※6話 夫婦間の好みの不一致は埋まらない


 俺は、甘い食べ物が苦手だ。そして嫁さんは甘党だ。

 日曜は猫になってしまうので、土曜の夜には何かしら、甘いものを食べている。

「嫁さん、普段は結構なんでも食べるよな。味噌汁にネギなんかも入れてるし」

「はい。ニンゲンの時は身体の構造が変わるので、平気です」

「得だよなぁ。人間と猫の時で、それぞれ美味いもんが食えるんだから」

「うーん。けど逆に、猫の時に甘いのが食べたくなった時は、すごく、すごーく我慢してるんです。だから旦那さん、日曜日は美味しいものを食べちゃダメですよ?」

「俺は甘いの苦手だから、大丈夫だろ」

「そう言ってこの前、私が買っておいたコーヒーゼリー、食べましたよね……」

「だからアレは、悪かったって」

 根に持つ嫁さんである。こういうところは、正直ちょっと面倒くさい。


 俺は、甘い食べ物が苦手だ。そしてうちの実家は、ケーキ屋をやっている。

 店の定休日は月曜だ。嫁さんが日曜は猫になってしまうので、この点は都合が良かったりする。主に家族付き合い的な意味で。


「――こんちは、お届けものでぇす。ハンコお願いしやす。はい、どうもありやしたー」

 日曜の正午ちょうどに、宅配が来た。

 適当に認め印を押して荷物を受け取り、中身を確かめる。

「中身はプリンとシュークリームか。また甘そうなのを送ってきたなぁ……」

「にゃあ~?」

 玄関を閉めると、廊下から嫁さんが顔を覗かせた。

「ん、俺の実家からの荷物」

「にゃにゃあ!」

 言うなり、猫の嫁さんの目がキラーンと光る。飛びついてきた。

「にゃあ! うにゃあ~っ!」

「ええい、やめんかい! 今日はお預けタイムだろうがっ!」

 猫に甘いものを与えすぎてはいけない。


 うちの父親は昔から、甘い食べ物が苦手な俺と妹に対し「なんでお前らは、俺の子供として生まれてきたんだァ!?」と嘆くことが多かった。結構ひどいと思う。どちらがとは言わない。

 なので、甘党の嫁さんをすごく気に入っている。本人曰く「親として生きていて良かったァ!!」とのこと。結構ひどいと思う。

 ともあれそういうわけで、息子の俺が「余計な物は極力送ってくるなクソ親父が」と言ったところで、たまに冷凍の効く菓子を送ってくれるのだ。

「うにゃーっ!」

 そして訴える嫁さん。プリーズ、ギブミー、プリン。プリーズ! 必死か。

「ダメだ。月曜までガマンだ。乳製品は腹を壊すんだから」

「うにゃあ~ん!」

 足元にまとわりつく嫁さんを無視する。宅配物をさっさと冷蔵庫の中に閉まった。


 


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