第十四話・全体作戦会議~君の力を示す時だ、頑張れ天鵞絨~
白い髪の初老の男性が端末のパネルに映る。
「えー、今回の作戦は、囮部隊、先行部隊、通常部隊の三つに分かれます。囮部隊十二機。先行部隊二十四機。残りを通常部隊とします。まず、囮部隊が回避運動に専念しながら、相手の射程範囲内に入ります。敵部隊がその囮部隊に気を取られている隙に、精鋭ばかり集めた先行部隊を敵部隊に突撃させます。突撃した先行部隊に敵部隊を乱して貰い、その隙に通常部隊を突撃させ敵部隊を殲滅させます」
これが
「相手の射程距離が脅威だとお考えでしょうが、我が国の
うん、一見するとなんとかなるように見える。だが、否定したい事がいくつもある。まずは、到着時間。四捨五入で結構盛っている。約一・八秒と約三・六秒としているが実際はもっと長いはず。計算が面倒だから出さないけど。そもそも、「
さらに前提として、相手は囮に何機引っかかる?四百全部が引っかかる訳がない。引っかかったとしても四百の砲門にどれだけ耐えられる?相手には機械による自動照準が可能である。こちらの回避運動の事も計算に入れて狙ってくる。チャージ時間など関係ない。一発で終わるのだ。下手したら一瞬で全滅だ。
それでも、作戦が成功し通常部隊が突撃成功してもやはりまだ厳しい。相手の量産機「
だが、
「
「これは
「いえ、質問ではありません。貴方の案に異議を唱えたいと思います」
「…ほう、何か不服な点でもございましたか?」
冷静そうに見えるが、声に怒気が入っている。
「貴方の作戦は確かに優秀です。成功の確率も確かにあると思います」
本音だ。この作戦、俺は思いつかなかった。仲間を犠牲にするという発想が出なかった。だが、そちらの方が結果的に被害が少ない場合もある。そういう作戦が立案出来るのが
「しかし、貴方の作戦では例え成功したとしても犠牲者が多すぎます。もっと、被害が少ない作戦にするべきです!」
参謀のこめかみがピクリと動く。
「ほう、そう言うからには、何か代替案でもあるんですか?まさか、何も考えずに否定だけされるおつもりですか?」
「そんな事はありません。私が考えたもので良ければ、代替案がございます」
参謀の目が見開かれる。代替案を用意していないとでも思われてたのだろう。そこまで無責任に見られているのだろうか?少しショックである。
「なら、聞かせてもらいましょう。その犠牲者が出ないと言う、素晴らしい作戦を」
「残念ながら被害をなくす事は出来ません。ですが、この案ならば被害を格段に減らす事が出来ます」
そう言って、ある映像を端末に配布する。
「こちらは、多くの皆さんがご存じの、我が国唯一の
「まさか!」
周りがざわついてきた。参謀も驚いた顔をしている。
「この巨大輸送艦を、防壁として使用したいと思います」
「馬鹿な!そんなものすぐに落とされてしまうぞ!」
「最初は俺もそう思いました。ですが、こちらを見て下さい」
端末に資料を展開する。
「今回相手が使う
カタログにも書いてあった情報だが、一応
こちらの量産型「
それでは、小型だろうと中型だろうと意味は無いように思える。しかし、輸送艦「
「『
何故そんなにも厚いのか、資料には乗っていなかった。そこを質問されると困る。早く次の事を説明しなければ。そんな事を思っていたら、「
「ほっほっほ、丈夫さも『
「だが、四百の砲門が一点集中したらその装甲すら貫通してしまう。どのようになさるおつもりで?」
「あまり知られていませんが、実は『
「しかし、四百機がバラバラに穴を開けてきたら、そうはいかないでしょう。相手は約十一機で穴を開けられます。全機が一発撃つだけでも、三十六か所貫通する計算になります。それが絶え間なく続きますよ」
「中身と背面装甲があるので単純に十一機ではありません。それに相手はどの程度で抜けるか分からないと思います。『
「
「それに、『絶え間なく』と言われましたが、それについても考えています。
「なんじゃ?」
「確か、『
「これなら、大体十二・三~四秒と言ったところかのぉ」
こちらの計算の十二・四秒とほぼ同じである。これを計算するのに機械の力を使わせてもらった。それでも時間が掛かった。だから
「
「ついでに言っておくと、『
もちろん、停止する可能性もある。その時の策も一応はある。まあ、戦繰で押すだけなんだけど。かなり戦況が不利になるので、これに関しては、停止しないよう祈るしかない。
「だが、『
少し
「それについては俺からでなく、別の方に説明して貰います。
「了解」
この事については、
「どうも、
どちらも「
浅葱にいが、さらに言葉を続ける。あれ?頼んでいたことはもう終わったのに?
「それに、この戦いを勝ち抜かなければ、今後なんてありません。今するお話ではありませんね」
「う、ぐぐ…」
「
正直それは俺も気になっていた。どうしてこちらの味方ととれる事を言い続けていたのか?
「ほっほっほ、確かに『
「
「承りました」
俺も頭を下げる。この人の想いを絶対に無駄にはしない。
「どうして⁉どうしてなんだ⁉
「そんな事思っていません。俺はただ、軍の仲間を死なせたくないだけです」
伝わるかは分からない。ただ、俺の気持ちを
「知らない人もいると思いますが、俺は小さい頃から軍にいました。だから、ずっと軍で働いている人を見てきました。みんな、一生懸命仕事したり、訓練したりしていました。それはとても大変そうでした。でもみんな、弱音を吐かず、愚痴を吐かず、いつもいつもただひたすら目の前の事に取り組んでいました。子供の俺にかっこ悪いところ見せたくないって気持ちもあったかも知れません。でも、俺はその姿に感動したんです。かっこよかったたんです。俺もいつかあんな風になりたいな、そんな風に思うようになりました。俺は軍の皆さんを尊敬しています。だから、尊敬している皆さんを死なせない道を見つけたかった。ただ、それだけなんです」
会議室が静まり返る。誰も何も言わない。あれ?俺おかしな事言っちゃったのか?
「もう、いいです。
「お二人の作戦、聞かせてもらいました。どちらも、勝てる見込みはあると思います。ですが、便宜上、軍の最高権限は
総司令は一息ついて、大きく声を響かせた。
「多数決を取りたいと思います」
皆が票を入れる中、
「総司令も、人が悪いですね。どう考えても、結果は決まっています」
「あんな若造に、負けはしないと?」
総司令がにっこり笑いながら言葉を返した。
「いえ、残念ながら私の完敗です」
結果が発表された。九割以上の人が
「まあ、私も
「総司令っ⁉」
「ありがとうございます!」
そう、頭を下げるしかなかった。そんな俺に
「後は、よろしくお願いします。貴方に託します」
「はい!俺の全てを持って対応させていただきます!」
拍手が止む。さあ、話はこれからだ。
「作戦の核は先ほど説明したものです。しかし、これだけではまだ勝率は低いです」
そう、まだだ。まだ足りないのだ。あの四百機の最新鋭機に対応するには、また別の策が必要である。
「なので皆さん」
一息入れる。
「ここからさらに詰めるよ!」
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