第5話:家族になろう
バッドカンパニー旗艦・ピカレスク。
全長185m、全幅57m、機関に改良型神力機関を100基搭載し、最大出力150万馬力、最高速度170km/hを誇る。
改良型デウス・レイブ10機を格納するほか、ジン・ガイン以下合計4機の神機をも艦内に納め、固定武装として前方2門、後方1門の38㎝/三連装エネルギー・カノンと、両舷20門の12㎝/二連装高角速射砲を装備した、超ド級の陸上戦艦である。
そのゼロ番ハッチに、ジン・ガインは帰投した。
集結した艦隊の傍らには野外テントが張られ、招かれた群衆に食料と水、そして酒までもが振舞われている。
飢えた群衆は我先にとテントへ殺到し、奪い合う様に食料を貪り食っていた。
ジン・ガインの掌の上から、その光景を見つめていたマナクリは、あからさまに嫌悪の表情をバッドに向ける。
「醜い……あのような者どもは殲滅すべきではないのか?」
「飢えているんだ、行儀良くはいかないさ。だが大丈夫、食料は喰い切れないほど用意してある。騒ぐのは一瞬……満腹になれば皆、大人しくなるさ」
地上の狂騒を暖かく見守りながら、バッドが微笑む。
「貴様の考えは理解できん……」
マナクリが腕を組んで苦い顔をする。
「そう言えば、マナクリ……八手はどうした? 腕が二本しかないように見えるが」
「八手は戦いの為の聖なる腕だ、戦闘時以外は体内に封じる……常識であろうが」
「すまんな、完全な戦神族を迎えるのは君が初めてだ、不勉強を許してくれ」
「その言い草だと、貴様の艦には我以外の戦神族がおるのか?」
「ああ、約一名、な」
「そうか……」
マナクリの三つの瞳に、懐疑的な光が宿る。
「さあ、俺達も行こう、今夜は君の歓迎会だ、存分に喰らい、飲もうじゃないか」
操縦席を降りたバッドがマナクリの手を引く。
手を握られた瞬間、マナクリに本能的な殺気が宿ったが、彼女はそれを押し殺し、辛うじてバッドに従った。
細く狭い艦内通路を何度も曲がり、タラップを登りながら、二人は主艦橋の中腹にある大広間へ向かう。
広間の扉を勢い良く開けると、饗宴の準備はすでに整っていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様……そしてようこそ、マナクリ・グリアニーニ」
ベニを筆頭に、給仕服を身に纏った20名もの女性たちが、恭しく頭を下げる。
「我は呼び捨てか」
マナクリの顔が不愉快に歪む。
「我が艦隊ではご主人様以外は皆対等、敬語・敬称はございません」
ベニがにこやかに答えた。
「親父ー!」
ベニの背後から、身長130㎝にも満たない、褐色の肌に銀色の髪を短く整えた少女が飛び出し、バッドの首にぶら下がる。
「おお、ウルカ!」
「親父の言う通り、アグリ艦護ったよー! でも何も来なかった……退屈だった!」
ウルカはそう言って、満面の笑顔を向ける。
バッドはその頭を優しく撫で、にっこりと笑い返した。
「ウルカ! ごめんなさい、アナタ……この子ったら正直なんだから……」
ウルカの背後から、身長170㎝程の、スレンダーな身体に豊満な胸を揺らす、やはり褐色の肌にサラリとした長い銀髪を靡かせた温和な瞳の女性が現れ、ウルカをバッドから引き剥がす。
「はっはっは、フルカも退屈したか」
「いえ、私は、その……」
バッドが笑うと、フルカと呼ばれた女性は俯いて頬を赤らめる。
「いい、いい、有り難うな、ウルカ、フルカ」
そんな母娘を見渡し、バッドはカラカラと笑った。
「旦那ー、神力機関と残骸の回収、終わったぜー」
そう言いながら、身長160㎝程の、透き通るような白い肌に翡翠色の癖毛をくるくると弄ぶ、油汚れにまみれたツナギを纏った小柄な女性が広間に入ってくる。
「助けられるのは……あまり、いなかった……」
彼女の背後にぴったりと寄り添うように、白い肌に長く伸びる黒髪で瞳を隠した身長180㎝を超える長身の女性が、消え入るような小声で報告する。
「詳しい報告は後にするよ。旦那、宴会モードに入っているもんな……自分も飯、喰いたいし」
「ぼ、僕も……」
そう言いながら、広間にズカズカと踏み入り、さっさと席に着く。
「ユリス、カタリーン、ご苦労だった。毎度嫌な役目を押し付けてすまんな」
バッドが労いの言葉をかけると、ユリスは照れ臭そうに頭を掻きながら、白い歯を見せて笑った。
「気にすんな、いいって事よ!」
「ユリスがいいなら……僕も、いい……」
言いながら、ユリスとカタリーンは笑い合う。
「なんだこの茶番は! 獣神族と光神族……敵対する勢力が、何故一緒に笑い合っておるのだ!」
マナクリの思考が混乱に陥る。
雲上の世界では決して起こり得ない光景が、目の前に広がっている。
そして自分も、その不可解な輪の中に取り込まれようとしている事実に気付き、怖気が走るのを感じた。
「バッド、これが貴様の言う家族か!」
「そうだ、俺の家族……バッドナンバーズだ、そして君も、その一員になる!」
混乱するマナクリの瞳を真直ぐに見据え、バッドは右手を差し伸べた。
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