第5話 物騒だから隣の家にお泊まりしたった

 隆弘たちの借家で泊まることになったリリアンは二階にあるエヴァンドロの部屋に案内された。シックな色使いの落ち着いた部屋で大きな本棚とクローゼットが真っ先に目に入る。机はよく整理されていたが、ペン立てには色とりどりのペンがこれでもかと詰め込まれていた。部屋まで荷物を持ってきてくれた隆弘が床にバッグを置き、無言でカーテンを閉める。


「準備できたらシャワー浴びちまえ。左隣の部屋がそうだぜ」


「おう、ありがとー」


 リリアンがヒラヒラと手を振ってみせると隆弘は


「あがったら言えよ」


 と言い残して部屋から出ていった。

 リリアンは5秒ほど天井を見つめて茫然としていた。やがて隆弘に言われたとおり荷物の中から着替えを取りだし、バスルームへ向う。右隣の部屋に入るとトイレと浴槽が一緒になったオーソドックスなタイプだった。浴槽の上にシャワーがついている。恐らく後付けだろう。隆弘あたりが強く要望したのかもしれない。床に置かれた入浴剤を発見して手にとると自分達と同じタイプのものだった。安くてオーソドックスなので大抵の人間はこれを使っているだろう。服を脱いで着替えと一緒に放り投げる。バスタブに入浴剤を入れてお湯を張った。もくもくと泡が沸いてきたのを確認し、浴槽に座ると泡で体を擦る。足をスポンジで擦っている最中視線を感じて後ろを振り向く。ドアにはロックをかけてあるので当然誰かいるということはない。

 思った以上に脅えている自分にリリアンは思わず苦笑した。


「……ばっかでぇー」


 震える体をスポンジで無理やり押さえつけ、次に髪を洗ってしまう。

 彼女が着替えてシャワーから出てきたとき丁度ハリーが小さな手提げ袋を持って階段を下りていく所だった。ドナがハリーを見送るようにエヴァンドロの部屋の扉にもたれ掛かっていた。彼女がシャワーを浴びている間に帰ってきたのだろう。


「どうしたん?」


 リリアンが尋ねると、ハリーはああ、と声を上げた。


「エヴァの着替え持ってってやるんだよ。少しでも女2人にするのは不安だし」


「悪いな。迷惑かけて」


 ハリーは笑顔で首を振る。


「殊勝なリリーとか気味が悪いからやめてくれ」


 頭にハンドタオルをかぶったリリアンが口を尖らせた。


「お前が暴漢にヤられろ」


 彼女の低い声にハリーは笑い声で答えエヴァンドロに着替えを届けに行ってしまう。リリアンと共に彼を見送ったドナがニコリと笑った。


「リリアン、シャワー浴びたんなら隆弘呼びに行こうよ。面白いから」


 まだ少し濡れている頭をガシガシとふきながらリリアンは首を傾げる。


「隆弘が? おもしれぇの?」


 ドナがニヤニヤと笑ったままリリアンを手招きした。


「まあ来なよ。エヴァの部屋の隣が隆弘だから」


 言われるがまま彼についていったリリアンは無遠慮に部屋のドアを開けたドナの後ろから隆弘の部屋を覗く。


「隆弘、リリアンがシャワー出たから次どうぞ」


 ソファに座って本を読んでいた隆弘が目線をドナに向けた。


「おう」


 軽い音を立てて本を閉じた隆弘が立ち上がる。その間にリリアンは部屋の中を二度見では飽きたらず三度ほど見直した。

 まず隆弘の座っていたソファにはたてごとあざらしやビーグル犬のクッションが置いてある。ソファの下にはネコの顔を模したカーペットが敷いてあった。カーペットの手前に靴が置いてあるから部屋の大部分は靴を脱いで過ごすのだろう。ソファの横にカピバラのデフォルメキャラクターがモチーフのミニテーブルが置いてあった。上に置かれたマグカップはネコが描かれ、取っ手が尻尾になっている。ベッドにはウサギの抱き枕と羊のぬいぐるみが置いてあった。羊のぬいぐるみは位置的におそらく枕だ。掛け布団はクマのデフォルメキャラクターがでかでかと印刷されている。カーテンはネコ柄で本棚のブックエンドはキリンだ。主人が195cmの厳つい男であるのに対して部屋がイヤガラセの域に達しそうなほど可愛らしい。

 さらにカーテンタッセルが手の長いサルのぬいぐるみだ。気づいたリリアンは思わず口をぽかんと開けてしまった。


「うわぁ……」


 彼女の驚いた顔に気付き、ドナがニヤニヤ笑いを更に深める。


「あんまりにも本人と部屋が違いすぎて驚いただろ」


 知人2人の言わんとしていることがわかったらしい隆弘は口をへの字に曲げて2人からフイと視線を逸らした。


「うるせぇ」


 頬が少し赤く声もいつもより小さめなので照れているようだ。

 いつも強気な姿しか見ていないのでリリアンもドナ同様ニヤついた笑みを浮かべてしまう。


「そういえば今日買ったペンケースも可愛かったもんなぁ! しっぽついててさ!」


 リリアンの横でドナが嬉しそうに言葉を繋ぐ。


「甘いもの好きだし。人は見かけによらないな」


「かっわいいなぁ~隆弘! 実は受け?」


「いやぁ、ギャップ萌えの攻めだと思う」


 とうとう隆弘が口をへの字に曲げたまま立ち上がり歩いてくる。そのままリリアンとドナは彼に頭を軽く小突かれた。


「うるせぇぞ。ドナ、てめぇは今日食事当番なんだからとっととメシ作れよ」


 やはり拗ねているような口調だ。頭を押さえたドナとリリアンは笑顔のままバスルームに向う隆弘を見送る。ニヤニヤと笑ったままのドナがリリアンに向き直った。


「じゃあ言われたとおりご飯つくっちゃおうかな!」

 

 ドナがキッチンに立っている間、リリアンは帰宅したハリーと一階のダイニングルームでポーカーに興じていた。多少リリアンに分が悪い。

 キッチンで料理をしているドナが時計を確認する。


「そろそろ隆弘あがるだろ」


 彼が言ったとおり隆弘が階段を下りてきた。彼の服がクマのデフォルメキャラクターを模したきぐるみパジャマだったのでリリアンは部屋の時と同様、思わず3度見した。

 椅子にどっかりと腰を下ろす様子はいつもとおり多少尊大な印象を与えるのだが、いかんせん服装が服装なのでギャップが凄まじい。

 手札の間から隆弘を盗み見たリリアンがニヤニヤと笑った。


「……そのかわいいパジャマよくお前のサイズがあったね」


 不機嫌そうな顔でタバコを咥えた隆弘はテーブルに置いてあったジッポを弄ぶ。


「ハリーが裾直したんだよ」


 リリアンがワザとらしく驚いてみせた。


「お前の嫁マメだなおい」


 ハリーが手札を二枚すて、山札から新しく二枚を引く。


「やめてくれ。僕はもっとかわいらしくて自分より背の低い女の子が好きだ」


 隆弘が不機嫌な顔のまま煙を吐き出す。


「いいからてめぇら飯くってとっとと寝ちまえ」


 リリアンとハリーが笑う。ドナも笑った。

 食事の時に隆弘の使う食器もやはり可愛らしい動物のモチーフだったのでリリアンは一瞬真剣に写真を撮ろうとおもったが、隆弘に睨まれたので諦めたのだった。 隆弘たちの借家で泊まることになったリリアンは二階にあるエヴァンドロの部屋に案内された。シックな色使いの落ち着いた部屋で大きな本棚とクローゼットが真っ先に目に入る。机はよく整理されていたが、ペン立てには色とりどりのペンがこれでもかと詰め込まれていた。部屋まで荷物を持ってきてくれた隆弘が床にバッグを置き、無言でカーテンを閉める。


「準備できたらシャワー浴びちまえ。左隣の部屋がそうだぜ」


「おう、ありがとー」


 リリアンがヒラヒラと手を振ってみせると隆弘は


「あがったら言えよ」


 と言い残して部屋から出ていった。

 リリアンは5秒ほど天井を見つめて茫然としていた。やがて隆弘に言われたとおり荷物の中から着替えを取りだし、バスルームへ向う。

 言われたとおり右隣の部屋に入るとトイレと浴槽が一緒になったオーソドックスなタイプだった。浴槽の上にシャワーがついている。恐らく後付けだろう。隆弘あたりが強く要望したのかもしれない。床に置かれた入浴剤を発見して手にとると自分達と同じタイプのものだった。安くてオーソドックスなので大抵の人間はこれを使っているだろう。服を脱いで着替えと一緒に放り投げる。バスタブに入浴剤を入れてお湯を張った。もくもくと泡が沸いてきたのを確認し、浴槽に座ると泡で体を擦る。足をスポンジで擦っている最中視線を感じて後ろを振り向く。ドアにはロックをかけてあるので当然誰かいるということはない。

 思った以上に脅えている自分にリリアンは思わず苦笑した。


「……ばっかでぇー」


 震える体をスポンジで無理やり押さえつけ、次に髪を洗ってしまう。

 彼女が着替えてシャワーから出てきたとき丁度ハリーが小さな手提げ袋を持って階段を下りていく所だった。ドナがハリーを見送るようにエヴァンドロの部屋の扉にもたれ掛かっていた。いつ帰ってきたかもわからなかったリリアンは少しだけ驚く。彼女がシャワーを浴びている間に帰ってきたのだろう。


「どうしたん?」


 リリアンが尋ねると、ハリーはああ、と声を上げた。


「エヴァの着替え持ってってやるんだよ。少しでも女2人にするのは不安だし」


「悪いな。迷惑かけて」


 ハリーは笑顔で首を振る。


「殊勝なリリーとか気味が悪いからやめてくれ」


 頭にハンドタオルをかぶったリリアンが口を尖らせた。


「お前が暴漢にヤられろ」


 彼女の低い声にハリーは笑い声で答えエヴァンドロに着替えを届けに行ってしまう。リリアンと共に彼を見送ったドナがニコリと笑った。


「リリアン、シャワー浴びたんなら隆弘呼びに行こうよ。面白いから」


 まだ少し濡れている頭をガシガシとふきながらリリアンは首を傾げる。


「隆弘が? おもしれぇの?」


 ドナがニヤニヤと笑ったままリリアンを手招きした。


「まあ来なよ。エヴァの部屋の隣が隆弘だから」


 言われるがまま彼についていったリリアンは無遠慮に部屋のドアを開けたドナの後ろから隆弘の部屋を覗く。


「隆弘、リリアンがシャワー出たから次どうぞ」


 ソファに座って本を読んでいた隆弘が目線をドナに向けた。


「おう」


 パタン、と軽い音を立てて本を閉じた隆弘が立ち上がる。その間にリリアンは部屋の中を二度見では飽きたらず三度ほど見直した。

 まず隆弘の座っていたソファにはたてごとあざらしやビーグル犬のクッションが置いてある。ソファの下にはネコの顔を模したカーペットが敷いてあった。カーペットの手前に靴が置いてあるから部屋の大部分は靴を脱いで過ごすのだろう。ソファの横にカピバラのデフォルメキャラクターがモチーフのミニテーブルが置いてあった。上に置かれたマグカップはネコが描かれ、取っ手が尻尾になっている。ベッドにはウサギの抱き枕と羊のぬいぐるみが置いてあった。羊のぬいぐるみは位置的におそらく枕だ。掛け布団はクマのデフォルメキャラクターがでかでかと印刷されている。カーテンはネコ柄で本棚のブックエンドはキリンだ。主人が195cmの厳つい男であるのに対して部屋がイヤガラセの域に達しそうなほど可愛らしい。

 さらにカーテンタッセルが手の長いサルのぬいぐるみだ。気づいたリリアンは思わず口をぽかんと開けてしまった。


「うわぁ……」


 彼女の驚いた顔に気付き、ドナがニヤニヤ笑いを更に深める。


「あんまりにも本人と部屋が違いすぎて驚いただろ」


 知人2人の言わんとしていることがわかったらしい隆弘は口をへの字に曲げて2人からフイと視線を逸らした。


「うるせぇ」


 頬が少し赤く声もいつもより小さめなので照れているようだ。

 いつも強気な姿しか見ていないのでリリアンもドナ同様ニヤついた笑みを浮かべてしまう。


「そういえば今日買ったペンケースも可愛かったもんなぁ! しっぽついててさ!」


 リリアンの横でドナが嬉しそうに言葉を繋ぐ。


「甘いもの好きだし。人は見かけによらないな」


「かっわいいなぁ~隆弘! 実は受け?」


「いやぁ、ギャップ萌えの攻めだと思う」


 とうとう隆弘が口をへの字に曲げたまま立ち上がり歩いてくる。そのままリリアンとドナは彼に頭を軽く小突かれた。


「うるせぇぞ。ドナ、てめぇは今日食事当番なんだからとっととメシ作れよ」


 やはり拗ねているような口調だ。頭を押さえたドナとリリアンは笑顔のままバスルームに向う隆弘を見送る。ニヤニヤと笑ったままのドナがリリアンに向き直った。


「じゃあ言われたとおりご飯つくっちゃおうかな!」

 

 ドナがキッチンに立っている間、リリアンは帰宅したハリーと一階のダイニングルームでポーカーに興じていた。多少リリアンに分が悪い。

 キッチンで料理をしているドナが時計を確認する。


「そろそろ隆弘あがるだろ」


 彼が言ったとおり隆弘が階段を下りてきた。彼の服装がクマのデフォルメキャラクターを模したきぐるみパジャマだったのでリリアンは部屋の時と同様、思わず3度見した。

 椅子にどっかりと腰を下ろす様子はいつもとおり多少尊大な印象を与えるのだが、いかんせん服装が服装なのでギャップが凄まじい。

 手札の間から隆弘を盗み見たリリアンがニヤニヤと笑った。


「……そのかわいいパジャマよくお前のサイズがあったね」


 不機嫌そうな顔でタバコを咥えた隆弘はテーブルに置いてあったジッポを弄ぶ。


「ハリーが裾直したんだよ」


 リリアンがワザとらしく驚いてみせた。


「お前の嫁マメだなおい」


 ハリーが手札を二枚すて、山札から新しく二枚を引く。


「やめてくれ。僕はもっとかわいらしくて自分より背の低い女の子が好きだ」


 隆弘が不機嫌な顔のまま煙を吐き出す。


「いいからてめぇら飯くってとっとと寝ちまえ」


 リリアンとハリーが笑う。ドナも笑った。

 食事の時に隆弘の使う食器もやはり可愛らしい動物のモチーフだったのでリリアンは一瞬真剣に写真を撮ろうとおもったが、隆弘に睨まれたので諦めたのだった。

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