第2話:殺戮の女神
「あー、あー、諸君! 人間の諸君! こちらはバッドカンパニー、ジン・ガインのサー・バッド」
争いの中心に一気に踏み込み、間合いに入った人型兵器を二、三体薙ぎ倒し、バッドはマイクを取る。
「諸君、これから降りてくる神は、君らの手には余るものだ、願わくば手を引いて欲しい」
襲い掛かる人型兵器を薙ぎ払いながら、バッドは演説を続ける。
「君らが彼の神と接触すれば、まず間違いなく命を落とすだろう、聞き分けてくれ」
言いながら、ジン・ガインは群がる人型兵器や陸上戦艦の砲門を破壊していく。
砂煙が晴れ、額に巨大な角を生やした真紅の機体が浮かび上がる。
「ば、バッドカンパニー……」
「サー・バッド……天下御免のジン・ガインか……」
暁光に群がった艦隊に戦慄が走る。
この世界で荒事を行う者なら知らぬ者がいない、国亡き王。
その王が駆る最強兵装、ジン・ガイン……その名は誰もが知っていた。
「命は取らない!」
バッドが叫ぶと、艦隊に明らかな動揺が走る。
その声を聴いた途端……各艦隊は、散開した人型兵器を回収し、回避運動を取り始めた。
「ご協力、感謝する」
マイクを片手に、バッドがニヤリと笑う。
その次の瞬間、天空が裂け、轟音が空に響く。
眩い光の中、降りてきたのは、ただ一神……勝鬨とは明らかに違う、轟音は神々の悲鳴だった。
降りてきたのは、三眼八手の殺戮の魔神……紛れもない、戦神族の女神だ。
「フ、フフフ……屑が! 屑は我が滅ぼしてくれる!」
八手の女神は、逃げ遅れた艦隊を次々に襲い、驚愕の力で駆逐していく。
そこに立ち向かうバッド、巨大な神機が行く手を阻む。
「神よ、聞いて欲しい!」
殺戮の行く手を阻む深紅の巨体に臨戦態勢を取る、戦神族スーラの女神。
「神よ、願わくば……俺と勝負して欲しい」
バッドはそう言って、神機の操縦席の扉を開き、その身を晒す。
「なんじゃと?」
突然の人間の仕草に、戸惑う女神。
「俺の名はバッド、君を迎えに来た」
ジン・ガインのコクピットから降り、バッドが不敵に笑う。
「迎えに来た? 我の目的が分からぬか……」
八手の女神も、興の乗った笑みで答える。
「人類の殲滅……と言う所かな?」
言い残し、バッドが突進する。
「分かっておるではないか!」
八手の鬼神がそれを阻む。
一人と一神、二つの武力がぶつかり合い、バッドの額を神の一撃が割る。
そして、女神の額をバッドの一撃が割った。
互いに血を流し、睨み合う。
「これは、互角かな?」
バッドが笑う。
「馬鹿な、加減をしたつもりはないぞ……」
女神の表情に動揺が走る。
二人は額を突き合わせたまま、腕と腕を掴み合い、力押しを始める。
互いに一歩も譲らず、膠着状態のまま数刻が経過した。
「どうだ、神よ、人間相手にてこずる気分は?」
「貴様が人間? 嘘を吐くな、貴様は神、それも名のある神将であろう!」
「でなければ、君がてこずる筈はない、と?」
「そう……じゃ!」
そう言って、女神はバッドの腕を振りほどく。
「生憎だな、俺は人間だ、少々鍛えてはいるが、神ではないよ」
バッドの言葉に耳も貸さず、女神は拳を振りかざす。
陸上戦艦を一撃で屠るその拳を、バッドは片手で受け止めた。
「神よ、俺の話を聞く気はないか?」
バッドは改めて、女神に語りかける。
「貴様は、我に何を望む?」
拳をホールドされたまま、女神が問う。
「君に動かしてもらいたい神機がある」
「神機?」
「神眼を持つ、戦神族専用の神機……ジン・スーラだ。それがあれば、君の野望も達成できるのではないか?」
「貴様……我が野望を知るか」
「人類殲滅とは、この地に降りる為の言い訳……真の目的は、全ての神の駆逐、その為の古代兵装を探しに来た」
「ふ、面白い事を言う」
「間違ってはいない筈だ」
「いいだろう、お前の甘言に乗ってやる……だが、お前の言う神機が子供騙しの物であったなら……」
「再戦と行こうじゃないか!」
女神は拳を収め、バッドと固い握手を交わす。
それは、これから始まる戦いの物語、その幕開けであった。
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