第十二話・二人の会議~絶望の中の光を求めて~

 さかき 天鵞絨びろうどは今起こっている事を知るために、情報端末へ向かっていた。敵が三千キロ先で見つかったという事は、接敵まで残り約三時間という事になる。急がなくては。端末が見えてきた。どうやらそこには先客が居たようだ。

浅葱あさぎにい!」

 松木まつぎ 浅葱あさぎさかきの分家の一つ、松木まつぎ家の人間だ。小さい頃から世話になっており、俺と檀弓まゆみの兄貴分である。見た目は、背が高く爽やかで、眼鏡を掛けている。

 ここで、さかきの分家について少し語ろうと思う。さかきの分家は神無月かんなづき十二分家と呼ばれていた。十年前の事件、「神無事件かんなじけん」後七家が滅亡、その後神無月かんなづき五家と呼ばれる事になる。現在残っている家は松木まつぎゆずりは合歓ねむくぬぎ翌檜あすなろの五つである。さかきの分家は、さかき本家の補助を使命とし、俺が軍に配属された時、各家から一人づつ昔馴染みが共に配属された。俺はいいと言ったのだが聞いてくれなかった。自分たちの意思だと強く言われてしまった。俺自身も我がままで軍に入ったところもあるので強くは言えなかった。浅葱あさぎにいも、その昔馴染みの一人である。

「やあ、天鵞絨びろうど。一週間ぶりだね」

「うん。柘榴ざくろ鼈甲べっこう木通あけびねえと胡桃くるみねえは?」

 ここにいない昔馴染みについて聞いてみた。

柘榴ざくろちゃんと鼈甲べっこう木通あけびちゃんは自宅待機しているよ。まだ、学生出し、天鵞絨びろうどと違って家が遠いから出撃命令があるまでは家にいて貰いたっかったんだ。でも、そのせいで今回の戦闘には間に合わない。ごめん、僕のミスだ」

 浅葱あさぎにいが頭を下げる。さっきも父さんとこんなやりとりしたなあ。

「しょうがないよ。でも、胡桃ねえは?学生じゃないよ」

 翌檜あすなろ 胡桃くるみ二十歳はたち。無職である。

「ああ、あの子はねえ…その、出撃命令がないと家から出てこないから」

 そして、引きこもりである。

「まあ、胡桃くるみねえは仕方ない。あの事件のトラウマもあるだろうし」

 ちょっと複雑な事情がある。

「んじゃ、今回出撃出来るの、俺と浅葱あさぎにいだけ?」

「そういう事になるね…」

 4人ともかなり強力な戦力である。それが来れないのはかなり痛手だ。

「まあ、来れない戦力を惜しんでも仕方ないか。浅葱あさぎにい、今状況はどうなってる?」

「かなり悪いよ。今、天鵞絨びろうどの携帯端末に情報を送るね」

 俺の携帯端末は軍からの情報を直接貰える特別製である。許可さえ取れれば、軍上層部でしか知りえない情報も見れる事が出来るようになる。

「うわ、『活炭いけずみ』四百十二機。普通の国の全戦力の約四倍じゃん」

 戦繰いくさくりは一部の国を除いて、百機有れば十分とされている。その四倍の戦力を先遣隊として、ポンと寄越したのである。

「『葉月はづき』の予想総戦力は千五百機、まだ少ない方さ」

「残りは、他二国の牽制かな?それとも温存?どちらにしても、四百の時点で過剰投入だと思うけど」

 「活炭いけずみ」は最新鋭機である。数字以上に不利な状況である。

戦繰いくさくりの平均速度は時速千キロ程度、『葉月はづき』までの距離約十一万キロ。しかも間に『睦月むつき』がある。こんな数、どこから現れたんだ?」

 ちなみに、今現在一番早いとされている戦繰用の輸送機は十一万二千キロ。科学的にはもっと早く出来るとされているが、コスト費を考えるとこれが一番現実的らしい。これだと直線距離だと一時間もかからない。だが、十機ちょっとしか詰め込めない。『葉月はづき』所有台数は三機である。お金がないのでこれ以上は増やせないはず。なので、この数はおかしい。

「まあ、どうせどこかの採掘衛星の裏に中間基地を設置。会議が終わり次第、出撃したんだろう。『神無月かんなづき』から、三千キロちょっと離れてるところに一つあるから多分それだね。会談の内容といい、かなり緻密に準備されていたんだね」

 会談終了と同時に叩き潰す気満々である。「如月きさらぎ」に準備期間を上げた理由はこれだろう。準備期間なんて最初から与えるつもりなかったのだ。

「こちらの戦力は?」

「量産機『江津ごうつ』4機一小隊が二十四隊、九十六機。その予備機が五機、そして僕の『松江まつえ』と天鵞絨びろうどの『出雲いずも』。計百三機だね」

「まあ、そんなもんか」

 やはり戦力差は圧倒的である。さらに良くない情報が届く。

「げ、映像に映ってるこの武器、AMエーエム四十七L型エルタイプじゃん」

「それって、先週発表された射程が凄く伸びたやつ?」

「従来の射程、四百七十メートルから千二十メートルまで伸びたその新型」

「倍以上じゃないか!」

 AMエーエムは安定性が低く、すぐに拡散し消滅してしまう。出力が大きくてもその分安定性が失われるので、射程距離を伸ばすことが出来なかった。それを先週「武装商会ぶそうしょうかい」が新技術を発表し、大き射程距離を伸ばす事になった。

「よく昔の映画なんかに出てくる、スナイパーライフルとハンドガンくらい違うのかい?」

「いや、浅葱あさぎにい、そこまでは酷くない」

 スナイパーライフルの射程は千~三千メートル、ハンドガンの射程は百メートル。こちらは十倍~三十倍である。しかし、これは極端な例だったが、射程の違いの怖さを想像させやすい。自分の攻撃出来ないところから一方的に狙われる恐怖。しかも、比率的に四対一。単純に考えて四問の砲がこちらを狙ってくる。

「じゃあ、遮蔽物に隠れながら戦わないと勝負にならないか」

浅葱あさぎにい、それは無理だよ。今、俺達がいる宙域はなぎ宙域。遮蔽物なんて何もないよ」

 昔の地球周りは、綺麗だったと記録にある。しかし、今はもの凄く散らかっている。様々な所から資源衛星その欠片。戦闘によって放置された艦船や戦繰いくさくりの残骸。障害物がない方が珍しいくらいだ。しかし、それでも障害物がない宙域がある。それが凪宙域。風のない海、凪。とても静かな状態だ。がれきのない宙域も、が静かである。なので、凪宙域と呼ばれる事となった。

 今、「神無月かんなづき」がある場所が、その凪宙域である。つまり、相手の射撃から隠れる物がない。相手の方が射程が長いのに、障害物すらない。こちらに当てて下さいと言っている様なものである。

「本当に相手は何から何まで計算しているんだね」

 どうにか、対策を考える。

「そういえばTATARAたたらのカタログに新型AMエーエム砲が乗ってたけど、それを用意できないの?」

「あそこは近距離武器専門で、それ以外は『武装商会ぶそうしょうかい』のお取り寄せだよ。今からじゃ間に合わない。確かサンプルの為の一門だけはあったはずだけど」

「一門じゃ、どうにもならないね。AMエーエム拡散粒子は?」

「あれは、準備、積み込み、散布で案外時間が掛かる。これも時間的に無理だね」

「衛星用ブースターを点火させて逃げる、も無理か」

「移動可能になるまで時間が掛かる。これも時間的問題で駄目」

 「葉月はづき」は策には穴がなかった。それでも、考え続ける。他の誰かがやってくれるなんて甘い事は考えるな。それで十年前の様な事が起きてしまったら、俺は一生後悔する。だから考えろ

天鵞絨びろうどが集中状態に入ったか、ちょと黙っていよう」

 考えろ。思考しろ。捻り出せ。全ての脳細胞を活性化させろ。シナプスを繋げ。脳みそを回転させ続けろ。焼き切れたって構わない。

 神に願って天啓を得るなのな、俺は神にだって祈る。

 悪魔に魂を差し出せば知識を得られるなら、俺は悪魔とだって契約する。

 だが、そんな事は起きはしない。自分の力で辿り着かなければならない。全ての資料に目を通せ。全ての知識を導入しろ。答えは必ずあるはずだ。

 考えろ。

 父の期待に応える為に!

 もう動いているであろう妹の努力を無駄にしない為に!

 支えてきてくれた使用人達の為に!

 友人との日々を守る為に!

 加々見かがみ大佐や浅葱あさぎにい、軍のみんなを死なせない為に!

 国民に涙を流させない為に!

 帰って芹菜せりなとイチャイチャする為に!

 そして何よりも。母の想いを成す為に!

 考えろ!考え続けろ!

 …そして俺は、一つの答えを得た。

 見つけた。道筋を。これなら。或いは。

「おっと貝塚かいづか参謀から作戦が送られてきた」

 浅葱あさぎにいからデータが送られてきた。それをすぐに読む。

「なんというか、これは良い作戦と言えないんじゃないか?まあ、僕もこれ以上の作戦は考えつかないけど。天鵞絨びろうどはこの作戦どう思う?」

「これじゃあ、駄目だと思う」

 そうだ、この作戦では。

「そうだね、余りに成功率が低すぎる」

「いや、そうじゃない。成功率はゼロではないんだ。でも、この作戦じゃ成功したとしても味方の犠牲が多すぎる。それじゃあ、駄目なんだ」

 守らないと。出来るだけ、味方全員。

「その様子じゃ何か思いついたようだね」

「うん。遮蔽物がないなら、こっちで用意すればいいんだ」

「ん?そんな遮蔽物になるようなものこの国にあったっけ?」

「あるじゃないか、一つだけ」

 浅葱あさぎにいに考えを告げる。

「なるほど、確かにそれならいけるかもしれない」

「でも、まだ穴があるかもしれないから、浅葱あさぎにいも一緒に検証して欲しい」

「分かった。もう少し資料を送ってくれ」

 策の骨子は出来た。後はこれを研磨するだけだ。

「それじゃあ、浅葱あさぎにい」

 一息入れる。

「ここからさらに詰めるよ!」

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