第四章
伊武が校舎裏で暴れているころ、直巳は学校からの帰宅途中に夕飯の買い物を済ませたところだった。姉と二人暮らしのため、夕飯は交代で作っており、今日は直巳の番だ。
直巳もそれなりに料理はできる。姉は何を作っても美味しいと言って食べてくれるので、いまいち参考にはならないが。ちなみに姉は直巳よりも料理が上手い。
直巳がスーパーの袋をぶら下げて歩いていると、小さな人影がぶつかってきた。
「げぉっ」
人影が変なうめき声をあげる。恐らくは子供が走ってきて、ぶつかったのだろう。
「大丈夫……え?」
メイドだった。小さな女の子で、フリフリのメイドの格好をしていた。
(可愛いけどヤバイ)
それが直巳の感想だった。
「おぉー……?」
少女は変な声をあげて、直巳のことをじっと見上げた。直巳も少女を見つめる。ちょっと、ぼーっとした感じはあるが可愛い子だ。日本人ではないかもしれない。
「ど、どうしたの? 大丈夫?」
直巳が声をかけるが、少女は何も言わずに直巳を見つめたままだった。
「え、えっと……お母さんは……」
「……」
少女は何も言わなかった。
そのまま、しばらく沈黙が続いた後、少女が突然、直巳に向かって、さっと両手を出した。両手にはそれぞれ、カエルと猫の人形がついている。
「……ゲロゲロニャー」
メイド少女は両手の人形をパクパクと動かす。
それっきり、また黙り込んだ。
(やばい)
もはや可愛いなどと思ってる暇はなかった。この子はなんかヤバイ。可愛いのは可愛い。メイド服だって、母親が可愛いから着せているのかもしれない。子供が手に人形をはめているのだって、おかしなことはない。ぼーっとしてるのは、そういう子なのだろう。
ただ、それら全部を総合すると、なんかもうおかしかった。
「け、怪我とか……してないよな?」
「げろげろ……にゃー……」
手人形の口をパクパクと動かし、直巳にじゃれついてきた。無表情のまま。
「お、おおう……」
直巳は何とも言えない返事をし、されるがままになっていた。ぬいぐるみの感触がくすぐったい。
(どうしようかな……)
このまま置いて帰ろうか? でも迷子だったらかわいそうだ。可愛い子だし、変な人に目を付けられたら大変だ。
直巳が悩んでいると、少女のお腹が「グー」と可愛らしい音を立てた。
「お腹、空いてるの?」
メイド少女はブンブンと首を縦に振った。期待の眼差しで直巳を見ている。
「ちょっと待ってろよー……お菓子は……買ってないなー……」
直巳が買い物袋をあさるが、すぐに食べられそうなものは一つしかなかった。
(魚肉ソーセージ……)
魚肉ソーセージを取り出し、少女と交互に見る。
(食べるかな……)
「それ……なに?」
黙っていると、向こうから話かけてきた。魚肉ソーセージが気になるようだ。
「これは魚肉ソーセージって言って……えっと、お魚のソーセージだよ」
直巳は夜食用に魚肉ソーセージをよく買っていた。安くヘルシーでお腹に溜まるので、小腹が空いたときに重宝している。
「お魚……好き」
メイド少女の目がきらきらと光る。直巳は笑いながら、魚肉ソーセージを剥いて、メイド少女に渡してあげた。
「どうぞ」
「お……」
メイド少女は手に持った魚肉ソーセージと直巳を交互に見ている。本当に猫のようだなと直巳は思った。
「どうぞ。食べていいよ」
直巳が笑顔で言うと、少女は恐る恐る魚肉ソーセージをかじりはじめた。
「――っ」
メイド少女の目が輝く。どうやらお気に召したようだ。先ほどまでの警戒はどこへやら、ガブガブと元気良く平らげてしまった。
「ん……うまい」
「そっかー。よかったなー」
「んー……」
メイド少女が直巳のお腹に頭をぐりぐりとこすりつけてきた。どうやら魚肉ソーセージと一緒に、直巳も気に入られたらしい。
「ちょ、ちょっと……」
「んー……にゃー……」
ぐいぐいと頭をぶつけ、こすりつけてくる。猫のマーキングのようだった。
「えっと……えー……どうしよう……」
どうしたらいいかわからず、されるがままになっている、そのときだった。
「何をやっているのですか」
少し離れた場所から凜々しい声が聞こえた。
やっと母親がきてくれたのだと思い、直巳はそちらを見た。
「あ……お母さ……えぇ!?」
今度は執事だった。冷たい感じすら覚えるほど美形の女性。色素の薄い肌、鋭い目つきと大きな口が特に印象的だった。背は高く、パンツ姿のおかげで足の長さが際立っている。腰が細いため、普通サイズの胸も相対的に大きくみえる。
特徴的なのは、左目についている黒い眼帯だった。医療用の真っ白なものではない。黒い眼帯には、宝石で美しい装飾がほどこされている。
何かの見本のように美しい人――なのだが、どこか、良くない雰囲気を漂わせている。
(メイドに続き、この人もそういうアレなんだろうか)
この近くでコスプレイベントでもあったのだろうか。直巳が考えている間に、執事はつかつかと直巳の元へ寄ってきて、メイド少女を直巳から引きはがす。
「B、離れなさい。どうも、うちのメイドがご迷惑をおかけしたようで」
執事はすっと頭を下げる。隙の無い、美しい仕草だった。
「い、いえ。迷惑というほどのことは……」
直巳が思わず気後れしながら答えると、執事はもう一度頭を下げた。
「いえ、どうもこの子は躾がなっていなくて――自己紹介が遅れました。私は高宮家に仕える執事で、Aと申します。あなた様にお世話になったこのメイドがB。以後、お見知りおきを」
「エーに、ビー?」
アルファベットのA、Bのことだろうか。そんな適当の名前があるのだろうか。日本語でいえば、名前に「あ」とか「い」とかつけるようなものではないのか。
直巳が悩んでいると、察したようでAが答えてくれた。
「ご想像のとおり、アルファベットのAとBです。愛称のようなものですよ。皆様、最初は驚かれますが、あまりお気になさらず。あなた様もA、Bとお呼びください」
「愛称……そうなんですね。わかりました」
本当にアルファベットのA、Bだった。愛称ということなら、そういうこともあるのかもしれない。
「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「あ、俺は椿直巳っていいます」
「椿様、ですね。ありがとうございます。ほら、Bも謝罪を――おや? あなた何か、食べ物をもらいましたね? 匂いますよ」
「ピンクの……お魚の……棒……」
Bは魚肉ソーセージという単語を忘れてしまったようで、身振り手振りで説明しようとしているが、動きが雑なので棒ということ以外わからない。
「ピンクの魚の棒? なんですかそれは」
「あの、俺が勝手に魚肉ソーセージをあげちゃって。勝手なことしてごめんなさい」
直巳がフォローをすると、Aはわざとらしく目頭を押さえた。
「この子は、本当に――どうか、お礼をさせてください。幸い、家が近いので少しだけ寄っていただけませんか? お忙しでしょうが、お茶の一杯だけでよいのです。お時間は取らせませんので、どうかお礼をさせてください。もちろん、帰られる時にはご自宅まで車で送迎を――」
「いえ、そんなたいしたものじゃないので、気にしないで……」
断ろうとしたところで、Aが両手で直巳の手を包むように握ってきた。
「そう仰らずに。何もお礼をしなかったとあれば、主に怒られてしまいますから――ね?」
Aはにっこりと微笑んだ。整った顔立ちとのギャップもあり、すごい破壊力だった。間近にいるせいで、彼女の匂いが風に運ばれてくる。甘くはないが、とても良い匂いがした。
「……ね?」
Bも直巳の服を引っ張っていた。Aの後押しをしているらしい。
「はぁ……わかりました。じゃあ、少しだけ」
直巳が観念すると、Aの表情が先ほどにもまして明るくなった。
「ああ、よかった。お断りされたらどうしようかと。さあさあ、すぐそこに車を停めてありますので、どうぞこちらへ」
「……どう、ぞー」
「わかった……わかったから……B! お尻を猫で噛まないで! カエルも駄目!」
Aに先導され、Bに後ろから押されて噛まれて、直巳は彼女たちの家へ寄ることになった。
Aの運転する車に乗り、30分ほど経過した。町を出て、郊外と言って差し支えないようなところまできた。
(家が近いっていうのは完全に嘘だな)
特に言い訳もせずに運転しているAの後頭部を冷めた目で見つめる。
すると、それに気づいたかのように、Aが乗車以来の言葉を発した。
「見えてきました。あの家です」
「え? どこで――うぐっ」
隣りに座っていたBが直巳の顔を掴み、Aの言う家がある方向に無理矢理ひねった。想像以上の力のおかげで、嫌でもその家が目に入る。
それは、山の中腹にある洋館だった。執事とメイドがいてもおかしくないような、時代がかった洋館。
こう言ってはなんだが、あまり綺麗とは言いがたい。
(知らなかったら廃墟のラブホテルだよな)
当然、その感想は黙っておくことにする。
それから10分ほど走り、洋館に到着した。門の前で車を停めて、直巳を車から降ろす。Aが苦も無く大きな鉄製の門を開けて、直巳を先導する。
庭も広く、洋館の入り口までは少し歩いた。庭には植物が色々あったが、あまり手入れされているようには見えなかった。朽ちて苔の生えた石像などもあり、少し不気味だ。
だが、直巳が一番気になったのは、庭の真ん中に摘まれている廃車の山だった。明らかに燃えたであろう車の残骸が、何台分も転がっている。
「A、あの廃車の数々は、なに?」
「主の趣味です。あまりお気になさらぬよう」
車のレストアでもやっているのだろうか。直巳に金持ちの考えはわからなかった。
入り口からしばらく歩くと、屋敷の玄関に到着した。大変に重そうな、大きな木の扉をAが開け、直巳は中に通される。
広いエントランス。中二階があり、奥には階段が見える。外観だけでなく、中身もいかにもな洋館だった。ただ、華やかな印象が薄いのは屋敷が薄暗いからだけだろうか。
「椿様、こちらへどうぞ」
Aに案内されるがままに屋敷内を歩く。他に人気はない。窓から差し込む西日が廊下を照らし、なんとも物憂げな雰囲気を醸し出していた。
直巳は応接室に通された。品の良いアンティーク調の白いテーブルに案内され、椅子を引いてもらい腰掛けた。
「少々、お待ちください。B、主様をお呼びしてきて」
「……ん」
わかったようなわからないような返事をして、Bが部屋を出ていった。残された直巳の肩にAの手がそっと触れる。
「あまり、緊張なさらずに。椿様はお客様なのですから。どうぞ、おくつろぎください」
「あ、ああ……わかった」
それでも緊張していると、Aがクスリと笑った。
「お屋敷は大きいですが、それだけですよ。使用人も私たち二人ですしね」
「え? こんなに広くて二人なの?」
これだけ広いというのに、庭でも屋敷内でも、他に人影がなかったので不思議に思っていたが、本当にAとBの二人だけらしい。
「ええ、二人だけですよ。見かけよりもたいしたことはないのです」
「ずいぶんな物言いね、A」
応接室のドアがバタンと開け放たれ、Aをたしなめる声が聞こえた。
入ってきたのは、一人の美しい少女だった。小さく、細い体にはフリルとレースが贅沢にあしらわれた黒いドレスをまとっている。長い金髪には薔薇のコサージュがついている。陶器のような肌、小さな顔。人形のよう、とはこのことだろう。ただ、その目だけは姿に似合わず大人びていた。
(黒いお姫様だ)
それが、直巳の第一印象だった。
直巳が見とれていると、少女はスカートの裾をつまんで挨拶した。
「はじめまして、お客様。私は高宮=アイシャ=スレイと申します。私のメイドがお世話になったそうで。主としてお礼申し上げます」
直巳も慌てて席を立とうとするが、少女に手で遮られた。
それから、少女は一呼吸すると、リラックスした表情になった。
「ま、そういった挨拶はここまでにしておきましょ。あなたも、こういうの得意じゃなさそうだし。A、お茶を」
「かしこまりました」
Aの顔も見ずに指示を出すと、少女は直巳の向かいに座った。
「私のことはアイシャ、でいいわ。さんもちゃんもいらない、っていうかつけたら蹴るから。私もあなたを直巳と呼ぶけど、いいわよね――ん? どうしたの?」
「え……?」
突然、お姫様がくだけた口調になり直巳は面食らう。いや、それ以前にこの少女が主ということで間違いないのだろうか。両親などはいないのだろうか。
直巳が放心していると、アイシャは身を乗り出して直巳の頬を引っ張った。
「聞いてるー? おーい?」
「き、きひてるよ」
「そ。なら、いいんだけど。お茶が来るまで、もう少し自己紹介しましょうか」
少女の名前は高宮=アイシャ=スレイ。両親どころか親戚までいない天涯孤独の身なので仕方なく高宮家を継いで当主をやっているそうだ。幸い、生きていくだけの資産と二人の使用人(クソ生意気な執事と、ハムよりバカなメイド、らしい)がいるので生活には困っていない。 年齢は「見たとおり」らしく、直巳からすると10歳ぐらいにしか見えないのだが、それにしては話も達者だし、仕草も子供のものとは思えない。その辺は良家の子女ということで納得することにした。少女とはいえ、初対面の女性の年齢に突っ込むのは気が引ける。
以上がアイシャの話でわかったことだ。直巳も自分の話をしてくれとせがまれたので、同じように自己紹介をした。アイシャは話すのも聞くのも上手だったので、ついつい、余計なことまで話をしてしまう。天使教会で仕事をしていることまで話してしまった。《神秘呼吸》については省略したが。
話が終わるころには、自然とお互いを名前で呼ぶようになっていた。アイシャは年下(年齢は聞いていないが年下にしか見えない)ではあるが、そういった気安い雰囲気を作り出すのが上手かった。
「直巳も苦労しているのね。それでも、人に優しくできるのは素敵よ。Bに優しくしてくれてありがとう」
アイシャは堂に入った微笑みを浮かべながら、直巳に謝辞を述べる。
「話していたら喉が渇いたわね。Aはまだなのかしら。つっかえないわね……あいつ」
アイシャが可愛い顔に似合わない悪態をつく。見た目は完璧にお姫様なので、ちょくちょく見えるギャップにとまどう。
アイシャが苛立たしげにテーブルを指で叩きはじめると、部屋のドアが開き、Aがワゴンを押して入ってきた。ワゴンにはお茶やお菓子が所狭しと載せられている。
「お待たせしました、アイシャ様。少し、準備に手間取りまして」
「いいから、さっさと準備をしてちょうだい」
「かしこまりました」
Aが慣れた手つきでテーブルに食器を並べ、お茶の用意をはじめた。直巳はどのお菓子を食べるか聞かれたが、よくわからないのでAに任せることにした。ちなみに、Bもいつの間にか部屋にいたが、Aの手伝いをするでもなくアイシャの横に、ただ立っており、たまに猫のように何も無い宙を見つめていた。アイシャが、「ハムよりバカ」と言う気持ちもわかる。
そんな風にBを観察している間に、滞りなくお茶の準備が終わった。テーブルの上にお茶とお菓子が綺麗に並べられている。
「さ、どうぞ。マナーなんて細かいこと言わないから、ゆっくり楽しんでくれると嬉しいわ」
「そう言ってもらえると助かるよ。こんな風にお茶を飲むの、はじめてだからさ」
「気に入ってもらえるといいけど。そうそう、我が家はね、食器にも気を使っているのよ。例えば、そのティーカップなんかは面白いものよ。持ってみて?」
「へえ。たしかに、綺麗なカップだね」
直巳がカップを持とうとすると、なぜかアイシャに止められる。
「ああ、直巳。そのカップはね、左手で持つのよ」
「あ、そうなの?」
先ほど、マナーは問わないとアイシャは言ったが、また違う理由なのだろうか。直巳はアイシャに言われるがままに左手でティーカップを持って――すぐに違和感に気づく。
(あれ――?)
「――どうしたの?」
カップを持ったまま固まる直巳にアイシャがたずねる。
「ああ、いや……これ、年代物なのかな。不思議な感じがして」
「あら、よく気づいたわね。そうね、かなり古いものよ――魔力を持つぐらいにはね」
直巳はため息をついて、そっとカップを置いた。アイシャは嬉しそうな表情を浮かべ、直巳の足をつま先でつっついていた。
「安心して。危害を加えるつもりはないから」
「――知ってたのか。俺の能力のこと」
左手に残る魔力の感触。カップには魔力が込められていた。
「まあねー。《神秘呼吸》とお友達になりたくて、AとBに命令したのよ。友好的な方法で屋敷にお招きして、って。多分、Bの行動は天然だけどね。結果的にはよしとしましょう。騙してごめんね。怒った?」
「――いや、怒ってはないよ。ただ、なるほどなって感じ。こんな変わった人達に絡まれてお呼ばれするなんて、普通ならあり得ないから」
「そう? 怒ってなくてよかったわ」
アイシャが悪びれもせずに言う。たしかに、直巳は怒っていなかった。危害を加えるつもりがないというのも、なんとなく伝わってきている。
「それで、俺に何の用? アイシャは魔術師なの?」
「広い意味で言えば魔術師かもね。呼んだのは、さっきも言ったでしょ? お友達になりたいなって。《神秘呼吸》が本物なら、って条件付きだけどね」
「……本当に、それだけ?」
「それだけ。変わり者同士、仲良くしましょ?」
アイシャは、にひひと笑いながら、つま先で直巳の足をいじくり回していた。直巳は身長のわりに足が長いなあ、などと、どうでもいいことを考えていた。
「俺の能力のこと、どこで知ったの?」
「うちに出入りの宝石商がいるんだけどね。そいつが面白いもの持ってたのよ。あれだけ綺麗な魔石なんて、そう簡単に出回るわけないじゃない。で、Aをそいつに張り付かせてたら、天使教会で治療してる直巳を見つけて、ビンゴってわけ」
「宝石商……天木さんか……」
直巳の脳裏に天木のうすっぺらい笑顔が思い浮かぶ。
「そ、天木。魔術商としてもなかなかよね。ただ、宝石の出所については口を割らなかったのよ。企業秘密だー、とか言って。そのおかげで調べるのは面倒くさかったけど、お会いできてよかったわ。この世界、何かあったら相談できる相手は多い方がいいでしょ? いつ、何があるかわからないんだし」
たしかに、《神秘呼吸》を見抜いたアイシャと仲良くしておけば、今後、何か役に立つことがあるかもしれない。アイシャが必要以上に直巳を使おうとしなければ、だが。
「ま――そうだな――いてっ!」
直巳が頭の中で一瞬、損得勘定してから返事をすると、アイシャは直巳のスネを蹴った。
「ふふん。そういう計算は、女にばれないようにやってね」
「そっちが言ったんだろ!」
「ま、あんまり上手くやられるよりは、不器用な方が可愛いかな」
「アイシャみたいなちびっ子に可愛いって言われてもな」
「いいじゃない。可愛い同士で仲良くしましょ?」
アイシャが右手を差し出した。直巳はわざとらしくため息をついてから、その手を握った。
「……よろしくな」
「うん、よろしく――ね? 友だちになると、いいことあるでしょ?」
「え? なに?」
「美少女と握手できる。帰りにはキスもしてあげる」
アイシャはにひひと笑った。直巳は苦笑するしかなかった。
その後、アイシャから夕食にも誘われたが、姉の食事も作る必要があるので、断って帰ることにした。ならば玄関まで見送ると、アイシャがついてくる。
玄関まで来ると、アイシャに呼び止められた。
「直巳、だっこしてちょうだい。嫌ならかがんで?」
アイシャが両手を差し出して、だっこ待ちの状態になる。
「……なんだよ」
だっこは恥ずかしかったので、直巳は言われるがままに屈んだ。アイシャが近寄ってきて、耳元でささやく。
「また、連絡してね? 困ったときでいいから」
「わかった。そっちも、なんかあったら連絡くれよ」
「ありがとう。じゃ、またね――ちゅっ」
アイシャが頬にキスをしてきた。直巳は驚きで「うぇっ」と変な声をあげる。
「さっき言ったじゃない。帰りにキスしてあげるって。外人すごいでしょ?」
「なんでそんなドヤ顔なんだよ……ったく……じゃあな!」
直巳は照れた顔を見られないよう、玄関を出た。
が、すぐにAにがっちりと頭を押さえられ、真っ正面から顔を見られる。
「おやおや椿様。お顔が赤いですよ。さてはロリコンですか?」
本当に性格の悪い執事だ。アイシャがクソ生意気という気持ちもわかる。
「Bも……わりと……ロリコンから……評価……高い? 襲われる前に……Bから襲う?」
Bが人形の猫の方でガブガブと太ももに噛みついてくる。どういう仕組みなのか痛い。
「俺はロリコンじゃねえ! あと太ももいてえ!」
三人にひとしきりいじられた後、Aに車で家まで送ってもらった。Bはなぜか、車内でずっと直巳の膝に乗っていた。
「……げふ」
「あ、魚肉ソーセージ全部食べやがった」
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