第1話:バッドカンパニー
その場所は、暁光の兆候として、飢えた人々を引き寄せていた。
砂塵が酷くて前は見えないが、砲音や人型兵器の駆動音などは聞こえてくる。
人間の怒号も、動力化された女神の悲鳴すら……。
「本艦は現在、暁光予想位置の5km後方で待機……ご主人様、いかがいたしますか?」
燃えるように真っ赤な巻き毛をしたグラマラスな女性が計器を睨みながら、背後の艦長席に控える男性に問いかける。
「本艦はこのままだ……泥仕合に参加することはない、放って置け」
ご主人様と呼ばれた男は、艦長席で脚を組んだまま、人間同士の醜い争いを見つめている。
「それより、ベニ……本当に降りて来るのか?」
男が、計器を睨む赤毛の女性に問いかける。
「間違いありません……戦神族です」
ベニと呼ばれた赤毛の女性が、静かな口調で答える。
「アグリ艦は?」
「後方15㎞にて待機、ジン・アニマが直衛に回っています」
不意に、艦橋のスピーカーが鳴る。
『親父、親父ー!』
それは、まだ年端もいかない少女の声だ。
艦長席に座る男を、しきりに呼ぶ。
「なんだ、ウルカ?」
男が答える。
『ウルカも前線で戦いたい!』
『これ、ウルカ!』
少女をたしなめる母親の声が、スピーカーに響く。
男は苦笑すると、マイクを手に取った。
「ははは、まあいい、ウルカ? お前がアグリ艦を護ってくれないと、俺達は飯が食えなくなる。いい子だから護ってくれよ?」
そう言って、男が笑う。
『親父にそう言われちゃ、仕方ないなー……』
少女は、おとなしく引き下がった。
「頼むぞ、ウルカ、フルカ」
『はい、アナタ、直衛はお任せください!』
母親の声を聴いて、男はマイクを切る。
「さーて、俺も命を賭けなきゃいかんか……0番ハッチ、ジン・ガイン、発進用意!」
「ラジャー、0番ハッチ、発進用意!」
「じゃあな、行ってくるぞ、ベニ……」
男が艦長席を立ち、艦首エレベータに向かう。
「ご無事で、ご主人様……」
ベニが優しく微笑んだ。
「0番ハッチ、こちらはバッド、サー・バッドだ。準備良好、いつでも出してくれ!」
機体の操縦席に座り、バッドが機内のマイクに向けて発信する。
旗艦の正面ハッチが開き、機体のモニタに輝く天空と、砂嵐が映し出された。
カタパルトが唸り、全高18mの深紅の巨体を押し上げる。
「ジン・ガイン……出る!」
バッドが叫ぶと、紅の巨体は、暁光を争う勢力軍に向け、刃を抜いて襲い掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます