エピソード4 Alice the killer
『 犯人を捕まえたのは二人の若い男性でしたが、取材しようと試みたところ瞬時にどこかに消えていってしまいました。果たして犯人を捕まえたのは誰だったのでしょうか?』
テレビから通り魔事件の報道が流れて、それを見ながら迅は肉じゃがを大きく頬張りながら喋る。
「ふふぇふぁ。ほへふははへはほ、、ング。はへはんはほ?」
それを見てアリスが指を指して笑う。
「What's say?飲み込んでから話すデスヨ」
そう言われて迅は首を縦に振ると物凄い勢いで口の中に頬張ったじゃがいもや人参を噛み砕いて飲み込んだ。するとまだ大きかったじゃがいもが喉に詰まってそばに置いてあったコップの水を勢いよく飲み干した。
そのコップは満瑠のものだった。
「え!?ちょっと迅、それ僕の水だよ、、」
ゴクリといい音を鳴らしてじゃがいもを飲み込んだ。満瑠は諦めたような顔をしてコップに水を入れにいった。迅は先ほどの言葉を今度はしっかりと話す。
「いや、すごいよなってさ。あれ捕まえたの誰なんだよ志保?」
「ん?さっきの報道のやつ??」
志保はサラダを食べようとして動かしていた箸の動きを止めて一旦箸置きに置いた。
「〝レイヴン〟の中でも最強と言われている第一支部 風刃の支部長の海羽さんと最強アタッカーと呼び名の高い剣城くんよ」
「その剣城ってやつ、そんなに強いのか?」
迅は礼儀を知らずにどうでも良さげな顔で満瑠のコップに入れられた水をまた飲み干した。
「ちょ!迅!!」
「ああ、悪い悪い」
もう諦めるしかない。そう思った満瑠はついに水を入れに行くことを止め、食事を続けた。志保は先ほどの言葉を聞いて思わず目を見開いた。
「強いに決まってんでしょ!?なんて言ったって
「ワタシ一度手合わせ願いたいデス!!」
その言葉に一同が一斉に視線を向けた。すると志保は確認するようにアリスに問う。
「アリスちゃん?今剣城くんと戦いたいって言ったのかしら??」
アリスは満面の笑みで答える。
「イエス!!手合わせ願うデス!!どこで戦えるのデス??」
志保はふらりと顔を塞いで倒れ込んだ。それを見て迅と満瑠が慌てて近くに寄り添う。
すると屋上から高村と斧谷が帰ってきた。ドアを開くとそこには顔を塞ぎこんで倒れている志保のそばにいる迅と満瑠に、難なく食事を続けるアリス。
「アカメ、これはどういう状態だ?」
思わず高村の表情が一転落ちた。どこか呆れているように見えるのは気にしないでおこう。
「いや、アリスが風刃の剣城って人と戦いたいって言い張ったら志保が倒れ込んで、、」
「ならいつも通りだ。ほって置いていいぞ」
すると本当に気にすることなくソファーに座り込む。斧谷はアリスの隣に座った。満瑠はイマイチ状況を理解できてなかったので高村に疑問をぶつける。
「いつものこと?」
高村はテレビを付けてチャンネルを弄りながらその疑問に答えた。
「単純に言えば戦うっていうのに申請がいるんだ。その申請をするのが面倒くさいって駄々こねてそこに倒れているだけだ。支部長としては、別に戦わせてもいいと思うのだがな」
その言葉に反応して志保が飛び起きた。
「何故ですか支部長!剣城くんに挑むなんてあまりに無謀すぎます!!下手をすると
すると高村はぐったりとソファーに倒れ込みながら志保へ視線を送った。
「恭弥くんはそんなマネしないよ。おまけにアリスくんの力を確認できる良い機会じゃないか。あとで海羽に連絡を入れておいてくれよ志保」
完全に戦う流れに変わった。だがアリスは今の話を何一つとして聞いていない。ただただ目の前の肉じゃがを食べ尽くしていた。志保は生きる活力を吸い取られたように自室へ戻って風刃に申請を申し込みに行った。
「アリスちゃん、大丈夫?強敵相手なんだよ?」
斧谷がそう言うとアリスは思い切り立ち上がりとても頼りがいのある表情を向ける。
「大丈夫デス!戦って見ないと強敵かどうかなんてわからないのデスヨ!!」
斧谷はふと言葉を失った。ゆっくりと微笑むと楽しみにしてるよ、と一言言い残し部屋を出た。
ガチャりとドアが閉まると食事していた皿を流暢に流しに出した。
(アリスが戦うところか、、。全く想像がつかないな。突然ここにやってきたとはいえど、支部長に送り込まれたのだから恐らく訳ありなのだろう)
少しばかり考えこみながらソファーに座った。するとまたドアの開く音がした。ふと視線をそちらに向けてみたがそこには誰もいなかった。 周りを見渡すとアリスの姿がないことに気がついた。
「あれ?満瑠。アリスはどこに行ったんだ?」
「ああ、なんか志保のところに行ってくるデス!!て言いながら出てったよ」
そっか。と顔を下に落とす。
迅は何かに疑問を持ったように考え込んだ。
(待てよ、たしか志保は俺が戦ったら即死って言ってたよな。ならなんでアリスは戦っても問題がないんだ?)
すると階段の方からドタドタと騒がしい声がリビングへと向かってきた。
「今から風刃に向かうデスヨ!!」
アリスの唐突すぎる言葉に二人は言葉を失った。風刃に向かう?今から??
ひょっこりと元気な顔をした志保がアリスの背後から姿を現した。
「志保。今から行くってなんでだよ。向こうにも都合ってものがあるだろうが」
「いやー、それがね、、、」
*
「はい。うちの支部の子が手合わせをしたいと申しておりまして、よろしいですか?」
志保は自室に戻るとパソコン経由ビデオ通話で風刃と連絡をとっていた。
もちろん向こうの支部長は海羽である。
「手合わせ?大丈夫全然いいよ!恭弥も身体を動かしたいって言ってるからさ」
「海羽さん、それは本当に剣城くんの本心なのですか?昔みたいに怒られるの嫌ですよ?」
志保が呆れた目で言うと画面の向こうから大きく笑い声が聞こえてきた。
音ブレがない。なんて真っ直ぐな笑い声だろうか。
「アハハハっ!本当に大丈夫だよ。それで、恭弥と手合わせをしたいと言っている子のことを教えてもらわないとね。それが礼儀ってものでしょ?水無月さん」
そう言われるとキーボードをカタカタを打ち風刃のデスクに情報を説明できる限り送った。
「名前はアリス・クラリオット。先日総本部長の柏木さんから送り込まれた子です。剣城くんの能力に興味があるのかと思われます」
画面の先で海羽はサラリと情報に目を通していく。生まれ育った国のことや白虎に配属された理由、さらには性格や趣味なども細かいところまで調べあげられていた。
流石だね。と微かに微笑む。
そのまま情報を見ていると、とある一点でその流れは遮られた。
「ねぇ水無月さん。アリスちゃんの過去の年表のところなんだけど、つい五年程前の情報がほんの少ししか書かれていないんだけどさ。この情報量で限界なのかな?もう少しっていうのはお願いできない??」
志保は思わず口を噤んだ。そして少し間が空いたことに返事をした。
「拒否します」
その一言に画面越しで空気が凍った。
やってしまったと言わんばかりに志保は冷や汗をかいている。すると海羽は小さくため息をついて志保の顔を見やる。
「わかったよ。そこのところの情報は君たちがここに来た時に聞かせてもらおうか。恭弥も一緒にね」
その海羽の声はどこか歪な形をしていた。剣城の名前が出た瞬間に志保が大声を上げ勢いよく立ち上がった。
「剣城くんは絶対にダメです!!」
その声に思わず海羽が驚く。
ハッとした時にはもう遅かった。志保は深呼吸をすると海羽に最後の情報を与えることにした。
「海羽さん、今から伝えることを剣城くんに黙っていてもらえますか?」
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「と、まあこういうことでね。午前中に終わらせようって話になったのよ。二人もおいで。強敵の動きはできる限り自分たちの目で確かめておくべきだわ」
そういうと高村と斧谷以外の四人は身支度をして風刃の支部館へと向かった。
その光景を一つの影がこそりと木々のそばから見届けていた。
「あれがレプリカの使い手か。ふふふっ!愉快だ!実に愉快だね!!さてと、殺さないようにとは言われたけどどういうつもりなのかな」
だるそうに身体を真っ直ぐに伸ばして背中を見やる。それを見て影は嘲笑した。
「じゃあシナリオ第一部といこうか!トュルーエンドに導かれるか、バッドエンドに導かれるか。全てをあなた様の仰せのままに」
そう言うと影は痕跡を残さずに綺麗に消えた。
その後三十分程の距離を歩きようやく第一支部 風刃の支部館へと辿りついた。
どこか王城のような貫禄があり、その迫力は言葉にして言い表せなかった。サラリとした金髪少女が門の近くまでステップを踏みながら進んでいった。
「おお!ここが風刃の支部館デスカ!!おとぎ話に出てきそうな感じです!!」
キャッキャとはしゃぐアリスを志保が「あんまりはしゃがないの」と言いながら追いかけていく。
迅と満瑠はそんな二人に温かい視線を送りながら前へと進んでいく。
近くには広い湖にトレーニングルームと思われる謎の白い小屋。その周りを蝶が舞踊りこれでもかと言わんばかりに鮮やかに彩っている。
「すごい平和なところだな」
そう言いながら四人はその大きな門を前にして立ち止まった。おそらく中から監視されていたのだろう。ゆっくりと門が重たい音を奏でながら開いていく。
その先に一人の男の人がポツリと立ち尽くしていた。
「やあ、白虎の皆さん。はじめまして。僕の名前は海羽 総吾。よろしくね」
高身長で人柄の良さそうな人だった。
迅はその名前にふと反応を示し志保の袖を軽く引っ張る。疑問そうに志保が迅の言葉に耳を傾けた。
「ねぇ、もしかして例の通り魔のやつ捕まえたのってあの人のことなの?」
思わず目を大きくしてしまった。
「え?なんでわかったの??」
テレビにも名前は出て来なかった。すると迅は海羽の目を真っ直ぐに見据えた。本当に真っ直ぐすぎるほどに。
「ただの勘だよ。すごい強そうな感じするもん」
その自信ある声に志保は安心したように微笑んだ。
そして海羽との会話へと話題を戻した。
「お久しぶりです海羽さん。とりあえず戦ってみたいと言っていた子なんですけ、ど、、」
志保が話始めようと喋っている途中に後ろからアリスが全速力で走り込んでいった。
海羽は少し驚いた様子で目の前まで走ってきた 金髪少女のに目線をやる。
するとアリスははにかみながら自己紹介をした。
「はじめまして!アリス・クラリオットと申すデス!!今日はよろしくお願いするデス!!」
いつもの元気な挨拶に場が和む。海羽はアリスを吟味するかのようにジッと見つめた。
「よろしくね、アリスちゃん」
その言葉を発した時には海羽も表情がにこやかになっていた。迅はそんなアリスを見てそちらに走っていった。その後ろを満瑠も追いかけていく。
「俺は荒夜 迅です!んで隣にいるのが冨士坂 満瑠です!それで、、あの」
迅は二人分の自己紹介をした後何か言いたげに海羽から目線を逸らした。すると海羽は「何かな?」とその言葉に食いついた。
目をキラキラと輝かせながら一言。
「あの!アリスとの戦いが終わったら俺と満瑠とで戦ってくれませんか!?」
その言葉はあまりに唐突すぎた。先ほどまで和んでいた雰囲気が崩れる。そして志保の中で素早く戦慄が迸った。今までの迅の戦いっぷりを突然思い出したのだ。
謎の黒い炎に尋常ではない移動速度、さらには まだ解明できていない緑青色に光る眼の能力。
今の段階では自身の移動速度を急激なレベルまで底上げするものなのだと踏んでいる。だがそれだと黒い炎は完全に謎に閉ざされてしまう。
そしてもう一つどこかおかしい点があることに気づいていた。
そこで思考を止めて前を見てみると海羽は不敵な笑みを浮かべていた。
「いいよ。ということは二人がかりってことなのかな?どうせなら恭弥に相手してもらうといいよ。きっと体力的に余裕があると思うし」
どこか人任せな発言だった。一体この人はどこまで剣城という人のことを買っているのだろうか。
するとこっちにおいでと言いながら海羽は支部館の中へとみんなを案内した。
外見も十分おとぎ話な城みたいだったが中までおとぎ話みたいだった。移動する範囲のところには全て綺麗にレッドカーペットが敷かれてある。
さすがに豪華というか華美というか、、。
そう思いながら五人はエレベーターに乗ってガーデンテラスへと移動した。
ドアが開くと綺麗な花が咲きそろい、ガラス張りということもあり日当たりも最高だ。
謙遜するように一歩一歩踏み出して前へ進んでいくとそこには顔に青のタオルを被った人が昼寝状態で寝倒れていた。
すると海羽はその男の側に寄ると思い切りのデコピンを食らわせた。その突然襲ってきた痛みに男の人が慌てて飛び起きた。
「って!!おい総吾!!痛てぇだろうがよ!!起こすなら普通に起こせ!!」
「恭弥は爆睡してたらこうでもしないと起きないだろう?」
図星だったようで目線をグッと逸らした。
するとアリスの姿が視界に入ったようでしっかりと立ち上がった。
「えっと、白虎のだっけ?総吾から話は聞いてるから自己紹介もなしでいいからな」
剣城の肩をトントンと海羽が叩いた。
なんだよ。と言いながらも耳を傾けると大声を出して海羽に大きくあたる。
「は!?一戦交えたあとにもう一戦だと!?何ふざけたことを言ってるんだ総吾!!」
「あれぇ?もしかして恭弥、二戦連続で戦ったら初心者に負けちゃうからって怖がってるのかな??」
「は!?いや負ける訳ないだろ!!」
思い切り煽られ剣城がムキになる。
すると諦めたように髪をグシャグシャと掻きながらエレベーターへと向かっていった。
「要望には答えてやる。早く来い」
そういうとその場の全員はゆっくりと戦闘訓練室へと移動していった。
いざ戦闘訓練室についてみると今までのどこよりも使い古している様子が伺えた。
壁は所々色が薄くなっていて床にも傷がたくさんあった。それだけ練習をして強くなってきたのだと言うことだろう。
自分たちの心がどこか震えたような気がした。
見た目は傷だらけではあるが体育館並の広さを兼ね備えている。どれだけ暴れても大丈夫だろうし、その分広くステージを扱えるということなのだろう。
剣城は迅たちを三階にあるモニタールームへと案内した。訓練室の上に観客席があるとどうも気が散るらしく建設当時から観客はモニタールームへと移動させることを義務づけられていたらしい。
もちろん歓声も罵声もなく心置きなく戦える。
モニタールームに設置されているイスに座ると海羽が大きなテレビ画面に訓練室を映し出した。
堂々と立ち尽くす剣城の前に怯えず恐れるものはないとばかりに一瞬も目線を逸らさないアリス。
そして訓練室に大きく戦闘開始のカウントダウンの音が鳴り響き始めた。
「アリス、だっけ?まずはお手並み拝見として直々に相手をしてやる。お前が手を抜き次第本気で潰しにいくぞ。わかったか」
その力強い貫禄ある声に少し怯える。だがアリスは真っ直ぐに剣城を見つめていた。
「手加減なんてしないデスヨ!!」
純情な曇りのない目を見て剣城が険しい表情になる。
ー 三、、二、、一、、。戦闘開始デス ー
ビーッと大きなホイッスルの音が鳴り二人の戦闘が始まった。剣城が即座に∑《シグマ》を起動させた。
「『セレクト:グレイア』!!」
∑は今までにない速度で起動を完了させた。経験のある者ほど起動速度が上がるらしい。
するとそれを見たアリスもベルトから∑を取り出した。だが少し形状が違うことに満瑠が気づいた。
「アリスの∑、なんか形違うよね?普通なら黒い棒状のものだけど、、。紫色になってる??」
その言葉に志保が追加で説明を加えた。
「そう。あの子の愛用∑は通常のものではないわ」
イマイチ理解ができなかった。通常の∑でないものを何故アリスが所持し愛用していると言うのか。
アリスは右手をグッと前に突き出しその∑を起動させ始めた。それを見て剣城が不自然な表情を浮かべる。
「本気でいくデスヨ!!『
謎の黒い球状の煙がアリスの身体を包み込み強風を放ちながら煙が薄くなくなっていった。
剣城が前を向くとそこには手に何も持ち合わせていないアリスの姿があり、思わず驚声を上げた。
「は、、!?」
モニタールームも一気にざわつき始めた。
アリスが薄く微笑むと突然アリスの背後に禍々しいダークボールがこちらを向いて出現した。 徐々に数が増えていきユラユラと嘲笑うように揺れている。するとスッと右手を前にして掌を剣城に向けた。次の瞬間とんでもない速度でダークボールが剣城へと飛んでいく。
「あれは
どこか諦めたかのように志保が呟く。それを聞いて海羽がコクッと小さく頷く。
「アリスちゃんだからこそ器用に扱える部分もあるのでしょうね」
迅と満瑠はその言葉が耳に入らずに画面に夢中になっていた。
剣城は数え切れないダークボールを一つ一つ剣を振るい壊していく。熟練ならではの斬り方が幾つも披露された。まだあの状態でも余裕が残っているようだ。
爆風と共に散っていったダークボールを踏み潰しながらアリスの元へと走り込んでいった。
「この程度か?なら次は俺の番だ!!」
剣をしっかりと向けながら走り込んでくる剣城に恐れることなくアリスが近づいていく。
距離もそう長くもなく剣を振るってしまえばアリスが怪我をする程に近くまで寄った。
「避けられるかな!?」
剣城は挑発するように一斬を振るう。その瞬間にアリスは剣城の目の前から消えた。
一瞬の出来事についていけずにグッと足を踏み込み背後へと向きを変えた。するとそちらからさっき発動され破壊されずに残っていたダークボールが無数に飛んできていた。
体勢が整わずに崩してしまいダークボールの餌食になった。一気に爆風が部屋中に吹き荒れた。アリスはにこやかに立ち上がり砂煙をはらった。砂煙の先に黄緑色に光るものが見える。
「この程度で俺が殺られるとでも思ったか?」
そこにはガードが設置されその奥に剣城がいた。
間一髪発動が間に合ったらしい。
「さあ、まだまだ始まったばかりだぞ。もっと本気で来いよ!全力で答えてやる!!」
ナイトメアを身に纏いながらダークボールを量産し続けるアリスに臆することなく剣城が立ち上がった。
「次は逃がしませんデスヨ!!」
そういうとその場に浮遊していたすべての球を 消滅させて大きな剣の先へと走り込んだ。
剣城はその敬意を評してしっかりとグレイアを構え、次の行動へと移る。
「あまり近づいてきて欲しくないんだがこの際仕方あるまい!」
ガンナー相手に接近戦を挑むアタッカーというのは非常に稀で最もリスクある行為なのだ。
おまけにアリスの∑は特殊型であり自身の手には銃を持ってはいない。普通なら手に必ず∑を所持しているはずなのだが。
アリスは勢いのあるがままに剣城の真正面に移動し、また先ほどと同じような状態を作り出されてしまった。二回も引っかかる理由にはいかない!と剣城は必死にその状態を崩そうとするがそう簡単には崩れない。
剣城がグレイアを振り払うとアリスは軽々とその刃から逃げていく。全くもって攻撃が当たらない。
少し動揺してしまったそのスキを見てアリスが全身を大きく使って剣城の背後を取った。
「同じ手が通用すると思うなよ!」
剣城はグレイアをしっかり構えたまま後ろに振り向いた。だがアリスの姿もナイトメアも見当たらない。どこからか息切れしている声が聞こえ、、て!?
剣城が気づいた時にはもう遅かった。
足をかけられて体勢が前方へと傾く。グレイアは一応構えてはあるがこの状態からの不意討ちには対応できそうにもなかった。
するとひんやりとした銃口が剣城の頭部にその感覚を焼き付ける。そこには先ほどまで身に纏っていた禍々しい殺気が銃となって現れていた。
剣城は思わずアリスと目を合わせた。
それはあまりにも冷たい目だった。何かに夢中になりすぎているのか、あるいは何かに囚われているのか、無心なだけなのだろうか。
そしてアリスがナイトメアの引き金を勢いよく引い、、、。
「
その声にアリスは引き金を元に戻して体勢を整えた。その先に剣城が危なかったとばかりに汗をかいてグレイアを構えていた。
両者の動きが停滞すると剣城はその刃を起動前の状態にへと形を変えた。
「アリス、お前倉科 遥っていう俺の親友のことを知っているか?」
その言葉はとても重く硬かった。普段の明るい目でもなく、ただ残酷にアリスを見つめる。
それを聞いてアリスは顔を下に向けて首を縦に振った。
剣城は目を大きく見開いた。怒りに満ち溢れた凶悪な表情だ。グレイアを握る手から血管がくっきりと浮かび上がっている。
「やはりか、あの日から恨み続けて五年!!この場で貴様に遭遇することになるとは、、考えもしなかった。あの出来事以来たくさんの人に恨まれ続けてもなお貴様は生き続けようと思えるのか!!」
涙腺が赤くなり手がプルプルと痙攣したように震えていた。怒りの隠った言葉がアリスの胸に突き刺さる。
すると剣城は腰のベルトからもう一本の∑を手にとった。正面にグッと構えアリスを見やる。
「今ここで俺が貴様に制裁を下す!!アリス・クラリオット、、、」
どこか躊躇うように唾を飲み込んだ。
その光景を見てモニタールームが凍りつく。声は聞こえないからこその空気というものがあるらしい。
「血塗られた姉弟 人殺しアリス!!」
モニタールームから眺めるとどこか異様な光景だった。先ほどまで戦っていた二人の戦士が突如として動きをピタリと止めているのである。
思わずこちら側まで静まりかえってしまう。
剣城のもう一つの∑を握っていた手は微動として震えていた。怒り、悲しみ。同時として交互に感情が入り混じっていた。
「........れば」
剣城の声は静まり返った部屋の中でも聞き取れなかった。思わずアリスが一歩として歩み出ようとすると大声で
「貴様が、貴様がいなければ!!
その声はとても悲しく怒りとともに部屋中を駆け巡った。目の奥から輝きを失った水が少しずつ流れてくる。それをグッと堪えるように拭った。
「『古より伝わりし紅き瞳を持つ黒の怪物よ!我が魂に答え汝我に力を与えよ!!!』」
突如として剣城の身体を取り囲むかのように紋章が広がり眩く紫の光を発する。
その光は徐々に強くなり、爆風と共に力が注がれていく。全てを操るように剣城は前を見据えてグッと力を入れ続ける。
「消えてなくなれ!!『
次の瞬間に光が剣城の身体全体を覆い尽くし、紋章の中から黒い何かが剣城の右手にまとわりついた。
アリスはあまりの爆風に耐えきるようにシールドを張りその瞬間を見ていた。
爆風は徐々に強さを増してアリスの張っていたシールドを全て潰した。
「え!?ウソ、、じゃないデス〜!?」
自分の背の方向にへと勢いよく吹き飛ばされてた。風が強すぎて瞼ですら開けることが出来ない。すると
「よお、人殺しアリス」
背後には黒き大剣を大きく構えている剣城の姿があった。爆風の中で大剣を持ちながらも体勢が全く崩れていなかった。その姿はとても残酷で美しかった。
そのまま勢いよくグリフォンを振りかざしアリスを訓練室の壁際から壁際まで吹き飛ばした。
恐ろしい速度で大剣を振りかざされたアリスは壁にめり込んでいた。
衝撃のあまり頭を打ってしまい視界がボヤけていて、自然にナイトメアが元の形へと戻ってしまっていた。
その大剣を構えたまま剣城はアリスの真正面に一瞬で移動してきた。それを見てアリスがマズイと逃げようとする。が剣城がグレイアを顔面スレスレに刺して行く道を阻んだ。
「逃げれると思うなよ人殺し」
そんなアリスを冷たい眼で見つめる。
片眼が紅く染まって、その眼は人間のものなどではなかった。本物の怪物のような、。
アリスも剣城を見つめながらゆっくりと立ち上がった。
「私には、、そうするしかなかったのデス。選択できる未来などなかった。だから私は、、」
「ほざけ。貴様の言うことなど信じられるか」
剣城はそう言うとグリフォンをもう一度大きく構えると、刃の先からユラユラと流れるオーラを一気に増幅させた。
全体が紫色に大きく染まり剣城の眼はもう何も映ってなどいなかった。
「これで、、終わりだアリス。貴様の全ては今ここで終わる。遥のためにも、俺自身のためにも......!!!!!」
ー ビーーーーーーッ!!!戦闘終了です。∑を即座に片付けてくださいー
大剣がアリスにトドメを刺そうとしたその瞬間に戦闘終了の合図が流れて、モニタールームにいたメンバーがこちらに向かってきていた。
剣城はその煮えきらない怒りのせいで
「いいデスヨ。私を殺しても、、」
その声は剣城の胸に深く突き刺さった。
何をしているんだ、俺は
「私を殺して、、、」
こんなことをしてまで恨みを晴らしたって
「あなたが、、、」
あいつが、、、
「本当に後悔をしないのなら」
遥が、、、
「殺していいデスヨ」
ー 喜ぶ理由がないって、わかっているのに ー
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