第3話

 というわけで、うちはじーちゃんとの二人暮らし。

 わたしがじーちゃんの朝ごはん作ったら、学校行って(あ、わたしはただいま17歳、花のじょしこーせー、なのだ)わたしとほぼ入れ替わりでトーシローが来る。

 そうするとじーちゃんが納品と集金にいって、トーシローが店番と注文をこなす。昼になるとじーちゃんが帰ってきて、お得意さんとこから引き上げてきた鍋の修繕をする。夕方になるとわたしが帰って夕飯の支度をして、三人で食べる。

 終わったらトーシローとじーちゃんがお酒を飲みながら碁盤を挟んであーでもねェこーでもねェとひとしきりいい合ってたかと思ったらトーシローが十二時ごろ帰って行く。

 これがほぼ変わらない毎日のパターン。


 なんだか変化がないといえばないんだけど、じーちゃんぐらいの歳になると大筋は変えないほうがラク、なんだそーだ。

 ま、もともとが怠け性ってことなんだねえ、たぶん。

 とか何とか偉そうなこといってるけど、かくいうわたしもそんなパターンの生活が性にあってるらしい。自分では「引きこもり」って呼んで、はかなげな感じを醸したいんだけど、友達には「単なる出不精の面倒臭がり」と言われちゃってる。

 わたしのクラスでの渾名は「アルバァ」。なんとなくバタ臭いけど、アルミのバアさんをつづめたってことなんだそうだ。理由は、なににつけても物言いが年寄り臭いからだとか。

 わたしのどこが年寄り臭いってんだか、教えてほしいってもんだね、ほんっとに。


 わたしが「単なる出不精の面倒臭がり」なのは、小学校の時から今の高校までずっとご近所なんで、あんまり外に向かって動く必要がなかったってこと、が大きな要因だね。

 だって、ほんとにご近所さんで済んじゃうからさ。なかでも、わたしのとっときの場所は平河天神。

 考え事があると天神さんにいる『なで牛』を見ながらずうっと何時間も座ってるのが好き。町名の由来にもなってる平河さんは、こじんまりしたお社だけど、わたしにとってはまさにうってつけの場所。決して広いとは言えない境内にもかかわらず昼時になると近所のオフィスからタバコを吸いに来る人がいっぱいいるから、本当に近所の憩いの場所なんだ。

 落ち込んだり、イヤなことがあったりしたときは、忘れるためにおとなりの隼町の銭湯まであつーい一番風呂に出かけることだってある。内風呂もあるんだけどさ。

 なんだってご近所で済んじゃうから、おもてへ出てく必要がない。出不精とはまったくもって心外の極みだね。

 それに、おもてに出ないなんてことはひとっ言も言ってない。ちゃあんと銀座だって、新宿だって、赤坂だって、行ってるのだ、マイ自転車で。ただ、友達に言わせると、その自転車ってぇのがNG、らしい。友達はほとんどが電車で通ってくる『電車組』か、車で送り迎えされてる『お車組』だから、わたしの行動そのものが理解の範疇を越えてるってことなんだそうだ。わたしには、そんな風に思われてるってことが、理解不能。どう暮らそうが、どうでもいいじゃない、って思うのは、変?

 そんな麹町平河町も、わたしにしたらマイタウン以外の何物でもないんだけど、住んでるこのあたりは生まれた頃と比べても、ずいぶんとマンションや高いビルが増えて、空が四角くて冷たい町になっちゃった感じがする。

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