第8話
「おい、きょうのはなんだぁ」
例のごとくじーちゃんだ。
んー、案の定言われたね。多分フタ開けただけじゃあ、ひと目では分からない、もんね。
なんといっても、今日の味噌汁はさすがのわたしのレパートリーの中でも秀逸だ。
題して「金目鯛の頭でだしをとった具なしのお味噌汁」。好きな作家の小説で読んでいて、いつか絶対に作ってやろうと狙っていたものだ。さすがに、そうちょくちょくと金目鯛を買うわけにはいかないので、今回は前もっての試食なし。一発勝負なんで、わたしも今回はおとなしくおとなしく、やたらと神妙に微妙な愛想笑いでやり過ごすことにする。
「ま、まあ、いいからさ。何にも言わずにさ、食べてみてよ。わたしがさ、出したものにハズレ、なかったでしょ」
「おめェ、何だ、もの言いが違わねえか。いつもみてえな険がねえぞ、険が。どうしたィ」
「え? なに。人聞きが悪いなあ。なんか、わたしったらいっつもじーちゃんに向かって険のあるもの言いしかしてないみたいじゃない。失礼しちゃう」
「してないみたいじゃないィ? なぁに、言ってやがる。まったくもって、その通りじゃねえか」
「あー、いったねー。まったく口の減らない老人だ」
「なんだとぅ。おめェ、誰にィ向かって口きいてやがる。なんてェ言い草だ」
「言ったが、どうした。このォ、ヨボ爺ィ」
「よーし、そこまでいうか。よしっ、こい。ケツぁ叩いてやる」
「あー、はなのじょしこーせーにむかって、言ったねー。このセクハラ爺ィ」
「なんだとぅ」
「・・・・・・ください」
「きゃー、あれー! 助けてくだせー、おだいかんさまー」
「ご・・・ん・・・ください」
「こら、逃げるな。折檻してくれる」
「ごめんください!」
「きゃー、きゃー。……っへ?」
「エー、おはようございます。朝からまた、賑やかですねェ」
「あ、あ、お、はよう、ございます。きょうは、なんですか」
「え? いやあ、せっかく取材許可をいただいたんで、まずは一日の流れをうかがうってことで一日密着の取材をさせていただきたい、と昨日ご主人にお電話したんですが」
「は? え、そうなの。ねえ、じーちゃん、そーなの」
「お、おうおう。そうだった、そうだった。なんでい、こんな早くからなのかい」
「いやあ、確か七時ぐらいからお邪魔してもいいですか、ってお伝えしたと思っていたのですが。申し訳ありません、ぼくの言い方が悪かったようですね。ご都合が悪いのでしたら、日を改めます」
「え、そう、だったかねえ。スコーんと抜け落ちちまってるぜ、悪ィ。うちは全然構わねえから、上がってくれ」
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