※5話 日付が変わる時、彼女は生まれ変わる。
土曜日の深夜。
24時ちょうど、うちの嫁さんは猫になる。
おとぎ話では、その際に着ていた服はどうなってしまうのか。そんな事情は大体省かれているが、うちの嫁さんは普通に脱げる。月曜に猫から戻る時も全裸だ。そういうわけで、基本的に日曜は家を出ない。
「だって、裸で外を出歩くなんて、恥ずかしいじゃないですか」
うちの嫁さんは、平日は一般社会で働いている。まっとうな勤め人だ。
インターネットの契約をはじめ、周辺機器を販売する、営業畑の人間だった。ハッキリ言って、旦那の俺よりも手堅い業種についている。
時計を見れば、夜の11:30。急ぎの仕事もないので、今日はもう寝ようかと、嫁さんに声をかけた。
「そうですね」
揃って二階の寝室に移り、布団を出して敷く。
「旦那さん、明かり、消してもらえます?」
「わかった」
布団を敷く間に、嫁さんは服を脱いだ。今夜が土曜日でなければ、そういう展開になるのもありえたが、今日は、明日に向けて素直に眠る。
「最近寒くなってきましたねぇ」
「うん。今年は結構、冷えるらしい」
なので、こちらも緊張はない。素直に床に入ると、服を脱いだ嫁さんも潜り込んでくる。両腕を伸ばして、こっちの背に抱き付いた。
「ぬくぬくです」
「猫になる前に、風邪ひかないようにな」
「はい。しっかり旦那さんに温めてもらいます」
「……ん」
そういうことを、可愛い声で言わない。状況が状況である以上、理由は説明するまでもない。やがて日付が変わるのと同時に、背中に回された柔肌の感触が、ふわふわしたものに変わっている。
「にゃあ」
こちらを向いても、いいですよ。
了解を得たのと同時に、ゆっくりと寝返りを打つ。仰向けになると、キラキラした瞳の黒猫が乗っかってくる。
「にゃ」
「ん、おやすみ」
両腕を静かに寄せて、ほんの少し身体を撫でた。
うちの嫁さんは、こうして日曜の間、猫に変わるのだ。
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