第十八話・葉月の者達~国の為、姉様の為、お前達を叩き潰す!~

葉月はづき」の将軍、久住くじゅう 求来里くくりは奮起していた。憧れの姉である「かぐや姫」久住くじゅう 玖珠くすから、この「葉月はづき」の未来が掛かった重要な戦争の一番槍を任されたからである。

「皆のもの!もうすぐ『神無月かんなづき』だ!戦闘の準備をしろ!」

 気合を入れる。この戦い、必ず勝たねばならないのだから。しかも、ただ勝てば良い訳でもない。次の戦いに繋げるべく、被害を出さず、兵の士気を高めるよう圧倒的に勝たないといけない。

求来里くくり様、そんなに力を入れて当たる任務だとは思えないのですが…」

 副官の一人、英彦ひこ 長峡ながおが水を差す。

「正直、こちらは来た敵をただ撃ち落とすだけ。もし、向こうから寄ってこなければ、こちらから攻め込めばあっという間に殲滅出来ます」

 確かに、英彦ひこの言う通りではある。そうなるよう、姉様が場を整えてくれたのだ。しかし、その考えは死に至る可能性がある。今のうちに諭しておかなければ。

「馬鹿者!油断をするな!戦場は何が起こるか分からない。いつでも最悪の事態に備えておくのよ!」

「すいません!奢っていました!油断なきよう行きます!」

 これで良い。万が一にも負けるような事態が有れば「葉月はづき」の滅びに大きく近づいてしまう。姉様が私を信頼して任せてくれた作戦だ。必ず成功させなければ。

「ちっ、つまんねえ。てめえが油断してくれたらまだ楽しめたのに」

 突然、後方から通信が入ってくる。不快な声だ。

「傭兵如きが求来里くくり様に失礼であるぞ!」

 英彦ひこが怒鳴る。だが、こいつはその程度で止まらない。

「だってよ、この作戦じゃまともな戦いにならねえ。こんなんじゃ、悲鳴を聞く暇もない。俺はなあ!悲鳴が聞きてえんだよ!たくさんの!たくさんの悲鳴をよお!特に、強い奴が情けない声出して死んでいく時は、ほんとたまんねえ!そういう状況になって欲しいんだよ!」

「黙れ、この倒錯者とうさくしゃ!」

 我慢出来なかった。この男、タエガと名乗る傭兵は存在そのものが不愉快である。姉様の勧めじゃなければ、こんな奴私の指揮下に入れなかった。

「いいのかよ!そんな事言っちゃってよお!お前らの中で、俺に勝てる奴はいねえじゃねーか!そんな貴重な戦力を頭ごなしに否定しちゃっていいのかなあ⁉」

 悔しいがこいつの言う通りである。タエガは強い。圧倒的に強い。姉様がこいつを雇った意味はよく分かる。こいつの力はこの先の戦いで必ず役に立つ。だが、だからと言って好きにさせておく道理にならない。私の指揮下に入ったのなら、最低限、指示には従って貰わなければならない。

「お前がなんと言おうと作戦の変更はないわ。遠距離武器を持たないお前は、予定通り何かあった時の為に後方に待機しておきなさい」

「糞!頭がかてえ女だ!こんな事ならトヨが言ってた通り留守番しときゃ良かった。たくよお、戦闘って単語に釣られてしまったぜ!おい、戦闘しか能のない馬鹿女!今日の事は覚えていやがれ!」

 そう言って、タエガは通信を切った。やっと、黙ってくれた。だが、今度は英彦ひこが笑い始める。

「戦闘しか能のない…くふふ」

「…何故笑うの?」

「あ、すいません…ちょっとこないだの漢字読み間違い事件の事を思い出してしまって…」

「あれは忘れろって言ったでしょ!」

 少し前、「生業なりわい」を「いきぎょう」と読んでしまった。しかも、大勢の部下の前で。


「我々は戦闘を『いきぎょう』とし…」

「いきぎょう?いきぎょうってなんですか?」

「もしかして、生業なりわいか?」

求来里くくり様ー、それ『なりわい』って読むんですよ」


 あの時は、顔を真っ赤にしてうつむいたまま、しばらく動く事が出来なかった。問題は、それは初犯ではないという事だ。私はそういうミスが多い。はっきり言うと学がないのだ。余りに姉様に甘やかされて育ってきた。しかし、そんな姉様に認められたいと思ってしまった。その為ただ一点のみ絞って鍛えた。その結果がこの将軍という地位である。確かに私は戦闘しか能のない馬鹿女かもしれない。しかし、姉様の為ならどんな戦闘でもこなしてみせる。

「で、いつまで笑ってるの?」

「すいません!」

「はあ、緊張感がない」

 さっきも言った通り、何があったとしても対応できる心構えでいて欲しい。私は常にそうしている。

求来里くくり様!」

「なに?また私の悪口?」

「いえ、敵を補足しました」

 馬鹿なやり取りをしている場合ではなかった。全体に戦闘準備を再度呼びかける。そして相手を待ち構える。

 妙だ。敵の編成が妙だ。何故輸送艦が先頭にいる?そして、何故そのまま真っすぐ突っ込んでくる?

 私は本当に、何があったとしても対応出来ると思っていた。どんな事が起ころうとも一瞬で判断を下せると思っていた。だが、次の瞬間、頭が真っ白になった。相手の輸送艦は、こちらの射程圏内に入った瞬間、移動したままアクロバティックに艦橋側をこちらに向けてきた。

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