第27話 来たれ混沌へ

街の外へ出ると既に陽は傾き、死者の支配する領域が急速に裾野を広げていた。


ロアの跋扈する夜に野宿などは自殺行為、しかし近くに街はおろか家すら無い。


ーー平見さん、人を殺した事はある?ーー


「うん、殺したばっかり」


林の陰から数人……否、数体のロアが連れ立って姿を現した。当然の事ながら標的はサクヤである。


ーー平見さん、この世で唯一絶対の法則を知ってる?ーー


「どうだろう。知っていたのか、ようやく理解したのか。私はこうして揺らぎ続けて行くんだと思うよ」


素早く弓をつがえ、ロアの脳天を射抜く。灰になったのを確認するのと同時に新手が行く手を塞いだ。


スタルハンツへ戻るのが最善の策ではある。しかしその選択はどうしても出来なかった、今のサクヤには。


ーー「貴女は生きていて良いの。その感情を嫌悪して、でも目を逸らさずに」ーー


「ちゃんと向き合うよ。でも、もう嫌じゃなくなったかな。生きていて良いのかはまだ分からないけど、生きられるだけ生きてみようと思う。生きて、探すよ」


弓を背中に戻して右手にダガーを構える。左手には呪力を。


ーー「どこにもお前の、自分の味方なんていない。お前はお前の望みを通せ。その力は手に入れたろ」ーー


「手に入れたよ、皆の命と引き換えに。私の望みは……」




駆ける。彼女のような圧倒的な敏捷性は要らない、ロアに捉えられず懐に潜り込むだけの速さがあればいいのだ。


斬り裂く。彼女のような絶技は要らない、至近距離でロアの首に刃を滑り込ませるだけの腕力があればいいのだ。


焼き尽くす。遠慮は要らない、自身に備わった力を振るえばいいのだ。




生きる。街へ戻らないのなら、朝が来るまで襲い来る敵を屠り続けるのみ。道中に身を隠せる場所を見出す幸運はあるだろうか。


「私の望みは、目的はきっと……生きる事」


かくして少女は今、ようやく選択した。











「とうとう選んだんだね、この混沌に身を投じる事を。落とされたんじゃなく、ワタシがかけた鍵を壊して、ワタシへ至る事を選んだ。待ってるよ……平見さん」

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