第11話

「あ、いえ。写真もぼくが撮ります。ちゃんと、こうして一眼レフの貸し出しとかも受けてますから」

「え、なんだい、そうなのか。じゃあ、なんだ、今日一日分の貸出賃とかも掛っちまうんじゃねえのかい」

「いえ、だいじょうぶですよ。取材中はずうっと自由に使えますから、気になさらないでください」

「ああ、そうなのかい。じゃあ、今度は忘れないようにしないと、あいつにも完全にヘソ曲げられちまうからな」

「そうですね。よろしくお願いします。じゃあ、ぼくは今日のところはひとまず退散します。今日は申し訳ありませんでした。それと、お味噌汁ごちそうさまでした」

「いやあ、こっちこそ悪かったねえ。今度はさ、忘れねえからさ」

「よろしくお願いします。あ、そうだ、お嬢さん、上にいらっしゃるんですよね」

「うん、まだガッコにはちょっと早いし、朝飯も喰ってねえしな。大丈夫だ」

「あ、はい。じゃあ失礼して」

「ん、なんだい」

「おじょーさーん、突然おじゃましてすいませんでしたー。また、日を改めまーす。あと、お味噌汁ごちそうさまでしたー、すっごくおいしかったでーす。失礼しまーす」

「なななななな、なにー!」

 だだだだだだっ、とわたしは二階から駆け降りる。

「なに、なに、なに、どどどどどど、どういうこと、じーちゃん。どーいうことなのよ、ねえ、じーちゃん」

「なんだろね、こいつぁ。早く降りてくりゃいいのに。もう、服部さん帰っちまったぞ」

「じゃなくって、じゃあなくってェ、じーちゃん。あの人に、味噌汁出したの。えー」

「なんでえ、いいじゃねえか。そこのサテンで喰っただけだって言うからよ。やっぱり、日本人なら味噌汁だろってな、喰わしてやったのよ。ウメー、って誉めてたぜ」

「エー、困る困る、こーまーるぅー。え? なになに、おいしかったって」

「おう、これならカネ払ってもいい、ってよ」

「え、ウソほんとー。それは、ちょっとうれしいかも」

「でよ、今度ぁヘソ曲げられないように今から言っとくが、水曜日にな、また来るってよ。おまえの味噌汁、っていうか、朝メシを楽しみにしてますってよ。おう、いいか、忘れずに言ったぞ」

「へえ、来るんだ。水曜日。へえ、来るんだ。ふうん」

「なんだなんだぁ、生返事しやがって。分かったのか、水曜日」

「分かった分かったぁ、大丈ブイ。予定が分かってるんなら、わたしだってちゃんと動きようがあるんですからね」

「へいへい」

「へいへい、じゃないでしょ。今日だって、じーちゃんが言っといてくれたら、なーんにも問題はなかったんだからね。分かってるの」

「分かったよ、悪かったな。それよりおまえ、早く朝めしの支度してくれ」

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