第3話:群れる貧者
「マナクリ、君は真の武神なんだな」
「何故そう思う?」
「俺との戦闘で、君は八手を使わず二本の腕のみで相手をした……八手を使えば勝てたかもしれないのに」
「戦士と認めた者に必要以上の力は使わぬ、互角の条件で打ち勝ってこそ武神の誇りが保たれるというものだ」
「ストイックだな、そう言う考え方は嫌いじゃない」
バッドが笑う。
「よもや人間に褒められる時が来るとはな……」
「喜べよ、素直に……君も俺の家族と会えば、考えも変わる」
「家族?」
「ああ、かけがえのない、俺の家族だ」
そう言って、近付いてくる陸上艦隊をみやる。
「だがその前に、片付けなければならない問題がある」
「なんだ、それは?」
「周りをよく見てみな」
「人間か、性懲りもなく……」
バッドたちを取り囲むのは、ボロ服を身に纏った、生身の人間たちだ。
手に原始的な鈍器を携え、遠巻きにバッドたちの様子を窺っている。
「さっきまでいたデウス・レイブや陸上戦艦は、比較的組織だった力のある連中だ、活きの良い神を狩って売り飛ばすのが目的のな」
「では、今いるのは……」
「彼らは、暁光で戦場となった跡地を攫い、破壊されたデウス・レイブや神力機関デウス・マキナから中身の神を盗み取る……飢えた貧者の群れだ」
包囲する貧者の群れを見渡し、バッドが呟く。
「あさましいものだ……反吐が出るな」
マナクリの口元が凶悪に吊り上がる。
「真に厄介なのは彼らの方だ、生きるか死ぬかの瀬戸際だからな、こちらの警告はまず聞かないし……俺らが去るのを待って、ハゲタカの様に群がってくる……彼等に捕らえられた神の運命は悲惨だ、ただでさえ無慈悲に消耗させられているのに、粗悪な神力機関デウス・マキナに据え付けられ、発狂死するまでマナを搾り取られる」
迫りくる群衆を前に、バッドが微笑む。
「ふん、そんな奴等、蹴散らせばよかろう」
マナクリが言い放つ。
「そうしたいがな、俺は出来る限り殺生をしない主義だ」
バッドは、微笑みを崩さない。
「生ぬるいな」
マナクリは、唾棄した。
「仕方がない、力も富も持たぬ者にとっては、安全に、そして確実に生きる糧を得られる手段だからな」
「貴様は、それを良しとするのか?」
「いいや、連中に神はやらんさ、神力機関に取り込まれた神は、すべてバッドカンパニーが助け出す」
「だがそれでは、奴らは引き下がるまい」
「だから招き入れるのさ、彼らを、我が艦隊にな」
バッドが真顔で言い放つ。
「貴様……正気か?」
マナクリが問う。
「我が艦隊では、人と神が共存している。神に依存しなくとも人は生きて行けるんだ。それを人に学ばせ、その為の機材を与え、安住の地まで運ぶ……それが我が艦隊の使命でもある」
バッドはそう言って、笑った。
「大した理想主義だ、我はお前を勇敢な戦士と認めたが、正体は単なる夢想家か」
マナクリが嘲る。
「そうでもないさ、我が艦に来れば分かる」
バッドは、呆れ果てるマナクリを尻目に、唇の端を歪めた。
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