第9話
「ちょちょちょっ、ちょっと待ってよー。かまうかまう、わたしはかまうってば」
上は、もう制服に着替えてたけど、下はジャージだし、前髪はクリップで留めておデコまる出しだし、顔もきっとまだむくんでるし、こんなの他人に見せられない。
ぜったい、ヤダ!
「いいじゃねえか、減るもんじゃねえし。おお、早く上がれって」
「減る減る、ぜったい、減る! ぜえったい、ヤダ。もー」
わたしは、もう金輪際降りてやらないぐらいの気持ちでいっそいで二階に駆け上がる。
「あのー、ぼく、出直してきます。日を改めます」
「そーかい、そーなのかい。なんだか悪いねえ。今度ぁ、よおく言い聞かせとくからよぅ。悪いな」
「いえ、もう全然。取材先のご家族に嫌われたんじゃあ、今後スムーズな取材も出来ないですからね。おじょーさーん、申し訳ありませんでしたー、出直してきまーす」
「・・・・・・・」
もう、知らん!
「あれれ、どうも嫌われちゃったですかねえ」
「いやあ、そんなこたぁねえよ。なんだな、ガキだ、ガキだとばっかり思ってたが、急に色気づくもんなんだなあ。おんなってェなぁ、さっぱり分からねえなぁ」
「いえ、ぼくももっとしっかりお伝えするべきでした。申し訳ありません」
「いや、あんたのせいじゃあねえよ。なんだか、時間つくって来てくれたのに悪りィな。お、っそうだ。このまま手ぶらで帰すってのもなんだから、メシ喰ってかねェかい」
「あ、いえ。今日は一日仕事になると思ったんで、もう済ましてきました。だから大丈夫です」
「え、そーかい、そうなのかい。でも、あれだろ、駅前のサテンかなんかで、コーヒーとパンとかなんだろ。あんたぁ自分で作るってぇ感じじゃあねえもんなぁ、だろ」
「ははは、当たりです。麹町の駅前のタリーズで食べてきました。いっつももっと余裕をもった朝食を摂ろうとは思ってるんですが」
「だろう、図星だな。じゃあよぅ、あんた、味噌汁だけでも喰って行きなよ。やっぱりさあ、俺なんか朝に味噌汁がねえと、いっちんちシャッキリしねえ。これがな、ここだけの話、あいつの作る味噌汁はナ、うめえんだよ。なんだかな、ワケ分からねェもんばっかり喰わされっがな、こいつがなあ不覚にもうめェんだ。本人に言っちまうとよ、また調子に乗ってとんでもねェもん喰わされちまっても困るからな、口が裂けても言うもんじゃあねえんだがな。こいつぁな、そこいらの店に出しゃ、しっかりカネでも取れるんじゃねえかってぇ思えるシロモノのときもな、あるのよ。どうでェ、喰ってかねえかい」
「は、はあ。そこまでうかがってお断りするっていうのも、何ですし、聞いてたら無性に食べたくなってきました。ハイ、ではいただきます」
「そーかい、そーかい、だろ。おめェさんも、きっと気に入るぜ」
「はい、いただきます」
「よーし、待ってな。えー、と。碗は、これでいいか。で、箸、箸っとお。ン、なんでえ、ねえなあ。ちょおっとォ、待ってくれ」
「あ、はい。待ちます待ちます。全然、大丈夫です」
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