※2話 アプリゲームが地味に生活サイクルを侵食してきた件。

※2


 最近人気のアプリゲーム『ぬこあつめ』。

 これといった目的はなく、家にやってくる〝ぬこ〟を眺めて楽しむだけだ。しかし、これが意外と楽しかった。

「あー、よっしゃ。新規分完了!」

 俺はフリーのイラストレーターをやっている。週末、特に日曜は、自宅の仕事場でほぼ一日、カンヅメ状態で絵を描き続けている。

 正午に1時間だけ、食事休憩を挟むのだが、その時間、スマホを片手に、つい『ぬこあつめ』を起動してしまう。

「……あー、今日はレアなぬこ、来てないか……」

 ぬこ可愛い。可愛いのだが、最近は図鑑もほぼコンプしてしまったので、残るレアものに、中々お目にかかれない。

「最初はどんな〝ぬこ〟でも嬉しかったんだけどなぁ……」

 若干、見飽きた感は出てきた。段々とゲームにハマっていく内に「またコイツかよ。煮干だけ食って帰りやがって」とか口に出してしまう様になっていた。

 すると、


「ねぇ旦那さん? なにかの当てつけですか? 

 私のこと、見飽きたって事ですか?」


 嫁さんの機嫌が悪くなってしまった。ゲームに登場する『ぬこまたさん』の様に、目が金色に光り、しばらく口をきいてくれなかった。ツナ缶も効果がない。

 正直、デリカシーが無かったと反省している。しかし『ぬこあつめ』がきっかけで、リアルに夫婦ケンカまで発展したのは、本物の〝猫又さん〟と結婚している、俺ぐらいではなかろうか。

「――なぁ、嫁さん」

 ともかくだ。嫁さんの機嫌が悪いと、俺も落ち着かない。

「明日、そっちの仕事が終わったら、海沿いの道を車で出かけないか?」

 二股のしっぽに、ピクリと反応があった。山沿いの田舎で育った嫁さんは、海を眺めるのが好きだった。ついでに魚も好きだ。主に食べる方で。

「外で美味い海鮮丼でも食べようよ。奢るから」

「……っ!」

 三角の耳がぴくぴく動く。俺は最後のカードを切ることにした。

「来週末、一泊二日の温泉旅行とか、どうっすかね」

「にゃあ!?」

 シャキーン。嫁さん復帰。光速でこっちを振り返り、膝の上に飛び乗ってくる。

「ごろごろ♪ にゃあにゃあ、にゃあ~」

「はいはい……後で人間に戻ったら、予約取っといてな」

「にゃあ~ん♪」

 現金である。ふさふさした毛並を撫でる。いつもは撫でさせてくれないのに。

(至福だなぁ)

 そう思いつつ、俺の頭は現実的な、出費額を浮かべていた。

「にゃ、にゃ、にゃ♪ にゃ、にゃ、にゃ~♪」

 歌う嫁。

 まぁ、一風変わった〝ぬこ〟は大勢いても、

 一番可愛いのは、うちの嫁さんだなと、思ったり、思わなかったり。

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