二十一話・激化する戦い~まだ有利な状況ではあるけど、決して油断は出来ないよ!~

再び現在へと戻る。

 俺は、浅葱あさぎにいと加々見大佐で小隊を組むことになっていた。何故三人かと言うと、百三機だと、余りの三機が出てしまうからである。つまり余り組みである。まあ、俺の「出雲いずも」や、浅葱あさぎにいの「松江」と組めるような人は限られているから仕方がない。

浅葱あさぎにい、加々見かがみ大佐ここからはよろしくね」

「こちらこそ!」

「おう!」

 二人と合流する。役割は事前に決めてある。情報収集とサポートが得意な「松江まつえ」。それにに乗る浅葱あさぎにいがコマンダー。射撃が得意な加々見かがみ大佐がシューター。アタッカーを俺が務める事になっている。指揮官が敵に突っ込むのはどうかと思うが、正直言ってこのポジションはやりやすかった。だが、ディフェンダーがいないのはやはり心配である。

「すいません、加々見かがみ大佐、ディフェンダーがいなくて」

「構わないよ。敵の攻撃くらい自分でなんとかするさ。昨日今日乗ったひよっことは違うんだ、任せときなって!」

 自信満々だ。やはり、加々見かがみ大佐は頼りになる。

浅葱あさぎにい、全体の状況はどうなってる?」

「思った以上に敵がばらけて孤立したままだ。小隊が上手い具合に機能すると思うよ」

 都合が良い。早めに動いた方が良さそうだ。まずは、全体に指示を飛ばす。

「皆さん、この段階までくると、混乱し動きを止めている機体は放置して構いません。冷静さを取り戻し、動き出している機体から潰して下さい。動いている味方がやられたとなれば、停止している機体のパイロットはより混乱します。今だに立ち直れていないのがその証拠です」

 これで少しは相手が立ち直るのを遅らせる事が出来るだろう。さて、指揮を執る者があまり前線に行ってはならない。だが、機体を遊ばせている余裕もない。俺もいかねばならない。

「それじゃあ二人とも、俺に付いてきて!」


  久住くじゅう 求来里くくりは呆然としていた。爆発が起こったと思った矢先、九十機以上の味方が消失したのだ。今もまだ被害の拡大が続いている。

「いったい何が起こってるの⁉」

 まずは、味方に合流を呼びかける。しかし、応答してくれる数は少なかった。連絡がついた者も次々と撃墜されていく。状況が非常に悪い。早く残りの戦力を集結させ、体制を整えなければならない。

求来里くくり様、遅くなりました!」

 英彦ひこが合流する。これでやっと十二機程度。このまま味方を待っていていいのだろうか?しかし、今下手に前線へ行くと撃墜されかねない。指揮を執る私が落とされたら、それこそ負けが確定してしまう。今は我慢の時だ。連絡のついた味方をここまで安全に誘導し続ければいい。

英彦ひこ、貴方からも合流の指示を出して!」

「分かりました!……大変です、求来里様くくり!非常にまずい事が起こりました!」

 これ以上何かあるのか⁉もう私の許容範囲を超えている。

「副官の一人が、敵の指揮官らしい機体を見つけたらしく、仲間を集めて突撃すると言ってます!」

「今すぐ止めさせて!」

 冗談ではない。そんな中途半端な戦力で敵の指揮官に届くとは思えない。貴重な戦力がただ無駄に散るだけだ。

「駄目です!通信を遮断されました!」

 仕方がない。そいつらは見捨てるしかない。

「近くにいる僚機は迎えに行ってあげて!だけど、けっして接敵しては駄目!」

 この状況で、どれだけ味方を救える事が出来るのだろうか…難しくとも、やるしかなかった。


 「神無月かんなづき」のパイロット、はなわ つよし中佐は歓喜していた。この作戦思った以上にハマりやがる!安全性も高いが、何よりもパイロットの気が楽なのである。

 アタッカーは、目の前の敵を止める事を考えればいい。後はシューターが決めてくれる。

 シューターは、ただ止まった敵を狙い撃てばいい。自分自身は、ディフェンダーが守ってくれる。

 ディフェンダーは、コマンダーから指示が入った敵を警戒し、ただ味方を守るだけでいい。後は味方が敵を倒してくれる。

 一番やる事が多いと言われたコマンダー。俺の役割だが、意外と楽である。次の攻撃目標と、こちらを狙ってる敵機は、小型索敵艇の管制室からデータを送って貰える。なので、横槍が入りそうな時はディフェンダーと一緒に警戒。周りに攻撃目標以外の敵機がいない時は、アタッカーとシューターの援護に入ればいい。

 実際にこの作戦をやってみると、アタッカーよりシューターの方が稼ぎ頭。アタッカーも狙われるので、ディフェンダーはそっちも守らないといけないなど、事前情報と違う事もあった。まあ、これについては卓上だけでは分からない事もあるので仕方がない。だが、特に問題なく運用出来ているので、気にする事でもなかった。

 そんな些細な、事前情報の食い違いよりも、利点の方が遥かに大きい。やはり、自分の仕事だけに集中出来るのは、気が楽になる。気が楽って事は、落ち着けるって事だ。それは戦場ではとても重要だ。戦場で慌てると碌な事にならない。まあ、そんな訳で、俺の小隊は特に被害もなく、成果だけ貰えている。

 我が隊のスコアは、今のところシューターが三機。不用意に横槍に入ろうとした奴を俺が一機落とした。合計で四機。上々である。

 一度、遠距離から敵の一撃が飛んできた。だが、相手が外してくれた。まあ、こっちはディフェンダーに指示を出して警戒させてたから、当てにきても対処出来ただろう。どうやら、、狙撃していた敵機には、こちらの僚機が近づいていたようだ。狙撃は、機体が自動的に目標の移動予測地に標準を入れてくれるが、最後の細かい調整はやはり人の手でやらなければならない。自分が狙われている事に気づき、動揺して外したのだろう。その後そいつは、近づいていたこちらの味方に落とされる事になる。やはり、戦場で慌てると碌な事がない。

 さて、小隊で行動する前、残りの敵機は二百八十三機と報告を受けた。こちらの小隊数は二十六小隊。一小隊、十~十一機倒さなければならない。つまり、残りのノルマは六~七機だ。まだまだ仕事をしなければ。さあて、一丁頑張りますか。この作戦を立ててくれた天鵞絨びろうど様に報いてやりてえしな!

 俺はあの作戦会議、天鵞絨びろうど様のファンになっちまったんだ。俺達への想い、はっきりと伝わってきた。俺は感動した。感動し過ぎて、会議後つい天鵞絨びろうど様を指揮官に推薦しちまった。だが、俺と天鵞絨びろうど様はたまにすれ違う程度の面識だ。俺のつるっぱげの容姿は覚えやすいと思うのだが、そんな事はなかったようだ。推薦された本人は目をまん丸くしていた。事情もよく分からず、加々見かがみ大佐達に便乗したのは、やっぱまずかったかな。天鵞絨びろうど様には悪い事しちまった。だから、謝ろう。ちゃんと生きて帰って天鵞絨びろうど様に謝らねえとな!


「六機目!」

 さかき 天鵞絨びろうどは順調に敵の戦力を削いでいた。

 今倒した敵は、パニックを起こし、近接武器をブンブン振り回していた。周りに他の敵機がいないかったので、冷静に射撃で落とす事が出来た。やはり、孤立している敵が多いのは戦いやすい。浅葱あさぎにいと、加々見かがみ大佐の援護もあるので、一機づつならば問題なく勝つことが出来る。

浅葱あさぎにい、状況は?」

 この質問は何回目だろうか?しかし、指揮官としてできる限り全体の状況を知っておきたい。

「順調だよ。まだ、味方の被害は少ない。それに対して敵は次々と落ちていく。このままの状況が続いてくれたなら、勝利の女神はこちらに微笑んでくれるかもしれない」

 油断は出来ない。戦場での状況はすぐに変わっていく。その証拠と言わんばかりに、浅葱あさぎにいの慌てた声が飛んできた。

「大変だ、天鵞絨びろうど!敵機が五機ほど真っすぐこちらに向かってくる!」

 専用機二機の俺たちは戦場でかなり目立つ。だから、そういう輩が出てきてもおかしくはなかった。

「どうする?援軍を呼ぶ?」

「いや、下手に味方を動かして、今の流れを切りたくはない。その五機、俺達だけで対応するよ」

 味方にあれだけ無茶をするなと言ったのに、張本人がこんな事をするのは気が引ける。だが、今が勝つか負けるかの分かれ目なのだ。この状況を維持できれば、浅葱あさぎにいの言う通り勝利女神が微笑んでくれる。

「すいません、加々見かがみ大佐付。俺の無茶にき合わせてしまって」

「気にすんなって!寧ろ付き合わせて欲しいくらいだ!」

「ありがとうございます!」

 心強い言葉を貰う。自然と気合が入る。

「ねえ、天鵞絨びろうど。僕には言ってくれないの?」

「あ、うん、ごめんね」

「ぞんざいっ⁉」

 いや、そんなつもりはなかったのだが。何だかんだいつも居てくれるし、当たり前になっているのかもしれない。

「馬鹿なやり取りしてんなよ!敵機来るぞ!」


 松木まつぎ 浅葱あさぎは迫りくる敵機を確認した。僕の「松江まつえ」はどちらかというと戦闘が苦手である。情報収集とその処理を主とした機体である。見た目について昔天鵞絨びろうどにある事を言われた。

「お城を着こんでいるみたい」

 僕もそう思う。頭や肩に三角形の屋根に似た装甲が付いており、そう見えるのだ。色彩も白の部分が多く、全体的にごつい。なんで、こんなデザインになったのだろうか?設計者に問いただしたい。だが、設計者はこれを作った時かなりのご老体で、既に亡くなられている。なので、永遠にこのデザインの謎は解けないだろう。

 戦いには向いていないが武装はキチンと付いている。一つは近接用の小太刀。これは普通である。だが、もう一つが、特徴的なものとなっている。三連小型AMエーエム砲。本来連射出来ないAMエーエム砲を、三門無理やりくっ付けて、疑似的に連射する一品だ。それが右腕に直接付けられている。正直言ってかっこ悪い。しかし、役には立つ。例えば、今迫り来る五機の敵機に、いきなり三発の射撃をお見舞いさせるとかね。

 三連AMエーエム砲を敵機に向けて撃ちだす!

 一発目!敵は蜘蛛の子を散らすように回避する。

 二発目!敵はさらにバラバラになるが、攻撃は当たらない。

 三発目!一機を狙い撃ちだすが、大きく移動して回避されてしまう。

 ぜ、全発外してしまった…

 …まあ、


 加々見かがみ 順子じゅんこは関心していた。浅葱あさぎの射撃で、敵が一機、私の射線に誘導されたのだ。さて、出番だ。

 私の機体は二人の機体よりかなり後方にいる。そこで、「尼子あまご」の装甲の欠片に身を潜めながら、敵を狙っていた。

 この機体、基本的には量産型の「江津ごうつ」であるが、武装が他と違っている。こいつは、TATARAたたらに有った新型AMエーエム砲のサンプルを積んでいる。つまり、射程が他の機体よりも長い。天鵞絨びろうどはこいつの事を「狙撃型江津改そげきがたごうつかい」と呼んでいた。まあ、あいつのネーミングセンスを考えると悪くはない方である。

 さあ、若い奴に任せてばっかなのも気が引ける。だから、ここらで活躍しないとな。

 狙いを絞ってトリガーを引く。放った一撃は、敵機のコクピットに命中した。


 さかき 天鵞絨びろうどは、加々見かがみ大佐の攻撃で、一機落ちた事を確認した。お見事。敵の視線は加々見かがみ大佐の方へ集中する。それはこちらを見ていないという事だ。その隙を見逃すほど俺は甘くない。即座に、他の敵機と距離が開いている奴の後ろへと回る。コクピットを狙い、刃を下ろす。装甲を、斜めに切り裂いた。敵機は完全に沈黙したようだ。

 残り三機!その三機が、こちらに向けて射撃を開始した。当然だろう、俺は今、相手の射撃に対し、絶好の位置にいるのだから。すぐさま回避行動に移る。そして、この時の為に前もって見つけていた「尼子あまご」の欠片に隠れる。敵機はそれに構わず、まだこちらを狙ってくる。いいのか?俺は一人じゃないんだぞ。

 また一機、敵機が落ちた。加々見かがみ大佐の狙撃だ。


 松木まつぎ 浅葱あさぎは敵の様子を見ていた。すっかり警戒モードになってしまった。当然だ、相手はもう二機しかいないのだから。最初は敵の方が数が多かったのに、もう数の差は逆転している。残った機体は天鵞絨びろうどの斬撃と、加々見かがみ大佐の狙撃に備えているようだ。ねえ、誰か忘れていない?三連AMエーエム砲のチャージが終わった。今度は外さない。放った攻撃は、敵の一人に全弾命中する。もう、そいつが動く事はないだろう。残り一機!


 さかき 天鵞絨びろうどは最後の一機の動きを見た。こちらに接近戦を仕掛けてきた。どうにか一機でも道連れにしたいのかもしれない。それに選ばれたのが、一番近くにいる俺だった。敵が俺にめがけて斧を振り下ろしてくる。だが、その動きは何度も見てきた。何度もシュミレートしてきた。体が勝手に動く。敵の攻撃を機体を横にずらして回避する。そしてそのまま前に出る。敵とのすれ違いざま、太刀の刃を相手の懐に滑らせる。装甲を切り裂く音がした。手ごたえはあった。振り返る必要はない。俺はそのまま太刀を鞘に納刀した。

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