第14話の一部 帰りのあれこれ
鵬崎樹と臥蛇泉の二人に別れを告げて、歩き出した真中と充希は、一時間ほどかけて転界路に辿りつく。
正直気乗りしない真中だったが、そうはいっても他に帰る道などないので渋々、充希は何か考え事をしているようで、難しい顔をしながら歩き続け、そのままの流れで、それぞれ転界路へと足を踏み入れた。
相変わらず考え込んで、何の苦しみもなく転界路を歩き続ける充希の事が、羨ましく思われる真中は、彼女の真似をして、何やら考えてみようとする。
昨日の朝、家を出た真中は何の連絡もないまま、神原で一夜を過ごしたわけだが、帰ったらどうなるだろうか。夜遅くなっただけで叱られる家なのだから、これは非常に由々しき事態である。
もう、神原へ来ることも無いかもしれないな、などと考えると、単調過ぎて、嫌で嫌で仕方のない転界路の景色も、少しは愛しく思われてくる。
それにしても、真中が迷うのは、鵬崎樹と臥蛇泉という二人の人間の事。これを、宗通先生に黙っていてもよいものかどうか。それが、彼の今暫くの悩みの種だ。
道中不測の事態があったことは、これだけ帰りの遅くなったことからも隠し様がない。ともなれば、一晩の宿をどうしたのかというのは、まず追及されるだろう。
もし素直に、二人に世話になりました、などと言ったとすると、二人に恩を仇で返すことにもなりかねない。
だからといって、黙っていても問題ない些末な事柄かと言えば、そうではないだろう。放っておいて、後々この事が表沙汰になるようなことがあれば、今までの不文律が崩れ、二つの社会の今の関係が、壊れる事態にまで発展する可能性だって皆無ではない。
あるいは、彼らの雇い主というのが、その辺りをきちんと考えて、手続きを踏み認められているとする。そうであれば、特に何の心配もなく伝えられるのだが、調べる術など持ち合わせてはいない。
そんなことを考えながら、真中は境界領域を目指して歩き続ける。
途中、度々充希の様子を窺っていると、初めは難しい顔をしていた彼女だったが、いつの間にか考え事も終えたらしく、曇りなき笑顔を浮かべて、鼻歌交じりに歩くようになっていた。
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