第12話

                     ◆

「で、こいつが、ウチの職人、金山籐四郎だ。まあ、とはいっても親戚内だがな。こいつの母親の一番下の弟だ。俺にとっちゃ、甥、になるのか、なぁおい」

と、言いながら、じーちゃんがわたしのあたまを撫でるでもなく小突くでもなく、触る。

「さあなぁ、なんていうのかな。ま、それよりよろしくお願いします。金山です」

 そうじーちゃんに答えてから、トーシローが服部半平に向き直ってから言った。へー、トーシローのこんなにまじめな顔、ずいぶんとしばらく見なかった気がする。

「よろしくお願いします。わたくし、ちよだ出版の服部です。この度は、わたくしの無理なお願いを聞いていただきまして、取材させていただけるとのことで、ありがとうございます。お仕事の邪魔になりませんよう、気を付けますのでお願いいたします」

 と、言いながら名刺を渡す。

「いや、構いませんよ。話は聞いてるっちゅうか、『企画書』拝見しました。もう、じゃんじゃんやっちゃってください。ついでに、こうイケメンの職人が花嫁募集中ぐらい書いてもらっても構いません。でも、こんな潰れかけの荒物屋の職人なんかにゃ来手はねえか」

「おう、いってくれるじゃねえか、トーシロー。おめェみたいな浮草を、雇ってやってる雇用主様の前で、たいそうな大口叩いてくれるじゃねえか」

「なに言ってるんですか、親方。こんな店、俺がいなきゃ、とっくのとうに潰れちまってますよ。それを、俺様が何とかアルミが路頭に迷わないように働いてやってるってのが、まだ分からないんですか」

 くどいようだが、アルミとはわたしのことだ、悪しからず。でもって、また始まったのがトーシローとじーちゃんの三文芝居だ。やれやれ。

「ちょっと、朝からやめてよ、みっともない。今日はお客さんが来てるっていうか、取材を受ける身なんですからね。こんなとこ面白おかしく書かれでもして、お客さんが減ったらそれこそ困るでしょーが!」

二人が調子に乗ってヒートアップしないように、ちょいと釘を刺す。

「すみませんねえ、今のは見なかったことにしてください。今、祖父が言ったトーシローというのは、金山籐四郎、わたしの叔父に当たるんですが、の通称で、わたしたちの中ではそういう風に呼んでます」

 なんか、二人とも今日は余計に浮かれてるみたいで、こりゃ大変そうだ。じーちゃんが何と言おうと今日は学校休むんだったなぁ。ハぁ、失敗した。 

「なんだ、どうしたアルミ。今日はやけにしゃっちょこばってんじゃねえか」

 そういうトーシローを、キッ、と睨みつけてやる。あ、ちょっとビクッとした。よし、分かればよろしい、ふんっ。


「ハンゾー、にしよう」

「んっ」「何ィ」「ハイッ?」

 わたしが唐突にそう言うと、三人がまったく同時に反応した。

「なんだ、或美。なにをハンゾーにするんだ」

 と、じーちゃん。他の二人も同意見らしく(当り前か)目がじーちゃんの言葉に頷いている。

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