エピソード3 とある一日の非日常
「そっか。光助くんもあの手紙の意味についてまだ話してないってことか」
高村の言葉に斧谷が同意する。
「紺色、、か」
そう言うと高村はまた空を見つめた。
「アカメの能力がどこまで目覚めているのかわからない。おまけにまだあれを所持していないからな。もしあれを一人でも所持していたら、きっと今回の命令だって変わっていたはずなんだ」
「まあ、確かにそうだよね。でも上手く使いこなさないと先に所持者が死んでしまうからね。そこも一つの課題だし、間違うと、、」
斧谷は言葉を飲み込もうとしたが身体が正直に動いてしまった。
「僕達がアカメくんに殺されちゃうもんね」
一方残された三人はリビングでなんなりと朝を過ごしていた。満瑠がテレビをつけると昨日の出来事がデカデカと放送されていた。
「迅、昨日のやつニュースに出てるよ。」
「〝偶然居合わせた天才〟か。よく言ってくれるよなほんと。しかも気づいたら犯人目の前で倒れてたし、。」
二人の会話にアリスが入ってきた。
「そのニュース私も見たデスヨ。何があったのデスカ?」
疑問そうな表情をしている。そのニュースについて満瑠が詳しく解説してくれた。
「昨日ショッピングセンターまでおつかいに行ってたら運悪くその事件に巻き込まれてさ、ちょうど∑《シグマ》を持ってたから僕達だけで犯人を倒したって話だよ」
へぇー。とアリスは口にする。確かに滅多に起こらない事件だった。するとテレビが次のニュースに移った。そのニュースではどこかで手に入れてしまった∑《シグマ》で人を傷つけいく通り魔の話だった。
そのニュースを見て迅が表情を変えた。
「通り魔って、どんだけ物騒なんだよ。というか確かに世間体で∑《シグマ》は隠さないといけないんじゃなかったっけ?」
そうなの?と満瑠が顔を向ける。
「仮に∑《シグマ》を解剖されたら色々とまずいし、偽装世界での戦争が表にでてしまうからって高村さんがこの前言ってたんだ。」
すると突然ドアが開いて志保が入ってきた。
「おはよ、みんな早いのね。て、それ例の通り魔事件のやつじゃない」
「志保も知っているのデス?」
当たり前じゃない。と志保はテレビを見つめる。
「これだけ世間体に∑《シグマ》を確認されてるってことは、総本部も黙ってはいないわよ」
それだけ最近の事件は危険だということだ。
「そんだけ危険なのに、なんでこっちは手を打たないんだよ」
迅は志保に問いかけた。
「大丈夫よ。明後日にはもう捕まるわ」
その言葉にその場の全員が首を傾げる。
「どういう意味なのデス?」
「今、第一支部
はーい。と三人は志保と一緒に仕度を始める。
ちょうど準備ができた頃に高村と斧谷がリビングに帰ってきて、朝ごはんの時間がやってきた。今日は目玉焼きにソーセージ、サラダにパンだ。
*
同時刻。西側のエリアにて。
例の通り魔を捕まえに一人の秀才がエリアを彷 徨いていた。
「ったく。ちょこまか逃げやがって。鬱陶しいだろうがよ」
チッと舌打ちするとまた街中を歩いていった。
素敵なカフェにパン屋などが並んでいる。この国の西側は主に商業が一番発達しているのだ。
「とりあえず周りの人に聞いてみるか」と近くの人に声をかける。
「あのすみません。例の通り魔について何かご存知ないでしょうか?」
声をかけると住人は目を輝かせてこちらを見てきた。
「もしかして
剣城がそうですよ。と返答すると住人は手を差し伸べ握手を求めてくる。もはや情報収集が進まないし進めない。
すると突然肩を叩かれ後ろを振り返った。そこには風刃支部長の
「急に来るな総吾。またサポートにでもしについてきたのか?」
「まあな。副支部長を一人で行かせるわけにはいかないだろ?万が一ということを考えての考慮もあってついてきたんだ。異論は認めないぞ恭弥」
そう。剣城は風刃の副支部長なのだ。しかも〝レイヴン〟の中でも最強といわれているだけあり、世間からは好評価を得ている。
「あのな総吾。別についてくることに異論はないが俺の邪魔になることだけはするなよ」
了解。と二人は街での情報収集を手分けして開始した。
その後街中で情報収集を続けていると海羽が突然お腹を抱えた。いつもは引きこもりだから外で運動してしまったことによりしんどくなったのだろうか。剣城はお腹を抱え込んだままの海羽のいるすぐそばまで寄った。
「大丈夫か総吾。しんどいなら木陰で休んでいていいんだぞ」
すると海羽は今にも死にそうな声で「、、か、った」と一言。
「今なんて言った?」
「お腹減った。どこかで何か食べようよ」
剣城は少し呆れた顔で海羽を見つめる。だが剣城もお腹が空いているのは同じだった。そのことに気付き、少し恥ずかしそうにしながら歩き出した。
「仕方ねぇな。早くしないと置いてくぞ」
先ほどの状態とは思えないほど元気な様子で海羽は剣城の横を進む。
さっきのあれはなんなんだ。演技か?仕事したくないからって言うと不審がられるからって、お腹空いたの理由で演技したのか?というよりも何を食べようか。総吾はあまり好き嫌いがないタイプだからな、正直雑草でも食べさせてやりたいくらいだ。そういえば、、。
剣城はボーッと歩いている途中、海羽の方へ顔 をやる。思わず立ち止まってしまった。
「総吾、どこかオススメの店はないか。あまり俺はここ近辺をうろつかないからわからないんだ」
「だったら!すごいいい店あるからそこに行こうよ!行こう!行くぞ!!今すぐ!!」
目を輝かせながら剣城を押している。一体何を企んでいるのかは知らないが…。
嫌な予感がする………
剣城のその予想は案の定的中した。
連れていかれたのは穴場の焼肉屋。しかもお酒も肉も飲み放題食べ放題という店だった。まだ入って十分しか経っていないのに海羽の顔は真っ赤だ。海羽は少しでもお酒を飲んでしまうと止まらない。昔からお酒にはとても弱く大人になっても飲まないようにと総本部長からの命令があったはずなのだが、きっともう忘れているのだろう。
「ほらほらぁ、恭弥。お前も飲めよ〜」
もうデロンデロンに酔っ払っていた。しかもプレートの上には肉が乗りすぎてプレートが一部も見えない。
「俺は酒には強いからな。少し付き合ってやるよ。ほら、ジョッキに入れろ」
剣城は海羽よりもお酒には本当に強い。未だ飲み会などに参加しても酔っ払った姿を誰も見たことがない。
「ついでに、酔わせようとしても無駄だからな。どうしてもというならやってみろ」
剣城が思い切り海羽の図星をつく。
海羽はどこか敵を見るような視線を送ってきたので剣城はとりあえず無視をしてみた。すると「だったら恭弥が酔い狂うまで飲ませ続けるからな!!」と今にも暴れだしそうだった。
数時間後
「うぅ、。酔うまで、、飲ませ、ングッ!!」
「総吾、お前さっきから飲みすぎで吐きそうになってるじゃねーか。いい加減諦めたらどうなんだ、」
海羽は酔いすぎ、剣城は飲みすぎでお腹を壊しかけていた。テーブルの上に置かれている瓶は途中で店員に持っていかれたのだが、本数を数えるときっと恐ろしい数だ。
すると海羽は吐きそうになりながらもテーブルに身を乗り出した。
「お、俺は、、ンッ!!諦め、、な、ングッ!!ーーーー!早く、、酔いやがれ、!ンググッ!!!」
「さっさと便所に行けぇぇぇ!!!」
剣城の一撃で海羽は走って行った。向こうから気分を害するような声が聞こえてくる。よくあそこまで我慢できたものだ。
ちなみに剣城が飲んだ数は瓶8本。おそらく海羽は二倍の量は飲んでいる。飲み放題とはいえここまで飲む客などいないだろう。
すると海羽がまだ気持ち悪そうな顔でテーブルに帰ってきた。
「うぅ。恭弥、お前なんで酔わないんだよ」
「そんなこと言われても酔わないものは酔わないぞ総吾。それより気分はどうだ?」
「お前、このグッタリしてる状態の人間によくそんなこと聞けたな、。最悪だよ」
また吐きそうになり海羽はテーブルに倒れる。
すると剣城が荷物を持ってイスから立った。
「総吾。お前の奢りな」
そう言うと剣城は海羽を置いて店を出た。
剣城の言葉に反応した海羽が大声で叫んだ。
「ふざけるなよ!恭弥ぁぁぁぁぁ!!!!!」
だがその叫び声も虚しく剣城には届かなかった。
「さてと、情報収集の続きでもするか」
店を出ると剣城は青のフードを被り元の作業へと戻っていった。
街中の近くにある公園の辺りに戻るとそこには 犯人の仕業としか思えない壊れた噴水があった。剣城は急いで噴水に駆け寄る。
粉々になって散らばっている石に、噴射口から噴出している水、泣き叫ぶ子供。
状況を一番簡単な理屈で考えてみるとストレスで噴水に攻撃し、バラバラになった石が飛び散りその一部が子供に当たり傷つき泣き始める。そして壊れた噴水はそのままで周りは水浸し。というのが最もだろう。
剣城は泣いている子供に言葉をかけた。
「どうした、何があったんだ?」
すると子供はプルプルと震えながら噴水を指差した。
「いきなり、、変な人が太い剣で噴水壊して、僕に剣をブンッて振ってきて、、慌てて転けて怪我したの、、」
完全に剣は∑《シグマ》のことを言っているの だろう。全ての∑《シグマ》にはこの程度の噴水を壊せる力はある。だが太い剣となるとアタッカー専用のラージャかオールラウンダー専用のギーラに絞れる。どれも剣がゴツイからだ。だが、何故その∑《シグマ》を使いこなせるのだろうか。そうなると犯人が適合者としか判断の仕様がない。とすると一度は柏木総本部長に顔を合わせて試験を行っているはずだが、、。
「ここにいる人以外で近くにいた人はいたかな?」
すると子供はブンブンと首を振った。
ありがと。と言うと剣城は公園の近くを走り回った。ここからそう遠くまで動いていないはずだ!ならまだ間に合う!!犯人を俺が捉えてしまえばもう逃げられない!!
角を曲がろうとした時に若い男性とぶつかった。後ろに手をつけて男性は倒れてしまったので剣城は慌てて立ち上がり男性に手を差し伸べた。
「すみません、周りをしっかり見てなくて」
すると男性はいえいえ、と手を握り立ち上がった。結構身長は高い方だと推測できる。身体は華奢だが筋肉はある。服の上からだったが何故か確信を持てた。
「、、もしかして剣城、さんですか?」
男性は少し焦った様子で剣城を見つめた。
「そうですよ」と剣城が返事をすると男性は視線を少し下に逸らした。
「剣城さんに私ずっと憧れていたんですよ!」
時間差で興奮して剣城に目を輝かせる。
こんなことは何回も経験しているはずだが剣城はどこか慣れている感覚があった。
ハッとしたように剣城は男性にさっきの噴水の件について話を聞いてみた。
「先ほどすぐそばの公園で不審な男の人を見ませんでしたか?」
「え、ええ。おそらくあの人かと」
剣城は驚きのあまり男性の手を握った。
「どこに行ったかわかりますか!?」
必死すぎて少し男性は目が引いていた。突然手も握られ必死に食いつかれたら誰でも引くだろう。
「場所はわかりませんが向こう側に行きました。お役に立てずすみません」
男性は隣町の方へ指を指した。犯人が隣町に逃げる理由が全くわからなかったが、一つの手がかりを手に入れることができた。
「私はランニングの途中ですので。犯人、捕まるといいですね。それでは」
そういうと男性は山の方へと走りに行った。
剣城は一礼すると急いで隣町へと移動し始めた。
犯人が隣町に行く理由、子供に剣を奮った意味、そして持ち出された∑《シグマ》。
まだ謎は謎のままただ時間が過ぎていく。
剣城は言われるがままに隣町へと急ぐ。
走る速度も変えずにただただ事件の犯人を捕まえようと、息切れしながらも走っていく。手につけているリストバンドで汗を拭きつつあと半分程度の距離まで来た。
すると剣城は疲れたのかゆっくりと歩き出しすぐ側にあったベンチに座り込んだ。
背中が完全に丸くなり目線はもはや前を向いていない。
「ふぅ、さすがに走るのは得意じゃないからな。少しだけ休憩させてもらおうかな」
そう言うと剣城はぐったりとベンチに座り込んだ。
まだ夕方にはなっていないが月が空に浮かんでいる。少しの時間座り込んで休憩をとった剣城はのんびりと立ち上がった。
「もう走るの面倒だしな、、。もういいや」
すると剣城の身体全体から青白い光がほつりほつりと浮かび上がってくる。剣城の眼が青色に光った。
ゆっくりと眼を瞑るとさっきまで人の座っていたベンチから突如として小さな光と共に人が消えた。
眼を開けるとそこは目的地としていた隣町だった。
剣城の能力は
すると剣城の眼の色が徐々に戻っていく。
「さてと、時間もあれだからな。とりあえず今日の情報収集はやめておこう。まずは晩飯を買って近くの公園かどこかで夜を越すとするか」
そう言うと足を動かしてコンビニへと向かった。
もはや海羽など気にしていなかった。完全に剣城の中で空気となったのだから。
五分くらい歩くとコーソンというコンビニに辿りついた。中に入ると大音量でジャズが流れている。なかなか洒落てるが大音量はどうなのだろうか。
近くの棚に置かれてあったパンのコーナーに剣城が目を光らせた。視線の先にはサイズはでかめだが価格は安いと謳われるチョコチップメロンパンが堂々と置かれてあったのだ。
剣城は性格には合わないがメロンパンが大好き というなんとも可愛らしい一面もある。チョコチップメロンパンを3つほど手に取りイチゴオーレに手を出す。
完全に太る流れになっていることには触れてはいけない。剣城の逆鱗に触れることになる。
するとレジで会計を済ませ袋を右手に持ち、コンビニから出た。空がやけに眩しい。そう思いながら見上げてみると赤く染まった夕日の姿があった。
まさに幻想的な光景で、フェイトの中でもこれほど綺麗に夕日を見れるのはこの地域しかない。
剣城は夕日に背中を向けて近くの公園へと向かった。到着すると特に何も起きてはいなかった。
犯人はこの隣町に来ている。が、特にこれといった事件が見当たらない。何もしていないのか、というよりもあの時の公園が荒らされていた理由は何なのだ。
まだ謎は謎のままだが剣城は先ほど買った晩飯を食べようとベンチに座ろうとした時に、目の前にあるブランコに座って下を向いている一人の少年がいた。
こんな時間にどうしたのだろうか。
すると剣城は立ち上がって少年の隣に空いていたブランコにゆったりと座り込んだ。思わず少年はこちらを見やる。
「お兄ちゃんは誰なの?」
少年は剣城に一声かけた。
「俺は剣城 恭弥。ある事件を調べるためにここに来たんだ。君は何故ここにいるんだい?親は?」
その言葉に少年は表情が暗くなる。
「父さんと母さんは前に離婚してさ、僕は父さんについていったんだけど父さんがずっとここに帰ってきてくれなくて」
その言葉に剣城は疑問を覚えた。違和感といった方が正しいのだろうか。
「お父さんは君にここにいるように言ったの?」
少年は首を横に振る。
「父さんがいなくなったから、探しに来たんだ。でもいなかった。父さんは、僕のこと嫌いになったのかな。傍にいたくないって思ってるのかな……」
泣きそうになった少年の目の前に剣城がメロンパンを差し出した。
「とりあえず落ち着け。これ、食べていいぞ」
少年は剣城の目を見る。真っ直ぐな瞳で少年を見つめている。どこか光の届かない目をしていたが気にせずに少年はメロンパンを食べる。それを見て剣城は微笑んだ。すると剣城も昔話を始めた。
「俺は昔に両親から見放されてずっと一人だったんだよ。だからあまり人から受ける温もりがわからない。人に温かくしてあげることはできるけどね」
少年は思わず食べることを忘れて話に耳を傾ける。
「だから、君みたいな子を放っておくことはできない。昔の自分を見ているようで、気になるんだ」
「お兄ちゃんは、今幸せなの?」
思いがけない言葉に目を見開いた。その言葉はどこか自分を攻めているようで。
すると剣城は少しだけ笑いながら首を縦に振った。
「ああ。幸せだよ。たくさんの仲間にも恵まれた。みんな優しいし、温かい。いつでも俺の帰りを待っていてくれる。それだけで俺は幸せだよ」
剣城は少年の方へと顔を向けた。
「そういえば、、君。名前はなんて言うの?」
少年は小さく口を動かして名を悟る。
「絢斗。
その名前にどこか覚えがあった。柊家。かつてレイヴンの中でも力を誇っていた一族の一つ。 今でも変わらずに力を持ってはいるが、一部は徐々に力を失いつつあるという噂を耳にしている。
「絢斗くんか。家は近くにあるのかい?」
「うん。今日はありがと、お兄ちゃん」
バイバイと少年は手を振って家に帰っていった。
その小さな背中は過去の自分を映しているようで。剣城にとってはあまり思い出したくない過去を思い出した。
*
俺は一人っ子で小さい頃までは両親と暮らしていた。
三人仲良く日常を送っていた。
朝起きて、母さんと一緒に公園で遊んで、泥だらけになった服を身に纏いながら夕方に帰って、みんなで食卓を囲んだ。
父さんは仕事熱心な人でいつも俺と母さんの側にはいてくれなかった。だけどいつでも優しかった父さんは俺がどんなに泣いて叫んでも、温かく対応してくれていたんだ。
「母さん、お腹空いたよ。」
俺がそう言うと母さんはにこやかに俺の頭を撫でてくれた。とても大きくて、温かい。小さい頃の俺にとって大人の手のひらというものは、とても大きいものだった。
「じゃあご飯にしようね。」
俺は無邪気な笑顔でうん!と頷くとヨジヨジと椅子に座り母さんの作ってくれるご飯を待っていた。
そんな中家に一件の電話がかかってきた。母さんに言うと、代わりに電話しておいてと言ったので俺は椅子から降りて受話器を両手で抱えながら返事をした。
その大きな受話器から聴こえてきたのは紛れもなく父さんの声だった。
「母さんか?」
「ううん。僕だよ父さん」
そういうと父さんは受話器の奥でワハハと笑う。
「そうか恭弥か!いい子にしてるか?」
俺はしてたよ!と元気に返事をする。
「あのね父さん!今日はね家でいっぱい絵本読んでいっぱいお勉強したんだよ!!」
「そうか!恭弥は将来大物になれるな!!」
えへへ。と俺は笑う。そんな中父さんも奥で笑ってくれる。忙しいのにいつでも俺や母さんのことを考えてくれる父さんのことが本当に好きだった。
その大きな背中に憧れていつも父さんの背中を追いかけていた。
それが立派なものだと信じて。
父さんが電話を切ると俺はグッと背伸びをして受話器を置く。するとご飯を作り終えた母さんがキッチンからリビングに戻ってきた。
「父さんだったでしょ?元気そうだった?」
「うん!元気だよ!!」
そう言うと母さんはホッとしたように俺の頭をまた撫でた。美味しそうな匂いがしたので俺は急いで椅子へと戻った。すると目の前に好物のハンバーグが突如として現れる。目をキラキラさせながら両手を合わせ、「いただきます!!」とフォークを片手にバクバクと食べ始めた。そんな俺を見て母さんは微笑む。
それだけ自分の子供の無邪気な姿が可愛かった のだろう。
俺はふと手を止めて食べることを一時的に止めた。母さんは不思議そうに俺の顔を見やる。
「どうしたの恭弥?お腹いっぱい??」
俺は首をフルフルと横に振った。
「ねぇ母さん、父さん何の仕事してるの?」
聞いてみると母さんは表情を暗くした。深呼吸をゆっくりとすると口を開いた。
「父さんはね立派な仕事をしてるのよ。だから一生懸命頑張ってるの。だから、、」
母さんの言葉がふと詰まる。
「だから、恭弥も頑張らないとね」
頑張る!と言うと俺は食べかけのハンバーグを食べ始める。食べ終わって少しすると母さんが俺の横に座った。
「恭弥、明日誕生日よね。父さんきっとすごいプレゼント買ってきてくれるわよ」
五月十二日の翌日、つまりは五月十三日は俺の誕生日なのだ。明日で俺は六歳になる。小学校に入学できる歳になるのだ。
無邪気に笑って俺は近くの絵本に手をとる。
それは昔の童話の絵本。ヒーローが悪いことをする鬼を退治するというお話。俺のヒーローは父さんだ。鬼が何かは分からないけど父さんは戦っているんだ。
その後ドキドキしながら俺は布団の中へと潜り込んだ。すると俺は滑り落ちるように寝てしまった。
それは俺の将来を大きく動かしてしまった日へと近づいたことを意味していた。
目を開けて身体を起こす。周りを見てみたが父さんはまだ帰ってきていない。目を擦りながらキッチンに行くといつも母さんが立っている、はずなのにその日はその場に母さんの姿が見えなかった。
俺はまたすぐそばにある絵本を手にとる。第一として俺は友達がいない。近くに住んでいる子供とも一度もつるんで遊んだことがない。いつも一人で絵本を読んでいた。何も知らない時の俺にとっては特に苦痛でもないことだった。
そうして夕方になると、母さんが父さんと一緒に家に帰ってきた。俺は飛んで玄関へと向かった。
「おかえり!!」と言ってみると父さんはワンテンポ遅れて俺の頭を撫でた。
「恭弥、誕生日おめでとう。今日で六歳だな。父さんは嬉しいぞ!!」
頭を大きく撫でられながら俺は母さんに目線を変えてみた。するとそこに笑顔がなかった。いつもなら笑ってくれるのに、。
なんだろう。この胸騒ぎは、、。
夜ご飯になると父さんが冷蔵庫からケーキをテーブルの上に広げる。それを見た俺は飛び跳ねながら父さんの元に走っていく。父さんは笑顔で俺のことを見ると準備を進めた。
チョコレートケーキ。上にホワイトチョコの板で〝お誕生日おめでとう 恭弥〟と書かれていた。
それが何よりも嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
「誕生日おめでとう!!」
そう言うと俺はロウソクに灯された火をフーッ。と消した。全てが綺麗に白い煙を立てて消えた。
さっきまであったものがなくなった。何故か気持ちが切なくなる。
そして時間は夜中に近くなり母さんに寝室へと移動させられて俺は布団の中へと戻り寝ようとした。
寝ようとはしていたんだ。だけど何故か寝れなかった。胸騒ぎが収まらない。どうしてなのだろうか。
そう思っているとドアの向こうから母さんと父さんの激しい声が聞こえてくる。
「なんで、、なんでなのよ、!」
何を言っているのだろうか。何が起きているのかなんて俺は全く分からない。俺は思わずドアに耳を傾ける。するといきなりドタドタと大きな物音が立ち始めた。バタッ!!と音がして俺の胸騒ぎは速度を増した。
怖い、、。
するとまた向こうから母さんの声が聞こえてき た。
「お願い、、お願いだから!」
母さんの必死な声に俺は耳をもっと傾けてしまっていた。今までに聞いたことのない声が家の中に響き渡った。
「あの子だけは、、、っ!!!」
何かがグサッと刺さるような音がした。するとドアの奥で人がドタッと倒れた。俺は我慢できなくなってドアの開いた。
そこにはさっきまで綺麗だったのに荒れ果てた部屋、目の前で胸から赤い液体を流し倒れ込んでいる母さんに、それを見て立ち尽くしている父さん。
何が何だかわからない。
俺は父さんの方へ足を踏み出そうとした。その瞬間のことだった。目線が父さんの手元に釘付けになる。
変な黒い棒、、。
俺は怖くなってドサッと膝をついた。
するとゆっくりと父さんがこちらへ向かってくる。
「お前が、お前がいなければ!こんなことにはならなかったんだ!全部、全部お前の所為なんだ!!」
その時、俺は父さんのことを心から怖いと思うと同時に俺は一人になった。
目の光がない。まるで闇に包まれたような目をしていた。そしてそんな父さんを見て俺の何かが変わった。
父さんは、俺のヒーローなんかじゃなかったんだ。
でも母さんがヒーローでもない。ヒーローは絶対にやられないのだから。
なら、父さんが鬼なのか、、。
違う。そんなはずっ!!
誰だよ、、誰が俺のヒーローなんだよ!!
すると父さんは勢いよく黒い棒を俺に振りかざした。間一髪重症にはならなかったが、肩に大きく傷を負い母さんと同じように赤い液体が流れる。
父さんはそんな俺を見てニタリと笑う。
「なぁ恭弥。お前は〝扉〟の存在を信じているか?」
そんなもの知るはずもない。扉とは何なのか、全くわからない。分かるはずがないのだ。
「その〝扉〟に辿り着いた者は一つだけ願いを叶えることが出来るんだ。おとぎ話に出てこなかったのか?まあいい。俺は〝扉〟に辿り着くためにお前を殺す。いいよな恭弥?」
俺は首を横に振る。なぜ殺されないといけないのだろうか。
「なんで、父さんは俺を殺すの?」
そう聞くと父さんはニタリと笑いながら包丁をまた俺に大きく向けた。
「お前が俺の邪魔をしているからだよ!!」
すると黒い棒が俺の胸元に向かって振り下ろされる。
ああ。ここで死ぬのか
そう思った瞬間だ。あの人の声が聞こえたのは。
「やあ、見つけたぞ。∑(シグマ)所持高違反で剣城
その声に父さんは目を見開いて男の人に目を送る。
「おやおや、これは偽装世界の住人ではないか。哀れなものだな、、隠された世界でしか生きていけない
そう言って父さんが低姿勢で走り出し黒い棒を長い剣に変えて男の人へと武器を振るおうとした。振る前に男の人は目に見えない速度で父さんの背中に自分の背中を向けている。
すると父さんは痺れたようにその場に倒れ込む。男の人は父さんの持っていた剣をシュルルルと黒い棒に形を戻して俺の元に来た。
「はじめまして。君の父親を逮捕させてもらうよ。父親は犯罪を犯したんだ、理解しろよ人の子よ」
わからない、あの父さんが、優しかった父さんが犯罪者だって?でも母さんを殺された。その事実が変わることは無い。
すると男の人はまた俺の元に来て手を差し伸べた。
「俺は〝レイヴン〟に所属する柏木という者だ。どうだろうか?我々と共にこんな壊れた世界を変えていかないか??」
何を言っているのかわからない。だけどこの人なら俺のことを信じてくれる。
いつの間にか俺は男の人の手を握っていた。
その日から黒い棒、∑(シグマ)を使ってたくさんの犯罪者たちを捕まえてきた。もちろん戦争にも多く参加して好成績を叩いていた。能力に目覚めたのは男の人の手を握りしめた時だった。
そうして犯罪者を捕まえるうちにも、自分と似ている子供を多く見てしまう。その度に俺はこうして過去のことを思い出してしまう。
もう嫌なんだ、、。一人になるのは。
*
昔の思い出に浸りながら剣城はベンチに転がりそのまま寝てしまっていた。
そして起きた時間は夜中の二時。外は完全に暗くなり周りに何があるかなど上手く判別できない。気温も昼より低くなりかなり寒い。ゆっくりと上半身を起こし頭を掻いた。
「俺、寝てたのか。せっかくだし少し辺りでも散歩しに行くか、、ん?」
動こうとしたその時に下半身から温かくて柔らかい何かがかかっていたことに気づいた。剣城はその柔らかいものを掴んで目の前まで持っていった。
「これ、たしか」
すると隣から男の人のいびきが聞こえてくる。 聞き覚えのあるいびきだった。しかも毛布はそ いつがいつも使っている愛用のものだ。
剣城は左手でその男の頭を撫でる。
「総吾、わざわざ隣町にまで探しに来てくれたのか。しかも優しく俺に毛布かけやがって。まったく。」
そう言いながら剣城は海羽の身体に毛布をかけた。ちゃんと全身が温まるように。ふう。とため息をつくとベンチに座り込んだ。
「お前が起きないと散歩にすら行けないだろうが」
月は優しく二人をその光で照らしている。剣城はその光を温かく感じながらまた眠りについた。
そうして朝、起きると隣からガサガサと袋の音が聞こえてくる。一体何をしているのだろうと剣城は重い目を擦りながらそちらを見やる。海羽はそれに気づき少しだけ口を動かした。
「おはよう恭弥。今朝飯の準備してるからな」
そう言うとまた袋をガサガサとあさる。そして中から四角い袋を取り出してレジャーシートを公園に広げる。どうやらコンビニで色々買ってきていたらしい。空は雲に覆い尽くされている。
そして準備ができ二人で朝飯の時間を迎える。 すぐそばには大量のパン。レジャーシートの上に 山積みになり今でも倒れそうだった。
すると海羽はパンを片手に話を持ちかけた。
「昨日夕方くらいにさ若い人に会ったんだけど恭弥知り合いだったの?」
「ん?ああ。多分俺が昨日走っていた時にぶつかってしまった人だな。総吾も会っていたのか」
「あの人元マジシャンなんだってね。僕コップを使ったマジック見せてもらってさ感動したんだよね。そして成功させる前に出てくるさ、あのー、マジシャンがよく使っている黒いスティック?にしては太かったんだけどあれかっこいいよね!感動しちゃったよ!!」
剣城は海羽の言葉に違和感を覚えた。元マジシャンだとは俺には言わなかった。まあ、俺がそういう話を持ちかけなかったからかもしれないが。海羽にはそれを話して披露した。
「総吾、名前は聞かなかったのか?」
海羽は不思議そうな顔をした。
「聞いたけど?それがどうかしたの??」
剣城は思わず手に持っていたパンをレジャーシートに叩きつけた。
「名前!なんて言っていた!?」
「たしか、四大貴族の柊家だったと思うけど?」
その瞬間すべてが繋がった。そういう事か。剣城はゆっくりと立ち上がり海羽を見やる。
「総吾、今すぐそれを全部片付けろ。すぐに向かう」
「え?どこに行くのさ?」
真っ直ぐに目を見て剣城は冷静に答えた。
「その若い柊家の元にだ」
その後急いでレジャーシートとパンを片付けベンチの近くから私物が完全になくなった。すると剣城はもう一度海羽の方を向いて疑問点を提示する。
「この街と昨日いた街の間にある山なのだが、あそこら辺について知っている情報はないか?」
その言葉に海羽は真剣な表情をして答える。
「あの山は去年から閉鎖されることになって今では誰も近づかない場所だよ。」
おそらくダブルリーチから一気にダブルビンゴを達成できた。剣城はギュッと海羽の手を握る。
「いくぞ。
そう言うと公園から二人の姿が一瞬で消えた。
地面の感覚が感じられた時には閉鎖された山の中にいた。深呼吸をすると海羽が少し小馬鹿にするように剣城を見る。
「相変わらず恭弥の能力は便利だな」
剣城はその言葉に首を縦に振ると∑《シグマ》を起動させた。愛用はアタッカー用∑のグレイアだ。するとポツリポツリと雨が降り出した。
ゆっくりと真横に構えて木々の間を観察する。緑が生い茂っていて上手く辺りを判別できない。
すると木々の奥の方にササッと動いた人影を確認できた。それに気づくと剣城は能力を使って人影の背後に移動した。
人影は木々をザシュッ!!と切り裂いて走り抜けていく。その背後を一瞬で確保した。
「よお、柊家の裏切り者」
冷酷にそう言うとグレイアを思い切り振りかざした。人影はそれに気づき∑を使ってグレイアに対抗した。起動させたのはオールラウンダー∑の一つ、ギーラだ。すると人影は小声で何かを呟いてまた木々を斬って逃げていく。そんな背中を見ながら剣城は∑をしまった。すると剣城は右手を大きく前に伸ばし左手を肘に添えた。
「あまり使いたくないが、能力を発動させるよりは楽に片付くはずだ」
地面に何か紋章が浮かんでいく。その紋章はパアッと紫に光を発した。
「『 古より伝わりし紅き瞳を持つ黒の怪物よ。我が魂に答え汝我に力を与えよ!!』」
徐々にその光は大きくなり剣城の身体を全て包み込んだ。風が吹き荒れガサガサと木々が踊りだす。
「『
すると光を発していた紋章から黒い何かが剣城の右手を覆い尽くす。爆風と共に力が注がれていく。それを全て操るかのように剣城はグッと右手を真っ直ぐに伸ばし力を入れ続ける。突然一番強い爆風が勢いよく吹き荒れて辺りの木々を全て吹き飛ばした。
爆風が収まると剣城の右手には禍々しい殺気を纏う黒い大剣の姿があった。ゆらゆらと放たれている黒いオーラが暴れたがっているかのように量を増していく。
剣城は大剣を右から横にと思い切り振りかざした。
すると黒いオーラが一気に振りかざした方向へと吹き飛んでいく。爆風もそれを後押しをして辺りの木々を全て薙ぎ払った。
人影はそのとんでもない殺気を感じ取り厳重にバリアを重ねてその一瞬をギリギリ防ぎきった。爆風が収まると人影はバリアを解き逃げようとした。
その先にはゆらりと殺気を纏い立ち尽くし雨に濡れている剣城の姿があった。
「去年から閉鎖されていることを知りながらもランニングと言って山の中へ俺と会った後に入り込もうとしたが、案の定海羽と出会ってしまって俺が隣町に行ったと言い張ったがマジシャンが使わないはずの黒い何かをスティックと間違えられてマジックを披露した。そして公園の近くには誰もいなかったと証言があるというのに、犯人についての情報を知ってるところに矛盾が生まれる。さらには今目の前にはオールラウンダーのギーラが発動されている」
剣城は深い目で人影の持ち主を見やる。
「∑《シグマ》を所持しているとなると必ず総本部長と顔を合わせているはず。適合試験でオールラウンダーのギーラの使い手となった四大貴族の柊家。そこに元マジシャンの経歴を持つのはたった一人しかいない。全て合ってますよね?四大貴族の裏切り者の柊
すると蓮哉は片手を顔にひたりとつけてクスクスと笑い出した。
「正解ですよ、剣城 恭弥さん。まさかここまで隣町からおいでになるとは思っていませんでしたよ。本当に貴方の能力は便利ですよね、『時の魔術師』と呼ばれし男の実力は本物ですか」
「それよりも四大貴族のあんたが何故このようなことに手を染めたんだ。お前ならまだまだ使い道を選ぶことができたはずだろうが」
その言葉を聞くと蓮哉はお腹を抱えて笑い出す。
「おかしなことを言いますね貴方は。私の実の子供、柊 絢斗のためですよ。」
柊 絢斗という名前に剣城はピクリと反応を示した。
たしか昨日の夜に同じ公園でブランコに座って一緒に話していた子供のことじゃないか。
「絢斗のためなら何でもする。人を殺して金を奪い取ってでも絢斗の傍にいてあげたいんですよ。なのにあの子は私の邪魔ばかりする。私にはわからない、あの子が何を考えているのか。だから絢斗を置いてこうして暴れまわって金を手にして絢斗の傍にいてやりたいのさ!!」
その言葉に思わず剣城は手加減なしに蓮哉の首根っこを掴み、思い切りすぐそこに立ち尽くしていた木に叩きつけた。その瞬間に剣城の脳裏に絢斗の言葉がよぎる。
『父さんは、僕のこと嫌いになったのかな。傍にいたくないって思ってるのかな、、』
首根っこを掴んでいる右手に余計な程に力が入る。
「確かにお前には人の心を読める力なんてない。考えなんてわかるわけがない」
「そうだろう。だったら、、!!」
「だけどお前の考えは間違ってるんだよ!!」
蓮哉はまるで穢らわしいものでも見るような目で剣城を見つめている。
「絢斗くんは、あんたが傍にいてくれるだけでよかったんだ!!」
剣城の心からの叫びに蓮哉が反対の意を示した。
「なぜお前にそんなことがわかるんだ!お前は人の心でも読む力があるとでも言うのか!?」
その言葉は剣城の火に大量の油を注いでしまった。
「ふざけるのも大概にしろ!!あんたは絢斗くんの父親なんだろ!なんで子供の気持ちを受け入れてやれないんだ!!」
するとゆっくりと剣城の右手に込められた力が抜けていったが首根っこは掴んだまま、残酷な程に雨が二人を嘲笑うかのよう濁流のように降り始める。
「人を殺して絢斗くんは喜ぶのか?人から盗んだ金であんたは絢斗くんを幸せに出来るのか?そんなことをしないとあんたは絢斗くんの傍にいてやれないのか?違うだろう!絢斗くんはこんなことなんて一切考えてなんかいない!あんたに!自分のお父さんの傍にいられるだけで!それだけでよかったんだ!!」
すると剣城の瞳から水が流れ始めた。怒りの気持ちもあるのだが、過去の自分まで全否定されているようで悲しいという水が流れている。
「なんで、、なんで傍にいてやらないんだ!あんたは、絢斗くんの父親なんだろっ!!」
その言葉に蓮哉は膝をがくりと落とした。
「だが!あの子を幸せにしてやるには金が必要なのだ、!だから私は!!」
その煮えきらない態度に剣城はまたカッとなる。
「なんでまだわからないんだよ!金なんていらないんだ!!あんたが傍にいてくれるだけでいいんだよ!!」
すると剣城は∑《シグマ》を取り出しグレイアを起動させる。その姿を見て蓮哉は足を竦めてこちらを見ている。
「ま、待て!殺さないでくれ!!まだ、、!俺はあの子にしてやらないといけないことがたくさんあるんだ!!だから、、!!」
必死すぎる光景に剣城は深呼吸をする。
「ここで罪を償わせる理由にはいかない。あんたの罪は、絢斗くんの前にしっかり立って『ごめんね、ありがとう。』って言ってから償ってもらうんだ。せめて今だけ、あんたとあんたの子供に生命があることを神様に縋るといい」
そう言うと剣城は蓮哉の首にグレイアをピタッと引っつける。
「
強い電力が蓮哉の身体にぐるりと流れ込み横に 意識を失って倒れ込んだ。雨のおかげで余計に強い電力が一瞬でまわってしまった。すると剣城はグレイアを元に戻しベルトに差し込んだ。
「おーい恭弥。大丈夫だったか?って、あーぁ。この人どうするのさ?」
その後総吾が走り込んできてその光景を目にした。そして剣城は蓮哉を背中に背負って総吾の手を握った。
「総本部長の元に連れて行って子供の前で謝ってもらう。ほら、いくぞ」
そう言うと能力を発動させて何事もなかったかのように山から姿を消した。
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