第二話 僕のハーレムができた

  第二話 僕のハーレムができた


「行ってきます」

 ほとんど思考と感覚の麻痺した状態になった隼人は、ファムに命じられるままロボットのように体を動かして冷蔵庫のなかにあったバナナを食べ、それから制服に着替えて家を出た。鍵を掛け、狭い前庭のなかで前を向くと秋の爽やかな風が面を吹いた。

 朝だ。今日もよく晴れていて、東の空にかかった太陽を見ていると、家のなかであんな血腥い惨劇があったとは、ほとんど信じられないほどである。だが太陽と対になっている隼人の影が歪に動いたかと思うと、影の海からファム・ファタールが顔を出した。一見すると地面に顔だけ出して埋まっているようだが、実際には違う。

「さっきも説明した通り、あたしはおまえの影のなかに潜んでいる。いつでもおまえの傍にいるからね」

「ああ……」

 つまり逃げられないということだ。だがこのまま登校したところで、どうせろくでもないことをするに決まっているのだ。ならばいっそ学校へは行かずに、どこか誰もいないところへ……とそんな隼人の思考を見透かしたように、ファムが威ある声で云った。

「さあ、学校へ行くんだ」

 ファムの言葉は、隼人の心においては王のように威厳をもって響いた。この悪魔の言葉に逆らうなど、考えられないことだった。

 隼人は早々に諦めて、重い足を引きずって学校への往路を辿り始めた。


 高校の校門を通り抜けたところで、足元からファムの物珍しげな声がした。

「へえ、ここが学校かい。なんだか息苦しそうなところだね」

 隼人は焦った。ファムは影から顔を出したわけではなかったが、それでいて平然と話しかけてきたのだ。隼人の周囲に多数の生徒がいるにも拘らず、である。隼人は昇降口へ向かう人の列から離れて校舎の角の近くまで来ると、そこで勢いよく足元を見た。

「学校のなかで喋るな!」

「ばれやしないさ。誰も影が喋ってるなんて思わないだろう?」

「でももし気づかれたら――」

「あたしは別にそれでもいい。それより人が来るよ」

「えっ?」

 影が沈黙し、隼人は目を丸くしながら顔を上げた。ちょうど校舎の角から、腰まである栗色の髪を背負った、一人の長身の美少女が姿を現したところだった。

「い、一条さん……」

 彼女の名前は一条奈緒美と云って、隼人とは同じ教室の生徒だった。自分より上背のあるこの少女に、隼人は恋とは違うものの、畏怖と背中合わせの憧れを感じていた。

「よお、如月。おはよう」

「おはよう……って、こんなところでなにしてるの?」

「いや、自転車置き場、あっちだし」

 そういえばこの学校には、校舎の横に駐輪場があるのだった。校舎の角からは一人、また一人と生徒たちが姿を現してくる。奈緒美を含めた彼らは、皆、自転車通学なのだろう。

「ああ、そうなんだ」

 隼人はファムと話す場所を間違えたことに口元を引きつらせながら、陸続とあらわれてくる生徒の列を見やった。奈緒美の口元を微笑が過ぎる。

「遅刻するよ、如月」

「う、うん……」

 隼人が曖昧に頷いたときには、奈緒美はもう指呼の距離から離れようとしていた。

「誰だい?」

 またしても人の耳目を憚ることなくファムが訊いてくる。が、栗色の髪が流れる奈緒美の背中に見とれていた隼人は、それを咎めるでもなくうっそりと呟いた。

「同じクラスの人……」

 それだけの関係で特に親しいわけでもなかったが、どうやら向こうは隼人のことをちゃんと覚えていてくれたようだった。


 まだ感覚が麻痺しているのか、それとも人間の適応力には端倪すべからざるものがあるのか、教室に入っていつも通り授業を受けているうちに、隼人は自分がなにごともないいつもの一日を過ごしているような気がしてきた。武田たちにからかわれるのも、普段と変わらないという意味でむしろ隼人を安堵させた。

 だからだろうか、その日の昼休み、隼人は喜んで武田たちの使い走りになると、急いで購買で昼食をもとめてきてそれを全員に分配し、武田たちとともに机を集めて拵えた食卓を囲んでいた。

 全員が食事を粗方平らげて飲み物を片手に一息ついていたころ、上杉が懐からチョコレートの菓子を出して紙箱を開けた。

「一個ずつやるよ」

 上杉がそう云って、銀紙に包まれたチョコレート菓子の一粒ずつを隼人たちに分けてくれた。隼人はそれをあとで食べようと思って制服のポケットにしまった。一方、武田は早速チョコレートを口に抛り込みながら、突然隼人にこう切り出した。

「で、如月。今日は誰に告っとく?」

「ええっ?」

 隼人は驚き、苦笑いをした。まさか二日続けてあのたちの悪い告白を強いられるとは思っていなかった。それは上杉も同様であったのか、渋い顔をして武田に口を挟んだ。

「やめとけよ。また木村君に怒鳴られるぞ」

「今日、いねえじゃん」

 武田のその言葉に隼人は素早く昼休みの教室中を見回した。確かにあの逞しい木村剛弘の姿はない。ついでに云えばまどかも今日はいなかった。昨日、まどかと一緒に弁当をつついていたまどかの友達や、剛弘と一緒に食べていた野球部員らの姿はあるのにだ。まどかと剛弘だけがいない。代わりに昨日はどこか別の場所で昼餉をしていたらしい孔雀院輝子の姿がある。

 ――もしかして山本さん、木村君と一緒だったりして。

 隼人はそうした暗い想像を働かせながら、明るいものに惹かれるごく当たり前の心理に導かれ、輝子のきらきらしい容姿に目を注いだ。輝子は背中まで伸ばした黒髪を緩く波打たせた美少女だ。どちらかといえば彫りが深く、目鼻立ちがくっきりしていて、やや肉付きがよい。乳房はよく張っていたし腰の稔りも豊かで、スカートから伸びる脚も太めであった。皆と同じ制服姿で、化粧もしていなければこれといった装身具アクセサリを身に着けているわけでもないのに華やかな容姿をして見えるのはなぜだろう。

 そんな隼人の視線を追いかけて武田が云う。

「おっ、孔雀院にしとくか?」

 隼人は椅子ごとひっくり返るかと思った。それは辛うじて踏みとどまり、代わりに武田に向かって勢いよくかぶりを振る。

「いやいやいや、ご冗談を。あの人は本当に別次元ですから」

 輝子はまさに素封家だった。登下校にリムジンを利用していることからして普通でないことが窺われる。成績も運動もずば抜けており、その気になればもっと上位の進学校にも通えたが、尊敬する祖父がこの学校の卒業生だとかでここを選んだらしい。

「ほんと、無理」

 隼人が珍しく頑なに主張すると、武田は仕方なさそうに標的を変えた。

「じゃあ鳥居にしとくかな」

「ていうか告白するのは決定なの?」

「いいじゃねえか。もし万が一上手くいったら、おまえだって嬉しいだろ?」

「それはそうかもしれないけど……」

 隼人は鳥居ゆらの方を盗み見た。彼女は昨日と同じで、仲の良い友達二人と一緒に机を寄せて弁当を広げている。おかっぱで色白、小柄で痩せていて痛々しいほどに骨細で、その姿はいっそ哀れを誘うほどだった。それに隼人はゆらが極端な人見知りで、仲の良い数人の友達を除けばろくに目を見て話せないのを知っていた。

 隼人は武田に目を戻して切実な顔でうったえた。

「鳥居さんはまずいよ。告白なんかしたら心臓止まっちゃうよ」

「大丈夫だって。おおい!」

 武田が委細構わずゆらの方へ向かってそう声をあげた、そのときだ。

「――隼人」

 突如響いた女の声に、武田が目を丸くした。隼人はほとんど一瞬で、温かい日常から冷たい非日常へと引きずり込まれながら、椅子に座る自分の影に目を落とした。その影が喋ったのだ。もちろんファムである。

「えっ? なに今の声?」

 さすがに影が喋ったとは思いもよらぬ上杉たちが、目を瞠りながら辺りを見回していた。

「隼人、って聞こえたよな?」

 男子の一人が隼人に視線を注いできた。隼人は椅子を蹴立てて立ち上がった。

「ごめん、僕トイレ!」

 隼人は断固たる口調でそう宣言すると、踵を返して猪のごとくまっすぐ教室の戸口へ進んだ。武田たちは目を丸くするばかりで、隼人を引き止めることはできなかった。

 隼人は教室の前の戸を思い切りよく開けた。と、ちょうど反対側から戸を開けようとしていたのだろう、目の前で木村剛弘が驚いたように目を丸くしていた。隼人と剛弘は一秒間、見つめ合った。

「おう」

 剛弘がそれと気づいて体を横にどける。隼人はそこを通り抜けて廊下に出たのだが、そこで剛弘の後ろにまどかがいるのに気づいた。やはり二人でいたのだ。隼人は胸を嫉妬の炎に焦がされながら、急いで男子便所の一番奥の個室に駆け込み、扉を閉めて鍵を掛け、蓋をした洋式便座の上に腰掛けた。

「ファム!」

「ふふふふふ」

 隼人の影が歪に歪み、狭い個室にファム・ファタールが姿を現す。甘い香りが個室のなかに充ちた。隼人はファムを血走った目で睨みつけた。

「なに考えてんだ? 教室で話しかけてくるなよ」

「いいじゃないか、少しくらいさ。それよりおまえ、あの三人のうち誰が好きなんだい?」

「三人?」

 隼人が小首を傾げると、ファムは鼻先でせせら笑ってきた。

「一条奈緒美、孔雀院輝子、鳥居ゆら、の三人さ。憧れるように、眩しそうに、あるいはその儚さを憐れむように、それぞれ特別な目で見ていたじゃないかい」

 隼人はそうしたファムの指摘を意外そうに咀嚼したあと、初めてファムの鼻を明かしてやれる小さな喜びを感じてわらった。

「残念、外れ。あの三人は教室のなかでも指折りに可愛いってだけで、別に特別でもなんでもないよ」

「それじゃあさっき廊下ですれ違った娘かい?」

「え――」

 隼人はそれきり絶句した。まどかのことは、ファムは名前も知らないはずだった。それがどうして自分と結びつけたのか。

「あの娘が他し男と一緒にいるのを見たときのおまえから、暗い情念の炎を感じたよ。あれは嫉妬だ。そうだろう?」

「だったらなんだって云うんだ! 関係ないだろう!」

 隼人が全身の毛を逆立てて叫ぶと、ファムはなにかを嗅ぎ当てたような嫌らしい笑みとともに鼻を鳴らした。

「ふうん、ふんふん。なるほどねえ」

「なんだよ……」

 隼人が便座から腰を上げてファムに掴みかかろうとしたとき、その出鼻を挫くように昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。あと五分で次の授業が始まる。

「ふふ」

 ファムは狭い個室のなかで竜の翼をひろげると、閉め切られた窓の方を仰ぎ見た。

「午後は、ちょっと学校のなかを見てくるよ」

「えっ?」

「夕方には合流するから、それまでは普通にしてな」

 云うが早いか、ファムは窓ガラスをすり抜け、その向こうの蒼穹へと吸い込まれるように消えていった。隼人は呆気に取られてファムを見送り、もうどうにもならないと悟って、せめて彼女が騒ぎを起こさないように願った。


 放課後、ホームルームが終わって生徒たちが帰途についたり部活動へ出かけたりするなか、帰り支度を調えた隼人のところへ不吉な影が忍び寄ってきたかと思うと、隼人の影に溶け込んで一つになった。隼人はその影に暗い視線をあてながら低声こごえで云った。

「ファム……」

「ふふっ。なかなか有意義な社会見学だったよ」

 幸いにして、もう教室は人がまばらになっていたから、この会話は誰にも聞かれることはなかった。隼人は窓際に立つと校庭を眺めるふりをしながらファムに声をかけた。

「なにもやってないだろうな?」

「心配するな。あたしの目的はおまえをラノベの主人公にすることなんだからね。使えそうなものがないか確認していたんだよ。それで一つ成果を得たんだが、この学校じゃ、この教室に飛び抜けた美人が集中してるね」

「……だから?」

「うん? まあ、今日のところはそんなところさ」

 ファムはそれきり沈黙してしまった。隼人は釈然としないまま、鞄を片手に教室を出た。


 学校を出た隼人は、帰路を辿って殷賑いんしん極まる駅前の繁華街までやってきた。昨日、この近くの本屋で『魔法学園オーロラブレイド』を買ったときには、こんなことになるとは夢にも思わなかった。だが今や、自分の足元には悪魔が潜んでいる。

「なんでこんなことに……」

 隼人が我が身の不幸を嘆いて天を仰いだ、そのときだ。

「おーっす」

 可愛らしい少女の声とともに背中を叩かれ、隼人は振り返った。振り返って、瞳を抜かれた。

「山本さん」

 そこに立っていたのは山本まどかだった。それが隼人を見つめてにこにこしている。

「二日連続だね」

「ああ、そういえばそうだね」

 昨日は駅の改札口を抜けたところで、今日は駅の手前で、二人は思わぬ遭遇を果たしたというわけだった。まどかは隼人に視線をあてながら隼人の横を追い抜き、駅に向かって歩いていく。隼人とて駅を目指していたので、二人は自然と連れ立って歩くことになった。

 駅ビルとも連結されている歩道橋を登ろうとしたとき、先に立っていたまどかが階段の半ばで振り返り、隼人を見下ろしてきた。

「昨日はなんか傷つきました」

「え?」

「だって如月君、私のことあからさまに避けるんだもん」

「あ……ごめん」

 確かに自分はまどかから逃げた。彼女が剛弘に恋していることを識って、一緒にいることが辛かった。そしてそのあと線路に転落して、ファムと出会ったのだ。もしあのとき、逃げ出さずにまどかと同じ列車に乗っていればどうなっていただろう? 少なくとも、両親は死なずに済んだに違いない。

 後悔に囚われ、暗澹たる面持ちの隼人に、まどかは朗らかに笑いかけた。

「今日は一緒に帰ろうよ。同じ電車なんでしょ?」

「別にいいけど……僕なんかと一緒に帰ってどうするのさ。友達は?」

 隼人は感傷を断ち切り、階段を登り出しながらまどかにそう尋ねた。まどかは隼人と一緒に階段を登りながら答えてくれた。

「友達はねえ、部活やってたり、そもそも家の方角が全然違ったりで合わないの」

「それなら山本さんも部活とかやればいいのに」

「中学のときは水泳部だったんだけどねえ」

 まどかは空を見て、人差し指を唇に当てた。隼人はそんなまどかの横顔を横目で見ながら何気なく尋ねた。

「どうして水泳部に入らなかったの?」

 まどかはすぐには答えなかった。鼻白んだような顔をして、それから目を伏せ、ついで隼人に顔を振り向け、歩道橋の階段を登りきったところでやっと口を開いた。

「胸が育ちすぎてやりにくくなったからやめたの」

「そ、そうですか……」

 隼人はそれきり、なにも云えなくなってしまった。まどかは気にした様子もなく歩道橋を渡っていく。隼人もそれを追いかけた。歩道橋の半ばほどまで来たとき、まどかが隼人に声をかけてきた。

「如月君は? スポーツとかしないの?」

「いや、運動は苦手で……」

「ああ、体、細いもんね」

 まどかが隼人を振り返って笑う。まったく自分は、下手な女子より腕の細い、ちっぽけな少年であった。隼人はそのことに初めて羞恥を感じた。木村剛弘の、あの大柄な逞しい肉体と、男のくせにほっそりとした我が身を引き比べて、みじめな思いが溢れてきた。

「山本さんはやっぱり、運動とか出来る人の方が好き、なの?」

「ううん、別に。それより食事だね。朝からがっつり食べてくれる人の方が好き」

 そこで言葉を切ったまどかは、隼人を振り返って可愛らしく小首を傾げた。

「如月君は? ご飯たくさん食べる方?」

「いや、あんまり」

 隼人が正直にそう答えると、まどかは「そっか、残念」と云ってまた笑った。


 今日はもう、逃げるわけにはいかない。隼人は勇を鼓してまどかと同じ列車に乗った。車内はそれなりに混んでいたが、七人掛の長椅子の隅が一席分だけ空いていた。

「ここ座りなよ」

 隼人はまどかにそう席を勧めて、自分はまどかのすぐ傍に立った。

「ありがと」

 まどかが隼人を見上げて笑う。ひとまず端緒は上手くいったと、隼人は密かに胸をなで下ろした。しかし二人がよく話していられたのは最初の数分だけのことで、だんだんと沈黙が長引くようになった。いったい、沈黙ほど気まずいものはない。しかしまどかが降りる駅まであと二十分はある。隼人の降りる駅は、まどかの降りる駅の一駅向こうだから、途中下車するわけにはゆかない。また逃げたと思われるだろう。やがて沈黙が沈黙を支えきれなくなったところで、もう間が持たないと感じた隼人は、苦し紛れに問うてみた。

「今日のお昼さ、木村君と一緒にいたよね?」

「え? ああ、うん。そうだね」

 まどかは意外そうに目を瞠ったものの、すぐに微笑んで肯んじた。

「今日は久しぶりにたけちゃんとお昼ご飯食べてきたんだよ。学食で」

「うん」

「それでほら、昨日の武田君とのことがあったじゃない? その話になって、『おまえ結構告白とかされるのか?』とか訊いてくるから『されるよ』って答えたらなんかむすっとしちゃって、私訊いてみたの。『たけちゃんは私に告白したいと思ったことある?』って」

 隼人は心臓が縮み上がるのを感じながら、表向きはまどかに笑いかけて尋ねた。

「それで、どうなったの?」

「『考えたこともねえ』だって。なんかむかっとして、ちょっと喧嘩になっちゃった。それだけ」

 そこで言葉を切ったまどかは、表情を淡く陰らせて悲しそうに微笑んだ。

「というわけで、私はふられたのかもしれません」

 隼人はまどかを慰めたい気持ちもあったが、それ以上にそれを指摘せずにはおれなかった。寂しげに、自分こそが泣きそうな目をして、ぽつりと云う。

「やっぱり木村君のこと好きなんだね。昨日は冗談とか云ってたのに」

「うん、ごめん。嘘ついちゃった。やっぱり嘘はいけないよね。正直じゃないと」

「そう……だよね」

 隼人はもちろん胸が痛かった。けれど昨日はお互いに嘘ばかりだったのが、今日は本音で話せたのだ。隼人はそれだけを慰めに窓の外の流れる景色へと視線をあてた。まどかはもう黙ってしまっている。電車はなにごともなく乗客を運んでいて、一駅ごとに乗客を入れ替えながら、隼人たちの住む街へと向かっている。

 隼人は、自分も本当はまどかが好きなのだと、気持ちをぶつけたい衝動に駆られた。だが今のまどかにそれをするのは無神経にも思われた。それに今はもう恋愛どころではない。自分は途轍もない厄介事を抱えているのだ。

 ――でも、せめてなにか、できることはないんだろうか。

 そう思い詰めた隼人の頭に、このとき一つの記憶が蘇った。

「そうだ」

 隼人は制服のポケットから銀紙に包まれた一個のチョコレートを取り出した。昼休みに上杉がくれたものだ。あとで食べようと思ってそのまま忘れていた。

「これ」

 隼人はそう云いながら、指尖ゆびさきに摘んだそれをまどかに差し出した。まどかは目を丸くしながら、両手でお椀を作って、その小さなチョコレートを受け取った。

「あげる」

 まどかはチョコレートと隼人を交互に見やったあと、突然花の咲くように笑った。

「ありがとっ」

 まどかは銀紙を開けるとチョコレートを口のなかに抛り込み、口を動かしながらあらぬ方を見た。その目に涙が溜まっているのに隼人は気づいたが、なにも云わなかった。


 やがて電車はまどかの降りる駅までやってきた。事前に車掌のアナウンスがあると、まどかが鞄を片手に立ち上がる。隼人は後ろに下がってまどかを扉の方に通してやると、そこでまどかと向き合いながら話をした。そして電車が緩やかに停まり、扉が開く。

「じゃあね、如月君」

「うん、また明日」

 隼人が微笑みながら手を振る先で、まどかや、他の乗客が電車を降りていく。代わりに電車に乗り込んでくる客がいる。そうした客の入れ替えが終わっても、まどかは電車の前に立って隼人に眼差しを注いでいた。なにかを待っているような目だった。しかし隼人は勇気がなくて、時間が過ぎていくのに任せた。やがて発車のベルが鳴り、ドアがまた音を立てて閉まった。二人は嵌め殺しになっているドアのガラス越しに見つめ合っていたが、電車が動き出すとその視線の繋がりも断ち切られてしまった。隼人は名残惜しげにホームに立っているまどかの姿を見送ったが、それもあっという間に小さくなってしまった。

「あーあ」

 突然、ファムがそう声をあげた。隼人は屹然とした目を足元に注ぐ。

「人がたくさんいるところで喋るな」

 そう云ったところで、ファムが従わないのは隼人にも薄々わかっていた。そこで隼人は急ぎ足で車内を突っ切り、電車の連結部に入るとそこでファムと話をした。

 ファムは嘲弄の響きを帯びた声で尋ねてきた。

「なんであそこで一緒に降りなかった?」

「え?」

「あの娘は傷ついていた。押して押して慰めてやれば、ものにできたはずなのにさ」

 ものにできた。その意味を理解した隼人は、顔を真っ赧に燃やしながらおののいた。あのあと厚かましくもまどかについていって、下心に突き動かされながら表面だけは白々しく相手を慰めようというのか。

「やだよ、そんなの。人が傷ついてるところにつけ込むなんて……ずるいじゃないか」

「ふん。女心のわからん奴め。まあいいさ、あたしが一肌脱いでやる」

「なんだって?」

 目を丸くした隼人を尻目に、ファムは隼人の足元から這い出てきたかと思うと、連結部の蛇腹をすり抜けて走行中の列車の外へ身を投げた。

 呆気に取られたのも束の間、隼人は連結部から出ると急いでドアのところまで行き、ガラスに貼り付いて目を凝らした。その瞬間を待ち構えていたように、ファムがドアの向こうに現れた。走行中の列車にどうやって貼り付いているのか、ともかくファムは人目も憚らず、ガラスに顔を突っ込んで隼人に話しかけてきた。

「ちょいと出かけてくるよ。晩には帰るから良い子にして待ってな」

「な、なにをする気だ?」

 隼人の心はざわめき始めた。今の今までまどかのことを話していて、一肌脱いでやると云った直後にこれである。厭な予感しかしない。

「山本さんになにかするつもりか?」

 身を焦がされるように問いかけた隼人を、ファムは嗤って、切り口上で囁いた。

「秘密」

「ふざけるな、やめろ!」

 隼人はファムに掴みかかろうとして、その手でドアのガラスを叩いた。ドアの向こうに顔を引っ込めたファムがドア越しになにかを云う。もちろん隼人には聞こえなかった。そして次の瞬間、ファムの体は風に吹き飛ばされたかのように隼人の視界から消えた。


        ◇


 夕焼け小焼けの家路を辿っていたまどかは、夕日に背を向けて、人気のない住宅街の道を一人とぼとぼと歩いていた。先をゆく影法師は細く長く伸びている。誰にとってもそうであるように、影はまどかの忠実な友人だった。それが突然、裏切った。

「えっ?」

 影は急激にそのかたちを変えたかと思うと、ひとりでに地面から離れて起き上がったのだ。あまりといえばあまりの光景に、まどかはその場に立ち竦んでしまった。影は屹立して一人の女性の姿に彫り起こされていく。銀髪の腰まである、背の高い女だ。竜の翼が生えていて、青い肌をしており、黒革のきわどい衣服を身に着けている。まるで女悪魔だった。

 ――なにこれ? 夢?

 まどかがそう自分の正気を疑ったとき、女悪魔が嗤った。

「さあ、さっさと済ませようか。まだあんたの他にも三人ほど回らなくちゃならないんでね」

「え?」

 目を丸くするばかりのまどかに、女悪魔が一息に迫ってきた。黒い影がまどかを覆う。


        ◇


 同時刻。

 隼人はまどかが降りたはずの駅舎から飛び出したところだった。ファムのことはあの車両でちょっとした騒ぎになったが、隼人はそれを無視して次の駅で降りると、そこで反対方向に向かう電車に飛び乗り、ここまでとんぼ返りしてきたのである。

 しかしながら隼人には、まどかがどこへ向かったかなど見当もつかなかった。まどかの住所も電話番号も知らない。そして何十万人という人間の住んでいる街で、人一人を闇雲に見つけ出すなどできるわけがなかった。

 今日という日が落ちていく。西の空はもう茜色に輝いていた。今ごろはファムがまどかになにか悪さをしているかもしれぬ。

 ――諦めるな。考えろ、考えろ、なにか手があるはずだ。

 隼人はそう自分を鼓舞し、それから一つの可能性に思い当たった。

「そうだ!」

 隼人は顔を輝かして鞄のなかから携帯電話を手に取った。隼人の学校では、携帯電話の持ち込み自体は許可されている。校内で電源を入れさえしなければよい。隼人は急いで電源を入れると、一人の友人の番号を呼び出した。

「繋がってくれよ……!」

 隼人のその祈りが天に通じたか、コール二回で電話は繋がった。

「はい、如月君?」

「あ、上杉君?」

 隼人は上擦った声でそう呼びかけた。

「あの、あのさ、山本さんの電話番号知らない?」

「藪から棒になに?」

「山本さんの、電話番号が知りたいんだ!」

「……なんで俺が知ってると思ったの?」

「いや、なんとなく、上杉君ならクラスの可愛い子の電話番号くらい全部把握してそうなイメージがあって」

 隼人が正直にそう述べると、電話の向こうで含み笑いが起こった。

「電話番号なあ。でも俺、孔雀院さんとゆらちゃんと一条の番号は知らないんだよ」

「てことは?」

「山本の番号なら、女友達から教えてもらって知ってるよ。ちょっと待ってろ。調べて折り返しかけるから」

「う、うん。待ってる」

 隼人は安堵しながら一度電話を切り、道の隅に移動し、ビルの壁にもたれてメモの用意をしながら待った。二分ほどして、また上杉から電話がかかってきた。

「いいか、云うぞ?」

「うん」

「〇九〇――」

 こうしてまどかの電話番号を得た隼人は、上杉に礼を云って電話を切ると、間髪を容れずにまどかに電話をかけた。電話はすぐに繋がり、まどかののどかな声が聞こえてきた。

「はあい」

 隼人はひとまずまどかが無事であることに安堵し、ビルの壁にもたれていたのがずり落ちて座り込んだ。

「あの、山本さん? 急に電話してごめんなさい、如月ですけど」

「ああ、如月君?」

 まどかの声が急に華やぎ、輝き出したように思った。隼人はその思いがけない歓迎に戸惑いながら、嬉しくなりながら、まずは早口で確かめた。

「あの、そっちにファムって奴が行かなかった? 青い肌をした、竜の翼のある、悪魔みたいなやつ。っていうか、実際悪魔なんだけど」

「悪魔?」

 まどかはいっそ子供のような口ぶりで鸚鵡返しに呟いた。あどけなく小首を傾げるまどかの姿までが目に浮かぶようだった。

「ふふふっ、なにそれ? 悪魔って、どういうこと?」

「いや、わからないならいいんだ」

 まどかの様子には変わったところはない。してみるとファムはまどかには接触しなかったのだろうか。すべては自分の杞憂、早合点であったのか。

「……もし、変な女が君の前にあらわれたら、相手をしないで逃げて。誰かに助けを求めるんだ」

「うんっ。それより如月君、私のこと好き?」

「はあっ?」

 思いがけない話題の転換に隼人はその場でそっくり返り、もたれていたビルの壁で頭を打った。はずみで上の歯と下の歯がぶつかり、目の醒めるような思いをしながら、隼人はまどかに聞き返した。

「えっ……と、ごめん、もう一回云ってくれる?」

「うふふっ、如月君は私のこと好き?」

 急に街の喧騒が遠のいた気がした。ビルの壁際に座り込んで携帯電話を使っている自分は、傍目にはだらしのない高校生に見えるだろう。そんな隼人の目の前を、無数の人が無言で、あるいは連れ合いと喋りながら行き交っている。どの人の顔も同じに見えた。だがもしこうした人波のなかにまどかがいたら、自分はきっと一目で見分けられるだろう。

「うん、好きだよ」

 すると電話口の向こうで、花の咲くようなはしゃぎ声がした。

「嬉しい。私も君のこと好きだよ!」

 隼人は絶句してしまった。

 ――嘘だ。そんなはずはない。君は木村君のことが好きだったはずなんだ。そもそもどうして急に、こんな話になってるんだっけ?

 隼人はそうした戸惑いに絡め取られながら、やがてある一つの答えを得た。

「ああ、そうか。好きって、友達として好きってことだよ、ね?」

 それは確かに口に出されたのだが、緊張と動揺のあまり上手く声にはならなかった。

「え? なに?」

 まどかがそう聞き返してくるので、隼人は急いで「なんでもない!」と強く答えた。

「そっか……うん、それじゃあ切るね。どうして悪魔なのかはよくわからなかったけど、とにかく心配してくれてありがとう」

「うん」

「それじゃあ、また明日ね。隼人くん!」

 そう下の名前を呼ばれて、隼人は痺れたように動けなくなってしまった。まどかはまどかで、隼人の名を呼んだことを恥じらうように急いで電話を切った。隼人は通話の終了した携帯電話を片手にしばらく茫然としていた。茜色の夕日が、見知らぬ隣町の景色を金と黒とに塗り分けていく。

 ――私も君のこと好きだよ!

 その言葉が今も胸のなかで反響を繰り返していた。愛の鐘が鳴らされているようだ。だが隼人は浮かれまいとした。あれはきっと友情のしるしとしての好きなのだ。恋愛感情は含んでいないに違いない。

「だっていったいこの僕のどこに、女の子に好かれるところがあるんだろう?」

 隼人はそう自分を嘲ると、携帯電話を制服のポケットにしまって歩き出した。


 電車からバスに乗り換え、自宅近くのバス停で降りたとき、ファムが戻ってきた。日はもうほとんど沈んでおり、西の空に幽かに燃え残っているのみである。ファムは宵闇の空から舞い降りたかと思うと、街灯によって生じた隼人の影に潜り込んだ。

 隼人はその大胆さに愕きながらも、影のなかのファム・ファタールに尖った声をあてた。

「おい、どこでなにをしてたんだ?」

「あたしの行動をおまえに逐一報告する義務があるのかい?」

「いいから云え。山本さんに、なにかしてないだろうな?」

「それは明日のお楽しみってやつさ」

 ファムはそれきり、もうなにも話す気がないようだった。隼人は焦慮に駆られながらも、仕方なしに家路を辿った。

 自宅の前までやってきた隼人は、家の前に見慣れぬ車がまっているのに気づいた。ただの駐車車両かもしれない。が、このときの隼人は思わず立ち止まって遠目から仔細を窺った。なぜといって、人が訪ねてくる心当たりがあったからだ。

 ――警察。

 隼人の脳裏を真っ先に過ぎったのはそれであった。

「おい、どうした?」

 ファムが足元からそう声をかけてきた。

「なんでもない」

 隼人はどことなく青ざめた顔でそう答えると、勇を鼓して歩き出した。もしも警察が家を訪ねてきたとして、すべてを打ち明けたら、自分をこの悪魔から救ってくれるだろうか? きっと無理であろうと、半ば諦めながら、しかし半ば夢見ながら、隼人は自分の家の前までやってきた。

 車のなかには二人の男の姿があった。いずれも背広姿で、一人は腕時計を確認していた。隼人は彼らを意識しないようにしながら家の格子門を開けようとしたが、それと気づいて男二人が車から次々に降りてきた。隼人は思わず身構えた。

 二人の男のうち、年嵩の方が錆を含んだ声で話しかけてきた。

「如月さんのお子さんですか?」

「え?」

 警察手帳を見せられるのではないかと思っていた隼人としては、いささか拍子抜けした。と、今度は若い方が口を開いた。

「お父さんの会社の同僚の者だけど、実はお父さんが無断缺勤されていてね、一応様子を見にきたんだ」

「ああ……」

 警察ではなく父の会社の人間であったか。隼人はそう得心こそいったものの、どう切り抜けるか悩んだ。そんな隼人にまた年嵩の男が話しかけてくる。

「携帯電話も繋がらない。インターホンを鳴らしても反応がない。奥さんの姿も見えない。それでちょっと困っていたんだが、お父さんはどうしてる?」

「いや、僕は……」

 知りません、と答えようとしたのに先駆けて、隼人の影が歪んで伸びたかと思うと、ファム・ファタールが姿をあらわした。二人の男はもちろん、隼人もファムが衆目の前に堂々と姿を現したことに呆気に取られてしまった。

「えっ?」

 そんな反応を呈した若い男と、それから年配の男に、ファムはそれぞれ左右の人差し指を突きつけて居丈高に云った。

「如月などという同僚はいなかった」

 その声とともに、二人の男の目が合わなくなるのを隼人は見た。そうして虚ろな口を開けた精神のうろを、ファムはここぞとばかりに自分の言葉で埋め立てていく。

「如月なんて男は最初からいなかったんだ。なにも気にせず、自分の仕事に戻るがいい。さあ、行け」

 男たちは頷くと、覚束ない足取りで車に乗り込み、エンジンをかけて走り去っていった。隼人は遠ざかっていく赤いテールランプを茫然と見送った。宵の口の涼しい風が吹き、隼人はようやく我に返ってファムを仰ぎ見た。

「いったい、なにをしたんだ……?」

「いい子いい子してやっただけさ」

 ファムはそうせせら笑うと、格子門を飛び越えて家の前庭に入った。隼人はそれを追いかけ、玄関の扉の前でファムを捕まえてまた訊いた。

「説明しろよ」

 するとファムは面倒くさそうに隼人を振り返り、銀色の前髪を掻き上げた。

「なんていうのかね、ほら、あるだろ? 催眠術とか、暗示とか、そういう類のやつが」

「ああ」

 隼人は開眉して頷いた。隼人だって、テレビ番組で催眠術を取り上げたものくらいたことはある。が、隼人はそれを頭から信じていなかった。あんなものは俗に云うところのやらせであると一刀両断していた。しかし今ファムがやったのは違う。本物だ。そう思って、隼人は思わず固唾を呑んだ。

「そんなこと、できるの?」

「できる。もっとも今の男たちにかけたのは、ほんのお遊びみたいなもんさ。少し経てば我に返る。だが記憶は曖昧で、どうして自分たちはここにいるんだろう、って思うだろうね。だからまた明日来るかもしれないよ」

 ファムはそこで言葉を切って腕組みすると、玄関の扉にもたれて嗤った。

「あんまりしつこかったら、脳を壊すからね」

「こ、壊す?」

 その穏やかでない単語に隼人はびくついた。脳を壊すとはどういうことか? ファムは問わず語りに話してくれた。

「さっきのは暗示といっても軽く頭を撫でてやったようなもんさ。だが時間が経っても絶対に解けない、永続的な暗示をかけることもできる。あたしはそれを、脳を壊すと表現してる。面倒事を手っ取り早く片付けるにはこれが一番だ」

「いや、それって大丈夫なの?」

 脳を壊す、という表現が隼人には気に懸かった。ただの喩えならばよいが、それが文字通りのことだとしたら大事だ。果たせるかな、ファムは嗤笑とともに首肯うなずいた。

「ああ、もちろん。ちょっと頭がおかしくなるくらいで、即死はしないよ」

「いや、頭がおかしくなるって……全然大丈夫じゃないだろ、それ」

 隼人は途方に暮れたようにそううったえたが、ファムはもう取り合ってはくれなかった。


        ◇


 翌朝、七時前に目の醒めた隼人は、少し具合の悪いことを感じて体温計で熱を測った。だが体温は平熱で、つまりはただ精神的な疲労を感じているに過ぎなかった。

 ――これからどうなるんだろう。父さんと母さんのこと、いつまで隠し通せるんだろうか。今日もまた父さんの会社の人、来るだろうな。親戚とかも、いずれ……。

 隼人はくうへ向かってそう問いかけながら、機械のように食事をし、登校準備を調えた。そんな隼人を、ファムが監視するように見つめている。

「さあ、準備ができたら学校へ行こうじゃないか」

 自室の姿見の前でネクタイを締めた隼人に、ファムがそう声をかけてきた。

 隼人は已むを得ず頷き、鞄を片手に家を出た。今日もよく晴れていた。玄関の扉に鍵を掛け、ファムが自分の影のなかへ潜り込むのを確認すると、隼人は狭い前庭を通り抜けた。ところが家の前の道に出たところで、突然傍らから銀鈴を転がしたような声がした。

「隼人様!」

 ――隼人、さま?

 様付けされたことに軽く驚きながら、隼人は声のした方に顔を振り向けた。そして僻目かと思った。

「孔雀院さん!」

 思わず大声をあげしまったのもむべなるかな、黒塗りのロールス・ロイスを従えて立っているのは、あの孔雀院輝子であった。背中まで伸ばした波打つ黒髪といい、輝くような美貌といい、張りのある乳房といい、少し太めの脚といい、見れば見るほど見間違いようがない。隼人の通っている学校でも名の通った、天下無双のお嬢様である。

「え? え? なんでここに?」

「ご一緒に登校しようと思って……迷惑でしたかしら?」

 輝子はそう云いながら肩越しに振り返った。体格のいい壮年の男が、ロールス・ロイスのドアを開けてこちらに視線をあてている。

「あれは黒岩といって、この車の運転手よ」

「はあ……そういえばいつもリムジンで登校してましたよね」

 車はロールス・ロイスの大型高級車だ。上杉がいつだったかこの車を指して『あれはファントムだ』と云っていたのを隼人は憶えていた。つまりそういう名前の車なのだろう。

 隼人はリムジンやその運転手から輝子に視線を戻し、小首を傾げて問うた。

「でも、なんで僕を?」

「だって私たちは恋人同士じゃない」

「こ、恋人?」

 隼人は今度こそ愕然とした。それこそ心臓が口から飛び出すのではないかと思った。しかし輝子は目を弓のように細めて、艶然とわらった。

「そう、恋人。つまりは婚約者。あなたは私の旦那様」

 輝子はそう云いながら隼人の傍らに寄り添い、自分から腕を組んできた。隼人はなぜか冷たい蛇に巻き付かれたような恐怖を感じたが、さりとてどうにもならなかった。

「さあ、行きましょう」

 輝子は半ば無理やり、隼人を車のなかへと連れ込んだ。


 ――なにがどうしてこうなっているのかわからない。

 隼人は輝子がしきりに話しかけてくるのを右から左に聞き流しながら、状況の整理と把握に努めていた。つまりは学校に行こうとしたところ、突然輝子が現れたかと思うと自分たちは恋人同士だなどと云い張って、一緒の車で学校に向かっている。ありえぬことだった。隼人は輝子のお喋りに一段落がついたところを見澄まして訊いてみた。

「ねえ、孔雀院さん」

 すると輝子は面白くなさそうに唇を尖らせた。

「輝子」

 訂正を迫られていることは、隼人にもよくわかった。

「て、輝子さん」

 すると輝子はそれこそ花の咲くように笑った。その美しさに見とれかけた隼人は、慌てて本筋を手繰り寄せると云った。

「あのさ、僕ら、いつから付き合ってるんだっけ?」

「ふふふ。そんなの前世からに決まってるじゃない」

「ぜ、前世?」

「そう、私たちは宿命の赤い糸で結ばれているのよ。うふっ。うふふふ。あはあははっ」

 突然、輝子は壊れたようにわらい始めた。気狂いめいた哄笑が車内に満ちていく。隼人は背筋にうそ寒いものを感じたが狭い車内で逃げ場があるはずもなく、輝子の笑い声が一秒でも早くむのを心待ちにしながら息を潜めた。

 果たして輝子はわらうのをぴたりと止めると、愛情に満ちた目を隼人の顔に据えた。

「はやとさま」

「は……い……」

 嗄れた声で返事をした隼人の前で、輝子はシートベルトを外した。かと思うと隼人に飛び掛かってきて、その体を強く掻き抱いた。輝子はあきらかに欲情していた。

「いやっ、ちょっと……!」

 自分の体に押しつけられる女の肉の柔らかさ、香り高さに引き込まれなかったかといえば嘘になるが、それでも隼人はこの不可解な好意の示し方に戸惑い、輝子を押し返そうとした。が、輝子は委細構わず隼人を貪ろうとしていた。このとき彼女は男を喰らう肉食の牝獣だった。

 隼人がライオンに捕えられた鹿のように慌てふためいたそのとき、車が路肩に寄せたかと思うとハザードランプを点滅させて停車した。運転手の黒岩が、前を向いたまま後部座席の輝子に声をかけてきた。

「お嬢様、運転中はシートベルトをお締め下さい」

 すると輝子はうるさげに黒岩を睨みつけた。

「黒岩。あなたいつから私に意見できるようになったの?」

「お嬢様の安全をお守りするよう、旦那様から仰せつかっておりますゆえ」

「あら、そう。じゃあしばらくこの場で車を停めていなさい。私は隼人様と愛し合うわ」

 輝子はそう云って隼人に視線を返した。その美しい瞳に、しかし隼人はもう恐怖しか感じなかった。隼人は急いでシートベルトを外すと、輝子と黒岩の二人に向けて叫んだ。

「あの、僕ここで降ります!」

 すると輝子が悲しそうに顔を引き歪めた。一方、黒岩はカーナビゲーションを指差しながらごく低い声で云う。

「まだ学校までは二キロほどございます」

「二キロくらい歩けますよ」

 隼人は息せき切って輝子を押しのけると、やっと車の外に出た。が、面を吹く秋風に解放感を感じたのも束の間、すぐに車から輝子が降りてきたのを見て愕然としてしまう。

「じゃあ私も隼人様と一緒に行くわ。黒岩は先に帰っていなさい」

「……畏まりました」

 ――えええ、なんでだよ! あんたは孔雀院さんを学校まで送っていくのが仕事じゃないのかよ!

 隼人はそう胸中で叫んだが、黒岩は本当に車を出してしまった。路肩に取り残された隼人は輝子に手を引かれて歩き出し、ガードレールの途切れたところで車道から歩道に移った。この道沿いにしばらく歩き、ある地点で角を折れた先に隼人たちの通っている学校がある。そこを目指して歩く自分の傍らに、自分を見上げて幸せそうに顔を輝かせている輝子の姿があるのだった。

 ――いったいなにが起こっているんだろうか?

 隼人は輝子の美しい顔を尻目に、虚空へ向かってそう問うていた。

 しかし、異変はここから更に加速していく。背後から鈴を鳴らす音がしたが早いか、自分たちを自転車が勢いよく追い抜いていった。かと思うとその自転車は急制動をかけて停車し、自転車に跨っていた長身の女がこちらを振り返った。それは栗色の髪を腰まで伸ばした、凄みのある美少女である。

「あ、一条さん。おはよう」

 隼人は挨拶をしながら、輝子と手を繋いでいることの云い訳を一所懸命に拵え始めた。しかしそんな必要はなかったのだ。一条奈緒美はその場に自転車を倒すと、泣きじゃくりながら隼人に駆け寄ってきた。

「隼人! 寂しかったよう!」

「はあっ?」

 目と口を丸くしたときには、隼人はもう奈緒美に力いっぱい抱きしめられていた。


 それから奈緒美は通学用の自転車をその場に残して隼人と腕を組んで歩き始めた。奈緒美は隼人の左腕を、輝子は隼人の右腕をそれぞれに抱きしめている。隼人は二人の美少女に挟まれて歩きながら、道行く人々の好奇の視線を浴びつつ、学校へ近づいていった。

 そのあいだ、隼人は奈緒美の話に耳を傾けていた。なんでも奈緒美にとって隼人はかけがえのない存在であり、会えないことが非常に寂しく、隼人に会うために急いで学校へ向かっていたのだという。そこで思いがけなく輝子と手を繋いで歩いている隼人を見つけて、現在に至るというわけだ。

 しかしそんな説明を受けても隼人にはさっぱりわけが解らなかった。

「いったいいつの間に、僕と一条さんは恋人同士になったの……?」

「さあ、もう忘れちまったよ」

 泣いたしるしにまだ目を赤くしている奈緒美は恥ずかしそうにわらうと、もう二度と離さぬというようによりきつく隼人の腕を抱きしめた。

 しかし隼人の胸では、驟雨を孕んだ黒雲が膨れあがっていた。

「おかしいぞ……」

 絶対におかしい。こんなことはありえない。そしてそんな異常事態を告げる者がまた一人現れたのである。もう学校まであと百メートルというとき、隼人は前へ進もうとする自分を後ろに引っ張る力を感じて足を止めた。振り返ると、黒髪をおかっぱにした小柄な少女が自分の制服の裾を摘んでいるではないか。その手は痛々しいほどに骨細で、隼人はこの少女を知っていた。

「鳥居さん」

 そう、鳥居ゆらである。それが自分を引き止めたらしいのだ。驚いた隼人が手をつかねていると、ちょっと目に角を立てた奈緒美が小腰を屈めてゆらの顔を覗き込んだ。

「なんだよ、鳥居」

 ゆらはびくりと震えたあと、涙を溜めた目で隼人を見つめてきた。桜色をしたその薄い唇がゆっくりとほころび、皓歯の光りが漏れてくる。

「あの……」

「はい?」

 小さな声だったので、隼人は両腕を輝子と奈緒美に絡め取られながらも、ゆらの方へ身を乗り出した。その瞬間にゆらは、彼女にしては大きな声で云った。

「好き」

「えっ?」

 隼人が目を丸くしたところへ、ゆらが飛び込んできた。彼女は他にどうしたらいいのかわからぬというように、隼人の体をひしと固く抱きしめている。左右からは奈緒美と輝子がゆらに張り合うようにして互いの乳房を押しつけてきた。そして口々に囀るのだ。あなたが好き、と。

「ちょ、っと……」

 隼人は懸命に身を捻って女たちを振り解き、女体風呂に浸かっているような状態からなんとか脱出した。そのときふと周囲の視線に気づいた。

 もう学校に近いからだろう、登校途中の生徒たちがこちらを信じがたそうに見ている。なかには同じ教室の生徒の姿もあった。

「え? なにあれ?」「どういうこと?」「なんで孔雀院さんがあんな奴と……」

 そうしたざわめきのなか、隼人は針の筵に置かれているような気がしてこの場から逃げ出したくなった。しかしすぐに右腕を輝子に掴まれてしまう。

「隼人様、ひどい」

「一人にしないでおくれよ、隼人」と奈緒美。

 ゆらもまた隼人の制服の裾をちんまりと握り締めている。

 そうした三人の美少女を引き連れて、隼人はどうにかこうにか学校までやってきた。学校に近づくにつれてこちらに向けられる視線の数は増していったが、隼人は努めて気にしないようにしていた。しかしこのとき、隼人がどうしても無視できぬ人の眼差しが加わった。

「山本さん!」

 校門から昇降口へ続くまっすぐな道の両側には桜の樹が植えてある。もう十月だが、まだ緑の葉叢はむらを持ち堪えているその桜の樹の一本に、まどかがもたれて立っていた。彼女の瞳はまっすぐ隼人に据えられていたのだ。隼人は慌てて三人を振り解いた。

「いや、違うんだ。これは――」

 隼人がそう云い訳を始めたとき、まどかが出し抜けに微笑んだ。その笑顔の美しさに見とれていると、まどかがこちらへ弾むような足取りで歩いてくるではないか。

「山本さん」

 隼人が緊張を含んだ声でそう呟いたとき、隼人の目の前に立ったまどかはにこりとわらい、そして隼人に接吻キスをした。

 時間が止まる。隼人のみならず、それを目撃していたすべての人の時間が止まった。やがて顔を上げたまどかは、あまりといえばあまりのことに茫然としている隼人に輝くような笑顔を向けた。

「えへっ、キスしちゃった」

 その言葉とともに止まっていた時間が動き出し、辺りはたちまち騒然となった。


 それから先はまさに混沌だった。まどかの行為に悋気を起こしたらしい輝子たちが、我も我もと隼人に口づけてくる。それを目撃した生徒たちは一斉に騒ぎ出し、結果として隼人たちは生徒指導室に連行された。そこでまどかたちが云うには、自分たちは隼人のことが好きなのでそれを行為にあらわしたまでと全然悪びれもしない。

 呆れ顔になった生活指導教師は、ほどほどにしておくようにと云い含めて五人を解放した。そのときにはもう一時間目の授業が始まっていた。

「遅れました」

 一行の先頭に立っていた隼人がそう云いながら教室の扉を開けると、なかの生徒たちの視線が一斉に突き刺さってきた。恐らくみんな噂は聞いているのだろう。しかしまだ半信半疑といった様子だった。だが時計の針が進むにつれて彼らは確信することになる。如月隼人が山本まどかと一条奈緒美と鳥居ゆらと孔雀院輝子をたらしこんだということを。


 放課後、隼人はホームルームが終わるや一目散に教室を逃げ出した。

「あ! 待って、隼人くん!」

 まどかがそう声をかけてきたが、隼人はもちろん待たなかった。急いで昇降口で靴を履き替えると、薄暗く人気のない体育館裏に駆け込んで、誰も自分のことを追いかけて来ないのを確認するとひとまず安堵した。

「よし」

 今日一日中、四人の女に纏い付かれていてその機会がなかったが、これでようやく彼女と話ができる。隼人は据わった目を自分の足元に注いだ。

「出て来い、ファム」

「ふふふっ」

 ファム・ファタールは嬉しげに隼人の足元から這い出してくると、竜の翼を大きくひろげて胸の前で腕を組み、居丈高に隼人を見下ろした。

「今日は楽しかったかい?」

「ふざけんな! やっぱりおまえの仕業か!」

 四人の美少女が一日で隼人に首ったけになる。こんなことは、尋常に考えればありえぬことであった。つまり尋常でないことが行われたと考えるべきだろう。

 果たしてファムはふたたび虚空からあの緑色をした一冊の本を取り出した。表紙には可愛い女の子の絵が描かれている。ファムはその本を開くと読み上げ始めた。

「このライトノベルの概念書にはこうある。ライトノベルの主人公はもてる。複数の美少女に惚れられ、ハーレム状態になる、ってね」

 そこで言葉を切ったファムは、本を片手に悪意の満ちた笑みを浮かべた。

「昨日、おまえの父親の同僚が訪ねてきたとき、あたしがどう対処したか憶えているか?」

たしか、暗示をかけたって……」

 そう記憶を掘り起こしながら呟いた隼人は、そこで愕然とした。

「まさか、それと同じことを山本さんたちにもやったのか?」

「そうだよ。手頃な美少女といえばあの四人だったからね。昨日の夕方、山本まどかを皮切りに四人を回って、おまえを好きになるように、脳を壊しておいたのさ」

「脳を、壊した……?」

 その不吉な物云いに隼人は背筋を凍りつかせた。

 そう、そうだ。ファムは昨日、父の同僚を追い払ったときにこう云っていたではないか。

 ――さっきのは暗示といっても軽く頭を撫でてやったようなもんさ。だが時間が経っても絶対に解けない、永続的な暗示をかけることもできる。あたしはそれを、脳を壊すと表現してる。

 つまりファムはそれをまどかたちに仕掛けたのだ。まどかはやはり、昨日の夕方、ファムに襲われていた。隼人が電話をかけたときになんでもない様子だったのは、既に脳を壊されたあとだったからなのだ!

「おまえそれ、たしか頭がおかしくなるって……」

「ああ。実際、あの女どもはもう既に情緒不安定になっていただろう?」

 確かにその通りだった。特に奈緒美が顕著で、彼女は隼人がつれない態度を取るとすぐに落涙するのだ。

 あまりのことに絶句している隼人を、ファムは鼻先でせせら笑った。

「おまえはあたしに豚の餌をこねてくれと願った」

「豚の餌って……」

「願ったんだよ。だから腕によりをかけてこねてやったのさ。どうだい、嬉しいだろう? 遠慮せず、たんと召し上がっておくれよ。おまえが喜んでくれれば、あたしも骨を折った甲斐があったさ」

 隼人は全身をぶるりと震わせた。それは頭の芯から来る、憤りの震えだった。

「ふざけるな。そんなこと、許されるわけないだろ。人の心を無理やりねじげて――」

「そんな倫理観は捨ててしまえよ」

 ファムは冷たい目をして隼人の言葉を遮ると、嘲弄の色を泛べて続けた。

「あの四人はもうおまえのものだ。だからそんな倫理観は捨てて、今のうちに愉しんでおくことだね。だっておまえは、あと少ししか生きられないんだから」

「え?」

 隼人は時間の歯車が軋みをあげて止まったような気がした。それほど愕いた。

 ――あと少ししか生きられない?

「な、なんで?」

「なんでだって? そんなの決まってるじゃないか」

 ファムは鼻先でせせら笑いながら、手にしていたライトノベルの概念書をまた開いて読み上げ始めた。

「ライトノベルの主人公ってのはね、十代、それも中高生でないと駄目らしいんだよ。クソ下らないが、それがラノベの掟なんだとさ。だから――」

 ファムは本を閉じてそれを魔法のように消すと、黒い爪の光る人差し指で隼人を指差し、嗤った。

「高校を卒業するのと同時に、あたしがおまえを殺す! そして魂をいただきだ!」

 隼人の頭に雷が落ちた。こんな結末は予想していなかった。目の前で父母を殺されていながら、自分もまた同じように殺されるのだとは思っていなかった。

「そんなの、ありかよ……」

「ありなんだよ。少年じゃなくなったらラノベの主人公としてはお払い箱なんだ。だったらそれまではやりたい放題やらせてやるから、おまえが高校を卒業した時点で満願成就ってことにしようじゃないか。で、あたしは貰うものを貰うってわけさ」

 そこで言葉を切ったファムは、蛇の眼差しをした。

「まさか、あたしから逃げられるとは思っちゃいまい?」

 そうだろう。きっと逃げられない。ファムがその気になったら自分など蝋燭の火を吹き消すがごとくに殺される。そう思い知って虚脱状態に陥った隼人にファムが忍び寄り、その耳朶に息を吹きかけながら囁いた。

「だから愉しめ、愉しめ。短い人生じゃないか。急いで愉しめ」

 そしてファムの姿は消えた。ふたたび隼人の影のなかへ潜り込んだのだ。

 この暗い体育館裏に一人になったと思ったそのとき、影を裂くような明るい声が飛び込んできた。

「隼人くん! こんなところにいた!」

「山本さん」

 声のした方に顔を振り向けた隼人は、そこにまどかの笑顔を見出して救われたような思いがした。いや、まどかだけではない。奈緒美も、ゆらも、輝子もいる。四人は一斉に隼人目指して駆けてきた。なかでも一番の健脚を見せて隼人に抱きついたのは奈緒美だった。

「ひどいじゃないか、隼人! 私を一人にするなんて!」

「う、うん。ごめん」

 気弱な笑みとともにそう謝罪した隼人に、輝子が、まどかが、ゆらが纏い付いてくる。

「さあ、一緒に帰りましょう」

「デート、デート」

 輝子とまどかがそう声をかけてくる一方、ゆらは無言であったが、愛情に満ちた眼差しを隼人に向けていた。

 偽りの愛、ねじげられた歪な好意であることは、隼人にもわかっていた。しかし。

 ――愉しめ、愉しめ。短い人生じゃないか。急いで愉しめ。

 ファム・ファタールの声が聞こえたそのとき、隼人はもういいやと思ってしまった。流されてしまえと思った。

「うん、じゃあ行こうか」

 隼人は女たちの手を取るとその場をあとにした。ファム・ファタールの笑い声が響く。

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