「日曜日の嫁さんの話」

秋雨あきら

気ままに、気長に生きる人達。

※1話 うちの嫁さんは、れっきとした妖怪「猫又」なのです。


 嫁さんとケンカした。

 うちの嫁さんは、日曜日は猫になる。今日は好物のツナ缶を食らわず、ずっと不機嫌そうにしている。朝から居間にある机に座って、ぴくりともしない。

 機嫌の悪い嫁さんには近づかないのが得策だ。下手に声をかけると「ふなああ!」と唸られて、噛みつかれたりする。

 そういう時は、放置が一番。これが正しい対処法だ。

「ちょうど昼か」

 俺は隣の部屋で、納品前のイラストの仕上げに取り掛かっていた。今回はブラウザゲームのキャラクターなので、一貫してデジタルソフトを用いている。PCでソフトを立ちあげ、細部を確認する。絵の一部が隠れすぎないよう、拡大と縮小を繰り返して調整する。

「よし。このままいけば、一時間で終わるか」

 どうせリテイクは入るのだ。適当に力を抜くべきところは抜く。時間は有限だ。データを上書き保存して、サムネを作ったところで、隣の襖が「すっ……」と開いた。

「にゃあ~……」

 嫁さんがきた。普段は仕事部屋に入ってこないのに。

「な、なんだよ」

「にゃふー……」

 よっぽどご立腹らしい。黒い毛並に金色の瞳。二股のしっぽをゆらめかせ、近づいてくる。

「そ、そんなに怒ることないだろ」

「ふにゃあ……っ」

 日曜の嫁さんと会話はできないが、だいたい言いたいことは分かる。俺の言葉もそのまま嫁さんに伝わる。

「にゃ!」

 こっちの態度は意に介さず、軽やかに跳びはね、デスクの上に着地。そして机の上で丸まった。顔は向けず、PCのモニターの方に向け、長期戦の構え。

「おい、嫁さん。今はやめろって」

 仕事のジャマだ。本音を口にすると、翌週以降も長引くので、グッと堪える。

「俺が悪かったってば」

 ため息をこぼしたいのも耐え、椅子に座りなおし、嫁さんの背中に訴える。

「もうしないから。許してくれよ」

「…………」

 反応はない。二股の尻尾も黙っている。一度こうなると頑固だった。

「悪かったって。冷蔵庫のコーヒーゼリー、あれ、俺の分だと思ったんだよ」

「…………にゃっ、にゃっ! にゃんっ!!」

「はいはい。だから、悪かったってば……」

 次からは容器の底にでも、名前書いといてくれよな。「嫁さんの」って。

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