第十七話・戦いの前に~これから必要になってくる情報だよ~

 宙へ出る。外側から「神無月かんなづき」が見える。直径九百五十キロの大きさの無機質な球。それに、いくつもの巨大なソーラーパネルの羽が、花のように開いている。その姿はいつ見ても圧巻だった。


 巨大人口衛星。人が作りし機械の月。「睦月むつき」以外の十二国家の人々は、全てここに住まい生活を営んでいる。国によって姿が違うという訳ではなく、みな同じ規格である。その内部には、旅立った人達が作り出したオーバーテクノロジーが存在している。疑似重力発生装置グラビティシステムと、重力加速度抑制装置アンチグラビティシステムのふたつである。

 疑似重力発生装グラビティシステム。その名の通り、重力を発生する機械である。巨大人口衛星の中心で核として存在し、地球の重力を再現している。これによって俺たちは、地球に存在していた時と同じように生活が出来ているらしい。地球に降り立った事がないので、実際どうなのかは分からない。だが、こいつのお陰で俺たちは健康でいられる。人の肉体は重力化で生活する為に出来ている。何もせず無重力化で生活すればどんどん健康を損なっていく。それを防ぐ効果がある。その他にも、重力があるからこその恩恵が多くある。なので、この装置は必要不可欠なものなのである。

 重力加速度抑制装置アンチグラビティシステム。巨大人口衛星は普段、ラグランジュ点という領域にいる。簡単に言うと、地球と「睦月むつき」との引力の関係が安定する場所である。しかし、必要に応じて別の場所に移動する事が出来る。移動には、衛星用ブースターと呼ばれるものが使われる。円形上に、等間隔に四つ設置されているそれは、最高速度一万八百ものスピードを出す事が出来る。しかし、そんなスピードを出せば、もの凄いGがかかってしまう。要は中身がぐちゃぐちゃになり、住んでいる人が大変な事になる。それを防ぐのが 重力加速度抑制装置アンチグラビティシステムである。Gを抑制、というよりほぼ無力化し、安全に航行出来る装置である。

 どちらもなくてはならないものである。しかし、地球防壁膜アースシールドと同じで理屈が分かっていない。旅立った人達はわざとそうしている。俺たちが理屈を知ってしまうと、 巨大人口衛星を複製してしまうかもしれない。そうなると、地球防壁膜アースシールドの解除プログラムに搭載された、衛星の機能停止という保険が意味をなさなくなってしまうからだ。つまり、この衛星は替えがきかない。俺達が必死に守ろうとしている理由である。

 移動出来るなら、そんな大事な物逃がせば良いと思うかもしれない。今は無理である。ソーラーパネルをたたまなければならない。ソーラーパネルは小さくして、衛星内にしまう事が出来る。それをしないで移動すると、引きちぎれてしまう可能性があるのだ。電力中心で動いているこの衛星に取って、それは死と同意だ。折りたたむのには時間が掛かる。大体半日ちょっとである。なので、動く事が出来ない。やはり守るしか選択肢がないのだ。


 敵の接敵までの間、守るべき巨大人口衛星の事を思い出していた。だが、もう時間のようである。もうすぐ敵の射程圏内である。


 「葉月はづき」の軍事的地位は非常に簡易的なものである。「神無月かんなづき」は極東の島国が帝国と名乗っていた時の軍を模倣している。それに対し「葉月はづき」は軍と言うより企業に似ている。まず、補給、整備、事務など、格部署がある。そして、各部署には代表が存在し、その下に各仕事を指揮する現場のリーダーがいる。そして、それを支える補助役。一番下に、実務をこなすヒラがいる。それは、戦繰乗りパイロットも例外ではない。「葉月はづき」のかぐや、久住くじゅう 玖珠くす。彼女はかぐやの仕事以外に、軍全体の代表と、戦繰乗りパイロットの代表をこなしている。つまり、「葉月はづき」の戦繰乗りのトップはかぐや姫である。だが、彼女は滅多に戦場に出てこない。理由は、単純に忙しいのである。なので、彼女の代わりに指揮を執るのが、さっき説明した現場のリーダーに当たる「将軍」である。その下の、補助役となる「副将軍」も指揮を執る事が可能ではあるが、余り起こる事ではない。少し話がずれるが、副将軍はその名が正式名称であるが、戦場での聞き間違いを防ぐ為、将軍の付かない「副官」と呼ばれる事が主である。話を戻す、何故軍事的規模が大きいのにこんな簡易的であるのか?それには理由がある。「葉月はづき」の軍は、役職の入れ替わりが激しいからである。実力主義の「葉月はづき」は、能力があるものはすぐに上に立ち、能力を維持出来ないものは、すぐ下に降ろされる。そんな入れ替わりの激しい環境で、余り役職を複雑にすると、目の前にいる人物がどの程度の地位かこんがらがってしまう。現に今でも目上の者の地位を間違える兵士は多いらしい。笑い話に聞こえるが、これが意外に事故を起こす。情報の伝達に齟齬を来たし、最悪情報の漏洩へと繋がる。それを防ぐ為に「葉月はづき」は軍の地位を簡易化しているのだ。

 結局、何の為にこんな説明をしたのかと言うと、今回戦う相手について知ってもらおうと思ったからである。「葉月はづき」は実力主義である。当然、将軍の地位の者は、その実力でその地位を勝ち取った者である。今回指揮をしているのも、「葉月はづき」内に五人しか存在しない、将軍と呼ばれている者である。

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