Ignite Wars

霧島 菜月

闇月夜 編

エピソード1 赤い眼の少年

 それはある夕方のこと。

 広々とした町に一人、孤独に日を過ごしている小さな少年がいた。

 その少年は毎日花屋に寄って花を買っては、スタスタと丘の上まで欠かさず登っている。少年はその足で今日も自宅のすぐ側のそれを登っていた。

 頂上にたどり着いた少年はすぐに石段にあるコップの水を入れ替え、買ってきた花を添えてその石段に優しく備える。

 その丘の頂上は亡くなった人のためのお墓がズラリと並んで、いわゆる墓地になっている。

 そして少年は蝋燭に火をつけ線香を立てて手を合わせた。独特の匂いに感情を任せ、前にいる人たちへ食事を運ぶ。目の前にあるのはその少年を育てていた両親のお墓。近所に住んでいる少年は家族を失ってからというもの、ずっと夜の光に包まれた街から離れ、薄汚れた空気のする路地で寝泊まりしていた。生活するためのお金は、スーパーやゲームセンター、お祭り後の公園を徘徊し落ちているものを生活費だった。

 そんな苦しい生活を繰り返しているのに関わらず、少年が家へ帰ることはなかった。ついに近くで活動している暴走族に目をつけられ、家を放火され変えるべき場所さえ失ってしまった。その償いとして毎日お墓参りするようになった。

 すると少年はまるで両親が生きているかのようにお墓に話しかけ始める。

 「今日も来たよ。いつもこんな花しか添えてあげられなくてごめんね」

 小さな少年は毎日お墓に来ては同じセリフを言い続けた。

 「、、ごめんなさい」

 ただその一言を日が落ちるまでずっと。


 そうして時間は過ぎ暗くなり始めてきたので少年はもう一度手を合わせると、重たくなった足をゆっくりと動かし、家に帰ろうと立ち上がった。

 もと来た道をスタスタと歩いていると目の前に大きな袋をもった黒い男の人が勢いよく走ってきて、少年と思い切りぶつかりました。勢いで少年は後ろに飛ばされ強く頭を打ち、男の人の袋からは大量の札束が散乱していた。 

 少年はその光景を立ち尽くし見て瞬間的に強盗だと気付いた瞬間に言葉を失ってしまい、身体中の震えが止まらなくなってしまっていた。

 するとぶつかってきた強盗が怒りながら徐々に少年に近づいてくる。

 「おいガキ!てめぇ何てことしやがるんだ!!ふざけんじゃねーぞ!!」

 強盗はズボンのベルト辺りから小さな黒い棒状のものを取り出した。その不思議なものを目にするのは初めてだったが、どことなく危険な雰囲気を感じ取った。

 「これでお前も墓に眠ってるバカ共の後を逝かせてやるよ!『セレクト:ミドル』!!」

 その声に反応して黒い棒が徐々に形を変えていき細く長い剣に変化する。

 剣の先端まで鋭く尖っていて強盗は腰を低くして体勢をとった。


 (変な棒が剣に!?殺される?嫌だよ、!やめてよ!!)


 「死ねぇぇぇぇ!!!!!」

 強盗は大きく剣を振りかぶってその刃先は少年の首元を狙っていた。


 「『セレクト:グレティス』」

 突然どこからか声が聴こえ男の人は動きをピタリと止め、辺りを見渡す。だがそこに人影など一つもなかった。

 「な、なんだ?今の声は??」

 予想外の出来事に戸惑う強盗。気を取り直しもう一度剣を構え、戦闘態勢をとる。だが居場所が掴めないためにその場からは動くことができなかった。少年にもどこから声が聞こえているのか全くわからなかった。

 ただ自分を助けに来てくれたということだけを、少し理解していた。

 「《ミストジャミング》!!」

 自信に溢れた大きな声と共に強い振動波が男の人に向かって流れていった。

 そして調律波がたどり着いた瞬間に男の人はガクリと膝が落ち手に持っていた剣を落とすと、ドスッ!と少年の前に倒れる。

 するとさっとどこからか若い青年が出てきた。

「ふぅ。大丈夫か?少年」

 髪型は少し前髪の長めなショートカット。スタイルも良く、身長はおそらく一七〇くらいな感じがする。腕には赤色のリストバンドを付けていた。青年が手を差しのべてきたので少年はその手を掴んで立ち上がった。

 その手を握ると少年はとても暖かく感じた。青年は男の人の方を振り返り剣の側まで歩み寄る。

 「戦闘モード強制解除」

 青年がそう呟くとその剣は何事もなかったかのようにシュルルルと元の黒い棒に戻った。そしてそれを拾いあげ腰に付けていた袋の中に回収する。

 「ったく。一つだけΣ(シグマ)が盗まれたとは聞いていたけど、まさかこんなことのために使っていたなんて、。俺の手を煩わせんなっつーの」

 ため息をつきながら回収をすると少年の元に歩み寄った。

 「怪我はないかい?」

 そう聞かれて首を縦に振る。すると青年は笑顔でよかった。と答える。

 「あ、そうだ。まだ名乗っていなかったよね。僕は世良せら 光助こうすけ。このΣ(シグマ)っていうよくわからない黒い棒の使い手だ。君の名前も聞いてもいいかな?」

 すると少年は少し緊張じみながら名前を教えた。

 「えっと、、荒夜こうや じんです」

 少年の名前を聞いて光助は表情を変えた。

 「君が荒夜 迅くんなのか!?」

 光助は驚きを隠せずにいた。逆に迅も、自分の名を知られていたということに驚きを隠せずにいた。

 すると光助は

「迅くん?君のところにさ紺色の手紙って届かなかったかな?」

 始めは何を言っているのか理解できないでいたが迅ははっとしたようにポケットを探り一通の手紙を取り出す。

 「もしかして手紙ってこれのことですか?」

 「そうそう!それそれ!!」

 光助は笑顔で迅の手を握った。

 「これで3人目も無事に見つけることもできたし今日は豊作だな!あ、ちなみにその手紙のことなんだけど絶対周りの人に話しちゃダメだよ?」

 光助は真剣な目を迅に向けて言いました。迅はその言葉の意味をよく理解できていないまま首を縦に振った。

 「よし。それじゃあ今日は僕の支部に泊まるといいよ。明日ちゃんと上の方に伝えておくからさ」

そう言うと光助は迅の手を引っ張り自分の支部へとお土産を連れて帰った。


     次の日


 光助と迅は朝ごはんを済ませると支部から外にでて、大きな株式会社みたいな建物の中に入る。中はまるで迷路のようで手を離してしまうと帰れなくなると思い迅はぎゅっと光助の手を握りながら歩いていった。

 そんな感じで10分程歩くと目の前に大きな扉が見えてきました。そのまま直進して扉の前まで進むと機械が指紋認証を始める。

 「指紋認証ヲシマス。指ヲタップシテクダサイ」

 光助が右手の人差し指をタップすると無事に認証されて2人は中へと入っていく。

 「柏木さ〜ん、諏訪さ〜ん、村上さ〜ん。また1人勧誘者を連れてきました〜」

 光助は大きな声で奥にいる3人の男の人に話しかけた。

 するとゆっくりと3人は迅の元に集まる。


 「ようこそ、荒夜 迅くん。これで3人目だな」

 迅の目の前で全く先の見えない話をしている。

 そんな光景が広がっていた。呆然と立ち尽くす迅に光助が慌てて声をかけた。


 「あ、ごめんね!いきなりこんなとこに連れてきて3人目だのあーだこーだって。そうだ。とりあえずここにいる面々を紹介しておくね」

 そういうとまず前を見て右側にいる人に迅の顔を向けさせた。

 「まずは、総本部の副本部長の諏訪すわ 賢一けんいちさん。基本的にいつも左手にはブラックコーヒーを持っているから、部隊のメンバーからは「諏訪ブラック」て戦隊モノみたいなあだ名をつけられているんだよ」

 「おい世良。それは本当なのか?なかなかいいあだ名じゃないか。気に入ったぞ」

 諏訪副本部長は、衝撃的な事実を述べられたがそれをあっさりと受け入れてしまっていた。

 (結構アバウトな人なんだな。)

  迅は諏訪のことをそのように捉えていた。

 「そんじゃ次は左の人を見てくれるかな?」

 言われるがまま左の人を見るとこの部屋の中にいる中で一番背の高い人がぽつりと立っていた。

 「この人も諏訪さんと一緒で副本部長の村上むらかみ 淳哉あつやさん。見た目でもわかると思うけど総本部の中でも一番背が高いんだよねー。村上さん、今のところ身長っていくつでしたっけ?」

 まるでいじり対象でも見るかのような目で光助は村上を見つめている。

 「昨日測ったんだけどさ、今は194cmだよ」

 身長を聞いてしまった迅は自分の小ささに少し絶望していた。

 「あれ?迅くん小さいよね??今何歳?何センチ?」

 ケタケタと笑いながら光助は迅を見て言った。 

 迅は若干世良を睨みながら立ち尽くしていた。

 するとそんな光景を見ていた一番奥で座っていた人がそちらに向かった。

 「迅くんは現在13歳で身長は152cm。たしか3年前あたりから、一人暮らしを続けていたはず。違うか?」

 「え、誰おっさん。なんでそこまで俺のこと知ってんの?流石に怖いし引くよ??」

 突然毒を吐いた迅に一同は唖然な表情を抑えきれなかった。

 「失礼。まだ自己紹介が終わっていなかったな。私は総本部長の柏木かしわぎ 星矢せいやだ。君に対して紺色の手紙を送り付けたのも私だ。勝手ながら君の素性は全て調べさせてもらった」

 「てかまずここはどこなんだよ。なんで俺に手紙を出して、こんなとこに連れてこさせたんだよ。全部説明しろよおっさん」

 迅は少し荒れ口調になりながら柏木総本部長に食いついた。柏木総本部長は少し深呼吸をすると真っ直ぐに迅を見つめた。


 「ここは世界戦争を明るみに出さないために作られた偽装世界、とでも呼ぶべきなのかもしれない。君はここを《戦場》と思ってくれていい」

 その言葉だけではイマイチ理解ができなかった。

 「ここが、世界戦争の《戦場》?」

 「そうだ。君が理解するにはまだまだ遠いだろうがな。そして君をここに呼んだ理由。それはただ一つ。君にここで生き残れる資質を感じた。ただそれだけの理由だ。この話をした以上、君をここから外に返す理由にはいかないんだ。荒夜 迅。我々に協力してはくれないか?きっといつか、、、」

 突然言葉がつまった柏木総本部長に迅が少し茶々をいれた。

 「なんだよ?いつかなんだ??まさか言うのが怖いのか?早く言えよ」

 柏木総本部長はまた迅を真っ直ぐに見つめてその言葉の続きを綴った。


 「いつか、君の両親を殺した者に復讐を果たせるかもしれないのだから」


 迅はその言葉を聞いて、本能のままに柏木総本部長の首根っこを締めあげた。

 「てめぇ、どこまでのことを知っている!?これ以上俺達の中に関わるな!!」

 場は一瞬にして凍りつき沈黙の時間が長く続いた。

 「俺は、、!!」

 目を大きく見開くと右手をグーの形にして柏木総本部長に殴りかかろうとした。


 バシッ!!


 その腕を光助がしっかりと掴んで動作を封じた。

 「やめろ迅くん。なにがあったかは知らないが総本部長に暴力を奮うのは危険だ」

 その言葉を発すると迅は光助の方に顔を向けた。そしてその瞬間、光助は迅に変な違和感を覚えた。立ったままの光助の肩を叩いて場の空気を変えてくれたのは諏訪副本部長だった。

 「まあ落ち着けよ。迅くん。今来ている仲間のところに案内するよ。行こうか」

 そう言うと迅と諏訪副本部長は歩いてドアをでて待機室へと向かっていった。

 迅の背中を見守り、ドアが閉まって背中が見えなくなると光助は総本部長に言葉をかけた。

 「柏木さん。さっきの、気づきました?」

 そういうと総本部長はうむ。と首を縦に振った。

 「あの赤い目の右側が、碧色に変化していた。なにかの軌跡なのでしょうか?」

 「さぁな。宿された力をどう使うのかは彼自身に託されているのだ。手並み拝見としよう」

 すると総本部長は小さく笑った。


 その声を光助はしっかりと聴きとっていた。


 *


 そんなこんなで迅は諏訪副本部長にある部屋に連れていかれて1週間した後、柏木総本部長が四人をとある部屋まで連れ出した。

 四人が横に整列すると柏木総本部長が顔を全員と見合わせた。すると左から順に名前を呼んでいった。


 「日高ひだか 敏暁としあき

 髪の毛のクセ毛の明るい男の子。年齢は迅と大差はなく13歳。

 「はい!」

  敏暁は大きな声で返事を返した。相変わらずクセ毛が目立っているのは気にしたら負けだからツッコむのはやめておこう。


 「射水いみず 洸史こうし

 選ばれた四人の中で一番大人しく騒がしい時でも基本は黙っている。

 「はい」

 いつも通りの気弱い返事を返す。


 「右京うきょう 慄也りつや

 一週間一緒にはいたが迅と慄也はいつも対立ばかりしている。だが根はとても座っている奴だ。

 「はい!!」

 それだけのことがあって返事にもどこか気持ちがこもっていた。


 「荒夜 迅」

 迅は相変わらず総本部長だけには慄也以上に口が悪い。だが、今日はなぜか大人しくしていた。

 「はい」

 そのやる気のない言葉が慄也に刺さった。

 「おい迅。なんだよその返事。まるで死にかけの羊みたいな声だぞ?」

 「るせぇ!お前なんか豚五匹分くらい声がうるせぇよ!わかった。もしかして口の中にメガホンでも入れてるのかなぁ??でもそのメガホン外した方がいいよ?近所迷惑だ!!」

 ニ人が口喧嘩を始めると敏暁がそれを止めに入り、洸史は見て見ぬふりだ。これが日常だ。

 四人で過ごした時間の中で生まれた日常なのだ。すると大きくゴホンゴホンと総本部長が咳をする。その咳に殺気を感じ取った四人はまたピシッと整列した。

 「ったく。少しは仲良くしろ」

 「おっさんは黙ってろ」

 「誰がおっさんだ!このクソガキ!!」

 ギャンギャンと迅と総本部長が口喧嘩をまた始めてしまった。


 ー 大して俺達と差がないじゃん! ー

 その場にいた他の3人は同じことを思った。

 「おっと、すまない」

 何事もなかったかのように総本部長は話を続けた。

 「お前達には今から実技試験を行ってもらう」

 「「「「え??」」」」

 四人は同時に疑問な表情を総本部長に向けた。

 「内容は至って簡単だ。お前達も一度はあの黒い棒をみたことがあるだろう?あれは総称としてΣ(シグマ)と呼ばれている。それに手をかけてもらう。それで実技試験は終了だ」

 「総本部長。それは実技試験ではないと思うのですが、、」

 慄也が素早く反応した。

 「お前達にとっては、それだけで体力を相当消耗するだろう。ではまず一つ目から行ってもらう。ついてこい」

 四人は言われるがまま、総本部長の後ろをついていくと今までよりも広い空間に連れていかれた。

 「ここで実技試験を受けてもらう。とりあえずはこれから始めてもらおうか」

 そういうと総本部長は手元のボタンを押した。

 すると床からウィィィィィィィン、、、ガシャァン!!とΣ(シグマ)が4本並んで現れた。

 「それは戦場でアタッカーが持つΣ(シグマ)だ。まずはそれから始めてもらう。では触れてもらうが、それから声が聞こえたものはすぐにそいつから手を離せ。わかったな?」

 なんのことかわからなかったが四人はΣ(シグマ)を手に取った。


 ......。


 なにも..起きないぞ....。


 すると総本部長から放せとの合図が出た。

 「どうだ?なにか変わった点があったものは?」と聞くと、敏暁が手を挙げた。

 「目の前が真っ白になりました」

 !!??

 一同が驚く。

 「目の前真っ白って!それってやばいんじゃねーのか!?」

 迅がそう言うと、総本部長は次の試験に移した。


 次に出てきたのはオールラウンダー専用のΣ(シグマ)だった。同じように、シューター専用のΣ(シグマ)の実技試験も終わりまだ兆しが見えていないのが迅だけだった。

 慄也はオールラウンダー専用のΣ(シグマ)で。

 洸史はシューター専用のΣ(シグマ)だった。

 そうなると残されたのは一つだけだった。

 残りの一つはガンナー専用のΣ(シグマ)だった。

 これで兆しが見えなかったらお前には帰ってもらう。と総本部長が言った。

 「ざけんな!お前がここに連れてくるように指示したんだろうがよ!!」

 ったく。と言うと迅はΣ(シグマ)に触れる。

 すると迅も目の前が真っ白になった。


 ー あれ、ここどこだろう? ー


 そう思った瞬間迅の中の記憶が、脳の中に焼き付いていった。突然大量の記憶を脳に焼き付けられているような感覚に陥った迅の耳元で


 〈やあ、ーーこそ、、ーーーー〉


 なにかおかしな声が聞こえてきた。すると迅は総本部長の指示を思い出しΣ(シグマ)から手を離して、そのまま後ろに倒れ込んでしまった。

 大丈夫か!?と慄也や敏暁が心配そうに迅を見ている。

 「大丈夫だ、へーきへーき」

 そう言うと、すっとその場に立ち上がった。

 「なにか見えたか?」

 その言葉に対して感じたまま、ありのままを返事した。

 「記憶が、俺の脳に焼き付いて、、変な声が聞こえた」

  迅の言葉に総本部長は言葉を失った。

 「....よく帰ってこれたな」

 迅にはその言葉が全く理解できなかった。

 すべての試験が終わり総本部長が試験の結果を伝えた。

 「結果を発表する。まず日高 敏暁」

 「は、、!はい!!」

  敏暁は驚いて声が裏返っていた。

 「まず君にはアタッカー専門部隊の第五支部 刹魔へ行ってもらう」

 その言葉を聞いて敏暁は驚きを隠せていなかった。すると迅が肩を軽く叩いた。

 「トッシーやったじゃん!」

 そう言うと、ありがとうと笑みをこぼした。

 「続いて射水 洸史。シューター専門部隊の第二支部 龍我に。右京 慄也。お前にはオールラウンダー専門部隊第三支部 紅花に行ってもらう」

 二人とも配属された場所に少し納得していた様子だった。

 「そして、荒夜 迅。君にはガンナー専用部隊第四支部 白虎に行ってもらうになった。ということで一人一人に近辺の地図を渡すから自分の行くことになった支部に移動してもらう。諸君の健闘を祈っているよ」

 そう言うと総本部長は外に出ていってしまった。まだ四人はイマイチすっきりしていなかった。そして四人は自分がどのような運命に立ち向かうことになるかなど知らないまま自分たちの支部に移動を始めた。


 *


 そんなこんなで地図を見ながら歩いているといつの間にか森の深くまで進んでいてその先に大きな建物を見つけた。

 その大きさと広さに驚きながらも迅は足を進め、ドアの前に立った。

 (なんかゴタゴタがあったけどこうしてたどり着いた訳だし、良しとするか)


 よし。


 迅はその小さな右手でドアを開けた。中は見た目以上に明るく、とても活気に包まれている空気がそこにはあった。

 「お。もう来たのか。総本部長から話は聞いているよ」

 突然声が聞こえて迅は身体を震わせた。

 悪かったよ。と言わんばかりに声の持ち主が迅の前に姿を現せて、歩み寄ってきた。

 「私は君が今日から世話になることになった第四支部 白虎びゃっこの支部長の高村たかむら 慎太郎しんたろうだ。よろしくね、荒夜 迅くん」

 すっと手を差し伸べてきたので迅はゆっくりとその手を握った。

 「初めまして、荒夜 迅です。今日からよろしくお願いします」

 「あはは。そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。うちの支部は他に比べると、ゆるすぎるからね。あ、そうそう。君以外にももう一人配属になってる子がいるから紹介するよ」

 そういうと高村さんは奥にあるエレベーターの前に移動して迅と三階に上がった。

 三階に着くと少し廊下を歩いて部屋二つ目を右へ、少し進んでから右を見ると大きな扉が見えた。

 「高村さん、ここがもう一人の子の部屋ですか?やけに広い気が、、」

 「いやいや流石にそこまでリッチじゃないからね。この部屋は主にストレッチや定期集会などで使われる部屋だよ。支部メンバーなら出入り自由だから、また今度活用してみなよ」

 笑いながら高村さんは扉を開いた。

 するとその先にど真ん中に正座で座り尽くす少年がいた。

 (え、もしかしてあの子なのかな?)


 「おーい。今日伝えたもう一人の子を連れてきたぞ、満瑠みちる

 高村さんがそう言うと満瑠という少年は迅の方に顔を向けた。念のために迅と高村さんは

 その少年の近くに移動した。

 「初めまして。本日から配属になりました荒夜 迅です」

 迅が丁寧に自己紹介をして頭を下げると、少年は座ったまま自己紹介を始めた。

 「支部長から歳はタメだからって聞いてるから始めからタメで喋るね。僕は冨士坂ふじさか 満瑠みちる。君と一緒には試験を受けてないけれど、一応合格ってことでここに来たよ。早速なんだけど1つお願いが..」

 「どうしたの?」

 すると満瑠はプルプルと足を震わせていた。


 「正座してたら足が痺れちゃって....。立つの手伝ってくれないかな?」

  (それでずっと座ってたのか!!)

 迅は少し呆れた様子で満瑠を手伝った。

 「ふう。急にごめんね、ありがとう」

 「いやいや、大丈夫。あのさ、お前のこと満瑠って呼んでもいいか?」

 迅が照れくさそうにそう言うと満瑠は笑顔で手を握り思い切り振った。

 「うん!全然大丈夫!!これからよろしくね!!」

 そんな二人の様子を近くで見ていた支部長は咳払いをして、話を進めた。

 「よし。ある程度仲良くなったところで次はお前達の先輩の紹介してやる。ついて来い」

 そういうと迅と満瑠は目をキラキラさせながらその場を後にした。次はエレベーターに乗って二階へと移動した。すると三階みたいな広い部屋は特に見つからなかった。

 「このフロアにはなにがあるんですか?」

 満瑠は不思議そうに高村に質問する。

 すると高村は笑いながら答えた。

 「そうか。満瑠も迅くんもここにくるのは初めてか。このフロアは主にメンバー一人一人に与えられた個室のあるところだよ」

 「じゃあ俺にも個室があるの?」

 迅は期待した目で聞いてみた。

 「あぁ。もちろん二人にもちゃんと個室は用意されているよ。自己紹介が終わったら荷物を置きに行くといいよ」

 はーい。とのんびりした会話を続けながら名札のぶら下がった部屋の前まできた。

 その名札には〝星の部屋〟と書かれている。

 どういうことだろう?この部屋にはプラネタリウムでもあるのだろうか??

 すると高村は軽くドアをノックした。

 「どうぞ~」と中から女の人の声がした。

 そのまま高村はドアノブを回して部屋の中に入った。

 「よう、相変わらず気味の悪い部屋だな」

 そういうと迅と満瑠は辺りを見渡した。

 数え切れないくらいの機械。

 ボロボロになったテディベアが数体。

 なかなかミステリアスな光景だ。

 すると奥に座ってパソコンをいじっている女の人がこちらに向かってきた。

 サラサラな髪の毛。おそらくセミロング。

 スタイルもよく身長はそこそこだ。

 「支部長、別に気味悪くないと思うんですけど?」

 そういうと女の人は足元に転がった例のテディベアを抱き抱えた。

 「ほらこのテディベア!目が解れてるあたりとかすごい可愛くないですか!?」

 どこが!!??

 その場にいた男子一同はそう思った。

 すると女の人は高村の後ろにいる二人に目を向けた。

 「支部長。その後ろにいる二人は?」

 そう言われると高村は迅と満瑠を自分の横に移動させた。

 「とりあえず彼女は水無月みなづき 志保しほ。全支部の中でもエリートな子だ。戦闘にはでない。白虎を引っ張るサポーターだよ」

 そんな仕事もあるのか。迅はそう思った。

 「そんでもって志保。こいつらは今日からここに配属になった期待の新人だ。ほら、挨拶しとけ」

 そう言われると満瑠が前に出た。

 「えっと、冨士坂 満瑠です。試験に合格ということでここに来ました。よろしくお願いします」

 次は迅が前に出た。

 「荒夜 迅です。俺も合格ということでここに来ました。よろしくです」

 そういうと志保はニコニコしながら二人の前に出た。

 「満瑠と迅くんか。私は水無月 志保。支部長から話されたけどこの支部のサポーターよ。よろしくね」

 迅と満瑠は深く頭を下げた。

 するとドアをノックする音が聞こえてきた。

 「はい。どうぞ~」

 志保がそういうと、勢いよくドアが開いた。


 「珍しく志保ちゃんの騒ぎ声が聞こえたからここに来たら、まさか例の新人が来てるなんてびっくりだよ~」

 突然明るい感じの人が来た。すると高村はその人の方に迅と満瑠の顔を向けさせた。

 「迅くん、満瑠。この人はこの支部の副支部長の斧谷おのや あらただ。おそらくこの支部で1番うるさいやつだ。気にしなくていいぞ」

 「酷いなぁ~。友達なんだからもっと軽くいこうよ。慎ちゃん」

 「慎ちゃんと呼ぶな!気持ち悪い!!」

 ずいぶんと仲のいい雰囲気が二人の前に現れた。

 「ねぇ、高村さんと副支部長は友達なの?」

 そういうと高村はため息をつきながら答えた。

 「ああ。一応こいつとは同期だ」

 そう答えた高村を無視して斧谷が迅の前に出てきた。

 「ねぇ、荒夜くんだっけ?さっき君だけ君付けで呼ばれていたよね?僕が君にあだ名をつけてあげるよ」

 そう言われた迅はハッとした。

 ほんとだ。出会った時からずっと俺だけ「迅くん」って呼ばれてる。満瑠は「満瑠」って呼ばれてるのに、。気づかなかったな。そう思ってる迅をまじまじと斧谷が見つめている。

 「そうだね。目の色が赤色だから〝アカメ〟て名前はどうかな?」

 「お、いいじゃないか。それじゃあ迅くんと呼ぶのはやめて、アカメと呼ぶことにしよう」

 「いいあだ名じゃない。大切にしなさいよ。アカメくん」

 「ぼ、僕は迅って呼ぶからね?」

 みんな違うリアクションをとって少しおもしろかった。

 「アカメ、、。わかりました。俺の名前はアカメ。白虎に配属された新人だ」

 そういうと迅は志保に目を向けた。

 「でも結局アカメって名前になっても、くん付けされてるっていうね。まあ、いいけどさ」

 そう言われた志保はすたすたと元いたパソコンの前に戻った。

 すると高村が迅と満瑠に声をかけた。

 「よし。とりあえず自己紹介は済んだから二人とも、荷物を自室に置きに行こうか。案内するよ」


 そうして迅と満瑠は高村の後ろを付いて歩いていきふと迅が高村に聞いてみた。

 「ねぇ高村さん。この支部っていくつくらい部屋があるの?」

 その質問に少し笑いながら答える。

 「あー、だいたい二十部屋くらいだよ。確かにここの支部施設は他の支部施設に比べれば相当広いらしいからね。みんな初めて来た時はびっくりしていたな」 

 などと笑いながらのんびり歩いて少し進んだところで高村がふいに立ち止まった。後ろにいた二人は少し反応に遅れたがゆっくりと止まった。

 すると高村が二人の方に振り向き笑顔でこう言った。

 「着いたぞ期待の新人たちよ!」

 そう言われて前を見るとそこには一つの大きめのドアがぽつりと立ち尽くしていた。

 迅と満瑠は思わず目線を合わせた。


 迅(え、もしかしてこれが自室??)

 満瑠(それにしては大きいよね。)

 迅(待てよ、さっき俺達に自室があるって言ってたよな?ドアが一つしかないんだけど、、)

 満瑠(一つしかないってことは、、まさか、)


 そんなやりとりを数秒で行った2人はもう一度ドアを見つめた。すると迅がそのことの核心をつこうとした。

 「高村さん、ドアが一つしかないんですけど?

 二つ自室があるんですよね?ということはここって俺の自室ですか??」

 そう言われた高村は疑問そうに答えた。

 「ここはお前達二人の部屋だぞ?共同だ共同。もっと喜んだらどうだ?」

 満瑠も流石に黙っていられなくなったのか一言こぼした。

 「二人で一つの部屋を使う、ということですか?」

 「そりゃそうだろ。わざわざかなり広い部屋にしてやったんだぞ?この部屋を1人で使うのはさすがに無理があるだろう?」

 「そうだよ、二人とも。アカメくんと満瑠で二人で使った方がいいわよ」

 迅の後ろから女の人の声がした。驚いて後ろを振り返るとそこには志保がいた。

 「なんだ志保かよ。びっくりしただろうが」

 迅はため息をこぼした。

 すると志保も

 「先輩に向かって既にタメ語なんていい度胸してるわねガキ。〝志保〟じゃなくて〝お姉さん〟でしょ?」と頭に血がのぼっていた。

 そこにすかさず高村が入ってくる。

 「〝お姉さん〟じゃなくてアカメからしたら〝おばさん〟の間違いだろ。それにいいじゃないかタメ語でも。それだけ仲良くなれたんだろ?」

 その言葉に志保が顔を赤めた。

 「別にアカメくんと仲良くなったつもりなんてありませんから!!」

 そう言うと志保は走って自室へと帰っていってしまった。

 立ち尽くす迅に満瑠が話しかけた。

 「ねぇ、とりあえず荷物置かない?そろそろ重くなってきたんだけど、、」

 もう満瑠の体制は腰が曲がっているレベルだった。

 「わぁぁ!!ごめん!!置こう!!ね!?」

 そう言うとドアを開けて部屋の中に入った。

 大きなベッドが二つに大きいテレビが1台。

 さらに専用だと思われるデスクが2台、冷蔵庫などもある。それなりに支部長が部屋に物を揃えてくれていた。


 「とりあえず部屋の枠決めは後にしよう。僕こっちのデスクを使うね」

 満瑠は右側のデスクを、迅が左側のデスクを使うことになった。

 するとドアの奥から高村が声をかけた。

 「とりあえず俺は志保と一緒に晩飯作るからお前達は出来上がるまで待機してろ。わかったな」

 ドアが閉まり、階段をドタドタ上がる音が聞こえた。

 二人きりになった部屋で2人はようやくくつろぐ時間ができた。ベッドの上に倒れ込み布団を抱きしめた。

 「すげぇ!めっちゃ柔らかい!!」

 迅は目を輝かせながら言った。そんな迅を笑顔で見ていた満瑠は迅の目の先に手を差し伸べた。

 「改めて、今日からよろしくね!迅!」

 そう言われると迅は少し照れながら満瑠の手を握った。

 「おう!よろしくな満瑠!!」


 こうして俺達の物語は始まった。新人2人で仲良く同じ部屋、そして同じ空の下で紡いでいくり自分だけのストーリーを


 その頃高村は晩ご飯を作る前にキッチンのドアの前で電話をしていた。

 「はい。まだ推測ではありますが、、


 彼はーーーーーー」


 それから数分間の時間が過ぎた。迅はベッドのうえに倒れ込んだまま満瑠はなにやら太めの本を持っていた。さすがに暇になってきた迅が満瑠のそばによる。なにやら武器関係の資料を見ているようだった。

 「なぁ満瑠、俺も一緒に見てもいいか?」

 その一言に満瑠は笑顔で頷いた。

 「椅子はあれだし、なんならベッドのうえで転がりながら見ようか。迅もずっと転がってたしね」

 そういうと2人はベッドに転がって一緒にその資料を見始めた。

 その資料にはたくさんの武器のイラストや解説、さらには数え切れないほどの細かい使い方が全て書かれてあった。

 「満瑠、ガンナー専門武器のページ見ようぜ」

 「うん。いいよ」

 そういうと満瑠はパラパラとページをめくった。

 ガンナー武器のページを開いた。やっぱりそこにもたくさんイラストが書かれてあった。

 「その小さめのΣ(シグマ)って?」

 迅が不思議そうに満瑠に聞くとその質問にさらりと答えた。

 「ああ。それはガンナー武器でも初心者向けのやつで、名前は〝レオード〟。初心者が扱いやすいように低反動、低重量、中威力で構成されてるらしいよ」

 「すげぇな。てか満瑠、こういうの詳しいの??」

 「うーん、詳しいって訳じゃないんだけど。お父さんもこういう施設に昔お世話になっていてそこでプログラマーをやっていて、僕はその知識を叩き込まれただけだよ」

 なるほどね。と迅は首を縦にふる。


 すると迅が突然身動きを止めた。

 その出来事に満瑠は驚いていた。

 「迅くん、?どうしたの??」

 不安のあまり、呼び捨てを忘れてしまうほど。

 満瑠が問いかけた時に迅にある違和感を覚えた。

 ーなんだろう..この感じ。あまりよくないような....ー


 「満瑠」

 静まり返ったあと迅がそういうと満瑠は焦った声ではい!と返事した。

 すると迅が何もないところに指を指した。

 「そこののところのページ、。開いてくれない?」

 その言葉が満瑠には理解出来なかった。

 「何言ってるの迅?」

 つまり対照的に迅は満瑠の言葉を理解することができなかった。

 「紺色の栞なんて、どこにもない、、よ?」

 満瑠が再び迅と目をあわせながら言った言葉に少しばかりの間が空いた。

 なにかがおかしかった。というよりも満瑠にはなにかがおかしいとしか思えなかった。

 そう。

 ー 迅の片目が緑青色に染まっていたのだ ー

 すると迅は資料に手を伸ばし紺色の栞のついているページを開こうとした。

 が、その瞬間。迅の手首を満瑠が掴んだ。

 「待って、そこには〝閲覧禁止〟てなっているじゃん。ダメだよ....っ!!」

 だがその言葉に一切耳を貸さずに満瑠の手を振り払いそのページを開いた。そこにはとある禁忌に触れた憐れな者達の研究資料が綴られていた。ペラペラとページをめくっていき閲覧禁止ページの最後のページを見ようと開いた。

 そこにはなにも書かれていない。

 白紙の状態だった。

 残念そうにページを閉じようとしたその時迅の脳裏になにかが焼き付いてきた。


 っ!!


 あの時と同じだ!!


 あの実技試験と同じ、、!!


 なんなんだよ!!これ、、、!!


 そして迅はゆっくり目を開けた。

 するとなにも書かれていなかったページに言葉が浮かび上がってきた。


 〝神機兵 レプリカ〟


 その言葉をみた瞬間迅の意識がふっ。とどこかに消えた。



 そして意識が戻ってきた迅はゆっくり立ち上がり目を開いた。そこに広がっていたのは現実とは全く違う世界。向こう側の雲が、湖に映っている。まるで、どこかの境界のようだった。


 ・・・ポチャン。


 その雨音のような音に驚き迅は体勢を崩しかけた。前を見ると1人の少年が立ち尽くしていた。

 するとその少年は迅の振り向いた。

 「あ、やっと来たんだね。待っていたよ。君のことを」

 蒼い瞳に謎の白い服。なかなかサイズのでかい。腕は全て通りきっていて、長さだけがでかかった。白く長い髪が吹いていないはずの風でなびいている。

 「ここは、どこなんだよ。お前は誰だよ。」

 「さあね。まだ君に教える義理はないよ。この場所のことも。僕自身のことも。そして、、君自身のことも、ね」

 そういうと少年は笑いながら迅に背を向け、果てのわからない世界を見つめていた。

 「なぁ、、。あれ?俺、水の上に立ってる?」

 迅の言葉に少年は言葉をかけた。

 「君の立っている場所は水の上なんかじゃない。そう捉えても仕方ないとは思うんだけどね」

 そういうと少年は、少しため息をついて話し出した。

 「まあ、ここに来たということはそれだけの資格を持つ、ということだよね。仮に君がなんの証もなしにここに来ているなら僕は君のことを殺さなければならないもん」


 「俺には証なんてない!!そんなもの俺は知らない!!なんで俺を殺さないんだよ!?」

 その言葉に少し耳を傾けた。

 「何言ってるの君?既に証を持っているじゃないか」

 そういうと少年は瞬時に迅の目の前に移動し迅の額に指を指した。


 「現に、君は僕の姿が見えているだろう。これこそが君に与えられた証じゃないか」


 その言葉を迅は理解できなかった。目の前にいる少年の姿が見える。そんなこと当たり前じゃないか。なにを言っているんだよこいつ、、。

 しばらく呆然としている迅をみて少年は大きくため息をついた。

 「まぁいいや。君が僕のことを知らなくても正直どうでもいい。能力者であることに間違いはなかったんだからね」

 少年は1人でクスッと笑う。まるで全てを知り尽くしているような口ぶりだった。そんな少年をみて迅は少々気味悪がっていた。


 「とにかく俺は元の世界に帰るからな」

 「なに言ってんの?帰れる訳がないじゃん」


 え、、、。

 こいつ、、何言って、、、


 「向こうの君がもうすぐ目を覚ます。確かに1度は向こう側に帰れる。だけどね、、」

 少年は言いたげな言葉を抑え込んだ。


 「もう時間がない。帰るといいよ」

 その言葉を聞いた迅は突然身体が動かなくなり徐々に意識がなくなっていった。下から徐々に。まるで世界に吸い込まれるかのように。

 すると見ないうちに迅は謎世界から消えてしまっていた。見送った少年は背中を向けまた境界の果てを見つめた。

 

 「向こう側には帰ることができる。だけどね、、〝アカメ〟。君はこちら側へ必ず帰ってくることになる」


 意識が戻った迅はゆっくり目を開けた。さっきまでなかった色が見える。肌にはなにか柔らかく温かいものが被さっている。すると目を開けた迅に気づいて満瑠が走って駆け寄った。

 「迅大丈夫!?突然意識がなくなったようだったから心配したんだよ!あ、大丈夫だよ。支部長たちにはこのことは言ってないから」

 「、あぁ。ごめんな」

 迅は身体を起こした。そんな中満瑠とは別の声が聞こえてくる。

 「やっほーアカメくん。心配になったから満瑠くんと一緒に待ってたんだよ〜」

 その声は副支部長、斧谷 新だった。

 「斧谷さんまでいたんですか、。それは迷惑をおかけしました」

 いいよ〜。と斧谷は二カッと笑う。するとドアから高村の声がした。

 「おーい。飯の準備ができたぞ。冷める前に来いよ」

 そういうと高村はリビングの方へと足を進めた。3人は部屋の中でしばらく動かなかった。


 「よ、よし。とりあえず僕が先に行ってくるからもう少し落ち着いたらおいで。資料のことは黙っといてあげるからさ」

 そういうと斧谷はドタドタと音をたててリビングへと走っていった。

 「迅、行けそう?」

 「あぁ。大丈夫だよ。俺達も行こうか」

 満瑠の手を握りながらだがゆっくりと立ち上がりリビングへと向かっていった。

 ドアを開けるとテーブルの上に料理がズラッと並んでいた。少しでも揺らすと料理が崩れ落ちるのではないかと心配になるほどだった。


 「今日は頑張って作ったわよ!さあ、召し上がれ!」

 いただきまーす!と感謝の言葉が支部全体に響き渡る。迅は速攻唐揚げに手を伸ばした。そしてとりあえずと言いつつ10個ほどを皿にのせて食べる。満瑠はというとサラダや魚などをゆっくりと食べていく。完全に好みが肉食と草食で分かれている。

 結局迅はサラダなどには一切手をつけず満瑠は肉料理には手をつけずにお腹がいっぱいになってしまっていた。

 「「ごちそうさま〜」」

 そういうと2人は流しに皿をだしてさっと部屋に帰っていった。志保も食べ終わり洗い物を始めた。その後食べ終わった高村が志保のそばに寄る。

 「洗い物、手伝おうか?」

 「ありがとうございます。支部長」

 そういうと少し隣にズレて2人作業へと変わった。

 「いや〜。相変わらず慎ちゃんと志保ちゃんは仲がいいよね〜」

 そんな中斧谷はまだ食べ終わらずにテーブルで食事を楽しんでいる。

 「相変わらず食べるのが遅いんだよ。食べ始めて何時間経った?いつもよりも1時間長引いてるぞ。志保に迷惑だろうが。さっさと食えこのノロマ」

 高村は斧谷を見つめて真顔で攻めた。この支部の中で斧谷はダントツ食事のスピードが遅い。 いつも3時間はかけないと食べ終わることができない。

 「酷いな慎ちゃんは。ノロマなんて言わないでよ。友達に対してその言葉はないでしょ?僕、泣いちゃうよ?」

 「勝手に泣きわめいてろ」


 さすがの空気である。高村と斧谷で揃ったときは必ずこの空気感がお約束になっている。あ、そういえばと高村が志保に話しかけた。

 「おい志保。そういやあのチビの能力について何かわかったことはあるか?」

 「えっと、、アカメくんのことですか?あの能力に関してはまだ解明できていません。もうしばらく時間をください」

 そうか、わかった。と高村は頷く。

 すると斧谷が疑問そうに高村に問いかけた。

 「ねぇ慎ちゃん。なんでアカメくんの能力について知りたがってるの?さっきなんの確証もなしに上の方に連絡入れただろ?」

 「お前、どこまで内容を聞いていたんだ」

 高村は真剣な顔で聞き返す。その言葉に斧谷はゆるく返した。

 「いや、そんなに長くは聞いてないよ。だけどあの子の能力について上に話すのは早すぎるんじゃないかな、、?」

 すると高村はフッと笑った。

 「大丈夫だ。総本部長も薄々感じ取った様子だったからな。」

 「へぇ。ずいぶん余裕なんだね。」

 当たり前だろと高村は言い返した。そんな中志保は斧谷を見つめて溜めていた一言をぶちまけた。

 「話す時間があるならさっさと食べ終わってください!!」


 その後30分かけて晩御飯を済ませた斧谷は

 ひとつ話題をとりだした。

 「慎ちゃん。そろそろ例の話をしておかなくていいの?早めに言っておかないと精神的にキツイと思うけどな」

 その言葉に水無月と高村は同時に顔の表情を曇らせ、少しの間沈黙が続く。つい先程の騒がしさが嘘のように消えている。深夜2時になり、部屋の時計がボーンと音を立てて時間を告げる。

 ようやく高村が静けさの中、口を開いた。


 「確かにあの話はしておかないと将来、彼らが苦しいだけだからな」

 横を向いて遠くを見つめている。だが目の前にあるのはただの壁だ。その壁からさらに遠くを見ているかのようにボーッとしている。水無月は心配そうな表情をしたあと高村の肩を軽く叩いた。

 「あまり過去にふけらないほうがよろしいかと思います。辛いことを思い出すのはわかりますが」

 そして振り向いた高村の表情はまるで絶望に残された1人の少年だった。

 その表情に水無月は思わず視線を逸らす。

 「はい。慎ちゃんも志保ちゃんも暗いのおしまい。明日、ちゃんと話そうよ。きっとわかってくれるよ」

 斧谷がそういうと水無月も高村も少し笑顔になり支部の夜の終わりを告げた。


 そして翌日。

 高村は三階にある大きな部屋に迅と満瑠を呼び出した。ドアを叩き中に入ると視線の先に支部長の姿がポツンと見えた。真ん中に立ち尽くし、窓の外を見ている。

 近寄って迅が声をかける。

 「なんの用なの支部長。斧谷さんが話あるからって言われて来たんだけど、、」

 「なぁ、二人とも。〝レイヴン〟と言われる組織を知っているか?」

 〝レイヴン〟、その名前を聞いたのは初めてだった。そして、聞いたことがないと返事をする。

 すると続けて高村が話出した。

 「〝レイヴン〟とは、かつて世界中で行われていた戦争を、人々に明かさないために作られた偽装世界を維持する組織だ。」

 その言葉に迅が反応した。

 「偽装世界での戦争?それって血の流れない戦争を行うためのものなのか??」

 それは違うと高村が反論を示す。


 「違う。偽装世界とはいえ、戦争を行うとそれ相応の代償が支払われる。つまりは連れていかれる戦士は、少なくとも死者はでる。血の流れる戦争を明るみに出さないための戦場を守る役目を受け継いだ。それが〝レイヴン〟という組織だ」

 少し深呼吸をすると、また話出した。

 「そして、その戦場に降り立つ一つの国家。それが我々の国〝フェイト〟だ」

 「つまり、僕達もいずれにせよ戦場に出向くことになる、と言いたいのですか?」

 その言葉に満瑠が核心をついた。

 「我々は〝フェイト〟に選ばれし戦士。いつかは戦場に出向くことになる。血の流れる世界で生き残るためには、そのための知識を得る必要がある。ということだ」

 語り尽くした瞬間、2人の目の前にΣ(シグマ)がふいに出現した。


 「おい支部長。今からなにする気だ」

 その言葉に高村は素早く答える。

 「お前達に職業ごとの特性を教えてやる」

 すると手に持っているΣ(シグマ)を変化させた。


 「『セレクト:グレイア』!!」

 高村の声に反応しΣ(シグマ)が徐々に形を変えていく。光が消えた時には完全に形を変えて一本の剣になった。刃先まで鋭く、光沢感のある。品質的には最高レベルだ。

 「お前ら、これ使うの初めてじゃないだろ?」

 その言葉に二人は同時に戸惑う。

 「支部長。僕達はΣ(シグマ)に触っただけで声を出して変化させたことはないです」

 満瑠は少し不満そうに答える。迅はそのやりとりを少し見送る。

 「なんだ。使い方の問題か。安心しろ。それはガンナー用だから、好きに形変えていいぞ」

 すごい軽く説明されたよ!?

 そんな軽くて大丈夫なの!?

 二人はまじまじとお互いの顔を見つめたあとΣ(シグマ)の形を変えた。

 先に発したのは迅だ。

 「『セレクト:グレティス』!!」

 迅の声に反応し徐々に銃へと形を変える。すると途中でΣ(シグマ)が宙に浮かび上がり二つに割れて、迅の手元に戻る。

 グレティスはガンナー用武器の中で最も扱いにくい高レベルなもの。そして、唯一の双銃武器だ。その光景に高村は少々驚いていた。

 「初心者で最高レベルの双銃を選んだか。なかなか扱いにくいから大変かもな。」

 高村は少しため息混じりにそう言った。

 

 次は満瑠だ。

 「『セレクト:シアン』!!」

 シアンはガンナー用武器の中でも中威力を発する武器だが、コントロール性は武器の中でもトップクラスだ。その声に反応し満瑠のΣ(シグマ)も形を変える。少し銃口が小さい。これがシアンの特徴である。弾を撃つ時のスピードは格別速い。さらには中威力なので、スピードと混ざり合いかなりのダメージを与えることができる。二人の選んだΣ(シグマ)に対して高村が大きくため息をついた。

 「お前らシアンとグレティスという名。どこでそんな知識を得た?」

 その表情は真剣なものだ。まるで餌を見つけた 肉食動物のような。その疑問に迅が答えた。

 「満瑠がΣ(シグマ)に関する資料を持ってたから、一緒に休憩時間で読破したんだよ。別に悪いことじゃないんだろ??」

 透き通るような言葉に高村は言葉を失った。

 するとゆっくりとΣ(シグマ)を構えて戦闘態勢を整えた。

 「ほう。では、お手並み拝見といこうか!!」

 そういうと高村が一気にこちらに駆け込んでくる。迅は右側へ移動し、満瑠は左側へ。両サイドから一気に攻めるという戦略だ。

 「なるほど、挟み撃ちか。初心者にしてはいい考えだが俺には通用しないぞ!」

 「へぇ。なら1発も当たらないはずですよね!」

 そういうと満瑠が思い切り引き金を引いた。

 ズギュュュュン!!!!と音が鳴り響き光の弾が高村に向かって飛んでいく。速度の速い弾ではあったが高村には通用せずにグレイアの刃で防がれてしまった。

 「なかなかやるじゃないか。いい狙い方だったよ。だが、俺が近くに寄ったらどうかな!?」

 一気に高村が剣を構えて満瑠の方へと走り込んできた。

 動きの速さが人間ではなかった。言葉を発した時には既に満瑠の目の前まで迫っていた。

 「、、え!?」

 さすがに驚きを隠せずにいた。

 そんな満瑠に容赦なく剣が降り注ぐ。

 「さっきまでの威勢はどうした!!」

 間一髪足元すれすれで剣を避けた。高村は舌打ちをして満瑠へ向かっていく。そんな背後に迅が双銃を構えて何発か弾を発した。

 思ったよりも反動がでかく思うように弾が動いてくれなかったが、高村の背中に向かって弾が飛んでいる。

 「俺もいるのを忘れてもらっちゃ困るぜ!支部長!!」

 高村はその足を止めて一気に剣を振りかざした。あまりの力強さで発生した旋風が一瞬で迅の弾をかき消した。

 「この程度の弾で俺がやられると思ったか?」


 「この弾ならどうでしょう!『Σコネクト:ブレイザー』!!」

 手をシアンに翳して、小さく青い光がシアンから発している。

 「これなら!いっけぇぇぇぇ!!!!」

 満瑠の撃った弾の威力は段違いだった。威力が大幅に上昇し、速度も上がっている。そんな強力な弾が高村に向かって飛んでいく。その弾に目をつけた高村だったがグレイアで止めようとはせずに身体を動かしてその弾を避けた。

 そしてその先には迅の姿があった。満瑠はしまった!という顔で立ち尽くしていた。


 「え!?ちょっ!!待っ、、!!」

 ドゴオオオオォォォォ!!!!!!

 その弾はそのまま迅にストライクであたり壁際まで吹き飛ばされた。壁にヒビが入るほどの威力に吹き飛ばされた迅は床に倒れてしまった。


 「迅!!」

 満瑠は走って迅の元に駆け寄ろうとしたが行く先を高村が遮る。

 「どこに行く。ここは戦場だ。本番では仲間が殺られるのが運命なんだ。この程度の傷で倒れるレベルならあいつは白虎にいることができない。本部長がここに呼び込んだんだ。きっと策があるに違いない。ほら、続きをやるぞ」

 その言葉に満瑠は気持ちを切り替えて戦闘に臨んだ。

 「というよりも満瑠。資料にはΣコネクトなんて記載していないと思うのだが、これはどういうことだ」

 「この支部に来た時にお教えしたはずです。僕はどちらかというと上級者寄りだと!!」

 そしてもう一度引き金を引いた。

 だが、何発撃っても高村に当たることなどなかった。迅は先ほどの衝撃で倒れたままで満瑠にも体力の限界が近くなってきていた。

 「よし。もうそろそろ終わりにするか。、、、お?」

 突然止まった高村の言葉に満瑠は反応した。

 視線はヒビの入った壁のすぐそば。

 さっきまで倒れていた迅が立ち始めた。

 「なんだ。まだやる気あったのか。そろそろ本気でやりたかったところなんだ。少しは楽しませてくれよ!!」

 そして高村は剣を大きく構え迅はゆっくりとそちらへ歩いていく。ゆらゆらと、まるでなにかに取り憑かれたかのように。

 「遅いんだよ!!」

 高村はそう言うと一気に迅に向かって走り込んでいった。そうして思い切り剣が振りかざされて迅の負けだと思い込んでいた。


 そう。


 次の瞬間、迅が高村の額に片方の銃口をつけて立ち尽くしていた。高村は身動きが取れなくなったかのように動こうとしても動けなかった。

 すると小さな声で迅が一言放った。


 「


 そう言うとゆっくりと眼を開いた。

 緑青色と赤色のオッドアイが冷酷に高村を見つめ、時を刻む。

 するとウィィンと部屋のドアが開いた。

 「まったく。なんかうるさいと思ってたら慎ちゃん達か、。て、、え?」

 入ってきたのは斧谷だった。さすがにその光景に驚き言葉を失った。するとゆっくりと迅が銃口を下げた。高村が呆気に取られていると突然フラッと迅が倒れ込んだ。


 「え!ちょっとアカメ!しっかりして!!」

 斧谷と満瑠がすぐに迅の元に駆け寄る。

 数分すると迅に意識が戻った。

 「迅。大丈夫?」

 満瑠が心配そうにこちらを見ている。

 なんだ、、なんで俺。ここに倒れて、、、

 あれ?さっき、ここにもう一人いた?

 斧谷さんじゃなくて、、


 虚虚な記憶に迅が頭を抱える。

 そんな迅に高村が背中を摩った。

 「アカメ。今の戦闘のこと。どこまで覚えている?」

 その疑問に迅は不思議そうに答える。


「えっと、満瑠の弾が俺に当たって、、壁にぶつかって、意識がなくなって、変なに行って、、」


 *


 これは数分前の迅の記憶。


 俺は満瑠の強力な弾を直接喰らい訓練室壁際まで吹き飛ばされ挙げ句の果てにはヒビが大きく入って俺の意識が飛んでいった。次に俺が目を覚ましたのは訓練室なんかじゃなかった。


 まただ。


 なんで俺はここにいるんだよ、。


 迅がこの場所に来たのは資料を読んでいたあの時以来だった。迅はゆっくりと立ち上がりあたりを見渡した。相変わらず広くて、何も無い。

 あるのはあまりにも静かすぎる空間と非現実的すぎる光景だけ。

 そんな迅の元にまた一人の少年が現れた。


 「あれ?また来たの??」

 「俺だって好きでここに来てる訳じゃねーんだぞ」

 迅は不服そうに呟く。そんな姿を少年はどうでもよさそうな顔でまじまじと見つめている。

 「好きで来てる訳じゃないって、、簡単に言ってるけど、ここはそんな気楽に遊びにこれるような場所じゃないんだ。あまり頻繁に来ないで欲しいな。まだ君はを手にしていないんだから」

 迅は疑問そうに少年に顔をやる。

 「というか、今もやっぱり俺って意識がなくなってる訳?前もそれが原因でここに来たじゃん」

 「正解だよ。今は意識を失っている。だからここにいるんだろうね。何を思ってここに来たのかは知らないけど。というよりも、今戦闘中だったの?さっきまで見てたんだけど仲間の弾喰らって意識失うとか、君戦士としてどうなの?」

 からかい気味に笑いながら迅を煽っていく少年。その少年と迅を取り囲む謎の静かな空間。

 全くもって不思議だ。


 「うるせぇな。あいつなんかよくわかんない光出してさ、いきなり弾の威力とかが上がってんだぞ。そりゃ意識くらい飛ぶさ。俺もあれくらい強かったら、、あんなやつ」

 最後に発した何気ない言葉に少年が食いつく。

 ふぅん。と興味深そうにクスッと笑った。


 「強くなりたい?」

 その言葉に迅はうまく反応できず驚いた表情をただただ浮かべていた。そんな迅を見て、少年はどこか納得したかのような表情をした。


 「まだ君は〝秘められた能力〟をうまく活用できていないんだよ。その能力さえ発揮できれば、君は誰よりも強くなることができる」

 まるで全てを知っているかのような口ぶりで迅に語りかける。だがもちろん、迅はその能力を理解できていないために疑問が多くなっていく。

 「なんだよ。全部知っているみたいな口ぶりで話やがって。訳わかんねぇんだよ」


 「


 その言葉に迅は大きく目を開いた。

 どういうことだ、、。


 俺の、全部を知っている、、?

 そんなことありえない。だって、、


 そんなの、非常識すぎる。いや、この場にいること自体が非常識なのはわかってるけど。


 ありえない、、。


 迅は顔を俯かせて表情が暗くなってきていた。

 そんな迅の背後に回り込み、少年が呟いた。


 「君の両親を殺した犯人のことも、僕は全てを知っているんだよ〝アカメ〟」


 その言葉に迅が大きく振り返った。その顔を見て少年は薄く笑うと迅の頬に手をそえた。

 「今の君の眼。その眼こそが君の能力さ。つまりは、それが僕の姿が見える原因。君に与えられたなんだ」


 そのまま少年は迅の顔のすぐそばまで近くに寄り添った。

 「君の強さに敬意を評して君自身に力を与えよう。さぁ、行ってこい。化け物に生まれ変わるために」

 最後のこの言葉は迅には聞こえていなかった。

 向こう側の迅が意識を取り戻すと同時にこちら側の迅の意識が飛んでいく。完全に少年の世界から消えた迅の姿を少年はずっと見ていた。


 すると、、


 追いつけないほどの速さで銃口を支部長の額につけている迅の姿がそこにはあった。

 その出来事に少年も驚いた。

 「まあ、これくらいはまだ準備運動にもな....ん?」

 その光景から目を逸らそうとした瞬間に少年の目がある一点に止まった。そして少年はクスッと笑うとその舞台に背中を向けた。


 「すごいな、まさかオッドアイときたか。これは見逃せないなぁ」

 すると突如として何もなかったはずの空間に一つのテーブルが出現した。そこのテーブルには紅いサイコロが一つ転がっていた。


 書かれていた数字は〝1〟

 少年はそのサイコロの数字を見てまた一言呟いた。

 「彼が出した選択は〝6〟か。ふふっ。いつも君 の出す答えは僕の裏の数字ばかりだな。これは思ったよりも早く完成しそうだな。


 

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