第4話:差し伸べる手

「さて……」


 バッドは一息吐くと、ジン・ガインの操縦席に戻り、再びマイクを手に取る。

 恐る恐る様子を見ながら、じりじりと近寄ってくる100人余りの貧者に向け、落ち着いた口調で語り掛ける。


「諸君、こちらはバッドカンパニー、ジン・ガインのサー・バッド……この名を聞いて、絶望して欲しい。俺は、君たちの略奪行為を認めない。神も、資材も、君らが得る者は何もないと知って貰いたい」


 バッドの言葉を聞いた群衆に動揺が起こる。


「もしも俺の言葉を聞き、納得できないというのなら、このジン・ガインが相手になるが、どうする?」


 動揺が戦慄に変わり、群衆に死の恐怖が伝染する。

 すると、群衆の頭目と思しき、やせ細った老人が一歩前に出て、バッドに語り掛ける。


「王よ、聞いて欲しい……私達は武力を持たず、神も持たぬ流民の群れ。ここで糧を得られなければ、もはや死に逝くのみと心得ておる。どうせ死ぬ身であれば、王の神機を相手に散る事も厭わぬ……どうか我らに糧を、神を譲ってはくれまいか?」


 絞り出すような声で懇願する老人の頬に涙が伝う。


「何度も言わせるな、君達に神は渡さん」


 バッドはそれを一蹴した。

 群衆が殺気立ち、自暴自棄になって狂気をはらむ。


「早まるな、神は渡さんが、糧なら与えてやる……どうだ、全員まとめて、我が艦に来る気はないか?」


 バッドはニヤリと笑った。


「なんと……」


 バッドの意外な提案に、老人は戸惑いを隠せない。


「勿論、条件はある、我が艦隊のクルーとして昼夜を分かたず働いてもらう……その代わり、水と食料、衣服と寝床は保証しよう」


 群衆がざわつき始める。


「どうする、それでもまだ神が欲しいか?」


 老人が群衆を見渡す。

 もはや群衆に戦意はなかった。


「信じて良いのですね……」

「約束は守る」


 老人の問いに、バッドが頷く。

 群衆に歓声が上がる。

 命を繋ぐことを許された、心からの歓び。

 老人が深々と頭を下げる。


「ようこそ、バッドカンパニーへ!」


 バッドが言い放つと、その背後から待機していた艦隊が姿を現す。

 その数、15隻。大陸広しと言えども、これだけの大艦隊は滅多にお目にかかれるものではない。

 大陸最強との噂も高い、バッドカンパニーの全貌だ。


「まずは飯だ、皆、腹が減っているだろう、存分に喰ってくれ!」


 バッドの言葉に、100人からの群衆が武器を捨て、陸上戦艦に向けて走り出す。

 その中には、少数だが女子供もいた。


「マナクリ、君も喰うだろ?」


 一部始終を仏頂面で見物していた殺戮の女神を振り返り、バッドが笑う。


「貴様、我にこいつらと一緒に飯を食えと言うか……」


 マナクリは心底不機嫌そうに唾を吐く。


「いや、俺達は家族と一緒だ」

「さっきから何なのだ、家族家族と……」

「来れば分かる、乗れよ」


 そう言って、ジン・ガインの掌を差し出す。

 殺戮の女神は、渋々その掌に乗った。

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