあんまり突っ込んでほしくない」


そう言われて俺はあまり面白くない。俺と栞の仲なのに言えないことがあるなんて。それに旅行中なのに。


「とにかく! 明日も会えるからいいじゃん! 明日はフリーだからその時にいっぱい美味しいもの食べよう。明日も10時に高知駅に集合にしよう」


まぁ確かに、栞にも栞の都合があるだろう。そもそも栞と俺は一人旅という名目でここ四国に東京から足を運んでいるんだ。一人旅としての経験を積んでおきたいのかもしれない。


「まぁ、分かったよ」

「うん、本当にごめんね」


それに柄にもなく栞は本当に申し訳なさそうにしているので、本当に大切な用事があるんだろう。俺はそう思うことにした。


「でも高知県に来たんだからまた郷土料理教えておくね。高知県はカツオが美味しいよ。桂浜付近の料理屋に入るとイイかも。ちょっと一が持ってきた雑誌見せて」


栞に言われ、俺は四国の情報が丸ごと載っている雑誌を渡す。栞は素早くページをめくっていき、高知県のページで手を止める。そこには見開き一杯にカツオの写真が載っていた。


「ね? 美味しそうでしょ。他にもね……」


栞は嬉々としてページをめくる。


「お前、本当のガイドみたいだな」

「だからー、お前って呼ばないでよ。次言ったら罰金だからね、罰金」


栞に軽く膝を叩かれ、俺はつい「お前」と言ってしまったことに気付く。昨日は注意していたが、一日あけてしまうとどうも注意力散漫になる。


「どうして栞は『お前』って呼ばれたくないんだ?」


昨日から過敏とも思えるほど、栞は「お前」という言葉を嫌っている。何か特別な理由でもあるのかもしれない。


「私、自分の名前が好きなの。栞っていう名前がね」

「……それだけ?」

「それだけって何よ。大事な理由じゃない」


栞は雑誌を閉じて、自分の鞄から文庫本を取り出す。その文庫本の真ん中付近には水色の栞が挟まっている。


「栞の名前の由来ってもしかしてそれか?」


俺が聞くと栞は大きく頷いた。


「お母さんが言ってたの。栞って字は昔は本に挟むものじゃなくて、山や野原を歩く時に木々を追って道しるべにしてたってのが由来なんだって。だからあなたにも、人々の道しるべになってほしいってさ」


栞にそんな意味があったとは知らなかった。俺は素直に感心してしまった。俺は自分の名前の由来を知らない。一体、両親はどんな願いを込めて俺に一と名付けたのだろうか。


「後ね、それだけじゃないの」


栞は文庫本から栞を抜き出した。


「当たり前だけど、栞って本と本の間に挟むものじゃない? だから私もそんな人間になって欲しいって」


「……栞みたいな人間?」


栞の言葉の真意がつかめず俺は言葉をそのまま返してしまう。


「うん、私という存在を、出会っていく人達の心の中に挟んでいきたい。それくらい影響を及ぼせるような人間になってほしい。そんな意味合いも含んでるんだって。私はね、こっちの解釈の方が好きなんだ」


「生きる栞ってわけか」

「そういうこと。栞のことが忘れたくても忘れられないとか、栞のお陰で毎日が楽しい、とかさ。そういう思い出を刻んでいきたいんだ」


本をパラパラとめくり、栞は水色の栞をまた元の位置に挟む。本が人の心だとしたら、そのページの一枚一枚がその人の思い出。そこに栞を挟み込むってことは、栞との思い出を刻むということ。


「……なんとなく栞らしい生き方だな」

「なんでそう思う?」

「初めての一人旅で、こんな奇妙な二人旅をしたら嫌でも思い出に残るよ。もう栞のこと忘れられないと思う」

「ふふっ。確かに。もう一に私を刻んじゃったんだね」


クスクス笑栞はやっぱりどこか得意げだ。だけど栞のことが思い出に残るというのは紛うことなき事実なので否定はできない。


「一はさ、この旅が終わったら旅の思い出を友達に話す?」

「……多分」

「そしたら、『とっても可愛くて優しい女子大生の栞っていう子と一緒に旅行したんだぜ』って自慢するでしょ? そしたらその話を聞いた人にも私の存在っていうのは刻まれるわけじゃない。そう考えると私ってすごく影響力あると思わない?」


自分で可愛いとか優しいとか言ってしまう辺りは流石栞だ。でも確かにバイト仲間にこの旅の思い出を語る時は、栞の名前は口にしてしまうだろう。


「……少なくとも俺が今まで会ってきた人の中にはいないタイプだな」

「まぁ、一はそもそも女の子との関わりが薄いもんね」


こ、こいつはまたずけずけと俺の痛い所をついてきやがって……。あぁ、反論できない俺はなんて情けないんだろう。事実、こんなにも俺に話しかけてくれる女の人はいなかった。だからこそ余計に栞の存在が際立ってしまう。

きっと栞は、いつか本当に栞みたいな人に成長していけるだろう。


「だから私は作家になりたいの」

「……なるほど、より多くの人に栞って名前を刻めるもんな。あれ、だけど待てよ……?」


昨日栞が夢について語っていた時のことを思い出す。審査員特別賞を受賞し、自費出版を持ちかけられたという話だ。


「だったらなんでペンネームなんて使ってるんだ? 詩音じゃなくて栞にすればいいんじゃないか?」

「え……? あー、確かになんでだろう……?」


栞自身も想像していない質問だったのか珍しく歯切れが悪い。仕舞いには腕を組んでうーんと唸りだしてしまった。


「最初は、栞って名前使うのが恥ずかしかったとか言ってたよな?」

「高校生だし、それに、いくら下だけとはいえ名前晒すのに抵抗あったのよ」

「じゃあ別に今はもう栞でいいんじゃないのか?」


栞が他の人に対して影響を与えたいと思っているのなら尚更だ。詩音よりも栞名義で名前が売れた方が、より多くの人に栞という名前を刻んでいけるはずだ。


「……一、変な所に気が付くんだね。私、特に意味もなく詩音っていう名前を使い続けてたよ。でもね、なんか名残惜しいんだよね」

「名残惜しい?」

「だって、高校生の頃から使い続けてきた名前だもん。流石に愛着も湧いてくるよ。捨てちゃうなんて何か詩音が可哀そう」


可哀そう、という表現はどうかと思うが、それほど栞も"詩音"という名前には思い出があるということだろう。


「賞を取った時も、詩音名義だしな」

「じゃあ今から栞っていう名前で応募したら新人扱いになっちゃうかもね。……というかさ、一」


栞はまじまじと俺を見つめてくる。顔をずっと見つめていたら恥ずかしいので視線を逸らそうにも、今日の栞は露出が多く目を当てられない。なので、俺は自然と栞とは反対の方を向く。


「よく私のペンネーム覚えてたね。私、詩音って名前一回しか言わなかったよね?」

「いや、単純に栞の夢の話聞いてるのが面白かったから覚えちゃっただけだから」


夢を話している時の栞の顔はとても魅力的だった。本当に眩しく、人生を謳歌している、と言っても過言ではない程に。そんな栞が俺はただただ羨ましかった。


「初めてだよ」

「何がだ?」

「私の夢の話をさ、こんなに楽しいって言って聞いてくれる人」


栞はそう言いながらメモ帳を取り出す。何か思いついたのだろうか。栞は休むことなくペンを動かし、ページをめくっていく。しかし、ページをめくったところで手がピタッと止まる。気のせいかペンを持つ手は小刻みに震えている。


「はーじーめー。これはなあに?」


ニコニコ笑っている栞に俺は背筋に悪寒が走る。栞が開いているのはメモ帳の最後のページ。謎の詩が綴られていたページだ。そしてその下に俺がある言葉を付け加えた。


「誰がじゃじゃ馬よ! このオタク!」


"じゃじゃ馬も寝ると静かでかわいい"

なんで俺はこんなことを書いてしまったんだろうか。栞は怒りのあまり顔を赤くしてメモ帳の角で俺の頭を叩き続ける。


「待て! 栞……これには訳が……」

「ばか!」


栞は余程"じゃじゃ馬"という言葉が心外だったのか、その後五分間ノンストップで俺を罵倒し続けた。俺はこの時、栞のメモ帳には余計なことを書き込まないことを心に刻み込んだ。


「それで栞、その詩みたいなものはなんだよ」


栞の罵倒が一段落澄んだタイミングを見計らって俺は言葉を投げかける。


「別に、ただの気まぐれで書いたやつ」

「気まぐれ?」

「うん、ねぇ一。全ての物事に意味づけをするの良くないよ? もっと人生気楽に生きていかないと」


そうは言われてもな……。俺は普段、パソコンとにらめっこしコードを打ち込んでいる。コードというのは単純明快なもので、間違っていれば動かないし、合っていれば正常に動く。意味がないと駄目な世界に俺は足を踏み入れている。


「栞は小説書く時とか、キャラの行動の意味とか考えたりしないのか?」

「私は大筋だけ決めておいてキャラに任せてるから」


何故か誇らしげに髪をなぞるが俺には全く持って理解が出来ない。


「キャラに任せるってなんだよ?」

「そのまんま。キャラが勝手に話を紡いでいく感じ。私にも予想がつかないから大変なのよ」


キャラが勝手に話を紡ぐ? 何を言っているんだ栞は。そのキャラを書いているのは栞じゃないか。その時点で勝手に動くわけない。


「何が何だかわからないって顔してるね。多分、私の書き方って少し変わってるんだと思う。本当に、自分が楽しんで書いちゃってるっていうかさ」


「まぁ、栞が楽しんで小説を書いているっていうのは伝わってくるな」


「……私だけが楽しんでいるだけから、賞とかも逃しちゃうのかな」


さっきまで咲いていた笑顔が一瞬にして萎れてしまった。


「で、でも作者が楽しんで書くことが大前提じゃないのか? 作者が書いててつまらない作品は読者も読んでてつまらないというさ、そのー……」


励ます、という行為に慣れていない俺は若干口がもつれ気味だったのかもしれない。栞はぷっと吹き出した。


「なーに柄にもないことしようとしてんの」

「あ、あのな……」

「ありがとう、一」


ニコッと笑いかけてくる栞に俺の心は揺れる。

ったく、柄にもないことをしているのはどっちだっての。


しかし、俺にとっては栞が本当に羨ましい。作家になりたいという夢について活き活きと話している。俺には、こんな顏が出来るだろうか。栞みたいに、立派な夢が見つかるだろうか。


自分に問いかけても答えは出て来ない。そもそも俺は将来何がしたいんだろう。プログラムを学んでいるからシステムエンジニア、それでいいんだろうか。それで将来、栞のような顔で夢を語ることが出来るのか。


キラキラと夢を語る栞と比べるとなんだか自分のことを惨めに感じてしまう。


「ん、どうしたの一。あからさまに反応悪くなっちゃって」

「いや、別に、なんでもない」


栞と自分を比較して落ち込んだなんて、当事者である栞に言う訳にはいかない。


「ふーん、ならいいけど、私お腹すいたからご飯食べちゃうよ。もうお昼回ってるし」

「もうそんな時間なのか」


腕時計を見ると確かに長針は12と1の間に位置していた。本当に時が経つのが早い。


「……不思議だなぁ。一と話してるとあっという間に時間なんか過ぎちゃう」


栞も俺と同じことを思っていたことに驚く。


「何かむかつくけどね」

「どういう意味だよ、それ」


やっぱり一言多い奴だ、栞は。


「まぁまぁ。それより、後2時間もしたら高知県だよ。私ご飯食べ終わったらお昼寝するから起こしてね」

「……俺も少し寝たいんだけど」

「レディーファーストの精神は大事だよ。そうすれば女の子からモテるようになるかもよ」

「あのな」

「大丈夫大丈夫、高知から桂浜にはバスで移動するから、その時は一に寝かせてあげるから。ご馳走様でしたっ、お休みなさーい」


俺の返事を聞くことなく、栞はヘッドフォンをして夢の世界に入っていってしまった。ったく、どこまでも自分勝手な奴だ。しかし、昨日と違って肌の露出が多いので、視線のやり場に困る。


俺は少し迷って、羽織っていた半袖のカーディガンを栞にかけた。その時、栞の表情が少し微笑んだように見えた。ったく、どんな夢を見始めたんだか。


すやすや眠りについている栞を見ていると、こちらまで眠気に誘われてくるのでひたすら車窓を眺めていた。途中多度津駅で乗り換えた時に栞が窓側を譲ってくれたのが幸いした。しかしそれにも限界が来始めて、頭がこっくりこっくりと上下し始めてきた時だった。


「次は高知、高知駅でございます。お降りの方は……」


待ちに待ったアナウンスだ。栞を起こさなければならない。カーディガンを栞にかけておいてよかった。俺はカーディガン越しに栞の肩をゆする。


「栞、栞、着いたぞ」

「うーん……」


栞はもぞもぞと動き始めたかと思ったが、俺のカーディガンを引き寄せて包まるような形になった。


「栞!」

「うるしゃい! 起きてるから少しの間まどろませて」


どうやら栞は寝起きが悪いタイプらしい。今ここで何か言おうものなら本当に噛みつかれかねない。俺は棚から栞の分の荷物も降ろし、栞が起き次第すぐに電車から降りれる状態を作る。


電車が駅に停車する為に速度を落とし始めた時、ようやく栞はカーディガンから体を出し、大きく伸びをした。


「んー……よく寝たぁ……。おはよ、一」

「ほら、早く降りるぞ」

「はいはい。もう、一はせっかちなんだから」


栞は機嫌悪そうにスーツケースをガラガラ引いて俺の後をついてくる。まず俺が電車から降り、その後に栞が降りた。栞は降りるや否や駆け足で駅のプレートに下に立った。


「一ー! 写真撮って!」


そう言うだろうと思っていた俺はデジカメを栞に向ける。栞はそれに気が付くとすぐにポーズを作る。カシャッという音がした後に栞は笑いながら俺に声をかけた。


「あはは、一のデジカメで撮っても意味ないじゃん! ほらこれ、私のデジカメで撮り直してね」


寝ぼけ頭の栞に間違いを指摘されるのはなんだか悔しかったが、間違いは間違いだ。俺は栞からピンクのデジカメを受け取り、もう一度シャッターを切る。


「うん、ありがとう。一。じゃあ次はバスに乗って桂浜、行くよ……の前に、これありがとう」


栞は俺にカーディガンを渡す。


「におい嗅いだりしないでね」

「だ、誰がするか!」


俺は慌ててカーディガンを羽織る。しかし、さっきまでこいつが栞の肌に触れていたと思うと、少しこそばゆい感じがした。


高知駅から桂浜へは高知駅前バス停から出ている交通バスを使って向かう。幸い、始発のバスだったので俺と栞は並んで座ることが出来た。窓側に座った栞は小さく欠伸を漏らしている。


「栞、なんだか眠そうだな。昨日眠れなかったのか?」

「んー、ちょっとね。考え事しててさ。一はよく寝れた?」


昨日俺はホテルに着くや否やすぐにベットに倒れ込んでしまった。初めての旅の疲れがまとめてやってきたのだろう。そんな中でも、右手に残る温もりがやけに温かったのは今でも思い出して恥ずかしい。


「お陰様でな」

「ふーん、相当疲れてたんだね。男のくせに体力ないね」


栞はわざとらしくため息をつく。


「あのな、俺は初めての一人旅だから多少の疲れが出るのは当然だろ」

「そんなことじゃ明日の予定についてこれないかもね」

「明日? 明日はそんな体力使うことする予定なのか?」


思い返すと明日についてのことは10時に高知駅前に集合ということしか聞いていない。


「あぁ、いけない。一に了解取ってなかった」


栞はバッグからしおりを取り出して、水色のインデントが挟まれているページを開く。そこには強調された文字で"四万十サイクリング"と書かれていた。


「サイクリング?」

「そう。自転車のレンタルをしてさ、四万十川をサイクリングしようかなって思ってるんだ」

「この暑い中?」

「暑い中汗をかいて、綺麗な川を眺めながら自転車で走るっていかにも夏って感じでいいじゃん?」


確かに夏にしかできないことだ。しかし心配事もある。今年の夏は真夏日続きで、熱中症になる人も多発している。炎天下の中、自転車で走っていたらそれこそ熱中症になってしまうんじゃないだろうか。


「一、あんまり乗り気じゃない?」

「栞は平気なのか? 熱中症とか」


「あぁ、私の心配してくれてたんだ? 大丈夫大丈夫。そんな遠いところまで行く予定はないから。ゆっくり水分補給しながら自転車漕ごうってだけ。もし一が嫌なら明日は別行動になるけど……」


……まぁ、ちゃんとこまめに水分補給をすれば大丈夫か。いざとなったら予定を早く切り上げて引き上げてくればいい。俺も運動不足だったし、たまには体を動かさないとな。


「いや、サイクリングしよう」

「ほんと? 良かった、二人で走った方が楽しいもんね。これで明日の予定も決まりっと」

「今日はちゃんと寝とけよ?」

「……うん、分かってる」


栞はやけに歯切れ悪く頷いたのが気にかかる。何だろう。昨日今日と寝れない理由が何かあるのだろうか……。


「しお……」

「ほら一、もうすぐ桂浜に着くよ。海、綺麗だから腰抜かす準備でもしといた方がいいんじゃない?」


海。その言葉に俺の胸は一気に高まる。展望台から出はなく、間近で生の海を見るのは本当に久しぶりだ。



バスから降りると潮のにおいが鼻をつく。俺の大好きなにおいだ。


「一、コインロッカーに荷物預けちゃおうよー」

「了解」


ロッカーを探し、歩いていくとお土産屋だけではなく種類の出店が出ている。ゆずシャーベットだけではなく、いか焼きや、そばなんてものもある。俺と栞はお土産屋近くのロッカーに荷物を入れる。


「よしっ、これで身軽だ! 海に向かって歩いて行こう」


夏真っ盛りということもあり、桂浜は多くの観光客でにぎわっていた。右手の方には『ナミカゼ』で見た闘犬センターがある。本で見た場所を実際に自分の目で見ているということに少し感動してしまった。


途中長い階段もあったが何とか登り切り、桂浜と文字が刻まれている石を見つけた。多くの人がその石を前に写真を撮っている。しかし、俺にはその石よりも先に、目の前に広がる景色に呆気にとられた。


「凄い……」

「本当に海に来たんだね……」


写真で見るよりもその海は薄い緑色に反射して見えた。こんなきれいな海は関東ではまず見られないだろう。写真を撮るのが好きな栞もカメラを握ったまま動かない。もっと、近くで見てみたい。


「栞、早く海を見に行こう」

「あ、ちょっと待って一。写真撮りたいな」


栞は我に返ったようにシャッターを切り始める。それに倣って俺もデジカメとスマホで写真をそれぞれ撮った。


「後、ごめんね一……。あの石の前でも撮っていい?」


何故か控えめに栞は俺の様子を伺ってくる。


「いいに決まってるだろ」

「そう、良かった。だって一が私よりも先に行こう、って言ったの初めてじゃない? その楽しい気持ち邪魔しちゃ悪いかなって」


ホッとしたように栞は俺の手を引いて記念撮影の列に混じる。


「俺はいいって」

「離れてもいいから、二人で撮ろう?」


断るつもりだった。だけど、栞の屈託のない笑顔を見たらなぜか断れなかった。栞は慣れたように俺の後ろに並んだカップルに撮影をお願いする。列は緩やかに進み、俺達の番になった。俺は若干、栞と間を空けたが、それに栞は何も言わない。


「撮りますよー、はい、チーズ……、こんな感じでいかかですか?」


男性の方に見せられた写真の中の俺達の距離は昨日よりも近付いていた。


「はい、ありがとうございます! もし私達も撮りましょうか?」

「いいんですか? お願いします」

「ほい、じゃあ一」


俺は栞に促されるまま男性の方からデジカメを受け取る。ファインダー越しに見えるカップルの距離はなく、二人がとても楽しそうに笑っていた。俺は写真を撮り終わり、カップルに確認してもらった。


「良く撮れてる! ありがとうございます!」

「本当だ! ありがとうございます!」


大げさな程カップルから礼を言われ、逆にこっちが恥ずかしくなってしまった。だけど悪い気はしない。カップルは俺と栞に手を振ってから、海岸に向かって歩き出した。


「……私達も行こうか」

「なぁ、栞」

「いいもんでしょ、感謝されるって。ありがとうだけで人と人は繋がっていけるんだよ」


やはり、栞には見透かされてしまっていたのか。だけど栞の言う通りだ。心の中にも爽やかな潮風は吹き抜ける思いだ。


「よし、じゃあ待ちに待った海岸に行こう!」

「ああ!」


俺は栞の一歩前に踏み出し、海岸向かって歩き出した。


砂浜に降りるとその海の綺麗さはより目に焼き付いた。

水面は緑色に輝き、底の方まで透き通って見える。


「凄い綺麗だね……。小説書いてるのに、綺麗っていう他に言葉が思い浮かばないや」


「むしろ変に言葉を飾るのが失礼、かもな」

「そうそう、そういうこと言いたかったの」


栞は写真を撮るのをやめ、波打ち際まで歩を進める。俺もそれに倣って海に近付いていく。寄せては返す白波が俺たちの足元まで近づいてきていた。


「海、好きだなぁ」


ポツリと呟いた栞。嬉しそうでもあり、どこか悲しそうでもある栞の表情は物憂げで、夕方の海によくマッチしていた。白浜に青い海……そんな中に栞が佇む。俺はこの瞬間を写真に収めようとカメラを取出し、構える。


ファインダー越しに写る栞の姿に心が締め付けられる。この気持はなんだろう。シャッターを切るのを一瞬躊躇してしまったが思い出したように写真に収めた。幸い。栞はぼんやりと海を見つめているみたいで気付かれてはないようだ。


「一、私さ……」


栞は俺の目を見る。やはり長い間見つめられると照れてしまう。俺は慌てて視線を逸らす。


「ううん、なんでもない」


栞は再び、海を見つめる。昔海で何かあったのだろうか。こんな栞を見るのは初めてだ。


「栞?」

「……ねぇ一、もっと高い所から海を見たい。あそこ行こう?」


栞が指差した先には緑色の木々の狭間から赤い建物があるのが確認できる。


「あそこには竜宮神社ってのがあるんだ。そこから海を一望しよう」


きっとあの赤い建物が竜宮神社だろう。あそこから見える海もまた綺麗に違いない。


「ああ、行こう」


俺と栞は海岸沿いをゆっくりと歩きながら竜宮神社へと続く道を辿っていった。


高い所から見える景色もまた格別だった。眼下に広がる太平洋はどこまでも続いて行っているような気さえした。そしてこの景色には見覚えがある。


俺が本屋で開いた『ナミカゼ』で見た海の風景。ここだったんだ。香川のシンボルタワーの時にも同じような気持ちを抱いたが、今回の感情はそれ以上だ。何せ、ナミカゼで見た一番最初の写真であり、一番心惹かれた写真だ。


「繋がってるんだな……」

「一? どうしたの急に」


気付かぬ内に口から言葉が漏れてしまったらしい。

しかも恥ずかしいフレーズを栞に聞かれてしまった。


「な、なんでもな」

「なんでもないわけないでしょー。教えなさいよ」


栞がニヤニヤしながら俺の言葉を遮る。


「いいじゃん。それに私ばっかりお喋りしてる。もっと一の話を聞かせてよ」


言われてみれば確かに、今まで栞が一方的に夢の話を聞かせてくれていた。いつも栞が主体だった。


「……いや、ここの景色ってさ。『ナミカゼ』の中にあった写真だろ? 俺この写真、一番好きでさ」


「うん、私もすぐに思ったよ。私もここの写真が一番好きだったから」


栞と同じ感想を持てたことが嬉しい。あの写真があったから俺は今ここにいし、栞とも出会うことが出来た。


「考えてみるとさ、柚香さんが出した本を見て、俺は四国に来ようと思ったし、旅行会社の人は波風プランを作ったんだろ? そして俺と栞は波風プランを通して偶然出会って、俺は今こうやって柚香さんが見た景色を見てる。全部、繋がった結果がここにあるんだなって」


「その柚香さんもきっと色んな繋がりがあったんじゃないのかな? 何かを思って行動して、柚香さんの作風が生まれて、その才能を見出した人がいて、本が出て……。辿って行ったらどこへでも行っちゃうくらいだね」


栞の言う通りだ。本当にいくつもの繋がりが存在する。どんな小さなことでも、きっといつかは大きなことへと繋がっていく。知らず知らずの内に人は繋がっていく。俺はこの旅行でそれを実感している。


「……繋がりって、いいもんだな」

「私もそう思う。いい繋がりも悪い繋がりもさ。全部が全部、自分の糧になるんだね。そして、私と一も色んな繋がりの起点になっていかなきゃいけないんだよ」


繋がりの起点……か。栞は小説家になれば本を通して色んな人に繋がりの種をばらまくことが出来る。俺にも出来るだろうか? いや、違う。


「やっていかなくちゃな」


自分自身に問いかける前にまず行動をしないといけない。行動してみて駄目なら、その時考えればいい。


「……一、ちょっと変わったね。よし、決めた。一が色々な人を繋いでいけることを私は応援してあげることにする」

「なんで上から目線なんだよ」

「私は一の師匠だもん、当たり前」


師匠ってなんだよ師匠って。だけど、栞と会って、考え方が変わったのは事実だから完全に否定することが出来ないのもまた悔しい。


俺と栞は竜宮神社から海を見下ろした後、もう一度波打ち際をゆっくり歩いた。途中おばちゃんが売っていたアイスキャンデーを買ったり、坂本龍馬の銅像の前で写真を撮ったりもして、桂浜を十分に満足することが出来た。


「今日もすごく楽しかった、ありがとう。一」


砂浜からの帰り道、栞は笑顔でそう言ってくれたが俺としては少し寂しかった。昨日だったら、このまま栞と晩御飯を食べていた、だけど、今日はこれで終わり。欲を言うならば、もう少し栞と一緒に居たかった。


「ふふ、何寂しそうな顔してんのよ。明日も会うってのに」

「……あぁ、そうだな」

「じゃあ私、こっちの道から歩いてホテルに向かうから。明日10時に高知駅ね」


栞は全く寂しがる様子も見せずに、俺に背を向ける。


「……ホテルまで送ろうか?」

「んー、大丈夫。一は桂浜で美味しい物でも満喫しなー」


ひらひらと手を振られてしまっては、もう何も言葉は出ない。執拗に誘うのも何だかみっともない気がした。それに寂しいと思っているのが自分だけみたいでそのことが少し悔しかった。


時間は18時。少し早いけどもう晩御飯を食べて、明日に備えて早く寝ることにするか。俺は栞が見えなくなるまで見送ろうとした。栞が完全に見えなくなってしまう少し手前、栞がこちらを振り向いた。栞は俺に見えるように、大きく手を振ってくれた。


俺も負けじと手を振りかえす。これでいい。これだけでいい。少し前の俺には体験出来なかったことだ。これ以上のことを望むのは、流石に贅沢すぎるだろう。


栞が見えなくなった後、俺も桂浜から背を向けた。



「いらっしゃいませ、おひとり様ですか?」

「はい」


ホテルに荷物を預けてから俺は、近くの店に入った。店の幟に"カツオがうまい!"と書いてあったのでふらっと立ち寄ってしまったのだ。まぁ、お店にもそこそこ人が入っていることだし、まずいことはないだろう。


「それではご案内しますね」

「あ、一君!」


突然呼ばれた声に振り返ってみると三嶋さんがグラス片手に手を振っていた。三嶋さんもこの近くに泊まっているんだろうか。


「お知り合いですか?」


案内のお姉さんにそう聞かれたて俺は答えに詰まる。知り合いとは言ってもシンボルタワーや道後温泉で一言二言話した程度だ。それで知り合いといっていいのだろうか。


「一君、私の席に来なよ。色々お話聞かせて欲しいな」


だが三嶋さんはすぐに俺を自分の席へと招こうとしてくれる。特段断る理由もなかったので、俺は三嶋さんの前の席に着いた。


「一君、お疲れ様。あれ、栞ちゃんは?」

「……栞は何か別件の用事があるみたいで、今日は俺と一緒じゃありません」

「旅行中に用事?」


三嶋さんは首をひねる。確かに"用事"という言葉が引っ掛かる。何度も来る土地なら確かに納得はいく。しかし、栞は今回四国に来るのは初めてだと言っていた。それなのに用事など出来るのだろうか。


「栞も深くは突っ込んでほしくないって言ってました」

「ふーん……。まぁいいか。あ、店員さん! ゆずビール二つとカツオのたたき追加で!」

「ゆずビール?」

「美味しいんだよ。高知県はゆずが美味しいからねー。是非是非一君も味わっていってよ」


高知県はゆずが有名なのか。愛媛県はみかんだし、四国は果物が名産なのかと思ってしまう。すぐにゆずビールは運ばれてきて、俺達の前に置かれる。


「それじゃ、またの再会に乾杯!」


俺と三嶋さんはジョッキを鳴らした。


ゆずビールを口に含むと爽やかな風味を感じた。少しアルコール度数が高い気がするが、さっぱりとした後味だ。


「この風味とカツオが良く合うんだよ。さぁさぁ、食べてみて」


一緒に運ばれてきたカツオのたたきを勧められ俺は箸を伸ばす。生臭さなど一切感じず、引き締まったカツオの身を堪能する。


「凄く美味しいですね……」

「でしょ。じゃあお酒とカツオを肴に今日の一君の旅行譚を聞かせてもらおうかな?」


三嶋さんに促され、俺は今日の行動をゆっくりと三嶋さんに話した。愛媛県から高知県まで来たこと、そして桂浜で綺麗な海に心奪われたこと、坂本龍馬の銅像を見たこと。行動をまとめてしまえば、これだけだが俺には道中で交わした栞との会話も記憶に残っている。"栞"という名前の由来もその一つだ。


「一君も桂浜に行ったんだ? 私も行ったんだけど会わなかったね」

「三嶋さんもですか?」

「私も海、好きだからさ。写真とか撮ってたら見せてほしいな」


俺はバッグからデジカメを取り出して三嶋さんに渡した。


「あれ、そのバッグに付いてるの零ちゃんじゃない?」

「三嶋さん、零を知ってるんですか!?」


女の人の口から零という名前が出るのは初めて聞いたので俺は食いついてしまった。


「知ってるよー。私の彼氏も零が好きで熱く語られる内にアニメも一緒に見て、私も零のこと好きになったんだよ」


三嶋さんの彼氏さんとは仲良くなれる気がする。それに三嶋さんのような綺麗な人も零が出てるアニメを見ているだなんて栞とは大違いだ。栞は零を見ただけで嫌悪感を露わにしてたもんな。


「俺も零があのアニメで一番好きなんです。あの黒くて長い髪のおしとやかな雰囲気がすごい好きで。照れてる仕草とかもツボなんです」


「なるほど、栞ちゃんとは真逆なタイプだね。やっぱり二次元と三次元じゃ求める物が違うのかな?」


俺が渡したデジカメの写真を眺めながら、三嶋さんは不思議そうに首をかしげる。


「どうしてそこで栞が出てくるんですか」

「え? だって……」


三嶋さんは俺にデジカメを向ける。そこには先程、桂浜で撮った海辺で佇む栞の写真が写っていた。


「一君、栞ちゃんのこと好きなんじゃないの?」

「俺が栞の事、好き?」

「うん、私にはそう見えたけど……。というか二人を初めて見た時は付き合ってるのかなって思ったくらいだもん。誰だって、男女二人で旅行していたらカップルさんだって思うよ」


……言われてみたらそうかもしれない。それにマリンライナーの際にも俺達はカップルに間違えられている。ただそれはあくまで客観的にみた姿であって、主観的ではない。


「いや、栞は俺の事なんて好きじゃないですよ」

「それは違うよ、一君」


三嶋さんは空いたジョッキを掲げて、またもやゆずビールを二つ注文する。すぐさま運ばれてきたゆずビールを一口飲んでから三嶋さんは俺に指を突きつける。


「私は栞ちゃんの事聞いてるんじゃない。一君の気持ちを聞いてるの。栞ちゃんが一君を好きかなんかどうだっていいよ。一君は、栞ちゃんの事、好きなの?」


「……分かりません」


まだ、栞と出会ってから二日目だ。だけどこの二日で栞のいろんな面を見ることは出来た。夢を語る栞の顔、俺のことを気味悪そうに見る顏、お酒を飲んで少し顔がほてっている顏、疲れて眠ってしまった顏。どれもが、俺にとっては魅力的に映っていた。


「確かに栞とは二日間一緒に過ごしました。色々栞を知れました。だけど……その程度で好きになるっていうのは……」


「恋に時間は関係ないんだよ、一君。それにあれこれ理由を付けて自分の気持ちと向き合わないなんて、かっこ悪いよ」


自分の気持ちと向き合わない……か。俺はいつもどうせ俺なんか、と思い込んでそれ以上自分の気持ちを、思ってる感情の答えを出すのを拒んでいた。だけど……。


「自信がないんです、俺」


アルコールが入っていることもあってか俺の口から弱音が一つ滑り落ちた。


「俺と栞が今まで歩んできた道のりがあまりにも違い過ぎて。文系と理系は勿論ですけど、栞は明るくて社交的、俺はアニメばかり見てて根暗と思われるタイプです。自分が、栞に惹かれる理由が分からないんです」


「……そっか、そうだよね。本当に、皆恋に悩むものなんだね。一君、この後時間ある?」

「え、ありますけど……」


三嶋さんは俺の返事を聞くと、店員さんに声をかけた。またお酒を注文するのかと思ったが、三嶋さんはお会計の確認をしている。


「少し真面目な話しようか。夜の桂浜でアルコールを飛ばしながら、とかどうかな?」


夜の海。その言葉だけで心躍る。幸い今日は天気もいいので月と星が綺麗に見えるかもしれない。最高のロケーションだ。俺は二つ返事で頷いた。


「でも三嶋さん、真面目な話ってなんですか?」

「コイバナしよ、コイバナ」


クスッと笑って三嶋さんは二人分の会計を店員さんに手渡しした。俺は慌てて自分の分を三嶋さんに渡したが、三嶋さんは受け取るのを頑なに拒んだ。


「今日は私が奢ってあげる。その分、栞ちゃんに美味しいもの食べさせてあげて」


「でも……」

「でも、じゃないの。しつこい男の子は嫌われちゃうぞ」


わざとらしいウインクを飛ばされ、俺もお金を渡すのをそこで諦めた。


「三嶋さん、ご馳走様でした」

「いーえ。というか一君、彩音って呼んでいいよ。栞ちゃんは私の事彩音って呼び捨ててるくらいだし」


そうは言われても、俺は栞以外の女子を呼び捨てで呼んだことなど今までない。それに栞と呼んでいるのも初めは強制的にだったのだから尚更だ。


「いやー……恥ずかしいです」

「なんか……ヤダな」


三嶋さんはぷくっと頬を膨らませて、俺を下から見上げてくる。おまけに首を少し左に傾けていて、狙っているのはあからさまだ。だけど、この仕草は反則だ。


「うぅ……じゃあ……彩音……さんで」

「ふふ、じゃあ桂浜に行こう! それと一君。少しは女の子に免疫付けておかないと将来女の子に騙されちゃうから気を付けなよ」


頭を一回軽くポンと叩かれ、彩音さんは桂浜に向かって歩き出す。うーん、これが年上の余裕、というやつだろうか。俺は半歩遅れて彩音さんの後ろをついていった。



夜の桂浜には月がぽっかりと浮かんでいた。昼間程の暑さもなく、海風と波の音が視覚と聴覚から涼しさを運んでくれる。辺りを見回しても、騒いでいる客はいなく、皆が皆幻想的なムードに浸っているようだった。デジカメで夜の風景を収めたものの、自分の目で見ているこの情景にはとても適わない。


「ね、コイバナにはとっておきのムードだと思わない?」

「自分、俗にいうコイバナという奴をあまりしたことがないのでよく分かりませんが……」


高校の時のグループも女子との関係は希薄だったし、大学に至っては理系大学なので恋の話よりもアニメの話に花が咲く。零が嫁と言ったりするのはコイバナに入るだろうか。


「私もさ、恋に悩んでいる真っ最中なんだよ」

「彩音さんも……ですか?」


彩音さんは静かに頷く。彩音さんのようにスタイルも良くて綺麗な女の人でも悩むなんてことがあるのだろうか。俄かには信じられない。


「私ね、内定を頂いたんだけど、もしかしたら九州の方で働くことになるの。そしたら彼氏とも会えなくなっちゃうしさ、どうしようって悩んでる」


俗にいう遠距離恋愛という奴か。仕事か恋か。自分だったらどっちを取るだろう。考えてみたが、どちらも未だに経験のないことだから想像も出来なかった。


「仕事も自分のずっとやりたかったことだったし、だからといって実のことも好きだし。ずーっと悩んでて、そのことが恥ずかしかったの。22にもなる大人が恋で悩んでるなんてね。でもね、昨日栞ちゃんが言ってくれたの。そんなの恥ずかしいことじゃないって」


彩音さんはさらりと長い髪を風に流す。


「恋愛ってのは、誰もが平等に楽しめる"権利"なんだって。だから悩んでもいい、苦しんでもいい。恥ずかしい事なんかじゃないって。その言葉でちょっと楽になれたんだ」


恋愛のことを平等な権利と言うとは流石は恋愛小説家だ。誰でも平等に楽しめる……か。


「だから一君も精いっぱい悩んでもいい。苦しんでもいい。自分に自信がなくても構わない。だって人が人を好きになったり気にかけたりするのは、人間の権利だもんね」


昨日からずっと感じていた胸の中を漂うこの気持ちの正体。カップルに間違えられたり、栞と手を繋いだり、栞のことを気にかけたりしてしまうこと……。


それはきっと、そういうものなのかもしれない。


「彩音さん、俺、栞の事……す」


「だから、違うって言ってるでしょ!!!!」


その時、静かな海に遠くから怒鳴り声が響き渡る。この幻想的なムードをぶち壊す声に彩音さんも眉をしかめる。ただ、この声の主には思い当たる節がある。


「栞?」

「え?」

「彩音さん、きっと今の声、栞です」


栞は用事があると言っていた。ここ、夜の桂浜で怒鳴るだなんて何か揉めているのだろうか。


「ちょっと見てきます」

「待って、私も行く」


俺と彩音さんは怒鳴り声が聞こえてきた方へと進んでいった。


俺と彩音さんは桂浜の隅の方まで静かに駆けていく。目を凝らしてみると、人影が一つ佇んでいるのをぼんやりと確認することが出来た。


「だからさ、そんなんじゃないって言ってるじゃん。しつこいっての」


間違いない、栞の声だ。人影が一つしかないということは誰かに電話をかけているのだろうか。


「栞ちゃんがあんなにも声を荒げるなんて、誰と話しているんだろう」


彩音さんは首を傾げたが俺にはその相手の見当がついていた。昨日も晩御飯を食べている時に、栞の携帯を鳴らした相手だと俺は推測している。その時も栞は「しつこい」と言って着信を拒んでいた。


「正樹のそういう所が私には耐えられなくなったの。他に好きな人が出来たとかじゃないんだってば」


"正樹"というのは元彼の名前だろうか。何故か胸が痛む。どうしてだか俺には分からない。だけど気になってしまう。俺は更に聞き耳を立てる。


「私は……正樹と付き合っている時は正樹のこと本当に好きだったんだよ。一人の人に尽くしてました。だけど、もう、正樹にはこれっぽちの気持ちも、未練もありません。正樹は、私の一番大切なものを、馬鹿にした。ただそれだけだって? その価値観がずれてるの」


栞の口から正樹、と呼ぶ相手のことが好きだったと聞くのが辛いし、悔しい。こうして勝手に栞の話を盗み聞きしてるなんてどうしようもなく惨めじゃないか。


「……分かった、じゃあ明後日直接話そう。でも、私の気持ちも変わらないよ? それでいいの? うん、分かった。それじゃ、東京駅でね、うん……しつこいよ……」


そして栞の声は止む。直後に何かを砂浜に叩きつけたような鈍い音が響いた。


「荒れてるね、栞ちゃん……。元彼とどんな別れ方したんだろう。一君、何か聞いてないの?」

「俺は何も……聞いてないです」


元彼がいたと言うだけで、栞のプライベートな恋愛事情に関しては俺は何も知らない。二日間一緒に過ごしていて、俺は栞のことを知らな過ぎるような気さえもする。


栞は身をかがめ、叩きつけた物を拾い上げる。そのまま踵を返しこちらに向かってきた。このままでは見つかってしまう。


「彩音さん、場所変えましょう」

「うん、確かにこのままじゃ……きゃっ」


お酒が入っているのと、急いでいたこともあっただろうか、彩音さんは体勢を崩し砂浜に尻餅をついてしまった。俺は咄嗟に彩音さんに手を差し出した。


「彩音さん、大丈夫ですか?」

「うぅ……恥ずかしい……ありがとう、一君」


彩音さんは俺の手をつかんだのを確認して俺は力を入れ、彩音さんを引き上げる。思ったよりもすぐに体は引きあがった。


「は……一、彩音? 何してるの、そこで?」


だが、栞に見つかってしまった。栞の方も驚いている様子が目で見て伺える。何て答えればいいんだろうか。


「……二人で手繋いで、何してるの?」


「え、あ……これは……」


彩音さんを助け起こしたままの状態で手を繋ぎっぱなしだったことに俺は今気が付いた。慌てて彩音さんと手を離す。


「……二人でイチャイチャしながら、こそこそ人の話盗み聞きしてて楽しかった?」

「勝手に栞の話聞いてたのは謝る! けど俺と彩音さんは……」

「……彩音? へぇ……」


栞は何かを悟ったように腕を組み何度も頷いた。


「一、私がいない間に随分彩音と仲良くなったみたいね。ガイドも私じゃなくて彩音にやってもらった方がいいんじゃないの?」


「それとこれとは関係ないだろ! それに彩音さんのことは栞も彩音って呼んでるじゃねーか!」


こんな荒々しく噛みついてくる栞は初めて見る。彩音さんの方をチラッと見てみるが、彩音さんはなぜか微笑んでいる。訳が分からない。何なんだ、この人は?


「そうよね、こんな茶髪のじゃじゃ馬女よりも彩音みたいな黒髪ボイン清楚系の女の方が一みたいなオタクにはいいよね?」


オタクという所に棘を含ませてくる栞に俺はカチンときた。


「はぁ? 栞も栞だろ。今みたいに口やかましいから元彼とも揉めてるんじゃねーのかよ」


「……なんですって。もう一回言ってみなさいよ」

「あぁ、何度でも言ってやるよ。栞みたいなうるさい奴と一緒に居ると疲れて可哀そうだなって!」


「可哀そうなのは一でしょ。よく考えてごらんなさいよ。正樹との電話と一との晩御飯を天秤にかけて、私は正樹と電話する方を取ったのよ。一と話すより、正樹と話す方が楽しいからね!」


早口でまくしたてる言葉は勢いそのまま俺の胸に突き刺さる。そうなのだ。栞の言う通りなのだ。栞が言っていた用事とは元彼、正樹と電話をすることだったんだ……。


「何だかんだで積もる話もあるしね。やっぱり一と話すより、楽だわ。うん……。すごく……楽」


怒りで興奮しているのか栞の語尾は微かに震えている。しかし、何だろう今の栞は。さっきの電話の様子とはまるで違う。


「未練たらたらだな」

「……え?」

「電話では『私には未練がない』とか言っておきながら今は元彼との方が話しやすいだのなんだの……未練しかないじゃねーか」


栞は何も言わない。拳を強く握りしめている。だけど、それ以上の力で俺の心を握りしめているんじゃないかと思うくらい、俺の胸は痛い。栞に言葉をぶつける度に、俺の胸は鋭く痛んだ。


「結局、未練しかない女だな、栞。男も夢も中途半端で……」


パァン……。

乾いた音が静かな夜に響く。右頬に広がる痛みが、今、何が起きているのかを知らせてくれた。


「……中途半端じゃないよ」


俺の頬を右手で払った栞の両目からは雫が落ち、砂浜を濡らしていく。


「私の……小説家になりたいって言う夢は……中途半端なんかじゃないんだよ……!!」


「あ……」


言い過ぎた、と思ってももう遅かった。言ってしまった言葉は取り返しがつかない。


「一のバカ!!!!」


もう一度さっきの衝撃を今度は左頬に受けた。だが、左頬以上に俺の心が痛かった。俺はなんてことを栞に言ってしまったんだろう。


栞は俺の右頬をもう一度引っぱたいてから、俺と彩音さんの横を駆け抜けていった。そんな栞を俺は追いかけることが出来なかった。


「俺……何てこと言っちゃったんだろう」


俺は力なく砂浜に座り込んだ。栞の夢が中途半端じゃないなんてこと、俺自身が知ってるじゃないか。自分の夢を誇らしげに楽しげに語る栞の顔を見れば……一目瞭然じゃないか。


気付けば俺の視界が滲んでいる。夜空にぽっかり浮かんでいる月が泣いているようにさえ見える。


「女の子を泣かせた挙句ビンタされて、それでいて自分が泣くなんて最高にかっこ悪いぞ、一君」


彩音さんはハンカチを差し出してくれたので俺は素直に受け取る。


「いいもの見させてもらえたなぁ」

「……どういう意味ですか?」


俺と栞のケンカを"いい物"呼ばわりされたくない。それになんでこの人はニコニコしていられるんだ。


「私と、実の若い頃を思い出しちゃった。今の一君と栞ちゃんみたいにお互いぶつかり合ってた。ケンカした数だけ、相手のことをもっと知ることが出来たんだ。でもいつの間にか、それもなくなってた。大人になったって達観してたのかな?」


彩音さんは俺の横に腰を下ろした。


「私一人で悩んでるなんてばかみたいだね。私も、実に今の気持ちを全部、ぶつけてみる」


「……それで実さんとの関係が終わってもいいんですか?」

「……栞ちゃんともう完全に縁が切れたと思ってるからこその質問だね、それは」


彩音さんにはお見通しだったみたいだ。正直、もう俺と栞の旅はここで終わってしまったと俺は思っている。それ程までに俺は栞を傷つけてしまった。


「私と実は"好き"っていう気持ちで繋がってる。関係が途切れるんだったら、それまでの想いだったってことだよ。恋愛っていうイベントの根底は"好き"っていうシンプルな気持ちでしょ。それを二人を見て思い出せた。一君は?」


「え?」

「栞ちゃんの事、どう想ってるの? さっきは途中になっちゃったけど、聞かせて?」


……さっきは言い切らなくて良かった。今こうやって、初めて栞とケンカをして、三発叩かれて、分かったことがある。栞を傷つけてしまったことが何よりも辛かった。栞に叩かれた頬よりも、栞に暴言をぶつけてしまったということで、俺の心が痛かった。


それに、純粋に嫉妬していた。そう、嫉妬だったんだ。栞が元彼とのことを話すことに嫉妬してしまっていた。


今、初めて自分の心と向き合えたような気がする。


たった二日の間に人を好きになるなんてとか、

栞みたいな女の子に俺なんて相手してもらえないとか、

自分に自信がないとか、そんなのどうだっていい。


「俺は、栞が好きなんですね」

「そういうことだね」


口に出すと恥ずかしさで悶えてしまいそうになる。だけど、そんな気持ちからは目を背けたくない。


「ちゃんと、栞ちゃんと仲直りするんだよ?」


彩音さんは俺の背中をポンッと小さく叩く。だが、俺と栞は明日また会えるだろうか。こんなケンカをした後に、栞は俺の旅のガイドをしてくれるだろうか。



桂浜で彩音さんと別れた俺は、そのまま宿に戻る。シャワーを浴び、ベッドの上に横たわっても不思議と目は冴えきっている。今日も愛媛から高知へと移動してきて疲れが溜まっているはずなのに眠れない。


『男も夢も中途半端』


栞は、泣いていた。

言ってしまった言葉の重みを今更ながら噛みしめる。

俺は栞の何を知っているんだろう。


壁にかけてある時計に目をやると、22時を指している。……どうせ眠れないなら。俺はスマホを取出し、検索ワードに言葉を打ち込む。


"恋愛パラドクス 詩音"


栞が書いたという小説を読んでみたい。純粋にそう思った。小説家になりたいという夢を持つ栞はどんな作品を書くんだろう。幸い、検索サイトの一ページ目にその作品は見つかった。


"恋愛パラドクス / 詩音

閲覧数10729 レビュー 78


好きになってはいけない相手を好きになってしまった小夜(さや)。

嫌いになろうとしているはずなのに、日に日に小夜が大樹を好きになる気持ちは大きくなる。

大樹はそんな小夜の気持ちを知り……? "


閲覧数が10000を超えているということは、この作品を10000人以上の人が読んだということだろうか。しかし、あらすじを見ると恋愛小説の王道とも取れるような話だ。俺は今まで恋愛小説というものをあまり読んだことがない。


最後まで読み切れるかは分からないが、いけるところまで読んでみよう。そうすれば分かるかもしれない。


栞の夢に対する本気度と、俺の知らない栞の姿。


俺は、『恋愛パラドクス』の最初の1ページ目をめくった。



叩いた右手がまだ痛い。私の夢を中途半端と言われたんだから、中途半端な力で返すわけにはいかない。私は全力で一を引っぱたいた。


それなのに、なんでだろう。私の胸の方が痛い。涙が止まらない。一に一番言われたくないことを言われたから? ううん、違う。私の頬を伝う涙は……悔し涙なんだ。


『私の夢は中途半端なんかじゃない』


そんなの私が一番信じてないといけないことだ。だけど最近の私は、その夢を信じていいのか……追っていいのか分からなくなっていた。揺らいでいた。きっかけは正樹の言葉。


『いつまで小説家になれると思ってるんだよ。なれるわけないだろ』


笑い声混じりの正樹の言葉は私の心を深く鋭く突き刺した。そして、突き刺さったまま、取れなくなってしまった。私の高校生の頃からの夢を、笑われた。心が一気に冷めていく。好きだという気持ちは、氷のように溶けていってしまった。


だけど、一は……あのバカは。

私の夢物語に最後まで耳を傾けてくれた。

そして、中途半端だと真剣な顔で言い放った。


確かに傷ついた。だけど……心の中の私も微かに頷いていた。

私は……人に中途半端じゃないと胸を張って言えるほど、真剣に夢に向かって努力してきただろうか。


夢と向かい合っていただろうか。


そんなことをあのバカのせいで思ってしまった事実が悔しい。

あんないかにもモテなさそうで、理系のオタクの癖に。


時計の針はもう0時を回っている。もう、明日はサイクリングの予定だったのに。夜更かししてたら体力持たないってのに……。

その時、携帯が小刻みに3回震えた。小刻みに震えているので、着信ではない。メールだ。こんな時間に一体誰だろう。


……正樹だったら嫌だな。そう思って開いたメール。そのメールは私が登録しているサイトからの配信通知だった。


怪訝に思い、そのメールに張ってあったURLからサイトへと飛んでいく。そして表示されていた文に私は驚いた。そして、思わず笑ってしまった。さっきまで泣いていたのに、心の底から笑ってしまった。


馬鹿じゃないの?

本当にばっかじゃないの?


本当に……もう。

私は携帯の猿を一撫でしてからベッドに潜り込む。

今なら……いい夢が見れそうだ。

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