第10話

「あんた、箸に好みはあるかい。塗じゃなきゃダメだとか、何じゃなきゃダメだとか」

「え、いえ。贅沢は申しません」

「おお、そうかい、そうかい。ちょっと待ってくれよ。あ、うん、これでいいか。じゃあ、もうちょっと待ってくれ。今、よそうからな。うんっとう。ん、なんだな、具がねえぞ。こりゃ、これでいいのか」

 じーちゃんの声がする。

「おーい、或美。今日の味噌汁には、具が入ってねーが、こりゃこれで正解かい。なんか別に用意とかしてるってんじゃあ、ねえのか」

 ん? 味噌汁食べるの。っていうか、朝ごはん、食べるの? あー、行きたい、けど、あの人まだいるみたいだし。出ていけないじゃん、もー。

「おーい、或美。寝てんのかぁ」

 もー、寝てるわけないじゃん、もー。しょーがないなあ。

「いいの! 今日の味噌汁は、それでせーかい、なんだから」

「おお、分かった」

 って、じーちゃん、お客さんの前で朝ごはん食べるわけ。っていうか、あの人、帰らないわけェ。えー、かんべんしてよー。

「へー、おもしれーなあ。ん、よし、はいよっ、お待たせ」

「あ、はい。いただきます」

「どう、でえ。まだ、そんなに冷めちゃあいねえと思うがな」

「あ、はい、大丈夫です。ん、これ、おいしいです。すっごく、おいしいです」

「そうかい。だろ、うまいだろ。カネ、取れそうかい」

「いやあ、ぼくもそんなにグルメじゃあないんですけど。このお味噌汁がおいしいのは、分かります。ぼくなら、これにお金払うのはあり得ますね。こんなの初めてです」

「そーかい、そーかい、あり得るかい。そうだよなあ、うまいよなあ。あ、いかんいかん、こりゃ、ここだけの話ってことで」

「分かりました。でも、こんなにおいしい味噌汁が食べられるんなら、やっぱり日を改めてうかがいます。そん時は、朝食食べないで、こちらでいただいてもいいですか」

「いいよ、いいよ、いいってことよ。或美にぁ言っとくぜ。じゃあさ、明日来るかい」

「いえ、明日は予定がありますので。えーと、じゃあ失礼して手帳を確認します。えーと、そうですね、今度の水曜日はいかがでしょうか」

「ん、水曜日ね。カレンダーカレンダーっと。んー、と。お、いいね、大丈夫だな。うん、大丈夫だ。こんときなら、職人もいるしな。しっかり書いとくぜ」

「あ、そうですか、了解です。職人さんにもいていただけるのであれば、こちらもその方が助かります。それでは、今度の水曜日、時間は朝の七時でいかがでしょうか」

「七時、ってことは、今日ぐらいってことだな」

「はい、そうですね。出来れば、お仕事の様子だけではなくて、生活風景にまで踏み込んだ感じでお話とか、写真とかもお願いしたいのですが」

「それは構わねえが。ん、なんだい写真まで撮るのかい。カメラマンとか、来るってぇことかい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る