第2話
私の名前は毛利永美。
極々一般的な十七歳の女子高生。
好きな食べ物はクリームシチューで、得意な教科は現文と英語。
ちょっとだけ勉強が得意なせいで押し付けられたクラス委員も無難にこなし
そちらの仕事が忙しいので部活は帰宅部。
こうして友人の桜子と下校時に喫茶店でくだらない話をするのが何よりの楽しみで
容姿も平々凡々(自分のことだから高めに見ているのかもしれないが)と
全国何処の高校にも山のように存在していそうな女子高生だ。
大量の女子高生の中に埋もれたら埋没して見つからなくなる自信がある。
ただ一つ、平均的な女子高生と決定的に違う点があるんだ。
それは女の子のことが好きだということ。
友人として好きとかそういう意味だけではなく、思春期特有の溢れんばかりのリビドーの対象としての好き。
男になったことはないので想像することしかできないが、思春期の彼らが女の子に抱く悶々としたきもちと同じようなやるせなさを自分と同じ身体をもつ女の子達に対して抱え、それをひたかくしにして自らの内に抱えている。
今目の前で笑顔でコーヒーを飲みながら話しかけてくる親友の桜子。
私はこの子が好きだ。
顔も。ちょっとクセのある色素の薄い髪の毛も。ゆったりして間延びするような喋り方も。実は脱いだらすごいところも。中指の形も。
全てが好きだ。
勿論、友情も感じている。
でもそれ以上に、いわゆる肉欲も感じている。
中学一年のときに隣の席になってから今までの間ずっと、打ち明けたら友人関係さえ終わってしまう思いを抱えて私は毎日桜子の傍にいる。
「天国と地獄 どうせ紙一重」という歌詞が、兄の好きなバンドの曲にあったけれど
好きで好きでたまらない相手の傍に自然にいられるのに、このきもちが受け入れられるどころか、伝えることすら困難な状況というのは、本当に天国であり地獄であると思う。
こっちは女の子同士のふざけ半分のハグやら胸の触りあいなんかじゃなくて、あんたともっと熱を籠めて抱き合いたいんだ。
あんたのそういう何の裏もないスキンシップはある意味拷問なんだ。
悶々としてももっと触らせろなんて言えないだろ。
そんなことをぼんやりと考え、桜子の話に相槌を打ちながらぬるくなったコーヒーを飲む。
ブラックコーヒー。
高校受験のときに間違えて買った缶コーヒーのブラックをもったいない精神を発揮して飲んでいたら桜子が
「永美はブラック飲むんだ!かっこいいね!あたし苦いのしか飲めないからなあ」と感激してくれたので
本当は甘いほうが好きなのだけれど、それ以来のブラックコーヒー。
自分のこういう部分がどうしようもないなあと思いながらも、ちょっぴり好きだ。
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