第17話

「第一に、材料がない。第二に今日の朝ごはん用のものは、前の晩のうちから仕込むから、です。もう、きょうは今日で用意があります」

「え、そうなんですか」

「そうです。たかが味噌汁と、侮るなかれ。一杯の味噌汁といえども、立派な料理なのである。チャッチャッパ、と作れるものに非ず」

 と、最大限にもったいをつける。

「はぁ、そうですか。深い、ですね」

「そう、なのである」

 ハンゾー、感心しきりである。シメシメ、である。

 ん、なんか気が付いたぞ。

「違いますよ、そうじゃないです。このあいだの『具』教えてくださいよ」

 あれ、気付いたか、ちっ。

「ヒドイ、なぁ。アルミさん、誤魔化されませんよ。っていうか、そこまで渋るってことは、あれは『門外不出の何か』だったりするんですか」

「ううん、まったく。ただ、面白いから、からかってるだけ」

「ぎゃふん! もう、まったく。年上をからかうもんじゃ、ないですよ」

「キャハハハハ。『ぎゃふん』だなんて、ホントーに使う人、はじめて見たー」

「え? ああ、これは大学一年の時に古いマンガ読んでて、面白いから冗談で言ってたら、いつの間にか口癖になっちゃって。気を付けてるんですけど、つい出ちゃうんですよ」

「どっしぇー、おもしろすぎるー」

「もう、勘弁してくださいよォ。社会人になって、ほとんど出なくなって安心してたのになぁ」

「ヒーヒー、お腹、こわれるー。やめてー」


「こらっ、うるせェぞ、或美! こんな、日曜の朝っぱらからなにやってやがる、って、何だぁハンゾーかい」

「あ、はい。おじゃましてます」

「なんだ、今日も取材の予定入ってたかい。いやぁ、悪ィ悪い」

「いえ、違うんです。今日はまったくのプライベート、仕事なしです」

「おう、そうかい。んじゃあよ、何だって仕事じゃあねえのに、こんなとこィいるんでい。この辺りは、日曜ともなると地元の人間ばかりになるんでな、サテンでもなんでもかんでも閉めちまうぐれェ閑散としてるってェのに、どうしたィ」

「いえ、アルミさんに……」

「なに! おまえら、もう付き合ってんのか?」

「ハハハハハハハッ。おかしすぎるー」

「ち、違いますよ!」

「じゃあ、なんでィ」

「う、それは、ですね」

「ん、何だぁ。なんでェ口ごもる。なんかやましいことでもしてるのか」

「ヒー。もうダメェ、お腹の皮がよじれるー」

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