第2話

 え? 荒物屋って何かって?

 そうだねー、もう今の時代に『荒物』なんて言葉、通じないよね。

 ほんとのところ、自分だって荒物屋に生まれなければ、知らなかったと思う。

『荒物屋』っていうのは、今の言葉で分かりやすく言うとすると『生活雑貨店』てことになるのかな。お鍋とか、お茶碗とか、お台所のものから、ほうきとかちりとりとかの掃除道具なんかまで、たいていのものは揃っちゃう。

 でも、雑貨屋さんって言い換えないところがなんとなくいいでしょ。

 うちの場合は、いわゆる荒物の小売のほかに自家製の小鍋の製造販売もやっていて、今どきはこっちのほうが本業っぽくなってる。

 小鍋っていっちゃうとザッとしてるけど、打ち出し鍋っていうのかな。

 あ、そうそう。じーちゃんが雪平っていうんだっていってた。なんか、キレイ、だよね。

 取っ手付、取っ手なし。フルオーダーで作れるってのが一番大きなポイントらしいけど、ウチのは少し重みがあって頑丈で熱の伝わりが良くって一級品、なんだそうだ。


 じーちゃんのじーちゃんが店をはじめて、じーちゃんの代に鍋を作りはじめたんだけど、もう歳だからってじーちゃんがいうから、今じゃほとんどがトーシローこと金山藤四郎が鍋をこさえてる。

 トーシローってのは、死んじゃったかあさんの末の弟で、大学生のころからウチに入り浸ってるうちに職人になっちゃったっていう変り種。なんでも工学系の博士号も持ってるらしい。よくは分からないけど、大学からも残るようにっていうか残って欲しいとかなり要請されたらしいけど、なぜか、ウチで鍋相手にコンコンやってる。

 はっきりいって、トーシローは変なやつだ。顔だって十人並み以上だし、三十歳近いのに女っ気がまったくない。だからといって、アッチ系でもないらしい。

 ウチだって、一緒に住みゃいいのに、なんだか一人でイギリス大使館の裏っ手に住んでるし。ぜったい変、だと思う。行きも帰りも、のぼりとくだりが交互にあって、かなりの運動量になるに違いないのに「電動アシストは邪道だ」とかいって、自作のチャリンコで通ってくる。

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