エピソード2 通常世界での出来事

 迅の言葉に一同が口を閉じる。こことは別世界の話題を振ったのが間違いだったのだろうか?

 その静けさの増した部屋の中高村が大きく深呼吸をした。

 「よし。とりあえず飯にするか」

 迅と満瑠はお腹が空いていたので喜んだ。今日は志保特製のオムライスらしい。笑って場を和ませようとする高村に斧谷が耳元で呟いた。

 「いいの?僕達このあと...」

 「まずはこいつらをあの場に行かせるのが先だろう。よし。俺と斧谷は本部から招集をかけられてるから昼飯は食べないからな。一人で二人分食べてもいいって言われたと志保に伝えとけ」

 了解しました。と二人は笑顔で志保の待つリビングへと向かう。ドアが閉まり二人だけになった。

 「あーぁ。先に言ってあげればいいのに。意地悪だなぁ慎ちゃんは」

 「うるさい。別に意地悪で言ってないんじゃないんだ。これは一つの優しさだよ斧谷」

 その言葉に斧谷は少し笑みをこぼした。すると高村の携帯電話のバイブが静かな場所で鳴り響いた。


 ピッ。

 電話をかけてきたのは柏木総本部長だった。

 「はい。第四支部 白虎支部長 高村慎太郎です。出撃命令ですか?」

 「そうだ。今から南東エリアの出撃ゲートに移動してくれ。今回はエルドラがこちら側へ攻めよってくる。だが勝たなくていいから、せめて追い返してくれないか?」

 総本部長の弱気な命令に高村が水をさした。

 「なにか勝てない事情がある、ということでしょうか?」

 その言葉に電話越しであったが総本部長のため息が聴こえてきた。その後、しばらく言葉を口にしなかった。

 「、、総本部長?」

 そして言葉のまとまった総本部長が高村にその理由を簡潔に話した。

 「エルドラには〝賢者の末裔〟が存在している。だから、、頼む」

 その言葉に驚愕した高村は小さく返事をした。


 「了解しました」


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 一方その頃迅と満瑠はリビングで食事の手伝いをしていた。

 「とりあえずアカメくんはお皿だして満瑠くんはお箸取ってくれないかな?」

志保の的確な指示で徐々に食事の準備が整い始める。そんな中指示には従うがめんどくさがっている者がいた。

 「あらかじめ自分で出しとけよな」

 迅だ。

 「アカメくんだけ一人分にするわよ??」

 「え?それは困る!あぁもう!ごめんなさい!!!」

 そんな平和なやりとりがリビングで行われていた。すると志保はお皿の上にオムライスを乗せてケチャップを二人に渡した。

 「なにか卵の上にケチャップでイラスト描いていいわよ」

 やった!と言わんばかりに二人はケチャップで遊び始めた。その光景はまさに子供が楽しく遊んでいるようなものだった。志保はそんな光景を温かく見守っていた。そして二人が食べ始めると志保はフライパンなどを洗い始めた。

 ガツガツとオムライスを食べる迅と満瑠。迅は途中でむせて喉にご飯が詰まっていた。満瑠はそばにあった水を迅に飲ませて危機を回避させる仕事をしていた。

 そんな家庭内の食事時間の中迅が志保に一つ質問をした。

 「なぁ志保。支部長と斧谷さんがささっきどこかに行ったらしいんだけどどこに行ったか知らない?」

 その質問にピタッと手が止まった。


 「大丈夫よ。心配することなんてないわよ。仮に何か辛いことがあっても、斧谷さんがいるなら二人とも笑って帰ってくると思わない?」

 志保は冗談交じりに会話を逸らすことに成功した。それもそうだなと笑いの方へ話を持っていくことができた。志保は冷蔵庫を空けて、何かを取り出そうとしたが目的の品がなかったのか迅と満瑠におつかいを頼むことになった。


 「アカメくん、満瑠くん。悪いけどピーマンと小麦粉買ってきてくれない?ちょっとだけ材料足りてなくて、頼めるかな?」

 いいよ。と二人は返事をしたが志保の表情はどこか暗く感じ取れた。そんなこんなでご飯を食べ終えた二人は仲良くおつかいに行くことに。

 「ピーマンと小麦粉だよな。のんびり買いに行ってくるから」

 迅はそういうとドアを閉めて二人でおつかいに行った。二人がおつかいに行ったのを確認するとドタドタと自分の部屋へと帰っていった。 

 パソコンの電源とヘッドホンをつけてカタカタとキーボードをいじり始めた。その画面に写っていたのは高村と斧谷の姿だった。


 「お二人方すみません!オペレート遅れました!!」

 その声に高村は耳につけているイヤホンマイクで返事をした。

 「遅いぞ志保。早めに突撃したいところだが一つだけいくつか作戦を変えてくれないか?」

 高村の真剣な口調に志保は耳を傾ける。

 「エルドラに例の化け物がいるらしい。最終的には奴らを追い返すことが目的と総本部長が言っていた。志保、これに沿りきったオペレートを頼んだ」

 「了解しました。ではただいまより第四支部 白虎 支部長、副支部長の高村慎太郎、斧谷新に対するオペレートを開始します。いきます。攻撃開始!!」



 一方呑気におつかいに行っている迅と満瑠は

早くもショッピングセンターについた。その勢いでお惣菜コーナーへと向かう。

 「満瑠。ピーマン探してくんない?」

 迅はのんびりした口調で満瑠にピーマンを探させる。カートをカラカラと動かしている傍に一台のカートがぶつかってきた。大きくぶつけてしまったため向こうのカゴに入っていた商品が床に散らばってしまった。すみません!と迅は商品を拾って相手に渡した。


 「すみませんでし、、た!?」

 カートでぶつかってきたのは共に実技試験を受けてアタッカー専門部隊 第三支部 紅花こうかに配属になった右京慄也うきょうりつやと、オールラウンダー専門部隊 第五支部 刹魔せつまに配属になった日高敏暁ひだかとしあきだった。

 もちろん驚いたのは迅だけじゃない。敏暁や慄也も同様だ。

 「え!?トッシーに慄也じゃん!!」

 「お、迅くんじゃん。こんなとこで会えるなんて奇遇だね〜」

 「というか迅!俺の持っていたカートにぶつかってくるなよ!危ねぇだろ!!」

 「危ねぇのはお前だろ!いきなり真横からすごいスピードで衝突してきただろうが!危ないのはどっちだよ!!」

 迅と慄也の安定の空気。久々なので敏暁も戸惑っている。そして口喧嘩をやめようと慄也がきりだした。

 「お前と喧嘩してもなんの価値もないからな。今回は見逃してやるよ」

 どうしてもこの上から目線だ。どうにかならないものか。

 すると向こうから完全に空気になった満瑠が帰ってきた。

 「迅〜。ピーマン見つけたよ、、て。そこにいるの迅の友達?」

 そうか。満瑠は俺達と別の時期に実技試験を受けてるから顔を合わせていないのか。

 「うん。敏暁ことトッシーと慄也だよ」

 よろしくね。と二人と何気ない空気を作り出した。さすが満瑠。なんでもありだな。

 「あ!じゃあせっかくだしみんなでおつかいしようよ!」

 は?と迅と慄也が口を揃えた。

 「は?じゃないよ。みんなでおつかいした方が楽しいよ」

 結局この流れで三組の支部の初心者たちがショッピングセンターでおつかいをしているというなんとも奇妙で複雑な状況になった。


 なんなんだこの状況は。


 そう思いながら四人でおつかいを続けていた途中のことだった。のんびり買い物を続けている最中に敏暁がふと目線を他にやった。

 「迅くん、ちょっとヤバい」

 敏暁の目線の先には謎の黒い服装をした人が二人。さらにはなにやら爆弾を設置した。この時代にここまであからさまに犯行を起こすなんてよほどの勇者だな。

 そう思ってはいたが迅の目線も爆弾から逸れることがなかった。


 「まずいぞ、時間が」


 「なにを言ってるんだよ迅。ほらさっさと行くぞ...!!」

 慄也がそう言いかけた時にはもう既に手遅れだった。小さく爆弾が光り次の瞬間ドオオオン!!と大きく音をたてて爆発した。


 「遅かったか!お前ら!とりあえず全員こっちに来い!!」

 迅は三人を連れて一斉に物陰に隠れた。だがその向こう側で犯行グループがそこら中を荒らしている。パン!と銃声が何度も鳴り響き人々の悲鳴が収まらない。

 「くそ!なんでこんなことに!!」

 慄也が立ち犯行グループの元に駆けつけようとした。がその行動を迅と敏暁の手で止められた。

 「離せ!あいつらを倒さないといけないだろうがよ!!」

 「だからと言ってむやみに突っ込んでいいものじゃないんだぞ!!」

 迅は慄也に向かって怒りをぶつけた。こんな迅を見るのは初めてだ。くそ!といい慄也も共に腰を下ろした。

 「打開策があればいいんだけど、、。迅、どうしようか?」

 満瑠は不安そうな顔を迅に向ける。迅だって打開策を考えるだけで必死だ。

 一番手っ取り早い方法なら一つだけある。Σ《シグマ》を使って相手を捉えればいい。だが、一つ問題が生じる。確かにΣ《シグマ》を使うと楽に終わるが相手を傷つけてしまった場合、こちらとしてはデメリットしか後には残ることがない。

 「どうすれば..」

 迅は必死に頭の思考を続ける。


 考えろ考えろ考えろ思考を止めちゃだめだ

 考えろ考えろ考えろ考えろ!!!!


 するとハッとしたように頭を振り上げた。

 「そうだ。これなら、いける!!」


 迅は向こう側にいる犯行グループの状況把握を始める。

 今、あそこにいるのは黒い服に本物の銃を持った犯人が五人か。右に二人、左に一人、真ん中に二人。となると、、


 「慄也、満瑠。二人は真ん中を倒せ。俺とトッシーで両サイドを攻める」

 その指示に少し不安を感じた満瑠の手はまだふるふると震えていた。そんな満瑠の手を迅がしっかりと握る。

 「大丈夫。もしお前らが危険な状況になったら全てを投げ打ってでも助けてやるから」

 その言葉に全員の意志が一つになった。慄也も、敏暁も、満瑠も、迅も。考えること、成し遂げることは一つだけ。

 「いくぞ。この場で捉えられた人質を全員助けるぞ!!」


 一方向こう側で犯人グループは人質を捉えていた。

 「というか大丈夫なんですかこれ?もうすでに警察も周り取り囲んでますし」

 「うるせぇ!これだけいれば相当な額を支払いにくる!!ごちゃごちゃ言わねーで俺の指示に従ってろクズ!!」

 おそらく今大声で怒鳴りつけたのが犯行グループのリーダーだろう。

 その声はもちろん迅たちのところにも筒抜けだった。

 「あいつバカじゃねーの?」

 慄也が笑いそうになって口もとを抑えていた。

 その言葉に一同が頷く。すると頭上からマイクを通して犯行グループが放送をし始めた。

 「いいか警察よぉ!俺達には大量の人質がいる!返して欲しければ金を用意しろ!!1000万だ!30分以内に用意できなかったらこの場すべて爆発させるぞ!!」

 おそらくこの放送は店を通じて外にも聞こえていないのだろう。なんにしろここのアパートの窓は防音式だし、すべての窓が閉まっているのだから。それにすら気づけない馬鹿がよく人質を捕らえて犯罪を起こせたな。

 そしてその放送を合図に四人は一気に犯行グループに駆け込んでいった。

 「絶対怪我させんなよ!!」

 迅は全員にそう伝えると右側の二人の方へと走っていった。もちろん目の前には本物の銃を持った犯行が二人こちらに視線をやって立っている。

 「あ?なんだクソガキ??まだ捕まってなかったのか、。大人しく捕まれ!!」

 「だったら上手く捕まえてみろ!!『セレクト:グレティス』!!!!」

 Σ《シグマ》を上に放り投げて双銃になったところを迅が両手で取りに行った。そちらに向かって犯人が銃を構える。

 「ガキに弾打つのは気が引けるがこの際仕方あるまい!!」

 犯人が引き金を引こうとした時に迅が奥の方を見つめて大声をだした。

 「今です!支部長!!」

 その声に反応して犯人が一斉に迅から視線を逸らした。


 倒すならこのタイミングしかない。ここで外れたら右側はゲームオーバーだ。あの時、俺を強盗犯から守ってくれたあの人のことを思い出せ!!使っていた武器はグレティスだった。なら俺にもが使えるはずだ!!


 そして目を見開きしっかりと二人の犯人の頭の方へと銃口を向けた。角度も位置も完璧!

 この一発でコイツらを仕留める!!


 「《ミストジャミング》!!!!」

 迅が思い切り引き金を引くと強力な超律波が二人の犯人を襲った。

 「う!なんだこれ、、!このガキがやっ、、た、のか、、、。」

 ドサッと犯人が同時に意識を失い倒れ込んだ。

 そして迅は二人の持っていた銃に手をかけて取り出した。本物の銃とΣ《シグマ》ではかなりの重量の差があった。もちろん本物の銃の方が圧倒的に重かった。

 「さっさと処理するか」

 そういうと二つの銃を窓側に放り投げてグレティスの引き金を引いた。

 ズギュュン!!という光の弾の発砲音と共に銃が粉々に砕けちる。


 左では敏暁が一人の犯人と対峙していた。

 敏暁はオールラウンダー。使っているΣ《シグマ》はガーネット。燃え盛る焔が特徴的な武器だ。犯人は敏暁に向かって銃を構えて何発か大きく撃った。

 「危ないよー。《メタルシールド》!!」

 右手を大きく開いて前に押し出すと鉄壁が出現して、その弾を軽く跳ね返した。

 「跳弾には気をつけてね〜」

 さらりと恐ろしいことを言う。犯人側も忠告に従っているのかはわからないが跳弾を気にしてしっかりと避けていた。

 「おー、やるね〜。じゃそろそろ終わらせようかな?」

 そういうと敏暁の右手に持っていたΣ《シグマ》が大きな剣に変化した。

 これがオールラウンダーΣの大きな特徴だ。

 オールラウンダーは全職の武器をほどよく使いこなせることができる。故に銃、剣、スナイプ銃、防御壁。すべてを一つのΣ《シグマ》で使うことができる。そして変化させた剣を思い切り振り払い犯人の銃を思い切り吹き飛ばした。

 犯人側の手に傷がつきそうなくらいスレスレなところに剣を奮ったのだ。

 「迅〜、この銃も頼んだよ〜」

 軽い言葉と共に宙を舞うようにふわりと銃が迅の元に飛んでくる。その銃にピントを合わせグレティスの引き金をもう一度引いた。もちろん音と共に銃も粉々に砕け散った。


 一方では慄也と満瑠がリーダーと幹部的存在の犯人と戦っていた。

 「ガキがちょこまか動くんじゃねーよ!!」

 リーダーがそう言いながら慄也に向かって何発も弾を撃っていた。だが弾一発としてかすらずにすべての弾を避けきっていた。

 「こう見えても先輩にしっかり鍛えられたからな!この程度の弾くらい余裕だ!!」

 若干相手を煽りつつ慄也は笑いながら弾を避ける。満瑠も一方で幹部と戦っていたのだが幹部が全く戦おうとしないので満瑠はΣ《シグマ》を構えながら、共に顔を見つめあっていた。そのところ幹部が口を開いた。


 「ねぇ、この争い意味あんのかな?リーダーももうじきやられそうだし負け確定なんだよね。というかリーダーが弱すぎて犯行グループとして成り立ってないんだもん。そう思わない?」


 「お、思います、、?」

 幹部の毒舌っぷりに満瑠は思わず戸惑いながら生半可な返事をした。そんな会話でよく分からない空気がしばらく続いた。


 「てか君の持ってるその銃。デザインすごいかっこいいよねー。リーダーがデザインしやがったこのクソダサい銃とは正反対だよね。いーなー、交換しようよ」

 完全にリーダーを下に見てるよこの幹部!しかもデザインしやがった、て言い方がいちいち酷すぎない!?

 満瑠が呆然としていると幹部が銃を満瑠に投げ捨てた。その飛んできた銃を満瑠が焦りながらもしっかりとキャッチした。

 「もう負け確定だし、戦うの嫌だから僕の負けでいいよ。この銃壊していいよ。あ、大丈夫だよ。別に反抗なんてしないから。犯行はしたけどね。フフッ」

 もう理由がわからない。だけど幹部が勝負を投げ捨てたのは確かだ。なかなかつまらないダジャレを披露したあとはぁ、疲れた。と言いながら近くで倒れている仲間のフリをしてゆっくりと倒れ込んだ。

 満瑠もここまでされるともう状況が理解できていなかった。そのあと満瑠はどこか気に食わなさそうな顔でΣ《シグマ》を使って迅と同様に例の(クソダサい)銃を粉々にした。


 そんなやりとりが行われている最中急に真ん中からガタッ!!と大きな音がした。迅たちがそちらを向いてみるとそこにはさっきまで余裕ぶっていた慄也の足から流れる血、そして逃しまいと首を掴み宙に慄也をぶら下げているリーダーの姿があった。

 「慄也!!」

 迅は大声で叫ぶと思い切りリーダーの方へと走り込んでいった。

 「てめぇ!!よくも慄也を!!!」

 走り込んでくる迅に向かってリーダーは白く光る大きめのナイフを慄也の首にひたり、とつけた。その行動に迅は思わず足を止める。

 「おっとそこから動くなよ。動いたらこのガキの命はねぇからな!!」

 まるで勝ち誇ったようにリーダーは大きく笑いながら強く首を絞める。首を絞められる度に慄 也の顔が少しずつ青ざめていく。

 そんな光景を見て迅は苛立ち忠告を聞かずもう一度走り出した。

 「慄也ぁぁぁぁ!!!」

 迅がそう言いながら走り込むとリーダーがニタリと笑った。


 すると....

 パアアアアァァン!と一発の発砲音が鳴り響いた。その弾は迅の横腹に直撃し、酷く出血し始めた。

 「っ!!」

 迅は走り込んでいた勢いで前方に勢いよく転び横腹を抱えて倒れ込んだ。そしてそれを見て慄也がリーダーに反抗し始めた。


 「てめぇ!さっきお前の持っていた銃の弾はすべて切れたはずだろ!!どこから新しい銃を出したんだ!!」

 その怒りのこもった言葉にリーダーが笑いながら返事をした。

 「残念だなガキ。俺がいつ弾切れだと言った?隠し銃だ。あらかじめ右腕につけておいたんだよ!!」

 勢いで慄也の首がまた絞められ顔色が徐々に悪くなる。そこに敏暁も突っ込みに行こうとしたが満瑠が手を引き危険だと止めた。

 「どうしたガキども?圧倒的すぎて反抗する気が失せたか??」

 などとリーダーがほざいているとゆっくりと迅が出血の酷横腹を抱えて立ち上がった。その横腹を見て慄也が不可解な顔をした。

 どうなってやがる、さっきまで大量出血してたくせにもう服から血が垂れなくなっているだと?まさか、、この短時間であの傷口が塞いだのか、、?いや、そんなこと、、。


 迅は横腹を抱えながらゆっくりとグレティスを手にとった。


 「どうした。この程度の傷でが倒れ込んだままいると思っていたのかい?君は驚くほどお調子者だな」

 なんだと、とリーダーの顔が厳しくなる。

 「調子に乗るなよガキ。動いたらこいつを殺すと言っただろう!ぐったりと這いつくばってろ!!!」

 そういうとナイフの刃が慄也の首元に突きつけられた。その光景を見て迅はため息をついた。

 「君、頭が狂ってるんだね。可哀想に。僕がもっと狂わせてあげるから安心して....」

 迅がそう言った時にはリーダーの視界には迅の姿が見えなかった。

 「な!?どこに行きやがった!!」

 必死にあたりをブンブンと見回したが姿が見えない。するとリーダーの背後から頭に銃口が突きつけられた。

 そこにあったのは紛れもなく迅の姿だった。リーダーは思わずナイフをぶらりと下げ慄也の首を離してしまった。慄也はこのタイミングで満瑠たちの元へと走り込んでいった。

 迅は銃口を突きつけたまま小さく一言。


 「

 その言葉を聞いてリーダーは震えながら後ろに顔を向けた。

 緑青色に赤色のオッドアイが冷たい視線でリーダーを見つめていた。


 「いや、だ。やめて、、くれ、。」


 「《ジャミングブレイク》」

 そう呟いて迅は引き金を引いた。すると足元と頭上に大きな青い魔法陣が出現した。迅はすっと距離をとった。リーダーはわけのわからないまま魔法陣の中にいる。徐々に何者かに操られているかのように陣の中で身体を固定された。


 次の瞬間

 「ギャャァァァァァア!!!!」

 リーダーの全身に強力な力がかかった。完全に意識を失ってもなおジャミングが長々と続いた。迅が銃を下に降ろすと魔法陣が何事もなかったかのように消えてリーダーはそのまま地面に倒れ込んだ。

 慄也たちからしたら状況が全く理解できていなかった。視界にいた迅が、突然リーダーの背後に立っていて、次の瞬間にはリーダーが地面に倒れ込んでいる。

 どうなってるんだよ。まるでみたいじゃねーか。

 すると徐々に迅の手に持っていたグレティスが元の形へと戻っていく。それとともに慄也たちが迅の元に駆け寄る。

 「迅!大丈夫!?横腹の怪我は??」

 満瑠はとても心配した顔で迅の怪我の状態を確認しようと服を捲った。

 「、、え?」

 その一言で慄也と敏暁の表情が固くなった。

 撃たれたはずの傷がどこにも見当たらない。

 どうみても撃たれた形跡が、迅の身体から見当たらなかった。もはや人間の回復力を遥かに上回っているのではないかと慄也は考えた。すると迅がゆっくりと目を開いて身体を起こした。

 「今の間に一体なにがあったんだ?」

 何気ない迅の言葉にその場の全員が顔を見合わせた。

 「おい。ほんとに何も覚えてないのか?」

 慄也が聞いてみるが迅は首を小さく横に振った。すると満瑠が迅の手を握った。

 「迅くん、身体が痛いとかない?熱は?大丈夫なの??」

 「満瑠、お前は俺の母さんかよ」

 そんなやりとりの中外から警察が現場に入ってきた。十五人ほどの警察がドタドタと現場に散らばる。そのうちの一人の警察がこちら側に来て腰を下ろして警察手帳を見せた。


 「警察だ。君たち怪我はなかったかい?」

 その言葉を聞いて一同が慄也の足に目をやる。

 そのあと迅が警察に返事をした。

 「こいつの右足を犯行グループの一人に撃たれてるんですが、、。大丈夫ですかね?」

 そのさりげない気遣いに慄也が照れたように迅に言葉でぶつかった。

 「この程度の傷なら大丈夫なんだよ!いらねぇ心配するなボケ!!」

 「はぁ!?せっかく心配してやったのにボケはねぇだろうがよ!!」

 本当に犯行グループと戦っていたのだろうかと警察が疑ってきたので敏暁がコクリと頷くと、納得できていないような顔で警察がこちらを見ていた。この口喧嘩も久々に聞いたものだ。迅と慄也の喧嘩は実技試験以来のやりとりなのだから。

 そして犯人たちのゴミ処理は警察に任せて四人は建物の外にでた。もう外は暗くなってきていて夕日がもうすぐ沈みそうだった。

 「あーぁ。一日がまたこうして終わっちゃうなんて面白くねぇよな〜。」

 「まあまあ、別にいいんじゃない?また明日になれば一日が始まるんだから」

 迅と満瑠はのんびり歩きながら話していた。すると後ろでゴホンと慄也が大きくわざとらしい咳払いをした。

 「どうせなら今日の晩御飯、うちの支部で食べてけば?助けてもらった借りを返したいというか、。」

 まさかの言葉に迅が思い切り食いついた。

 「まじで!?ラッキー!!よし。とりあえず志保も呼ぶか」

 慄也の支部の承諾なしにどんどん話題が進んでいく。満瑠も乗り気になって迅と一緒に電話をかけている。そんな慄也の隣で敏暁が話し出した。

 「いいの?勝手に連れて行って。というか僕も行っていいんだよね??」


 「ふん。好きにしろ」

 ありがと。敏暁が言うと慄也は近くに建っている店の看板を見て視線を敏暁の目から大きく逸らした。やりとりの結果。志保も食事会に参加することになった。四人は適当に喋りつつ紅花の支部館の前まで移動していた。

 慄也がドアを開けるとそこには猫と戯れる一人の青年の姿があった。


 「お?慄也。後ろの子達は友達かな??と。あれ?君もしかしてあの時の」

 青年は興味深そうに迅の目の前まで移動した。

 迅も一時は気づいていなかったが顔を見ているうちにハッと思い出したような表情を青年に見せた。

 「やっぱり!君、確か僕が昔き強盗から守った子だよね!?世良せら 光助こうすけだよ。覚えてるかな?」

 その名前を聞いて迅もはっきりとその時のことを思い出した。


 勝手に俺を実技試験に連れて行った人だ!!


 「覚えてるよ。えっと、、」

 戸惑う迅を見て世良はクスッと笑った。

 「光助でいいよ。君のことはなんて呼べばいいのかな?」

 その言葉に少し戸惑い満瑠と目線を合わせてからそれを言葉にした。


 「俺のことは〝アカメ〟って呼んでよ光助」

 了解と世良は敬礼をした。その反応に迅が笑い始めた。笑いが落ち着いてきた頃に世良が四人をリビングへと連れて行った。

 「こっちにおいで。慄也くんを助けてくれたお礼に今日は豪華に振舞ってあるからね」


 世良に連れられるままにリビングへと移動すると好物のピザ、唐揚げ、じゃがバターなどが大量にお皿に盛り付けられてあった。

 そしてテーブルの前に座っている支部の人達に迅が目を送った。

 「そうか。アカメもこいつらに会うのは初めてだったかな。とりあえず自己紹介といこうかな」

 そう言われたのでとりあえず目の前で布団をかぶってゴロゴロしている人に視線を向けてみた。

 身長はまだある方だ。髪はオールバックになっていて耳につけているピアスが眩く光っている。

 「そいつは椎名しいな あきら。基本的に支部館にいるときはあんな感じでゴロゴロしているから、特に気にしなくて大丈夫だよ」

 世良がそう言うと椎名はクルリとこちらへ顔を向けて一礼。すると台所の方からとても明るい声が聞こえてきた。

 「なにやってんすか世良さん!、、て!うおおおお!!すげぇ!世良さんがお客さん連れてきてるっす!!椎名さん!お客さんっすよお客さん!!!」

 「、、うるせぇ。喋るな陽斗はると

 椎名にキッパリとうるさいと言われ傷ついたかと思いきや、特になにも気にせずにこちらを向いて自己紹介をし始めた。

 「俺の名前は前川まえかわ 陽斗はるとっす!基本的に戦闘ではトラップ担当っす!!仲良くするっすよ!!うおおおお!!」

 前川が出てきた瞬間に一気に場が騒がしくなる。ふと周りを見渡してみるとその場の全員が耳を塞いでいたのが確認できた。やっとおさまったタイミングで世良が頭を掻きながらイスに座った。

 「あと、向こうの台所で料理を作ってくれてるのがうちのオペレーターの寺本てらもと 美華みかだ。おい美華〜。ちょっとだけ顔をだしに来てくれないか??」

 大声で呼んではみたがあまり乗り気ではなさそうな返事が帰ってきた。

 「、、大丈夫です。ちゃんと、あとでそちらに、行きます、、ので」

 言葉が完全に途切れ途切れだったのに少し興味がいった。

 「ああ。美華は人見知りでね。きっとお客さんと聞いて緊張してるんだと思うよ。ごめんね、こんな支部で」

 世良は笑いながら迅たちに軽い謝罪をした。

 いえ、大丈夫です。と満瑠、迅、敏暁が返事をした。するとインターホンがピンポーンと鳴り、またお客さんが来た。画面を覗いてみるとそこに映っていたのは志保の姿だった。

 世良がちょっと待ってね〜。というと急いでドアを開けに行った。ガチャリとドアが開いてリビングへと向かってきた。入ってくるとそこには顔を真っ赤にした志保がいた。

 「お、お久しぶりです。紅花の皆さん。」

 志保の声にさっきまでゴロゴロと転がっていた椎名が突然動き出した。

 「おお。志保じゃないか。久しぶりだな」

 お久しぶりです。と恐縮になりながらも丁寧に一礼をした。

 その光景を見て世良がクスッと笑う。

 「そんなに身構えなくてもいいよ。昔、時間を一緒に過ごした仲間じゃないか」

 その言葉に迅が不思議そうに反応した。

 「志保って昔ここの支部に配属されてたの?」

 そう聞いてみるとうん。と世良が頷いた。

 「そうだよ。昔は志保の的確な指示でたくさんの戦場を勝ち抜いていたんだよ。まあ、無理しすぎて撤退命令を出された時もあったんだけどね」

 そう言いながら笑いだす。そこに敏暁が口をはさんだ。

 「あのお楽しみのところなんですけど今回は僕は失礼します。支部のメンバーに許可をもらうのを忘れていたもので」

 すると世良が返答をする。

 「あ、そうなんだ。食べてけばいいのに。残念だね。また機会があればよろしくね」

 世良に深く一礼をするとテーブルに背を向けた。迅たちにバイバイ。と手を振り紅花の支部館をあとにした。

 「帰っちまったじゃねーか」

 その一言に慄也がとどめを刺した。

 「空気になりすぎたから辛くなって帰ったんだろ??」

 慄也の的確すぎる毒舌に迅はため息をついた。

 すると、部屋に置いてある時計がボーンと時間を知らせた。世良はもうこんな時間か。と言いながら迅たちに顔を向けた。

 「そろそろ晩御飯にしようか。もうお腹空いてきているだろう?」

 世良の言葉に乗っかり迅たちは椅子に座り込んだ。すると迅の前に前川が座った。

 「いやー、お客さんがいるとやっぱ雰囲気変わるっすね〜!!いつもと違うからっすかね?椎名さんはどう思うっすか?」

 突然ふられた椎名は席に座りながら前川の頭を軽く殴った。

ゴン!!

 「うるさいから喋るなと言っただろう。だが客がいるというのは、どこか不思議なものだな」

 「ちょ!痛いっす!!うるさいからって殴ることないじゃないすか〜!いつものことっすけど!!」

 え、いつものこと?

 白虎のメンバーは一斉に顔を見合わせ微妙な表情を見せる。

 そんな空気に世良が入り込んできた。

 「確かに陽斗、いつもよりうるさいよな。よし。明日の陽斗のおやつは半分にしよう」

 「ちょっとやめてくださいよ〜!!」

 前川の反応に思わず満瑠が吹き出しそうになっていたので、迅はすぐに右手で口元を押さえ込んだ。すると奥からゆっくりと寺本がやってきた。

 「白虎の皆さん、、どうぞ。召し上がっ、、て、くださ、、い」

 そう言われると迅も満瑠も食べざるを得ない。

 二人は速攻で唐揚げを取り分けた。それを見て世良が微笑む。

 「アカメくんたちは唐揚げがそんなに好きなのか?」

 その言葉に頬に唐揚げを入れながら首を縦に大きく振った。二人ともいい笑顔をしていた。

 「そんなにか。あ、そうだ志保」

 そう言いながら世良は席から立って志保の隣に座り込んだ。それに反応して志保の頬が赤くなる。

 「な、なんですか?世良先輩」

 「いや、実はさ...」

 そう言うと世良は耳元まで近づいて周りに聞かれないように話し出した。その話を聞いて志保の表情が変わった。

 「それ、本気で言ってるんですか?」

 その言葉に世良はうん。と頷いた。すると志保ははぁ。とため息をついて迅と満瑠を呼びかける。

 「アカメくん、満瑠くん。紅花のリーダーがあなたたちと手合わせをしたいって言ってるけどどうする?」

 それを聞いて二人は大きく首を縦に振った。おそらく手合わせしたいということだろう。そんな中慄也が世良の元に駆け寄る。

 「どういうことですか?俺とは全く手合わせをしたことがないのに。こんな奴を相手にするのですか?」

 そう言うと世良はしかめっ面な慄也の顔を見つめる。

 「お前はまだ能力に溺れている。彼はもう手の届くところにいるから手を差し出して救ってやるのさ」

 その言葉にぐぅと慄也は黙り込む。 

 迅と満瑠は笑顔で返事をした。

 「そうだな。他の支部の人と戦うのもきっと勉強になるだろうし」

 「迅がそういうなら、僕も頑張るよ」

 二人は和気あいあいとしている。


 そして晩御飯を食べ終わると一同は訓練室へと移動した。

 上の観戦席にいるギャラリーは志保、椎名、前川だ。寺本は片付けが、、ある。と言って観戦を拒否していたのだ。

 すると下の訓練室に迅たちが入り込んでくる。

 志保はじっとそちらを見ていた。

 「おっ。もう来たのか。食べすぎでお腹痛いです!!とかなしだからな?」

 世良は少し笑いながら冗談を口にする。

 相手はアタッカー寄りのオールラウンダー。敏暁のようにどの武器にでもそれなりの対応はできるはずだ。二人がΣ《シグマ》を手に取り構えると世良もゆっくりとΣ《シグマ》を構えた。

 「へぇ。結構やる気あるんだね。じゃあ準備運動といこうか!『セレクト:マグナ』!!」

 世良はそう叫んでΣの形を変えた。眩い光に包まれて出現したのは少し長めの刃を持ったダガー。それに用心するように迅と満瑠もΣを発動させた。

 「『セレクト:グレティス』!!」

 迅はΣを真上に放り投げて双銃に。

 「『セレクト:シアン』!」

 満瑠は腰をゆっくりと下ろして銃口の小さめの銃を発動させる。それを見て世良は驚いた表情を見せた。

 「これは驚いたな。グレティスにシアンか。もう上級者向け武器を使えるなんてすごいね」

 そう言われても迅たちは表情を1ミリとして変えなかった。

 すると世良はゆっくりと深呼吸をした。

 「いいよ。全力でおいで。僕も全力でいくからさ」

 そう言うと世良は相手を前に目を閉じた。

 それを見て迅と満瑠は驚いた。言葉が出てこない。なんで、目を閉じてるんだよ。

 「勝てるわけないじゃない、、。」

 志保はそう言って向こうを見つめている。すると横から椎名が口をはさんだ。

 「これは光助の勝ちだな」

 その言葉に志保は大きく反応した。

 「どういうことですか?目を瞑っては戦闘にならないはずですけど」

 それを聞き椎名は思いついたような顔をする。

 「そうか。水無月はを見るのは初めてなのか。まあ見てな」

 多くの疑問を持ちながら向こう側に視線を戻した。そこにはまだ戸惑っている二人の姿があった。

 「光助がその気なら飛ばすぞ!」

 迅と満瑠はそう言って世良を一気に挟み撃ち状態にまで持っていった。

 「なら始めからいきますよ。『Σコネクト:ブレイザー』!」

 そう言いながら満瑠はΣに手を翳して小さな光を発生させΣを強化した。

 「せいっ!!」

 満瑠は走り込みながら世良に向かって一発目を放った。シアンの銃口のおかげで相変わらずの速度で光の弾が飛んでいく。

 「、、西に34度。」

 世良はぽつりとそう呟くとマグナの盾を弾の方へ向けた。ほんの一瞬の出来事だったので迅や満瑠には盾が出現したことに気づいていなかった。爆風と共に二人は後方へと飛ばされた。

 爆風がおさまるとそこには目を瞑ったまま盾を構えて立ち尽くす世良の姿があった。

 「どうした?これだけか??」

 少し挑発をしてみると迅が乗ってきた。

 「くそっ!ならこれならどうだ!!」

 迅も走り回りながらいろんな方向から引き金を引いて弾を撃つ。

 すると

 「、、北東から東にかけて43度。」と小さく呟いてダガーを変化させた。

 「《レオ・ドレイク》!!!!」

 世良は思い切り叫んで雷の斬撃を遠方へ飛ばした。その斬撃は迅の撃った弾をすべて真っ二つに切り刻み、爆風を連れて迅の元へと飛んでいった。

 「ちっ!!」

 そう言うと迅は自分の真下に全力で弾を撃ち込んだ。そのままの勢いを保ちながら斬撃は迅の元で爆破した。あまりの衝撃に満瑠は言葉を失った。爆風が消えて奥を見てみたが迅の姿が見えなかった。

 すると真上に迅の姿を見つけた。さっきの弾の爆風で真上に飛んでいたのだ。

 「これならどうだ!!」

 落下しながら弾を撃ちまくる。

 「東、73から26度。次は外さない。《レオ・ドレイク》!!」

 世良は叫んでダガーを大きく縦に振った。さっきの威力よりも確実に当たったらまずいやつだ。と迅は判断を下した。

 するとそのまま《レオ・ドレイク》が今度はしっかりと迅に直撃した。

 観戦席ではその光景を唖然として見つめる志保がいた。その横に座っている椎名が話し出した。

 「あれが光助の能力、太陽眼ゴッド・アイズ。目を瞑っていても開けていても周囲から飛んでくる気力を察知できて、攻撃の技の威力に特性、方角に高さの角度がわかってしまうんだよ。だからあいつは目を瞑っていてもなんのトラブルもなく戦えるということさ」

 世良がゆっくりと眼を開いた瞬間を志保はじっと見つめた。両眼が橙色に変化している。まさかここまで正確に読み取られるとは、とまた唖然としてしまっていた。

 斬撃で倒れ込んだ迅はゆっくりと立ち上がり世良をまっすぐ見つめた。

 「なんだよその眼。いつもと違うじゃねーか」

 そう言われると世良はクスッと笑った。

 「そうだよ。この眼は太陽眼ゴッド・アイズというやつでね。相手の攻撃をすべて見切れちゃうんだよ」

 そう言って余裕ような表情をしている世良を見て迅は一つの感情を抱いた。


  (くそっ。こいつに勝つにはもっと、、もっと強くならなきゃいけないのかよ。)


 「へぇ。まだ能力に目醒めていなかったんだ」

 その言葉に迅は目を開いた。


 さっきまでいた世界じゃない。ここに来てしまった。

 興奮している迅に近づき少年は両方の頬をふわっと触った。

 「今回まで僕が力を貸してあげるよ。でも次は力は貸さないからね?ほら、そんなに力が欲しいなら貸してあげるから。代わりにあいつに一泡ふかせてこいよ、〝アカメ〟」


 その言葉に迅は元の光景を取り戻した。だが一瞬の出来事だったので満瑠や光助は今のやりとりは知らない。

 すると迅はゆっくりとオッドアイを見開きグレティスを構えた。

 「次は光助。の番だ。いいよ。全力でおいでよ」

 迅の眼の奥からとてつもない自信を感じ取ることができる。きっと誰もが見てもそう感じるだろう。

 その自信を感じ取った世良は少し驚きながらもマグナを構えた。

 「へぇ。アカメも能力者ってことか。これならもっと本気を出せるかもな。そっちがその気ならこっちから本気でやらせてもらうぞ!!」

 その想いに反応して世良の眼の色がゆらゆらと濃い色に変わっていく。おそらく色が濃ければ濃いほど能力も強力になるのだろう。ということは想いに反応して能力は発動されるということか。

 すると世良は少し笑いながら迅の方へと走り込んでいく。

 「いくよ!《テオ・グラディウス》!!」

 短剣を大きく光らせさせて完全に大剣にすると刃の隅々にまで雷が奔る。腰に大剣を構え目で捉えられない速度で一気に斬りこんでいく。

 「うおおおおおおお!!!!」

 思いきり叫びながら大剣を振りかざすと広範囲に雷の斬撃が地面を刳りながら飛んでいった。その先には標的の迅が


 


 世良が大剣を振りかざした体勢のまま経過を見守っていると、背後から銃口を突きつけられたことに気付きサッとその場から離れた。

 「なんだ!?今の尋常じゃない殺気は!!」

 その場で立ち尽くしていたのは紛れもなくさっきまで《テオ・グラディウス》の攻撃範囲内に入り込んでいた迅の姿だった。

 すると迅は微笑みながらグレティスを下に振り下ろした。

 「どうしたの?これでおしまい??」

 少しふらふらしながら迅は微笑んでいる。

 完全に操られたが感情のこもっている人形としか例えようがない。迅の挑発にのり世良は少し後ろに下がり体勢を整えたあと、もう一度迅に向かって走り込んでいった。

 「まだ終わらせないよ!」

 世良はそう言うと地面を思いきり踏み込み天井近くまで飛び上がった。

 「この位置からなら逃げようがないだろう!果てろ!《テオ・グラディウス》!!!!」

 世良はもう一度雷の溜め込まれた大剣を思いきり振り下ろした。今度はステージ全域に世良の雷が降り注いだ。


 これで、いける!!

 世良がそう確信した瞬間だった。


 「つまらないな。《シャドウブレイズ》」

 今いる位置よりももっと上から声が聞こえた。いや、むしろ天井から聞こえてきたような。次の瞬間に一気にステージが真っ黒な炎に包まれ、世良はその炎の中に吹き飛ばされてしまった。


 あまりの緊迫感に観戦組もその光景に衝撃を受けていた。特に椎名と前川。二人は世良を圧倒する迅の姿を見て驚愕している。

 「ありえん、。光助が圧されてるだと、!!」

 椎名も前川も戦闘ステージを見つめたままだ。

 志保も隣で観戦していたが同様にステージを見つめていた。すると志保は無意識に一言呟いた。

 「あれが、、迅くんの能力だとでもいうの」


 すると迅は爆風の吹き荒れる中スタッとステージに降り立った。顔を掌で隠しながら前に進んでいくとステージに大きな穴が出来ていることに気づいた。その穴の真ん中には吹き飛ばされた世良の姿があった。

 「これが君の能力の一つだよ。〝アカメ〟」

 迅の脳裏に少年が訴えかけてくる。

 「今までの戦闘で能力を使っていた時は僕が君を使って戦っていた。だけどね。これは全て君の中に存在している力なんだ」

 その謎の声に迅は翻弄されながらも声の持ち主を心の中で確定した。間違いなくもう一つの世界にいる少年の声だ。すると少年はクスッと笑った。

 「早く僕を迎えに来てよね。君はーーーーーとして存在しているのだから」

 途中の言葉はうまく聞き取れなかったが聞き取れないまま少年は迅の脳裏から姿を消した。


 黒い炎は全く消える気配がない。

 だが、発動してから数秒経ったのでかなり威力は弱くなっていた。迅の眼が少し前に歩いていくうちに徐々に元の赤色の目に戻っていった。

 「なに、これ。」

 迅は自分の放った黒い炎に対する記憶がなく目の前で炎に囲まれながらゆっくりと立ち上がる世良に、大きく壊れた訓練室の床。

 何一つとして今の状況が理解できていない。

 「満瑠、、これ俺がやったのか、?」

 不安に溢れた迅の表情に、満瑠は思わず目を見開いた。

 「迅くん、やっぱり記憶ないの?これは全部迅くんが能力を使った痕跡だよ」

 満瑠の言葉を聞いても迅はまだ理解をしていなかった。というよりも出来なかったのだ。

 すると奥から世良が片足を軽く引きずりながら二人の元まで戻っていった。

 「すごいねアカメ!これが君の能力!?すごく強いじゃないか!!、、てどうしたの??」

 世良は元気そうな表情を見せていたがそれに対して迅は反応すらできなかった。あまりの光景に思考が止まっている。

 「そっか。これ、俺が全部やったのか。それはごめんね光助。大丈夫だった?」

 少し状況を理解した迅は心配そうな表情をして世良に肩を貸した。迅の言葉に少し照れながらも世良は「少し足をやられたよ」と言った。

 そして三人で訓練室から出るとそこには観戦席で座っていた三人の姿があった。椎名と前川が二人と変わって世良に肩を貸した。目を合わせながら立っていると志保が迅の元へと駆け寄っていった。

 「大丈夫?怪我はない??」

 「うん。心配かけた、、よね。ごめん」

 志保はその言葉に思わず迅を抱きしめた。その温もりはどこか母親に似ていてとても安心できる。志保の手がプルプル震えていた。

 よほど心配だったのだろう。模擬戦とはいえ、とんでもない戦闘を見てしまったのだから。

 「よかった。どこも怪我してないのね。本当に、よかった......」

 その言葉に続いて迅の頬につうっと冷たい水が落ちてきた。それは志保の流した涙だった。

 その水に気づいた迅はそっと抱きしめてきた志保の手を解き、志保の涙を拭いた。迅の行動に志保はおもわず上を向いた。

 「お前が泣いてどうするんだよ。一番痛くて大変だったのは俺なんだぞ。だから、、泣かないでよ、志保」

 迅の言葉に志保はボロボロと涙を流して泣いた。その光景を見ていた世良が一言呟いた。

 「よかったな。お前を大事に思ってくれる後輩を持ててさ」

 現時点で時刻は22時を回っていたのでさすがにと迅たちは自分たちの支部館に帰っていった。

 帰っている途中に後ろから慄也が大声で叫んだ。

 「迅!次また遊びにくるときは俺と戦いやがれ〜!!絶対に負けねーからな〜!!!」

 その言葉に迅は後ろを振り向き大声で叫んだ。

 「おう!次会うときはお前とだ!!ボッコボコにされるのを首を長くして待ってろ!!!」

 たくさん事件の起きた一日だったけどまたなにか大切なものに気付けた気がする。能力のことは、まだ未解決だけど。でもきっと次会うときはもっともっと強くなっている。


 三人はのんびりと歩いて白虎の支部館まで帰っていった。志保がガチャ。とドアを開けるとそこにはしばらく支部館をあけていた支部長たちの姿があった。すると志保はドアの中に入ると迅と満瑠を外に置き去りにして鍵を閉めた。

 「ごめん二人とも!ちょっとだけそこにいてて!!」

 志保はそういうと二人をリビングまで運んでいった。高村は左腕を、斧谷は足を怪我していた。包帯が巻かれていて一応止血はしている様子だった。

 「高村さん!斧谷さん!無事ですか!?」

 志保の言葉に高村が少し目を開いた。

 「おう。なんとか、、な。」

 高村は弱った声で返事をするとゆっくりと立ち上がった。斧谷は足を怪我していたのでとりあえず二人で椅子に座らせると志保はリビングをあとにした。

 「すみません。二人を外に置いてきているので少々待っていてくれませんか。すぐに連れてきますから。」

 ドタドタと玄関まで走り鍵を開けてドアを開いた。そこには迅と満瑠と金髪の少女がいた。志保はおもわず瞬きをする。

 え?なんか二人以外にもう一人女の子がいるんですけど、、。

 「えっと、迅くん?これはどういうことかな??」

 志保は困った顔で迅に視線を送った。

 「いやぁ、さっきさ。」

 そういうと迅は閉め出された後の話を始めた。


  約十分ほど前に二人は支部館から閉め出される。その後二人は顔を合わせた。

 「なあ満瑠。なんで俺たち閉め出されたんだ?なにかしたっけ??」

 「いや、特になにもしてないと思うけど、」

 寒い夜の世界の中二人は外に閉め出されて困りはて入口付近をウロウロと歩いていた。

 すると徐々に二人に近づいてくる足音が聞こえてきた。かなり若い感じだ。足音がなかなかの速さで聞こえてくるから、おそらく走ってきてるのだろう。二人は少し戦闘態勢を整えた。

 すると暗い世界から顔を出したのは金髪の少女だった。背丈は迅よりも上。スラッとした足に弱ショートカットで綺麗な金髪。そして志保よりも大きめの胸。

 そんな少女に迅は声をかけた。

 「どうしたの?ここは、、、」

 迅が話かけると少女が突然割り切って話をしてきた。

 「すみません。ここ、白虎の支部館であっているデスカ?」

 完全に外人じゃないか!もうすでに片言!!

 この展開に迅は少し驚きながら返事した。

 「うん。ここであってるけど?君、何しに来たの?」

 迅がそう聞くのにも無理はない。近頃闇攻めというものもあるらしいから知らない人には用心していた。すると少女は髪を靡かせて話し出した。

 「私の名前はアリス・クラリオットデス!アリスと呼んでくださいデス!!この度ここの支部に配属になったデスヨ!!よろしくデス!!」

 随分と元気のいい自己紹介だった。自信満々そうな顔がまた可愛い。

 「俺は荒夜 迅。迅って呼んでいいよ」

 「僕は冨士坂 満瑠。満瑠って呼んでね」

 二人が自己紹介をするとアリスは少し首を傾げた。

 「んーと、ジンにミチル、、デス?」

 外人な日本語におもわず笑ってしまう。

 「そうだよ。迅に満瑠だ。こちらこそよろしくな、アリス」

 迅はアリスに手を差し出すとその手を握った。

 「これからよろしくデスヨ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「まあ、こういうことがあった訳だ」

 まさかの出来事に志保も驚く。

 「ここの支部に配属になった、て、、総本部長から話は聞いてたけど、、、」

 すると志保はアリスの胸のあたりを見つめた。

 服の上から大きめの凹凸が確認できる。

 「私よりも若いのに、、。」

 「?」

 そう言って志保は頭を抱え込んだ。イマイチよく分かっていないアリスの肩を迅が叩いた。

 「気にしなくて大丈夫だ。とりあえず中に入ろう。寒いだろ??」

 「ありがとうデス」

 なぜだろう。今日は本当にすごい出来事ばかり起きている。

 そして中に入るとアリスを連れてリビングへと移動した。ドアを開けるとグッタリとしている高村と斧谷がいた。迅と満瑠はすぐに怪我を見つけて急いで駆け寄った。

 「高村さん!?どうしたんですかその傷!?」

 満瑠は高村の手を両手で優しく包み込み驚愕な表情を向けた。

 「いや、今度すべて話すから待ってくれ。それと、、そこの金髪美少女は誰なんだ?」

 「あ、それ僕も気になってたんだよね」

 と斧谷も反応を示した。

 ああ。と二人は後ろに振り替えって「アリス、自己紹介。この人はこの支部 白虎の支部長さんだよ。」と迅が声をかけた。そう言われるとアリスは自信あり気に高村と斧谷の前にでた。

 「アリス・クラリオットと申しますデス。この度この支部に配属になった者デスヨ。主に使用するのはレオードデス。ヨロシクお願いしますデス!」

 自己紹介をすべて言いきるととても満足げな顔で頭を下げた。すると高村がアリスに手を差し伸べた。

 「俺は第四支部 白虎支部長 高村慎太郎だ。アリス・クラリオット。君は今日から我々の新しい家族だ」

 そう言われてアリスは微妙な顔をしながら手を握った。

 「家族デス?私には母親も父親もいるのデスが。どういう意味デス?」

 さすがに言葉のあやはまだ理解できない様子だった。首を傾げたアリスに斧谷が声をかけた。

 「これからずっとこの支部で食べて、寝て、成長して、みんなと過ごすんでしょ?もはやここは白虎一家なんだよ。だから君は新しい家族。わかってもらえたかな?」

 斧谷はニッコリと微笑みながらアリスを見つめる。するとアリスが理解したように手を叩いた。

 「なるほどデス!つまり迅は今日から私の弟になるということデスネ!!」

 まさかの発言に迅が思いきり食いついた。

 「ちょっと待てコラ!!誰がアリスの弟になるっていったんだよ!!!」

 「迅、、私の弟になるのが嫌なのデスカ?」

 まるで彼氏に甘えているかのような表情で迅を真っ直ぐに見つめる。あまりにも可愛いその仕草に迅は心が折れかけていた。

 「いや。別に嫌ってわけじゃ、、」

 そう言うとアリスは二カッと笑った。

 「じゃあ今日から私のことをアリス姉と呼ぶのです!さあ!!」

 両手を大きく広げその言葉を心待ちにしていた。

 「アリス、、、。」

 途中まで言ってみたはいいもののさすがに恥ずかしくなって途中で言葉をきった。

 「あーもう!アリスでいいじゃねーか!!」

 顔を真っ赤にして照れる。そんな微笑ましい光景を見ていた高村から指示が入った。

 「んじゃあれだな。アリスの面倒見るのはアカメの役目ってことで決定だな。」

 「は!?ちょっと待ってくれよ支部長!!なんで俺がアリスのめんどうを、、!!」

 迅はおもわず高村に強めの言葉でぶつかってしまった。ハッとして気づいた時にはもう遅い。

 高村の表情がどんどんにこやかになっていく。

 「支部長命令だ。アカメ、お前が今日からアリスのめんどうを見るんだ。」

 あまりにもにこやかな表情すぎて迅は高村から殺気を感じ取った。もはや肯定せざるを得ない。

 「、、はい。」

 よろしい。と高村は元の表情へ戻った。あ、そうだ。と高村は迅の方を向いた。

 「そうだアカメ。どうせなら四六時中めんどうを見てもらいたいから、しばらくの間だけ迅とアリスを同じ部屋にしようか。満瑠は俺の部屋で生活するといいよ」

 その発言にアリスは喜んだ。

 「ほんとデスカ!?嬉しいデス!!」

 一人でキャッキャと盛り上がっているアリスと反対に、迅は嫌がっていた。のだが、先ほどの高村の表情がトラウマになったのか特に何も反対をしなかった。


 そして時刻は最終的に0時になった。丁度その頃アリスがお風呂からあがって自室へと戻ってきた。

 「ふぅ。いいお湯デシタ!」

 おかえり。と迅はアリスの方を向いたがすぐに顔を読んでいた小説に目を逸らした。完全に下着姿で部屋まで帰ってきていた。

 さすがに露出度が高すぎる。胸元に視線をおくると危険だと察知していた。

 「早く服を着ろ!か、風邪引くだろうが!!」

 はーい。と素直にパジャマを着始めた。少しホッとしたのか迅の肩の力が抜けた。着替え終わったアリスは迅の背中に乗り読んでいる小説を眺めた。

 「迅。その小説、なんの小説デス?」

 「ああ。これか?」

 そう言いながら手に持っていた小説の表紙の部分を見せた。

 「本当は怖かった桃太郎ていう小説だよ」

 「桃太郎ってあの桃太郎デス?ちょっと貸してもらっていいデスカ?」

 そう言われ迅は言われるがままアリスに小説を手渡した。あまりアリスは小説を見たことがないのか?というよりも、、

 重い!!

 さっきからアリスがパジャマで乗っかってるからさすがに重いわ!!ていうか正直なところをいうと胸があたってるから離れてほしいんだけど、。これ斧谷さんに見られたらおしまいだよ?

 とブツブツ考えているとアリスがふぅ。とため息をついた。

 「、、アリス?」

 すると迅の目の前でアリスがパターン!!と小説を閉じた。その行動と光景に衝撃を受けて迅は身体を引きはがしすぐにアリスの手から小説を奪った。

 「ちょ!なんで閉じたんだよ!!いい所だったのにページわかんなくなっただろうが!!せっかくお供のキジの過去編が始まろうとしてたのに!!!」

 迅はもう叫びまくっている。あまり栞を挟む方ではないので閉じられると本気でページがわからなくなる。

 そんなアリスと迅のやりとりをドアを通して高村が聞いていた。

 「もう仲良くなれたんだな」

 すると右手側の方から足音がする。

 「高村さん。そろそろ寝た方がいいんじゃないですか?あの二人ならほっておいても大丈夫ですよ。お休みになられてください。明日の活動に支障が出たらどうするつもりですか?」

 そこから出てきたのは志保だった。

 すまない、すぐに戻るよ。と言うと高村は志保の横を通って部屋に帰っていく。志保は通り過ぎる前に高村に一言呟いた。

 「あまり無茶はしないでくださいね」

 その一言に高村は志保の頭を撫でて部屋へと帰っていった。

 志保はその後迅たちの様子を伺うことに。まだ二人は小説の件でワイワイしていた。これではまだ寝そうにないな、と志保は言いながら自室に帰っていった。


 「二人で大富豪しませんデスカ?」

 アリスの突然すぎる発想に迅は「は?」と言いながらそちらを向いた。

 こいつ、大富豪のルールをわかった上で言っているのだろうか。二人で大富豪をしたところで一体何を楽しめと言うのだろうか。

 「あのなアリス。大富豪ってのは二人だとほんとに楽しめないぞ?他の遊びを考えたらどうだ?」

 するとアリスは自分のカバンから大きな箱みたいなものを取り出した。

 「では!大人生ゲームをやるデス!!」

 「もっと面白くないわ!二人で大人生ゲームも楽しめないよ!?むしろ大人生ゲームじゃなくて最大の罰ゲームだよ!!」

 まさかの遊びに迅は我慢できずに速攻でツッコンだ。それを聞いてアリスは頬を膨らませる。

 「なら迅が何か考えてクダサイヨ〜。」

 そう言われて迅は考え込んだ。

 「花札、、とか?」

 それを聞いてアリスはぱあーっと表情を明るくして、迅に食いついた。

 「おお!花札デス!!日本の遊びの中でも有名デス!!でもどうやって遊ぶのかわからないデスヨ?」

 あ、と表情が変わった。

 迅は小さい頃からまず一度として花札をした経験がない。なのに当てずっぽうに花札と呟いてしまったために今の空気が台無しになる。

 「あ、俺、、花札やったことないしやり方わかんないや。」

 「迅、本当に人間なのですか?」

 アリスのどストレートな言葉が迅の胸に突き刺さる。

 「人間だよ!!」

 迅は必死になってアリスの持ってしまった疑惑にしがみついた。花札をやったことがない時点でそいつは人間ではないらしい。

 全くもう。とふと時計を見てみるといつもの就寝時間である夜中を超えていた。

 さすがにまずいと言いながら迅は布団の中に入り込んだ。

 「もう時間も遅いから。今日は寝ろ。」

 そう言って迅はアリスに背中を向ける。頬を膨らませていたアリスは仕方なく自分の布団の中に入った。それを見て迅はクスッと微笑む。

 「おやすみ、アリス」

 その一言でたくさんの出来事があった一日がようやく終わりを告げた。


 次の朝。

 いつものように迅が起きようとした時の事だった。何故か布団の中にアリスがいる。よほど寒かったのだろうか。まあ、無理はない。昨日の夜はここ最近では一番の冷え込みだったからな。そう思いながら迅は軽くアリスの頭を撫でた。すると、まるで起きているかのような寝言を零した。

 「えへへ。ありがとデス、、」

 一体何の夢を見ているのだろうか。

 そして迅はアリスの起きないうちにと急いで服を着替えた。着替え終わった頃にゆっくりとアリスが目を開けて朝を迎えた。

 「ふあぁ。おはようデス、迅」

 おはよう。と一言返すとアリスはモゾモゾと布団から出てきて服を脱ぎ始めようとした。その行動に迅はとても焦る。

 「うわああああ!!俺!先にリビング行ってるから!!早く着替えて来いよ!!」

 そう言いながら迅は猛ダッシュでドアへと走り込んでいきドアをバンッ!!と閉めた。階段を降りていく迅の姿はとても老いぼれていた。

 さすがに朝から体力を消耗しすぎたと言いながらリビングのドアを開いた。

 そこには何気なく寛いでいる斧谷にテレビをみている高村がいた。

 「おはようございます高村さん、斧谷さん」

 迅がそう言うと斧谷が手を振り高村はよお。と手を上に上げた。昨日はあんなに傷だらけだったのに何故怪我の後が見えないのだろう。

 「あの二人とも、怪我は大丈夫なんですか?」 

  迅の言葉に高村が返事をした。

 「大丈夫だよ。あの後戦闘が終わってから配布される〝セラピー受診書〟を使って怪我を昨日の間に癒してもらって怪我を治してもらったんだよ」

 その言葉に迅は少しだけ食いついた。

 「戦闘、、ですか?どこかの国との戦争に駆り出されたとか??」

 高村は顔を下に向けた。話を聞いていた斧谷の表情も徐々に沈んでいく。すると二人は目を合わせると高村が迅に言葉を投げかける。

 「アカメ、君は〝ゼクスタ〟と呼ばれる強力な古代武器のことを知っているか?」

 その真剣な眼差しに少しの間言葉を失う。いえ、知りません。と口にしようとした時にドアからアリスと満瑠が同時に入ってきた。

 「おはようございます。あれ?迅くん。起きるの早かったんだね」

 「おはようございますデス!!」

 二人はいつものように明るくリビングへと来た。すると高村は二人も呼び出す。

 「朝からすまないが俺の話を聞いてくれ」

 その言葉に疑問を持ちながらも二人は迅の隣に立った。全員の顔を確認すると高村は一度深呼吸をして話し始めた。

 「我々は今回エルドラという一つの独立国家と戦争をしてきた。今回の目的は相手を殲滅することではなく、追い返すことだった。上手く追い返すことには成功したが数人が殺られて亡くなったんだ」

 「追い返す?とはなにか理由が??」

 満瑠がそう聞くと高村は首を小さく縦に振った。

 「相手国の中に古代武器である〝ゼクスタ〟を使用する者がいたんだよ。幸い発動はされなかったがな」

 そう言われて迅も高村に質問をした。

 「その〝ゼクスタ〟ってやつも∑《シグマ》みたいに色んな種類のある武器なのか?」

 すると高村はもう一度首を縦に振る。

 「昔、大規模な戦争が行われた際に使用された強力な古代武器である〝ゼクスタ〟。その括りの中にも∑ほどではないが種類がある。破壊神、使徒神、冥界神、神機兵、創造神。この五つの〝ゼクスタ〟にも個性がある。もちろんガンナー、オールラウンダーみたいに武器の種類は分かれている。その中でも圧倒的な力を持つのが創造神。他の〝ゼクスタ〟もケタ違いの力を発揮する」

 「ということはその〝ゼクスタ〟という武器を相手が所持していたから追い返すという命令がでたのデスカ??」

 正解。と高村は一言。

 「お前たちもこんな化け物と遭遇する時が必ず訪れる。いつでも対応できるようにそれぞれ頑張ってくれ」

 そう言うと高村はリビングから出ていった。斧谷も黙りながら高村の後を続いた。


 その後階段を上がり高村は屋上にでた。

丁度太陽が昇り始めたところだったのでとても空が綺麗に見えた。高村はそんな空を見て一言呟いた。

 「残酷なくらい綺麗な空だな」

 するとガチャリと扉が開いた。向こうにふりむくとそこには斧谷がいた。高村は斧谷を見て深くため息をつく。

 「よかったの?あんな曖昧に話を終わらせて。まだ迅くんにを伝えてないんでしょ?このままだと気づく日が来るまでずっと嘘をつき続けることになるんだよ?」

 斧谷がゆっくりと高村の隣に立つと高村は小さく返事をした。

 「嘘をつき続けなければならないのはあいつも同じだろう。俺たちと同罪だ」

 「あいつ って?」

 斧谷は少しからかい気味に高村に食いついてみる。すると少しの間黙ってからその名前を呟いた。


 「紅花の世良 光助だ」



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