恋の味

@amagai

恋の味


 彼女は、ケーキが嫌いだ。

 というよりも、「甘い」と感じるもの全般が苦手なようだ。


 彼女との初めてのデートでそれを知らず、ケーキバイキングに連れて行ってしまった時の雰囲気と言ったら……。

 ただでさえ、彼女は人を寄せ付けない空気を持っているというのに、その時、僕は彼女を二度と甘味処に連れて行かないと心に誓った。


 だったのだが……、今、彼女の手には白くて大きな箱が握られていた。その箱には僕が贔屓にしているケーキ屋のロゴが印刷されていた。彼女には、僕が甘味が好きだとか、そのお店を贔屓にしているとかは、言ってことがなかったのに……。


 困惑したままの僕に向かって彼女は箱を突き付けた。



 彼はケーキが大好きだ。

 というよりも、「甘い」と感じるものなら何でもいいらしい。


 初めてのデートで、いきなりケーキバイキングに連れて行かれた時は、自分はケーキが苦手なのだと言い出せず、彼を困らせとしまったが、彼は私のことを嫌いになったわけではない様子で、少し安心したのはいい思い出だ。


 そして今、私の手には彼の好きなケーキ屋の箱が握られている。このケーキは彼の友人から聞き出した彼のお気に入りのものなので、たぶん大丈夫だろう。


 なぜ私が、苦手なケーキの箱を持っているのか気が付いていない彼に、私はケーキを差し出した。



「誕生日、おめでとう!」

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