※7話 とあるイラレの、仕事に対する向き合い方。

 日曜は頭が冴える。

 子供の頃から、ケーキ屋を営む両親が、家で働く姿を見てきた。休日は一日中、忙しそうにしていたせいか、俺の中にはなんとなく〝日曜は仕事をする日だ〟という認識がある。

 日曜はできる限り自分のペースを維持したい。朝七時ちょうどに目を覚まし、軽く顔をあらって着替えたら、朝食にホットケーキを二枚焼き、そのまま仕事部屋に直行する。

「よし、やるか」

 PCを起動し、机に座って絵を描き続ける。最近はデジタルがほとんどだ。正午までに一区切りをつけ、昼食もまたトースタを焼くだけで済ませる。飲み物はブラックコーヒーが欠かせない。

 日曜は、ほとんど新聞やニュースを見ない。ネットもできる限りやらない。最近はアプリゲームの誘惑に負けることもあったが、概ね携帯の電源は切っている。


 表札の側には『来客の方は、後日に改めて起こしください』と立て看板を置く。両親にも、日曜に荷物を送ってくる場合は、必ず正午にしてくれと伝えているぐらいだ。

 休憩が終わったら、またスイッチを切り替える。

 イヤホンで決まったローテーションの音楽を聞きながら、集中力が切れるまで、ぶっ通しでイラストを描き続ける。

 それが自分のペースだった。日曜だけは、絶対に家で仕事をすると決めていた。


 正直なところを言えば。この仕事を続ける限り、俺は生涯一人で生きていくのだと思っていた。日曜はむしろ、一人でないと耐えられないからだ。面倒な性格だという自覚はあるし、変えられないことも分かっていた。

 実際、外部とは必要最小限の交流のみを行って、後はひたすら絵を描き続けたし、そんな人生にも概ね満足していたが、ある時に小さな偶然が重なった。

 結婚なんてする気の無かった俺が、見合いの席に赴くことになったのだ。

「――わたし、日曜は猫になるんですよ。なにも出来ず、寝転がるだけの、ぐーたらです」

 嫁さんは、出会った当初から言った。俺もまた、遠慮のない言葉を返した。

「いいんじゃないですか。俺も日曜はあまり人と顔を合わせたくない。正直助かりますよ。日曜だけは、生活リズムを崩したくないですからね。他人に一切構わず、仕事をしていたいんだ」

「私も家で動かず、じーっとしてたいですねぇ」

 お互い、自分の意志ではなく、強制で連れてこられていた。早くこの場を切りあげて帰ろうと思っていたのだが、

「〝日曜日の過ごし方〟については、意見が合いますね」

「本当に。方向性は違うも、ピッタリですね」

 要は『日曜日は、俺と私のジャマをするな』ということだった。

「付き合ってみるのも一興ですか。貴女が本当に猫に化けるのなら、ですが」

「ふふふ」

 俺たちは、そういう二人だ。愛情とか、絆とか呼ばれるものは、後から遅れてやってきた。


 ……うん。まさかな。本当に猫になるとはな……。

 まぁ、でも今では結婚して良かったかなーって思ってるわけでして。



 ほんとだよ?



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