※3話 うちの嫁が「双剣乱舞」にハマってるんだが……。


 うちの嫁さんは、日曜は猫になっている。毛並はふさふさと黒く、瞳は夜でも輝く金色だ。

 嫁さんは、平日は営業職のOLとして働き、イラストレーターの俺は、ほぼ毎日家でイラストを描いている。それで、日曜は二人そろって家にいるわけだが、実際に顔を合わせることは少ない。

 俺が仕事場で絵を描いている間、嫁さんは廊下を挟んだ、扉の向こう側にいる。食事を行う居間の机に座布団をしいて、最近は主に〝PCをいじっている〟。


「……ふー。ちょっと休憩するかな」

 時計を見れば11時だ。昼食を取るには早かったが、絵がキリの良いところまで仕上がったので一度席を外した。隣の居間に続く扉を開いた。

「嫁さん、いる?」

「にゃあ」

 机の上にいた。二股の尾を持つ黒猫、妖怪「猫又」が、PCタブレットをぺちぺち弄っていた。猫の姿で、スマホのインタフェース、タップ操作を巧みに操るのが、うちの嫁さんの必殺技である。いや、べつに死人はでないけど。

「ちょっと早いんだけどさ。飯の準備しようと思うんだけど」

「にゃあ」

 嫁さんが頷いた。日曜以外は人の姿をしているので、何気ない所作もどこか人のものに近い。

「なにやってたの?」

 嫁さんのタブレットを覗く。和服を着た男が映っていた。

「あぁ。〝そうらぶ〟やってたのか」

「にゃあ」

 若い女性に人気のブラウザゲーム『双剣乱舞』。

 俺も職業柄、キャラクターのビジュアルには目がいく。ついでに嫁さんの好みと傾向もなんとなく窺っておくのだ。役に立つ日は、永遠に来ないと思うけどな。

「レベル、どんだけいったの」

「にゃあにゃあ」

「へー、結構上がったんじゃないか。なんか良いのでた?」

「にゃあ!」

 聞くと、無線USBで繋いだ専用のキーボードを、肉球で器用に叩いた。嫁さんの第二の必殺技『ニクキュウ・ザ・ブラインドタッチ』である。死人はでない。

 タブレットの画面に開いたメモ帳に、メッセージが表示される。


「ジジイが出ました!」


 誰だよ。ジジイって。

 画面を見れば、どう見ても「ホストじゃん?」と言いたくなるような、イケメンしか映ってないぞ。

「にゃあ! にゃあにゃあ!」

 でも格好いいでしょ。ジジイ。力説する嫁さん。そして最後に、

「あっ、でも、旦那さんのほうが好きです」

「……ありがと」

「にゃあ♪」

 うん、何故だろうな。

 素直に、喜べん。



 

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