第33話 戦闘開始
「監視カメラと対人センサー止めたってよ」
ヘッドセットのマイクに向かって話していた祐未が会話を切り上げて囁く。横に待機していたアレックスは視線を動かさずに答えた。
「そうか。突入は五秒後だ」
アレックスの横にいたルーサーは腕時計に目を向けながら言う。
「本隊のほうはもう準備完了だ」
「嫌な予感がするな」
アレックスが呟くと、ルーサーが顔をしかめた。
「お前の勘は当たるからイヤだ」
「緊張感の取り違いであることを祈っていてくれ」
アレックスとルーサーが動いたので祐未も彼らに続き立ち上がった。ヘッドセットのイヤホンをズボンのサイドポケットに突っ込んだオーディオプレイヤーへ接続する。予定通りなら突入部隊がケネディガーデンからイーストウイングに突入しているはずだ。祐未たちは東通用ゲート側からイーストウイングに突入する手はずになっている。彼ら三人が走り出しても警報装置は鳴らない。本来軍事施設ではないホワイトハウスで全長三メートル強の地対地ミサイルを設置できる場所は限られている。自分達で発見して解体できればそれが最善だが、現在直樹がミサイルの操作システムにクラッキングを試みているから最悪の場合祐未たちの仕事はクラッキングの時間稼ぎになる。要は暴れ回ればいい。オーディオプレイヤーのスイッチをいつでも入れられるように祐未は人知れずその位置を確認した。そして突然の発砲音に三人とも立ち止まる。
「残念だがそこまでだ」
自分たちと似たような戦闘服を着た男が十人、銃を構えて目の前に立っていた。ルーサーは銃を構えたまま硬直している。アレックスが唸った。
「ピンター中佐……」
「久しぶりだな、アレックス大尉」
「ブラックストン大佐が首謀者と聞いたときから、貴方もいるだろうと思っていましたよ」
背後から足音が聞こえる。敵に囲まれたようだ。祐未はゆっくりとズボンのポケットに手を入れた。気付いた兵士に銃口を向けられ、ポケットから手を出すよううながされる。間一髪オーディオプレイヤーのスイッチを入れることにだけは成功した。前方のピンターが祐未たちをゆっくりと見回し、やがてもったいぶって口を開く。
「君たちには無駄だろうが、一応言わせてもらおう。大佐の方針なのでね。できれば賢い選択をしてもらいたい」
オーディオプレイヤーに録音された声が祐未の耳元で再生される。気にくわない上司の声だが、自分で言っても効果がないのだからしかたがない。直樹にはできればこんな自分は見せたくなかった。この後の症状は自分でもなんとかなる。
「武器を捨てて投降しろ」
アレックスが笑う。
「賢い判断というと、私にはそれを断ることくらいしか思いつきませんね」
ピンターが苦しげにため息を吐いた。
「……残念だよ、アレックス」
「私もです。ピンター中佐」
――
それが、戦闘開始の合図だった。
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