第二十話・破盾~もう守るものはなにもない、ここからは命のやり取りが始まる~

久住くじゅう 求来里くくりは光を見た。恐らく装甲のと装甲の間であろう場所から光が漏れている。その場所は、本来隙間などない場所だ。何故光が漏れるのだ?そんな事を考えられたのは、ほんの刹那の間だった。何故ならすぐに答えとなる事が起きたからだ。大きい音と衝撃がやってきた。

「な、何だ⁉う、お、ぐああああああああああ⁉」

 爆発と閃光と共に、私の機体は大きく吹き飛ばされた。


 御剣みつるぎ 勘兵衛かんべえは、小型索敵艇の管制室で相棒の最後の姿を見送った。

「さらばだ、我が半身!わしがくたばった時にまた会おうではないか!」

 そして、小型索敵艇に映った「出雲いずも」に向けて拳を突き出した。

「行くが良い、若者よ!次の時代を作り出すのはお前達じゃ!」


葉月はづき」の一般兵、猿駈さるかけ はらいは混乱していた。

「何が起こった⁉」

 どうやら敵の輸送艦が爆発したらしい。状況を把握し、ニヤリと笑った。

「馬鹿め!爆発で一網打尽にでもしようとしたのか?爆発程度では、戦繰いくさくりには傷一つ付かないぞ!そんな判断ミスで相手は重要な盾を失ったのか?笑いが止まらないなあ!がっはっはっ」

 しかし、機体はかなり飛ばされてしまった。早く味方と合流しなければ。そう思っていたら、レーダーに戦繰いくさくりの反応があった。きっと味方が迎えにきてくれたんだ。そちら方に視界を向ける。まだ、爆発の煙が漂っていて、よく見えない。

 目を凝らす。そこには、白と緑のカラーリングの雄々しい戦繰いくさくりが存在していた。

「味方じゃない⁉」

 その言葉を最後に彼の人生は終わりを迎えた。相手の斬撃よりコクピットを真っ二つにされてしまったのだ。


「まずは一機!」

 さかき 天鵞絨びろうどは、初めて人を殺した。嫌な気分だ。だが、そんな事は言っていられない。味方を守る為ならば、俺は喜んでその手を血に染めよう。

 さて、相手は疑問に思っているはずだ。何故ダメージを与えられない爆発を起こしたのか?簡単だ。確かにダメージはない。だが、至近距離であの規模の爆発を食らえば爆風で機体が吹き飛ばされる。装甲をパージしたのもその為だ。もし、装甲を外さず爆薬を爆発させれば、それも装甲が防いでしまう。艦内部の爆発に留めてしまう。だが、装甲を外した場合、装甲も一緒に吹き飛ばされる。相手の機体は装甲と共にバラバラに放りだされる事になる。そうなると敵は一機づつ孤立する。連携や陣形なんかあったもんじゃない。さらに爆発や吹き飛ばされたショックで混乱している者もいるだろう。それに対してこちらは、事前に爆発を避けれる場所まで移動していた。爆発による被害は全くない。さあ、この状況で、強襲を掛けられたら、敵は対応出来るだろうか?

「全機、作戦通りお願いします!」


 時は作戦会議まで遡る。

「…このように、相手の体制を大きく崩す事になります」

 これが今回の攻めの手だ。相手の行動に合わせて、「尼子あまご」を動かす。そして、隙を見て「尼子あまご」を相手に押し付け、爆破する。そういう作戦だ。敵の攻撃が、爆薬に当たる可能性は大いにある。しかし、AMエーエムは爆薬も溶かすので、敵の攻撃が当たっても爆発する心配はなかった。「尼子あまご」内の機械が攻撃により損壊し、発火する可能性もあった。爆薬と違い機械は一部が解ければ発火してしまうかもしれない。だが、爆薬の設置場所は機械から離しているので、作戦前に爆発する事はない。

「確かに、その状況ならこちらが一方的に攻撃出来るでしょう。しかし、得られる時間はごく僅かですよ」

 貝塚かいづか参謀が言葉を放つ。相変わらず隙あらばこちらに意見を言ってくる。だが、白盾作戦が決まった後は、感情に任せるのではなく、冷静に分析した言葉をぶつけるようになった。尖っていた印象が柔らかくなった。何か心境の変化があったのか?いや、これが本来の貝塚かいづか参謀の姿なのかもしれない。

「そうですね。約一分間。早ければ、このくらいの時間で相手は立て直すでしょう」

 実際にはもう少し長い。だが、リミットを付けるのであれば、余裕を持っておきたかった。

「その時間で何が出来るんですか?」

「全機一回は攻撃出来ます。一人一機撃破。理屈だけならこれで百三機落とせますね」

 そう、理屈だけならばこれで敵の四分の一がいなくなる。だが、実際そんな上手くいくわけもない。しかし、近づかせる事は出来る。

「狙った敵を必ず倒せるのなら苦労はしないです。大体、百三機別々の敵に攻撃する訳がありません。必ず被りが出てきます」

 そう、同じ敵を攻撃してしまう可能性。これを潰す。

「それについては考えてあります。まず、爆破の前に、小型索敵機を使って管制室で敵機をマークします。最低でも百八機。出来ればそれ以上。そのマークした敵を一人一人に振り分けます。爆破後、その振り分けた敵を、管制室から攻撃位置まで誘導。これで同じ敵を攻撃する可能性はなくなります」

 攻撃位置を誘導する事で、パイロットは操縦のみに集中出来る。結果、失敗の可能性は大きく減る。

「もし、一分のリミットの間に二機目を落とせそうであれば、また別の敵機まで誘導します。これなら、もしかしたら百八機以上倒せるかもしれません」

 あくまで理想である。八十機くらい落としてくれれば後の戦いが楽になる。

「裏方も忙しくなりそうですなあ」

 総司令が二コリと笑う。何か嬉しくなる要素なんてあったかな?

貝塚かいづか参謀、何かありますか?」

「いいえ、その作戦で良いと思います」

 了承を得た。改めて皆に告げる。

「皆さん、あくまでリミットは一分です。一分経ったら別の作戦へ移行しますので、深追いは禁止させて貰います」


 話は現在へと戻る。

 俺は誘導に従い、二機目の攻撃位置へ移動していた。

「見えた!」

 敵機は混乱しているのか、まだ止まったままだ。動き出すまでに決めたい。小型AMエーエム砲の標準を敵機のコクピットに向ける。向けた瞬間敵機は動き出した。ここで慌ててはいけない。すぐに偏差へんさ射撃に移行する。偏差へんさ射撃とは、移動している目標に対して、その少し前を狙って撃つ射法である。現在の技術では、内部機会が自動でそれを計算してやってくれる。しかし、これはあくまで予測。状況を見て、最後は人の手で微調整をしなくてはならない。俺は落ち着いて微調整を行い、引き金を引いた。放った一撃は、真っすぐ敵コクピットに飛んでいく。良かった当たってくれた。これで二機目である。しかし、そろそろ一分が経つ。

浅葱あさぎにい、全体で何機撃墜出来た?」

 情報の集計は浅葱あさぎにいに頼んでいる。この結果次第で、今後の戦い方が変わっていく。

「今回の攻撃で撃墜した敵は九十八機。百三機いかなかったね…」

「…いや、上等だよ」

 敵機は四百十二機いた。この攻撃前に、三十一機落としている。残りは、二百八十三機。予定通り進めても問題なさそうだ。

「全機、陣形を組んで、次の段階へシフトして下さい!」


 再び作戦会議に遡る。

「一分間経った後の話ですが、ここからは少し長くなります。一度全ての内容を聞いてから、質問などをお願いします」

 今までは出来るだけ被害を出さないよう作戦を組んできた。だがここからは、犠牲者が出る事も覚悟しなければならない。

「まず、四機一小隊でチームを分けます。これは、普段からそのような割り振りなので、予備機に乗る人以外はそのままの小隊で大丈夫です。その小隊の一機づつに具体的な役割を与えます。与えられた役割事に装備が違うので、一つ一つ紹介していきます」

 端末のパネルに機体情報を上げる。

「腰に着いた小型AMエーエム砲は全機共通なので省略させて貰います。まずはアタッカー。この役割は近接攻撃担当になります。ある程度の距離まで詰めると、チャージが必要なAMエーエム砲よりも近接武器の方が有用になってきます。この段階では、敵との距離がかなり近づいています。その為メインの火力担当となります。装備は「江津ごうつ」の基本装備の一つ、薙刀なぎなたを持っていって下さい。敵の近接武器、斧よりも攻撃範囲が広いので、近距離戦のみは有利に動く事が出来ると思います」

 続いて次の役割と装備を映す。

「次にシューターの役割です。少し離れた位置からアタッカーを援護します。アタッカーはシューターが居る事も留意して、最悪攻撃はシューターに任せ、自分は防御に専念する事も考えて下さい。装備は中型AMエーエム砲一門を持っていって下さい。近接武器がないので、敵に接近されないように注意しましょう」

 ここまでの二機が敵を倒す役目。これから紹介する二機はサポートがメインになる。

「次は少し変わった役割になります。ディフェンダー、守る役割です。 ディフェンダーには厚さ五センチになる盾を装備させてもらいます。この盾は、一発だけならAMエーエム砲を防ぐ事が出来ます。それを使って、シューターを守って貰います。シューターは、ディフェンダーを信じ、射撃だけに専念して下さい。シューターが射撃に専念出来れば、攻撃効率はかなり上がります。装備は近接攻撃も一応可能なように小太刀を持っていって下さい。盾の裏に収納スペースがあります。盾が破壊されたのなら、小隊はいったん引いて、新しい盾に交換して貰います。安全が第一です。その方が最終的な手数が多くなります」

 ここまでで、戦闘のみならこなせるだろう。だが、個別の役割に集中せざるを得ないので、周りが見えなくなる。その対策が必要だ。

「これが最後になります。コマンダーの役割です。戦場全体を見渡し、必要が有れば他三機に支持を飛ばして貰います。戦場の状況を把握しながらも、次の目標を決めたり、自らも攻撃を行ったりして下さい。やる事が多いです。なので、小型索敵艇の管制室はコマンダーのサポートをお願いします。装備は身軽でいて欲しいので、ディフェンダーと同じ小太刀を持って行って下さい。決して無理はせず、生き残れるように動いくようお願いします」

 これで役割についての説明は終わりである。これからは、その小隊で何をするのかを説明しなくてはならない。

「仮に前の作戦で、敵を百機倒しても、まだ敵は三百は残っています。ですが、いきなり味方が次々と撃ち落とされて冷静でい続けられる人間は僅かしかいません。そこを突きます。三百対百ではなく、四対一を心掛けて、小隊で一機一機潰していきます。敵機を倒すごとに相手の戦力が減り、混乱は広がります。それを繰り返し、相手を削っていきます」

 ここからは、相手が体制を立て直す前に、どれだけ戦力を削ぎ落とす事が出来るかの勝負になる。できる限り、ここで勝負を決めたいところだ。

 後の細かい指示を説明し、長かった作戦会議は終わりを迎える。

「これで会議は終了致します。皆さん、ご武運を祈ります」

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