第七話・葉月の事情~またまた檀弓ちゃんの説明タイム~

 さかき  檀弓まゆみは父とともに会談前の最後の確認に入っていた。

「さて、 檀弓まゆみ。まずは何故『葉月はづき』がそこまで地球の資源を求めるのかもう一度整理してみなさい。ちゃんと理解できているか確かめるぞ」

「了解!」

 手元の資料の「葉月はづき」に関する資料のみを並べるさて、どういう感じで話そうか。紗枝さえ由恵ゆえにしたみたいに教師風?何か違う。とりあえず、それに近い感じでやってみる。

「結論から言いいますと、要は『葉月はづき』も滅びの危機ってことです」

「まあ、そういう事だ」

 何故「葉月はづき」がそうなってしまったのか順を追って振り返っていく。

「『葉月はづき』はいわゆる軍事国家。九十八年前からその体制を確立し今日まで続いています。その強大な軍事力を使い各国家の資源衛星の所有権を奪っていきました」

 次々と資源衛星を奪っていき、国を豊かにしていった。およそ七十年くらい前の時代、「葉月はづき」は栄華を極めていた。

「しかしそんな事を続けていたら、当然恨みをドンドン買っていきます。それに対応するために軍備増強。出兵。略奪。怨恨。増強。それを繰り返していました。それでも『葉月はづき』は綻びを見せませんでした」

 それほど当時の『葉月はづき』は豊かだったのだ。

「まさに絶頂期。しかし、六十二年前、『葉月はづき』の衰勢すいせいには直接は関係ない事だけど、とある大きな事がありました。しかし、この出来事により、のちに『葉月はづき』は大きな痛手を受ける事になります。何が起こったかというと、電気エネルギー関して革命が起こったのです」

「その革命についても説明できるか?」

「もちろん!」

 あ、いつもの口調が。ゴホンゴホンと咳ばらいをする。さあ、気を取り直して。

「当時各国家は、電力供給の為に水力、火力、太陽光の発電を採用していました。水力発電はは生活水を浄水する過程で発電していたので発電量は微々たるもの。風力と地熱も一応採用してましたが、結局機械で起こした人口の風と、機械を動かす事で発生した地熱では、発生する電力より、消費の方が大きく意味がありませんでした。太陽光は巨大ソーラーパネルによりかなりの電力を発生させました。ですが、まだ足りませんでした。その為、資源を必要とする火力発電に頼るしかありませんでした」

 ちなみに原子力は完全に撤廃されている。住むところが限られている私たちは、原子炉が暴走してしまうと全滅の危機にまで達する可能性もある。それに放射性廃棄物の処理が難しい。地球があった時と違い埋める事が出来ないのだ。

「しかし、先ほど言った六十二年前に新たな電気動力が『如月きさらぎ』で発表され世に出回りました。各国は、旧式の電気動力からこの新式へとドンドン切り替えていきます。その、新たな電気動力により、国全体で使用する電気エネルギーが従来の十分の一にまで低下。無理をしなければ火力発電の必要はなくなり、太陽光発電のみで賄えるようになりました。この出来事を、そのまんま『電気動力革命』といいます」

 そこでまた「葉月はづき」の話に戻る。

「最初は『葉月はづき』もその恩恵を受けていました。しかし、『葉月はづき』の大きな財源の一つに、資源衛星から発掘された、天然ガスがありました。先も述べた通り各国は葉月に恨みがあります。しかし火力発電が必要だった時代は、仕方なく『葉月はづき』からこれを輸入してきました。ところが電気動力革命によりそれが必要なくなったので、『葉月はづき』はこの大きな財源を失う事になりました」

 そこが一つの転機である。

「されどまだ、財源としては採掘衛星で発掘される鉱石がありました。天然ガスも大量に売れ残りました。が、肥大化した軍事力により、革命後でも太陽光発電では電気が足りなかった『葉月はづき』にとって、自国で消費すればいいものでした。この時点では、衰勢まで行かず、停滞程度に収めます」

 だが、今までの話で分かる通り、「葉月はづき」は略奪した採掘衛星に頼り切っていた。

「しかし現在、『葉月はづき』が保有しているものも含め、大体の採掘衛星の資源は採掘し終えてしまいました。採掘衛星頼り切っていた『葉月はづき』は困りました。『葉月はづき』だけ困りました。何故なら他の国は「電気動力革命」により既に採掘衛星の資源を必要とはしなかったからです」

 正確には、枯渇したのは燃料や工業品になり得るものだ。一部、工芸品、芸術品、装飾品には採掘衛星の鉱石が必要で、まだ採掘中である。だが、それは加工技術があって初めて価値のあるものであり、「葉月はづき」が所有しても原材料の鉱石だけでは、一時的な財源の足しにしかならなかった。

「こうして『葉月はづき』は、財源を失いました。財源を新たに得ようにも、奪う衛星もなくなりました。後は、肥大化した軍事力と各国の恨みだけが残りました。なんとか国を立て直そうとしても、軍事力の維持にはお金が掛かります。自国で消費していた燃料もなくなるつつあり、電力も足りなくなってきました。しかし、軍事力を縮小すれば恨んでいる国がどう出るか分かりません。最悪滅ぼされる可能性もあります。かといって、何もせずにいればお金も電力もなくなっていまいます。ほぼ詰みです」

 こうしてやっと今回の騒動に繋がる。

「追い詰められた『葉月はづき』が目を付けたのが、地球の資源です。今ならまだ全力で軍を動かせます。軍を動かせる今、なんとかして地球の資源を得たい。その為に『神無月かんなづき』に喧嘩を売ったのでした。おしまい」

「何故物語風なのかは分からないが、ちゃんと理解しているようだな」

 あれ?いつの間に物語風になってしまったのか。まあ、ちゃんと伝わったからまあいいか。

「ぶっちゃけ自業自得!」

「そうだな。だが、それでも『葉月はづき』の国では人が生きている。その人達に、自業自得だから滅べとは私は言えない」

「まあ、そうなんだけど」

 その滅びを回避する為に、私達に滅べと言っているわけで。でも、これからする話では、お父さんのこの考えは必要である。

「相手は国家存亡が掛かってるわけだし、説得は難しいと思う。だけど、相手は会談を受けてくれた」

「そうだ、相手も戦争になる事は本意ではないはずだ」

「戦争するにもお金と電力が掛かるもんね。そこが唯一の付け入るところかも」

「つまり、地球資源以外で『葉月はづき』の滅亡を回避出来る道を示せば、『葉月はづき』の矛を収められるかもしれない」

 父様が着物の袖を捲り、改めて気合を入れる。

「さあ、我らの国を救う為に、『葉月はづき』を救う作戦会議をはじめよう」


 手立ては前もって父様が立案し、それを実行できる準備もしてきた。後は、私が説明するだけ。待機時間があったのにも関わらず、ぎりぎりの時間まで、父様とその事について確認しあった。だが、もう時間だ。

 さあ、会談が始まる。

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